9章
――8月30日
チュンチュン
ムクリ
梓「……朝か」
梓「今日がついにライブの日」
梓「……」
梓「準備しないと」
――梓の携帯
to ○○先輩
件名 おはようございます
先輩はきちんと眠れたでしょうか? 私は絶好調……だと思います。
昨日の晩は色々と考え込んでしまいましたが、今はもう考えないことにしました。
自分の気持ちを全部、ライブに向けようと思います。
成功させましょう。そして楽しみましょう、先輩。
from ○○先輩
件名 おはよう
体調は万全。身体の調子もいいよ。今日以上に身体が充実してる日はそうそうないと思う。
俺も梓ちゃんと同じく、終わった後のことは考えないことにした。
自分の技術とハートを全部出し切って、音楽活動のひとまずの締めくくりにする。
梓ちゃん、ありがとう。そして頑張ろう。
――午前10時 合同音楽フェスティバル 会場
ガヤガヤ
唯「ほへー、すごいね! 体育館の前に人がいっぱい!」
澪「ああ、まさかこんなに観客が集まるなんて」
律「ただの高校生のイベントだってのに、大人も混じってるのな」
紬「あそこにいるのは中学生ね。小学生っぽい子もいるわ」
梓「桜高の知り合いも、ちらほら」
○○「ここから近いから、見に来たんじゃないかな」
トタトタ
純「おーい、梓ー」
梓「あ、純!」
純「ようやく来たね。けいおん部の皆さんも、お久しぶりです」
律「ようよう」
唯「純ちゃん、おはよー」
純「はい、おはようございます……あっ!」
○○「?」
純「え、えーと、あなたがその、梓の彼氏さんでいらっしゃいますでしょうか?」
律「なんつー変な敬語」
唯「純ちゃん、おっかしー」クスクス
梓「純! そのことは後で詳しく説明するって!」
○○「あー、はい、そうですよ。梓ちゃんの彼氏です」
梓「先輩!?」
純「おー、やっぱり彼氏いたんだ! いやー、なかなか背も高いし、良い男じゃないの、梓!」
梓「もう、純!」
純「あはは。じゃ、私は午前中の部が出番だから、準備してくる。また終わったら詳しく話聞かせてよね!」
○○「頑張ってください」
純「ありがとうございます! では!」
タタタタ
梓「もう純ってば……変なことばっかり話して」
律「いいじゃんいいじゃん、嘘ってわけじゃないんだしさ」
梓「それでも恥ずかしいんです!」
澪「で、私たちはいったいどこに行けばいいのかな」
唯「控え室とかあるのかなー?」
和「みんなー、こっちよー」
紬「あ、和ちゃんがあそこにいるわ」
唯「おーい、今行くよー」
律「っしゃ! けいおん部出陣じゃー!」
テクテク
バサッ
和「はい。ここが出演者用の控えテントよ。出番が来るまでここで待機していてね」
澪「ちょっと暑いな……」
律「人でいっぱいなのに、冷房器具が扇風機だけってひどいなー」
和「仕方ないのよ。屋内に控え室を取れなくて。会場を管理するので手一杯なの」
梓「○○先輩、スポーツドリンクを持ってきましたからどうぞ。熱中症にならないようにしないと」
○○「ありがとう。塩キャラメルも持ってきたから、多分大丈夫だと思うけど」
律「塩キャラメル?」
紬「初めて聞いた! どんな味なのかしら?」
唯「ちょうだいちょうだい!」
梓(緊張感がないなあ)
――正午
ズンズンズンズン
律「もう、ステージは始まってんだろうな」
梓「低音がここまで聞こえてきますもんね」
澪「私たちの出番まであと2時間ぐらいか……」
紬「じっとしていたら緊張してきちゃうわね」
バサッ
唯「みんなー、ステージはなんだかすごいことになってるよー」
律「お、偵察部隊が戻ってきたか」
○○「すごい人だかりだったよ。プロのコンサート並の出入りだね、あれは」
梓「人ごみに酔っちゃいそうでした」
律「で、純ちゃんと○○の友達のライブはどうだったんだ?」
梓「純のジャズはすごい好評でした。前後のバンドがロックだったのに、全然浮いてなかったです」
○○「友のバンドはかなり盛り上がってた。あいつ、またキーボード上手くなってたなあ。良い曲書いてたし」
バサッ
友「そりゃどうも。俺もかなり真剣に演奏してたんでねえ」
唯「あ! 変態さん!」
友「どーも変態でーす!」
律「ついに吹っ切れたのか」
澪「変態を受け入れるっていうのもすごいな……」
紬「汗がいっぱい……タオル、使いますか?」
友「お、おう! 女の子のタオル……こ、興奮して燃えてきた!」
○○「そのまま燃え尽きてしまえばいいと思うよ」
友「君たちの出番はまだ先なんだろ?」
唯「あと2時間ってところかなー」
友「だったら今のうちにPAの調整しといた方がいいかもだな。予想以上に客が多いせいで、後ろまで音が届きにくいかもしれん」
澪「やっぱりこのお客さんの入りは、みんな予想外だったんだ」
友「そうみたいだな。そろそろ昼休憩に入るし、暇があったらエンジニアと打ち合わせしといたら?」
律「お、アドバイスありがてえ」
友「いえいえ、俺も君たちの演奏と○○の初ステージを楽しみにしているのでね」
「おーい、友ー!」
友「っと、仲間が呼んでる。もしアンプの出力足りなかったら俺たちの貸すから! そん時は声かけてくれ!」
唯「ありがとねー!」
○○「さんきゅ、友」
友「おう、頑張れよー!」
――本番 1時間前
○○「あと1時間か……」
律「本格的に緊張してきたな」
澪「……うぅ」びくびく
唯「塩キャラメルってしょっぱーい! うひゃー」
梓「唯先輩は相変わらず緊張とは無縁ですね……」
紬「お茶でも淹れるわねー」
ごくごく
律「ぷはー、あー、和むなー」
梓「ムギ先輩のお茶は特別ですね」
○○「心が穏やかになる感じだ……」
紬「うふふ、ありがとう」
バサッ
さわ子「みんなー……お待たー」ふらふら
澪「さわ子先生!」
梓「わっ、すごい隈が!」
さわ子「ごめんねー、衣装がなかなかできあがらなくってー」ふらふら
律「って、今回も衣装作ってたのか!」
澪「そういえば作るって言ってたような……」
さわ子「せっかくのステージなのに、みんな私服だなんて面白くないじゃない!」ドンッ!
さわ子「というわけで、さっさと着替えてきなさい! 今すぐ!」
律「うお、この剣幕、断れん!」
澪「うぅ、変な衣装じゃないことを祈りたい……」
さわ子「はい、○○君も!」
○○「え? 俺も?」
さわ子「もちろんよ! さあ、着替えた着替えた!」
――着替え後
唯「かわいい衣装だねー! ヒラヒラがいっぱい!」
律「ふーむ、なんか大人っぽいな。ゴシックっぽいけど……パリコレみたいな感じ?」
澪「す、スカートがちょっと短いような……」
紬「大丈夫、ぎりぎり見えないぐらいよー」
梓「どうして私には猫耳がついてるんでしょうか」
さわ子「かわいいじゃない」
梓「1人だけ猫耳の方が変です!」
バサッ
○○「さわ子先生、これ、こういう着方でいいんですか?」
梓「あ、せんぱ……」
梓「……」ぽかん
さわ子「うん、いい感じよ。もうちょっと前はどさっと開けて、ルーズにしてもいいかもね」
○○「そうすると演奏しにくいような……あれ、梓ちゃん? どうかした?」
梓(せ、先輩の衣装、なんだかすごいワイルドな感じだ……)
梓(ベルトなんかは改造してるやつで)
梓(……どうしよう)
律「梓? おーい、梓ー」
唯「あはは、あずにゃん、顔あかーい」
紬「見惚れちゃってるのかしら?」
梓「はっ!」
梓「せ、先輩、お似合い、です……」モジモジ
○○「うん、ありがとう。梓ちゃんも、それは猫の耳? かわいいね」
梓「あっ……ありがとうございます」カァ
さわ子(これで猫耳でステージに上がるわね!)
さわ子「じゃ、私はちょっと一眠りしたら観客席にいくわねー」ふらふら
○○「お疲れ様でした、さわ子先生。こんな豪華な衣装、ありがとうございます」
さわ子「いいのよ。教え子の晴れ舞台だもの。あー、だけど眠ーいー」
ふらふら どすん
さわ子「くーくー」
澪「寝ちゃった」
紬「タオルケットをかけておくわね」
最終更新:2011年07月30日 16:50