――8月20日 貸しスタジオ
じゃじゃん、じゃじゃん、じゃーん!
○○「はぁはぁ……」
律「……おい」
唯「やった、やったよ!」
澪「……ああ!」
紬「うん!」
梓「○○先輩!」
○○「うん……はぁ、はぁ……1曲、弾き切った」
律「こんだけ激しい曲を最後まで弾くとはなあ……○○も成長したもんだ」
紬「うん。このままステージにでても文句のないクオリティだったわ」
梓「先輩……」
○○「梓ちゃん、どうだったかな?」
梓「最高……でした」ポロ
梓「おめでとうございます。ぐすっ」ポロポロ
○○「な、泣かないで」
梓「すみません、嬉しくて……」ゴシゴシ
○○「ありがとう。ここまでやっていけたのは梓ちゃんのおかげだよ」
梓「そ、そんなことは」
律「おいおい、○○と梓が一緒になって、身体に負担のかからない弾き方を考えたんだろ?」
澪「だったら○○と梓の絆の結晶だな、この演奏は」
梓「……○○先輩」
○○「梓ちゃん……」
紬(2人が近づく! そこ、そこよ!)
律「はいはーい、ラブシーンは2人っきりの時にやってくださいねー」
梓「あっ」バッ
○○「っと」ばっ
紬(惜しい!)
唯(ムギちゃん、顔をしかめちゃって、お腹でも痛いのかな)
澪「じゃあ、この曲は確実に演奏できるってことで、進めてもいいな」
梓「ですね」
唯「けど、この1曲を演奏したら、○○君すごくしんどそうだよ?」
○○「面目ない。腕つりそうだ」
澪「仕方ない。ライブでの○○さんはこの1曲だけに専念する、ということで」
紬「えーと、合同フェスで演奏するのは3曲だったかしら」
律「だな。よーし、そろそろ曲順決めとくかー」
律「まずは1曲目。これは『ふわふわ時間』でつかみといくか」
唯「ここも私、ボーカルだけなの?」
律「いや、さっきも言ったろ? ○○はさっきの1曲を弾くので精一杯だって」
梓「ということはいつも通り5人で演奏ですね」
澪「2曲目も私たち5人でホッチキスかな」
律「で、ラストの3曲目に○○が登場! 6人で爆発! だな!」
○○「頑張って爆発します」
梓「いえ、爆発はしなくてもいいですからね」
唯「え? じゃあ、私、1,2曲目はギターを弾くの?」
澪「当たり前だろ」
梓「じゃないと誰がリードやるんですか……」
唯「……」
唯「ど、どうしよう」たらー
梓「何がですか?」
唯「ギターの弾き方忘れた」うるうる
律「あ」
澪「しまった」
○○「どういうこと?」
梓「唯先輩は新しいことを1つ覚えると、他の1つを忘れてしまうんです」はぁ
唯「どどどど、どうしよう! あと10日しかないのに、ギターも歌もだなんて!」
律「やるしかない、やるかしかないぞ唯!」
紬「特訓ね!」
澪「睡眠学習だ! ギターの音を聞かせればもしかしたら!」
律「よし、早速録音だ! ○○、弾け!」
○○「え、本当に? って、もう機材用意してる!」
――8月22日 駅前
純「やー」
憂「純ちゃん。久しぶりー」
純「いやー、今年の夏はまだまだ暑いねえ。今も35度越えてるんでしょ?」
憂「ほんとだねー。熱中症にかからないように注意しないと」
純「どこ行こっか。とりあえず喫茶店?」
憂「うん、冷たいものでも飲んでいこ」
――喫茶店
憂「梓ちゃんは今日来ないんだよね?」
純「うん、練習で忙しいってさ。ほら、30日の合同フェス。それのリハーサルだとか」
憂「そっかー。お姉ちゃんも、朝早くからギターを持って出かけちゃったなあ」
純「なんか今回のけいおん部はすごくやる気あるね。貸しスタジオとか借りて練習してるんでしょ?」
憂「そうみたい。お姉ちゃん、お小遣いの前借りしてたもん」
純「ふーん……」
憂「純ちゃんは練習いいの?」
純「私はリハーサル明日だし、もうほとんど完璧だから。今からだって弾けるよん」
憂「けいおん部の皆さんは、どうしてこんなに根を詰めて練習してるんだろう」
純「それ、梓にもメールで聞いてみたんだけど、『詳しいことはライブが終わったら話す』って言われた」
憂「何か事情があるのかな?」
純「さあ。梓は他にも『私の噂が広まってるみたいだけど、信じなくていいからね! 嘘というわけじゃないけど、変な誤解はしないでほしいから!』って言ってた」
憂「梓ちゃん、噂のこと知っちゃったんだ」
純「そうみたい。嘘じゃない、っていう言い方は引っかかるよねえ。結局梓に彼氏はできたのかできないのか! それが気になる!」
憂「どうなんだろうね。私もそこまで直接的に聞いたことはないし……」
純「聞けばいいじゃん。お姉さんに」
憂「お姉ちゃんが楽しそうに話してるのを聞いてると、ついつい忘れちゃって」
純「あーはいはい、相変わらずの溺愛っぷりだね」
憂「お姉ちゃんは、梓ちゃんと○○さん――あ、この人が噂の人なんだけど、2人はすごく仲が良い、って言ってたよ」
純「それは恋人関係かどうなのか、もう1歩踏み込んだ答えがほしい」
憂「梓ちゃんには聞いてみた?」
純「『落ち着いたら時間をとって詳しく話す』って言われた。あー、気、に、な、るー!」
憂「あはは」
純「はぁ、私も1度は顔見てみたい。あ、だけど結局ライブになれば姿だけでも見れるのか」
憂「だね。今日も6人でリハーサルに行くって言ってたよ」
純「ふーん……渡された参加バンド表にも『放課後ティータイム+1』って書いてたし、やっぱり彼氏さんが出るってことは確定なんだね」
憂「そうだね。私も見に行く楽しみが1つ増えた気分だよ」
純「あっ、そういえば」
憂「どうしたの?」
純「ほら、梓が禁断の恋をしてるっていう噂なんだけどさ」
憂「うん。それはさっき、梓ちゃん本人が『信じなくていい』って言ってたやつだよね」
純「そう。本人は否定したんだけど……噂の1人歩きって怖いよね、今では色々誇張されて広まってるみたい」
憂「誇張? どんな風に?」
純「『彼氏さんは、ライブのステージの上で中野梓にプロポーズする』とか」
憂「へー、ロマンチック」
純「『親にも隠していた交際関係を、ライブ上で大々的に発表する』とか」
純「『2人はこの夏でお別れしなきゃだから、一生に一度の思い出のライブを2人でやる』っていうのもあるよ」
憂「あはは、すごい話が広がってる」
純「何にしろ、このライブで何かが起こるってみんな思ってるみたい」
憂「そうなんだー」
純「そのせいかどうか分からないけど、チケット、すごい売れ行きみたいだよ。他校の生徒にまで噂が広がってたりしててさ」
憂「へー、なんだか大事になってきたね」
純「まさか1学期の中頃に出た話がここまで大きくなるとは……あー、噂って怖い怖い」
憂「でも、噂の中にも真実があったりしてね」
純「ないない、そんなドラマみたいなこと。昨日メールしてた時の梓も、そんな深刻そうな感じじゃなかったし」
憂「うーん、そうなのかなあ」
――13時10分 市民体育館
ガヤガヤ
「シールド足りないよー! 早く持ってきてー!」
「スピーカーの音量、これぐらいでいいー?」
「ちょっと音出してみて! ……小さい! もっと響かせる感じで!」
「私のマイクないんだけど!?」
「これじゃあ座席足りないって!」
「椅子ないんだから仕方ないだろ! 立ち見増やすかしない!」
梓「な、なんだかすごい活気がありますね」
律「この体育館自体もかなり大きいしな。こりゃあ、下手な音楽バンドのライブより規模がでかいな」
紬「私たちのリハーサルは1時半からよね?」
澪「ああ。今は他のバンドのリハ中か……」
ぎゅいーん!
唯「すごーい、なんだかさわちゃんみたいなバンドさんだね!」
○○「メタル系かあ。ほんと、色々なバンドが参加してるんだね、このフェス」
スタスタ
和「きたわね」
律「お、和。ちーっす」
和「もうすぐ1つ前のバンドのリハーサルが終わるから、準備だけ始めててくれる?
あと、セッティングシートも持ってきたわよね? 先にちょうだい」
律「ほいほい、シートね。はいよ」パサ
和「はい。確かに。律にしてはちゃんと持ってきたのね」
律「しては、が余計だい!」
唯「和ちゃんもここのお手伝いさんなの?」
和「生徒会会長として手伝うことになってるのよ。それと、あなたたちのお世話も兼ねてるわ」
澪「ごめんな、ほんと」
和「いいのよ。じゃ、後でまた呼びに来るから」
スタスタ
○○「かっこいい人だなあ」
唯「和ちゃんはかっこいいよ? あ、だけど○○君は好きになっちゃ駄目だよ。あずにゃんがいるんだから!」
梓「そのとお……って、唯先輩は何を言ってるんですか!」ぷんすか
唯「あははー。あずにゃん怒ったー!」
律「遊んでないで準備始めんぞー」
がさごそ
○○「えーと、エフェクターはここで、アンプとシールドは……あ、ちょっと長さ足りないか?」
梓「こっちに延長コードありますから、今日はとりあえずこれで」
○○「っと、ありがと」
律「うー、久しぶりに外で演奏するって感じがしてきたなー!」
澪「き、緊張してきた」
紬「澪ちゃん、リハーサルなんだから気楽にいきましょう」
唯「早く私たちの番こないかなー」
スタッフ「すみません、『放課後ティータイム+1』さんでよろしいですか?」
紬「はい、そうですけれど」
スタッフ「えーと、代表者さんはどちらに」
唯「誰だっけ?」
律「私だろ! はいはーい、私でーす」
スタッフ「少しお話が……あ、そちらの男の方にも関係があるのですが」
○○「え? 俺ですか?」
律「……ここで話を聞こうじゃないか」
スタッフ「えーと、まず女性5人が桜高の軽音楽部でいいんですよね?」
律「そうだよ」
スタッフ「そして、○○さんは××高校の方で、今回は桜高軽音楽部と一緒にライブに出ると」
○○「そうですね」
梓「それが何か……?」
澪「まさか、今になって他校の生徒と一緒に出たら駄目とか……」
スタッフ「いえ、参加バンドの中には3つの高校の音楽部が一緒にやっているところもあります」
スタッフ「なので、それは問題ないのですが」
律「だったら、何の話だってんだ?」
スタッフ「まず、これを読んでください」
律「ん? 今回の合同フェスの応募用紙じゃないか」
スタッフ「それの参加規定を」
律「えーと……『参加校において音楽関係のクラブに入っている者に限る』」
○○「……あっ」
澪「? それがどうかしたのかな」
スタッフ「○○さんは、音楽関係の部活に入っていませんね?」
律「へ?」
紬「そうなの?」
○○「……はい」
澪「そ、そうだったんだ!」
○○「学校ではギターを弾けないので、音楽部に入る意味もなく……」
律「ま、まさか、それじゃあ!」
スタッフ「非常にお気の毒ですが、今回は○○さんの参加を認めるわけには……」
梓「そんな! 今になってなんて!」
スタッフ「申し訳ないです。確認作業が遅れてしまっていたので……」
律「こんな時に……!」
澪「な、なんとかならないんですか!?」
スタッフ「今回のイベントは『音楽部の合同フェス』ですし、参加数を絞って質を上げるための措置なので……ちょっと」
梓「そんな……!」
○○「……」ギリッ
スタスタ
和「待ってください」
最終更新:2011年07月30日 16:46