8章
――8月17日
――梓の携帯
from 唯センパイ
件名 今日は練習!
1時に部室に集合! 皆で練習だよ!
もちろん○○君も連れてきてね!
to 唯センパイ
件名 それって
大丈夫なんですか? 他の生徒や先生方にばれたら……
from 唯センパイ
件名 気にしない!
さわちゃんには許可取ってるし、だいじょうぶい!
to 唯センパイ
件名 分かりました
では、○○先輩にも声をかけておきます
――正午 梓の部屋
梓「えーと、ギターも持ったし、楽譜もある。うん、忘れ物はなし、っと」
梓「○○先輩は12時半に駅に着くから……そろそろ出ないと」
パタパタパタ
梓「おかあさーん、私、学校に行ってくるねー」
「はいはーい」
梓「いってきまーす」
バタン
タタタタ
梓(夏休みに制服着るなんて、なんだか変な感じ)
梓(けど、学校に行くんだから制服でいいよね)
梓(それにしても、昨日の今日で○○先輩と会うことになるなんて……)
梓(嫌なわけじゃないし、むしろ会いたいぐらいだけど)
梓(き、昨日あんなことがあったばかりだから)カァ
梓(なんだか顔を合わせづらいなあ)
梓(ううん、そんな風に考えちゃ駄目)
梓(○○先輩は9月には外国に行っちゃうんだから、今のうちにいっぱい会っとかないと)
梓(後で寂しくならないように……)
梓(だから、会うきっかけを作ってくれた唯先輩たちには感謝、かな)
タタタタ
――駅前
梓「よし、着いた」
梓(○○先輩は……)
○○「おーい」フリフリ
梓「あ、先輩!」
梓「こんにちは!」
○○「はい、こんにちは」
梓「先輩、私服で来たんですね」
○○「私服だったら、見つかった時に『生徒の家族』だとか適当な言い訳が言えるかなと。駄目だった?」
梓「いえ、大丈夫です。ただ、制服の先輩って1度しか見たことがないから、ちょっと見てみたかったですけどね」
○○「だったら、次は梓ちゃんのリクエストにお答えして制服を着てこようー」
梓「あはは、お願いします」
テクテク
梓「……」
○○「……」
梓(こ、こうやって並んで歩いているだけなのに、なんだか気まずいなあ)
梓(今まで何度もやってきたことなのに)
梓(意識しちゃうと、何も話せなくなりそうで……)
○○「梓ちゃん」
梓「は、はい!」
○○「えーとね……せっかくだからさ」スッ
梓(先輩? 手を出したりして、何を)
○○「て、手でも、つながない?」
梓「……あ」
梓「は、はいぃ」カァ
キュッ
テクテク
梓「……」
○○「……」
テクテク
梓「……」
○○「……」
キュッ
梓「……あう」
○○「あはは……」
テクテク
――学校
梓「裏口を開けてもらってるはずです」
○○「こんな明るい時間に入るのは初めてだ……ご近所の人の見られないように入らないと」
梓「今なら大丈夫そうですね」
○○「よし、行こう」
テクテク
梓「先輩たちは先に部室で集まってるらしいです。個人練習を先にしておく、と」
○○「だったら俺もそれに混じればよかったんじゃ?」
梓「私もそう思ったんですけど、唯センパイに『1時に来なきゃ駄目!』と強く言われてしまって」
○○「はあ、何か理由でもあるのかな」
――部室
梓「……個人練習と言っていた割に、楽器の音がしない」
○○「あー」
梓「またティータイムを……まったく! もうすぐライブがあるっていうのに、こんなんじゃ駄目です!」
○○「えーと、落ち着いて梓ちゃん」
梓「いーえ! 今日はみっちりと先輩方に言ってやるです!」
ガチャ
律「ようこそー☆ 喫茶けいおんへー!」
唯「ようこそー☆」
紬「ようこそー☆」
澪「よ、ようこそ……」
梓「……」ぽかん
○○「……」ぽかん
バタン
梓「……い、今のはいったい」
○○「落ち着こう。もう一度開けてみれば、案外練習してるみんながいるかも」
梓「開ける勇気がありません」
○○「だったら一緒に」
梓「……はい!」
ガチャ
律「ようこそー☆ 喫茶けいおんへー! って、2回も言わせんな!」
梓「せ、先輩たち……メイド服なんか着て、何してるんですか……」
律「あー、これはだな」
唯「あずにゃんと○○君の仲が悪くなってるって聞いたから」
紬「仲直りの場所を作ろうと思ったのだけど」
律「んー、その様子だと必要なかったみたいだな」
紬「ね」
○○「え?」
律「手、手」
梓「……あっ!」バッ
○○「あー」
唯「ずるーい、私もあずにゃんと手を繋ぎたいよ!」ひしっ
梓「ゆ、唯先輩、抱きつかないでください!」
唯「あずにゃーん」だきっ
梓「だから駄目ですってば!」
ぎゃあぎゃあ
澪「○○さん……」
○○「あ、澪さん。昨日はどうもありがとう」
澪「ううん、上手くいったみたいで……良かった」
○○「澪さんのおかげです。澪さんの言葉がなければ、俺はまだ迷ってました」
澪「決断できた○○さんが全てだよ……おめでとう」
○○「ありがとう、本当に」
梓「○○先輩、澪先輩と何を話してるんですか?」ひょい
○○「あっと、梓ちゃん、唯さんはいいの?」
梓「いいんです。それより、そんな隅っこの方で何を話してたんですか?」
○○「あー、ただの世間話、かな?」
澪「だね」
梓「……」じーっ
○○「何もないよ?」
梓「……こほん」
梓「ま、まあ、先輩のことは信じてますから」
律「お、梓が嫉妬してる」
紬「かわいい~」
梓「してません!」
梓「それにしても、どうして喫茶店が仲直りの場になるんですか?」
律「あー、唯がな」
唯「あずにゃんが好きなものを食べたら、気持ちがほんわかして仲直りできるかなーって」
梓「……この思いつきに従ったわけですか」ハァ
律「他に何も思いつかなくてな……」
澪「私は律に無理やり着せられただけだ!」
紬「ちょうどおいしいフルーツケーキがあったから~」
梓「フルーツケーキ? あ、もしかして昨日の唯センパイのメール!?」
唯「ふっふー、私が探りを入れていたのだよ!」
梓「ちょっと驚きました。けっこうちゃんと考えてたんですね」
唯「しっけいな!」
律「で、2人には何があったんだ? たった2、3日でえらく仲良くなってるじゃないか」
紬「もしかして、もしかする関係に?」
唯「フルーツケーキが無駄になっちゃったなあ。食べちゃおうかなあ」
澪「……」
○○「……」
梓「先輩、もう皆さんにも……」
○○「……だね」
○○「変に距離を空けるよりは、信じて近づく方がいい」
律「はい? どゆこと?」
○○「実は――」
――説明後
律「……そうだったのか」
紬「それじゃあ、梓ちゃんと一緒にいられるのも……」
○○「8月いっぱいまで。あとは戻ってくるまで、待っててもらうことになる……梓ちゃんには悪いんだけど」
梓「いいんです。私は待つことに決めましたから!」
律「梓……」
唯「ぐすっ……うわああん!」
澪「ちょ、唯! なんでいきなり泣くんだ!?」
唯「だって、あずにゃんと○○君、せっかく仲良くなれたのにすぐ離れ離れなんて、そんなの悲しいよお!」ぐじゅぐじゅ
唯「それに、私だって○○君と一緒にギター弾くの楽しかったのにい!」ぐじゅぐじゅ
○○「唯さん……」
紬「よしよし、唯ちゃん、これで涙を拭いて」
唯「ムギちゃーん! うわああん!」
律「ったく……おい、○○!」
○○「は、はい」
律「次のライブは絶対に成功させるからな!」
律「とりあえず今はそれだけだ! 他のことは考えん!」
律「そのためには練習を……ええい、こんなもん着てられるか!」ばさっ!
澪「おい、律! こんな所で脱ぐな! ○○さんもいる!」
梓「○○先輩は外へ!」ぐいっぐいっ
○○「え、外に出ると他の生徒に見つかったりとかは、って、わっ!」
がちゃん
最終更新:2011年07月30日 16:44