――ファーストフード店

○○「せっかく仲良くなれて、一緒に演奏もしてくれるようになったのに、こんなことになってごめん」

○○「せめてライブだけは必ず成功させられるよう、頑張るから」

澪「……梓にはいつこのことを?」

○○「合宿の1日目の夜に」

澪「一緒の部屋になった時か……」

澪「……」

澪(それから、2人はあんなことに……)

澪「……」

澪(やっぱり駄目だ、このままじゃ)

澪(2人がこのまま離れ離れになるなんて、絶対に駄目だ)

澪「○○さん」

○○「うん?」

澪「○○さんは」キッ

澪「梓のことを気にかけ過ぎてるんだ」




――カラオケボックス

梓「……ん、んぅ」

友「あ、起きた?」

梓「あれ、私……」

友「いやー、カラオケマイクも手放さずに寝るとは、音楽家の鑑ですな」

梓「あ……す、すみません。私ったら、ずっと寝ちゃって」

友「まあ、疲れてたならしょうがないって。おかまいなくー」

梓「……えーと、このパフェの容器の山はいったい」

友「暇だから食べてた。んー、そんなことよりもさ」ぐいっ

梓「え? ちょ、顔が近い、です」アセアセ

友「……」じーっ

梓「……」

友「うん、もやもやは少しマシになったっぽいね」

梓「あ、はい」

友「んじゃま、そろそろお話をしましょっか」

梓「お話?」

友「○○のこと。中野ちゃんのもやもやの原因て、それだろ~?」

梓「……」アゼン


梓「あの、どうしてそんな」

友「○○は、手術を受けに外国に行く、だろ?」

梓「あ……」

友「で、中野ちゃんはそれで悩んでると見た」

梓「……」

友「違う?」

梓「……違わない、です」コクン

友「ふむ、やっぱりそうか。あいつめ、こんな子に想われるなんて……マジでボコボコにしてやりてえ」

梓「駄目です」ギロ

友「は、はい!」ビクッ


友「え、えーと、だな。よし、ちょっとした昔話をしてやろう」

梓「昔話?」

友「むかしむかし、ある所に心臓に障害を持った少年がいたとさ」

梓「……それは」

友「彼は病気に苦しんでいたが、それ以上に自分のせいで、他人に心配をかけることが心苦しくて仕方なかった」

梓「……」

友「身内も友達も先生も、皆が自分の身体のことを心配してくれる。けどそれは皆に気苦労をかけているだけでしかない」

友「彼は他人に迷惑ばかりかける自分が、段々と大嫌いになっていった」

友「『こんな自分が他人と関わっちゃいけない』」

友「やがてはそう考えるようになり、ついに彼は必要以上に他人と関わろうとしなくなってしまった」

友「病気のことは親しい人間以外にはひた隠し」

友「部活にも入らず、友達も多く作らず」

友「できる限りひっそりと生きていこうとしていた」

梓「……○○先輩」

友「彼は、自分の身体や人生を諦めてるっていうか、達観していた」

友「これがまたそこらの中坊にはただの変人にしか見えない」

友「身体のこともあったせいで、どんどんと周囲の人間は彼を腫れ物扱いしていったとさ」

友「……これが、あいつが地元の中学に通ってた時の話」

梓「……」ギュっ

友「俺も最初はそこらの奴と同じだったよ。○○は絡みづらい奴だと思った」

友「まあ、ちょっとずつ話していく内に面白い奴だってことが分かってきたんだけどな」

友「物知りだし、なかなか鋭いツッコミもしてくれるしで」

友「中学卒業頃には、音楽コンサートに一緒に行くぐらいには仲良くなった」

梓「……聞きました。そこで先輩は音楽をやろうと思ったって」

友「音楽コンサートに連れてってやったのは、何か趣味になれるようなものを見つけてくれたらと思ったからだけど」

友「まさか、ギターを始めるとは思わなかったねえ」

友「リッケンバッカーを即買いした時、俺も驚いた」

友「だけど……もっと驚いたことが、最近あった」

梓「もっと驚いたこと?」

友「俺がこっちの学校に来たのはさ、もちろん1人暮らしに慣れるためってのもあったけど」

友「人との関わり合いを避けてた○○が心配だった、ってのもあったんだ」

友「ずっと1人でギター弾き続けて、友達の1人もできてないんじゃないか、心配でなあ」

友「俺って友達甲斐のある奴だろー?」

梓「そうですね、優しいです」

友「ふふー……けどなあ、違った。転校してきて○○に会って、驚いた」

友「あいつ、クラスメイトどころか下の学年にも顔見知り作って」

友「休み時間なんかはそこらで談笑するぐらい、えらく社交的になってやがったんだ」

友「時にはあいつの身体のことをからかう大馬鹿もいるけど、まあ大抵の奴とは仲良くやっててな」

友「度肝抜かれたよ。まさかあの○○が、って」

友「で、聞いてみたんだ。『いったい何があったんだ』ってな」

友「そしたらあいつはこう答えた」


友「『もっと他人を信じるべきだって、ある女の子から叱られたから』」

梓「……あっ」


梓(それは……私?)

友「……」ニヤ

友「ま、その女の子が誰か、なんてのは言わないでおくけどさ」

友「○○が変わったのは明らかにその女の子のおかげだろうな」

梓(○○先輩……)


友「でさ、中野ちゃんに聞きたいんだけど」

梓「はい……?」

友「あいつがワガママを言ったことって、どれだけ見たことがある?」

梓「ワガママ?」

梓(○○先輩がワガママを? そんなの……言うイメージが全然ない)

梓(いつも周りのことを気にかける人だもん)

梓(あ、けど出会った最初の頃に……)

友「どう?」

梓「……1度だけ」

梓「先輩が、桜高のけいおん部の部室で練習するようになったこと」

梓「あれは『俺のワガママだから』って、先輩が言ってました」

梓「……多分、その時だけです」

友「なるほど。やっぱり音楽関係か」

梓「やっぱり?」

友「俺は2回だけある」

友「1回目は音楽関係。親にも反対されたのに、ギターの練習を続けていたこと」

友「あれはほんとに珍しかったな。親にギターを捨てろって言われた時は、柄にもなく怒ったりして」

友「それからも、音楽関係のことになるとちょっと強引になる」

友「そんだけギターのことが好きだったんだろうな」

梓「……はい」


友「そしてもう1つのワガママ。それはだねえ」

梓「……」

友「中野ちゃん、君に関係してる」

梓「……私?」

友「そう」

友「○○がアメリカに行くことは、俺もおとといになって聞いた」

友「メールでそのことを聞いた時は速攻で折り返し電話した。あまりにも突然の事だったからな」

友「だけどまあ、あいつにとっては突然でもなんでもなく、以前からあった話が実現しそうになっただけ、ってことだったらしいけどな」

友「詳しく話を聞いていく内に、あいつはふとこんなことを言った」

友「『本当は日本で手術を受けたかったんだけど』ってな」

梓「日本で……? それは、旅費とか環境の問題とか、そういう意味でですか?」

友「違うね」

友「いや、まあ、あいつは『その方が時間もお金もかからないから』って言ってたけど」

友「実際は違う。絶対に違う。長年付き合ってきた俺が言うんだから間違いない」

友「あいつはだな」

友「中野ちゃんと離れたくないから、日本で手術を受けたがってたんだ」



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