――繁華街

ダダダダダ

ダダダ

ダダ……タタタ……テクテク

梓「はぁ、はぁ……」

梓(わ、私、なんであんなことを言っちゃったんだろ)

梓(○○先輩のことで頭の中が一杯になって、それで、澪先輩の質問にも答えなきゃと思って……)

梓「はぁ、はぁ」

梓(私……駄目な子だなあ)

梓(何してるんだろ)

梓(バカだよ、私)

ふらふら

梓(この辺りって夕方ぐらいからすごく人が増える……居酒屋とかが多いからかな)

梓(変な店も多くって……ああ、そういえばこの辺りにはあまり近づくなって、学校で言われたっけ)

梓(駅はどっちだろう。無茶苦茶に走ってきたからよくわかんない)

梓(……なんでもいいや)

梓(なんだかもう、家に帰る気力もない……)

梓(私、いったい何がしたいんだろう)

梓(私、いったい何なんだろう)

ふらふら


ナンパ男「ねえねえ、そこの君」

梓「……はい?」

ナンパ男「大丈夫? なんだかふらついてるけど」

梓「はぁ……大丈夫です」

ナンパ男「どっかで休もっか。そうだなー、今からクラブに行くんだけどさ。そこならおいしい飲み物いっぱいあるよ」

ナンパ男「君、中学生? かわいいね。俺の仲間も歓迎するはずだし、どうかな?」

梓「……」

ナンパ男「大丈夫大丈夫、私服だからばれないって。俺、奢っちゃうよ?」

梓「……」じーっ

ナンパ男「おっ、乗り気? いいねいいねー、ノリの良い子は好きだよ。かわいい子はもっと好き、なんちゃって」

梓(どうしてこういう男の人って、こんなにも粗野で言葉が軽いんだろう)じーっ

ナンパ男「なになに? 俺の顔、そんなにかっこいい?」

梓(全然好きになれそうにない人だ)

梓(先輩なら)

梓(先輩なら、もっと穏やかで、ふわふわと優しくて、だけど芯のある言葉をくれる)

ナンパ男「ふふん」キラーン

梓(……こんな変な顔もしない)

梓(先輩……○○先輩)

梓(もっと一緒にいたいです)ポロポロ


ナンパ男「うお! どうしたの? どっか痛いの?」そろり

梓「ひっく、触らないでください!」バシ

ナンパ男「いてっ! ちょ、何なの!」

梓「ぐすっ……私は駄目です。諦めてください」

ナンパ男「はぁ? 意味がわかんないだけど」

梓「分からないならどっかに行ってください」ゴシゴシ

ナンパ男「ちょ、それはさすがにむかつくんだけどー。あのさあ、優しくしてあげられるのも最初だけだぞ?」



??「ん、あれは……」

テクテク

友「おーい、そっこの君♪」



梓「あっ……あなたは」

友「やっほ。おひさー。夏休み前以来かな」

梓「○○先輩のお友達さん……」

ナンパ男「ちょっと、あんた何」

友「この女の子の知り合いみたいな感じ。んー、見たところ……デートってわけじゃなさそうだねえ」

梓「知らない人です。それに私は○○先輩以外の人とデートなんかしません」

友「ほうほう、なるほどね。強引なナンパをされてたわけか。君、かわいいからねえ」

ナンパ男「邪魔しないでくんない? 俺は今この子と」

友「ここに取り出しますは何の変哲もない500円玉」

ナンパ男「はぁ?」

友「これを俺の親指と人差し指で挟みます。すると、あら不思議」

ぐにっ

ナンパ男「なっ!」

友「見事2つに折れましたとさ」

ナンパ男「ひ、ひぃ」

友「さあ、見物料はいらないからさっさと失せな。次はあんたの大事な所でやるよん」

ナンパ男「ひゃああ!」ダダダダ



友「ふん、キーボーディストの握力舐めんな」

梓「……」

友「さて、中野ちゃんだったっけか。こんな時間にここ歩いてちゃ危ないよ?」

梓「……ありがとうございました、友さん」

友「分かればよし。んじゃ、駅まで送ってあげよ~」

梓「……」じーっ

友「あれ? 行かないのかな? あー、○○のエスコートじゃなくてご不満かね。こればっかりはねー」

梓「……帰りたくないです」

友「はい?」

梓「友さん」

梓「どこかもやもやが晴れる所に連れて行ってください」




――桜高 校門前

テクテク

○○「さわ子先生、いきなり高校まで来いって、どうしたんだろ」

○○「えーと、校門前で待っとけだったか。この辺り……先生はまだ来てない、か」

○○「はてさて、いったいどうして呼び出されたのやら」

○○(まさか、桜高の部室で練習するのかな。ギターは一応持ってきたけど……)

○○(けど、まだ夜ってわけじゃないし、夏休み中は警備も強化されてるから入り込みづらいって言ってたのに)

○○(……梓ちゃんも、来てるのかな)

○○(梓ちゃん、か)

○○(今は……これでいいはず)

さわ子「お、いたいた。○○君、待たせたわね」

○○「あ、先生、どうも。今日は……あれ? 澪さん?」

澪「こ、こんばんは、○○さん」

○○「こんばんは……今日は、澪さんだけ、ですか」

さわ子「梓ちゃんがいなくてがっかりした?」

○○「そんなことは……」

さわ子「ま、今日は練習ってわけじゃなくて、澪ちゃんに頼まれてあなたを呼び出したんだけどね」

○○「澪さんが?」

澪「……とりあえず、喫茶店にでも行こう」




――カラオケ店

店員「お名前をお呼びしますので少々お待ちくださーい」

友「どもー」

梓「……」

友「あのさ」

梓「はい」

友「○○以外とはデートしないんじゃないの?」

梓「デートじゃありません。遊びに来ただけです。ストレス発散です」

友「そうですかい」

店員「2名でお待ちの友様ー。友様ー」

友「はいはーい」

店員「こちらの部屋へどうぞー」



――個室

友「よっしゃー、歌うぞー」

梓「……」ぴぽぱぽ

友「ちょっ! 早っ! もう曲入れてるし!」

梓「今日は徹底的に歌います」

梓(喉が枯れてもいい)

梓(がらがら声になってもいい。私はボーカルじゃないから)

梓(このもやもやを晴らすために)

梓(無茶苦茶してやるもん)




――ファーストフード店

ガヤガヤ

澪「この辺りにはこんな店しかない……」

○○「はは、ちょっとうるさいけど、仕方ないね」

澪「……逆に話が周りに聞かれないから、いっか」

○○「えーと、じゃあ俺、ジュースだけでも買ってくるね。澪さんは何がいい?」

澪「あっ、私が……」

○○「いいよ。俺が行く」

澪「じゃあ、レモンティーで……」

○○「了解。ちょっと待ってて」


○○「お待たせー。はい、レモンティー」

澪「どうも」

○○「シロップは必要だった?」

澪「私はこのままでいいよ」

○○「ん」

澪「……」チュー

○○「それで、今日はどうかした? 演奏の相談かな」

澪「……」チュー コトン

澪「今日、梓と話をしたんだ」

○○「梓ちゃんと?」

澪「うん、ちょっとだけ、話をして」

澪「それで、○○さんに聞きたいんだけど」

澪「○○さんは……これから、遠い所に行ったり、するのかな?」

○○「……」

○○「そっか」

○○「聞いちゃったんだ」




――カラオケボックス

――1時間後

友「はひ、はひ……もう声出ない。そういえば俺ボーカルじゃねえよ」

ズンズンズン♪

梓「~~♪」

友「この子はよく声が続くな。もう10曲近く歌ってるってのに」

友「ったく、あー、俺休憩」

梓「~~♪」

ズズン ヂャン!

梓「ふぅ……」



友「どう? 少しは気が晴れた?」

梓「まだです……まだ」ふらっ

友「おいおい、なんか危うい感じだぞ」

梓「はふ……」

梓「今日は、体力が、尽きて……なんだか、もう…………眠い」ドサッ

友「ありゃ」

梓「すぅすぅ」

友「寝ちまった。よほど気疲れしてたのかね」

梓「すぅすぅ」

友「んー」

友「ま、いっか。寝かしとこう」

友「俺はチョコパフェでも食べとくか」




――ファーストフード店

澪「そんな……外国にだなんて」

○○「……」

澪「もう、それは決定してること?」

○○「はい」

○○「渡航の用意も、入院の準備も、全部整ってる」

○○「後は俺が9月にあっちに行くだけ」

澪「……そう、なんだ」


澪(梓が言っていたのはこのことだったんだ)

澪(失敗すれば命を落としてしまう手術……)

澪(梓にとって、○○さんがいなくなる恐怖は耐えがたいものに違いない)

澪(それでも梓は○○さんの決意を邪魔したくなくて……)

澪(だから、梓は泣くことしかできなかったんだ)

澪(そして……)

澪(○○さんも)




――カラオケボックス

梓「すぅすぅ」

友「……」

梓「すぅすぅ」

友「……」

梓「すぅすぅ……んー」

友「ん?」

梓「……先輩」

友「……」

梓「すぅすぅ」

友「……はぁ」

友「ったく、無防備すぎんだろ」

友「○○のお相手じゃなきゃ、手ぇ出してるかわいさだぞ、これ」

梓「すぅすぅ」

友「……いや、ここは手を出すべきなんじゃないだろうか」スッ

梓「すぅすぅ」

友「なーんてな、友さんはそこまで人でなしではないのですよ」パッ

梓「すぅすぅ」

友「……1人で喋ってると虚しい」


ガチャ

店員「チョコレートパフェお待たせしました」

友「あ、どもー。ついでに店員さんの携帯番号とか注文オッケーっすか?」



36