――8月15日

――梓の携帯


from 唯センパイ
件名 集合!

今から駅前に集合!



to 唯センパイ
件名 まさか

本当に遊びに行くつもりなんですか? 勉強はいいんですか?



from 唯センパイ
件名 息抜き!

勉強ばっかじゃ疲れるよ~。というわけで、プールに行くよ!



to 唯センパイ
件名 まったく

しょうがない人ですね、先輩は。
今から行きます。




――昼 プール

梓「で、澪先輩たちも来てるというわけですか」

律「あははは」

澪「まあ、息抜きだな、うん」

紬「あれがウォータースライダー? へぇー、乗ってみたいわー」

唯「みんな、誘ったらすぐ来てくれたよ?」

梓「……まあ、いいですけど。みんなで遊んだ方が楽しいですもんね」

唯「あ、だったら○○君も呼ぼうよ!」

律「!」

澪(唯、なんて無遠慮な!)

唯「みんながいれば楽しいなら、○○君がいても楽しいよね!」

梓「……」

澪(あ、梓はなんて答えるのか……)

梓「……駄目ですよ、唯先輩」

梓「○○先輩は泳げないって言ってたじゃないですか」

梓「海とは違って泳ぐ以外に遊べるところもないですし」

梓「○○先輩だって忙しいかもしれないし、今日はやめておきましょう」

唯「えー、そっかー。残念だなー」

律(残念がるより先に空気も読もうぜ、唯……心臓に悪い)

澪(……)



――市民プール

律「夏だ!」

唯「プールだ!」

紬「ウォータースライダーだー」

律「きゃっほーい!」ザパーン

澪「こら、律! 飛び込むんじゃない!」

梓「10日に海に行ったばかりなのに、元気な人たちですね」クスッ

唯「あずにゃん、あそこまで競争だよ!」

梓「いいでしょう、受けてたちますよ」

ざぱーん

澪「ああもう、梓まで……1度スイッチが入るととことん楽しむんだな、梓は」


澪(けどだ)

澪(まだ梓はおかしい)

澪(特に、唯から『○○君も呼ぼう』って言われた時の、あの梓の答え)

澪(今までの梓なら、最初は反対するけど、結局○○さんに来てほしいって言うはず)

澪(なのに、今の梓は違う)

澪(求めるわけでも拒絶するわけでもない。ただひたすら、○○さんと『距離を置いてる』んだ)

澪(……どうして? 梓はあんなに好きになってたのに)

澪(やっぱり直接話を聞くべきか……?)




――夕方 駅前

律「んじゃ、今日はここで解散だな」

唯「あー、楽しかったー。指がふにゃふにゃだよー」

紬「私はなんだか耳に水が入ってるせいで、変な音が……」

梓「そういう時は、とんとんってジャンプしたら取れますよ。後は綿棒を使うとか」

紬「そうなのー。あ、それじゃあ私はここから電車に乗るわね」

律「おう、お疲れー」

唯「またねー」

梓「お疲れ様です、ムギ先輩」



トコトコトコトコ

律「私と澪はここでお別れだな」

澪「あ、ごめん。私、ちょっと梓に用があるんだ」

梓「私にですか?」

澪「ああ、ちょっとライブのことで相談が」

律「ん? だったら私も行こうか?」

澪「いや、ちょっと話をするだけだから、律まで来ることないよ」

律「ふーん?」

唯「私はー?」

澪「いいって。2人だけで話したいからさ。たいしたことない用事だし」

律(たいしたことないなら、そこまで頑なに断らないだろうに)

律(ま、澪には澪の考えがあるわけか)

律(私もなんか計画立てるかねえ。梓が元に戻れるように)

梓「えと……澪先輩、すみません。今日は帰ってから親と食事に行く予定があって」

澪「そうか。じゃあ、明日はどうかな」

梓「明日なら、まあ……」

澪「よし、明日の夕方4時、駅前のいつもの所で」

梓「はい、分かりました」

唯「私も行くね!」

律「唯は明日予備校だったろ? 私と同じ授業取ってたじゃないか」

唯「あ、忘れてた」

澪「おい受験生……」




――8月16日

――梓の携帯


from 澪センパイ
件名 今日の待ち合わせ

夕方4時にいつもの所って言ったけど、よく考えたらあの辺りは喫茶店が少なかった。
だから少し移動することになりそうなので、歩き安い格好で来て。


to 澪先輩
件名 はい

了解しました


from 唯センパイ
件名 あずにゃん

あずにゃんはケーキとプリンだったらどっちが好き?


to 唯センパイ
件名 どちらかというと

フルーツケーキです




――夕方 駅前

梓「お待たせしました、澪先輩」

澪「ん、大丈夫。私も今来たところだし」

梓「では、どこに行きましょうか。楽器店にでも行きますか?」

澪「いや、話をするんだから、喫茶店がいいな。あそこに入ろう」

梓「話、ですか……」

澪「……嫌か?」

梓「いえ、行きます。なんとなく、何を聞かれるかは見当がついているので」

澪「そうか。じゃ、行こう」



――喫茶店

店員「いっらしゃいませ。お2人様ですね。こちらの席へどうぞ」

ガタン トスン

店員「ご注文はいかがされますか?」

澪「私はアップルティーで」

梓「……オレンジジュースを」

店員「かしこまりました。お待ちください」

スタスタ


澪「静かで良い店だろ? 歌詞を書く時によく来るんだ」

梓「はい、そうですね」

澪「店員さんがあっちから声をかけてくることも少ないし、過ごしやすい店なんだ」


澪「で、聞きたいことなんだけど」

梓「……私のことでしょうか。○○先輩のことでしょうか」

澪「どっちも」

梓「……」

澪「最近、どこかおかしいぞ? 合宿の時とは全然違うじゃないか」

梓「おかしい、とはどんなところがですか?」

澪「○○さんと距離を置こうとしてる。違う?」

梓「……」

澪「私だけじゃない。律もムギも分かってる。梓の様子が変だってな」

梓「……不自然に見えないようにしていたつもりなのに」

澪「不自然なところだらけだったよ」

澪「だって梓は○○さん大好き人間なんだから」

澪「あんな風に素っ気無くしてたら、唯以外はすぐに分かる」

梓「……」

梓「……」

店員「お待たせしました、アップルティーとオレンジジュースです」カタン


澪「……」ちゅー

梓「……」ちゅー

澪「ふぅ、なあ、梓」

梓「……はい」

澪「合宿の時に聞いた梓の言葉、嘘じゃないって分かってる」

澪「けど、もう一度だけ聞いておきたい」

梓「……」

澪「梓は、○○さんのことが好きなんだろ?」

梓「……」コクン


澪「じゃあ、どうして」

梓「……私がどう思っていようと、○○先輩と私は、ただの友達です。ギター仲間です」

梓「それ以上でもそれ以下でもありません。友達です」

梓「私はそれでいい、です」

澪「それは嘘だ」

梓「嘘じゃないです」

澪「嘘」

梓「違います」

澪「じゃあ、どうしてそんなに泣きそうな顔してるんだ?」

梓「っ!」ホロリ

澪「どうしてそう、距離を置こうとするんだ?」

澪「何か理由があるのか?」

梓「ないです。何も、ない」

澪「だったら、どうして」

梓「……」

澪「梓、やっぱり○○さんのことは好きじゃないんだな?」

梓「……違います」

澪「友達同士でいいんだろう? そこまで好きじゃなかったってことなんだ」

梓「違う……!」

澪「梓」

梓「大好きです! けど……けど!」


梓「……だって」ボロ

梓「だって!」ボロボロ

梓「このまま近くにいたら!」

梓「告白なんかしちゃったら!」



梓「手術なんて受けないでって、言っちゃいそうだから……!」



澪「しゅじゅつ……?」

梓「あっ」ガタン

梓「い、今のは……!」

澪「なぁ、今のはいったい」

梓「う……うぅ!」ダッ

バタバタバタバタ


澪「梓!」

店員「お客様? きゃっ!」

梓「……!」

ガチャン、バタバタバタバタ……



澪「あずさ……」

店員「あ、あの、お客様。今のは」

澪「す、すみません。あの子、何か急用があったみたいで……」

澪「もう出ますね。お金、置いておきます。すみませんでした!」

タタタタタ


ガチャン

澪「梓は……走っていったのか。もう見えなくなってる」キョロキョロ

澪「……手術って、いったいどういうことなんだ」

澪「……」

澪「さわ子先生、学校にいるかな」

澪「先生なら、多分連絡先もしってるはず」

澪「うん、行ってみよう。いなかったら、他の先生にさわ子先生の電話番号聞いて……」

澪「よし」

澪「○○さんに話を聞こう!」



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