7章


――8月12日

――駅前

純「梓、遅いね」

憂「さっき家を出たってメールが来たから、そろそろじゃないかな」

タタタタ

梓「ごめーん! 遅くなっちゃった!」

純「あー、きたきた……って、誰?」

憂「誰?」

梓「ひどい! ちょっと日焼けしただけなのに!」ガーン



――喫茶店

純「へえ、今年もけいおん部で合宿したんだ」

憂「楽しかったんだってね。今年は男の人もいたからいつもと違った感じがしたって、お姉ちゃんが言ってたよ」

純「男の人!?」

梓「ん、まあね。今年は練習もたくさんできたし、有意義だったかな」

純「ちょっと待って。男の人って、どういうこと?」

梓「あ、それは」

憂「純ちゃーん、ちょっとこっちに」

こそこそ


憂「あのね、実は――」ごにょごにょ

純「え! 梓の彼氏さんが!? じゃあ梓はついに大人の女に!?」ごにょごにょ

憂「ええと、合宿だったからさすがにそこまでは……」ごにょごにょ


梓「……」

ちゅー

梓「……はぁ」

梓「憂が事情を説明してくれてるのかな……」

梓「オレンジジュースがおいしい……」ちゅー


純「けど、今日の梓、元気なくない?」ごにょごにょ

憂「そうだね。昨日まで合宿だったんだし、疲れてるのかな?」ごにょごにょ

梓「……はぁ」

純(うっ)ドキッ

憂(わっ)ドキッ

純「い、今の梓の顔、見た?」ごにょごにょ

憂「うん、見た。憂鬱そうだったけど、それがすごく大人っぽかった」ごにょごにょ

純「女の私をここまでドキリとさせるとは。梓ってば、やっぱり大人の女に」

憂「だからそれはないってば……多分」


純「梓たちって、今月の30日にある合同フェスに出るんだよね?」

梓「うん、出るよ。今はそれでやる曲の練習ばっかりしてる」

唯「お姉ちゃん、家でも英語の練習してるよ?」

梓「あ、ちゃんとやってるんだ」

純「え? 今回は洋楽?」

梓「そうだよ」

純「へー、チャレンジャーだね。こりゃジャズ研も負けてらんないなあ」

梓「ジャズ研は何やるの?」

純「今回はピアノ主体にやろうかと思ってる。後輩に上手い子がいるんだよねえ」

梓「へー」

憂(なんだろ……梓ちゃん、楽しそうだけど楽しくなさそう)

憂(って、自分で言っててよくわかんないな。うーん……)




――楽器店

純「あっ、あった! よかったー」

梓「決まった弦しか使わないって、純も意外と神経質なんだ」

憂「お姉ちゃんなんて店で目についた弦を適当に買ってつけてるのに」

純「なーんかこの弦じゃないと指に合わないんだよね。梓もそういうのあるでしょ?」

梓「まあ、ないわけじゃないけど」

純「じゃ、買ってくる。ちょっと待ってて」

タタタター

憂「私もギター始めようかなー」

梓「いいんじゃない? 前に弾いてくれた時はけっこう上手だったよ」

憂「けど、ギターってけっこう高いよね」

梓「安いのもあるよ。音がちょっとアレだからおススメはできないけど。ちょっと見てみようか」


テクテク

憂「ほんとだ。安いのもあるね」

梓「中古で安いのだったら、趣味で始めるのにもちょうどいいかな。こだわるようになったら、もっと高いのにしたらいいよ」

憂「あ、お姉ちゃんのギターだ。梓ちゃんのもあるよ」

梓「レスポールとムスタングだね」

憂「高いね~」

梓「この辺りになると音楽を本格的にやりたい人用になるかなあ」

憂「へー。あ、これ格好いいね」

梓「それは……あっ」

憂「えーと……リッケンバッカー?」

梓「……」

憂「おっきいね。すごく尖ってる」

梓「……」

憂「ねえ、梓ちゃん、この尖ってるのって何か意味が……梓ちゃん?」

梓「……」

憂「梓ちゃんっ!」

梓「あ、な、なに?」

憂「どうかした? ぼーっとしてたけど。このギターに何かあるの?」

梓「う、ううん。何もないよ。知り合いが同じメーカーのを持ってたのを思い出して……シリーズは違うけど」

憂「そうなんだ。その人はすごくこだわってるんだね。これ、40万もするよ」

梓「……うん、こだわってるよ。とっても」


純「お待たせー。何見てんの?」

憂「私もちょっとギターに興味出てきたから、見て回ってたの」

純「へー、憂もかー。3人でセッションとかできたらいいね」

憂「うん、また買う決心がついたら、ということで」

純「楽しみにしてるよ」

梓「……」

純「梓? 行くよ?」

梓「あ、うん」

憂「このギター気に入ったの?」

梓「ううん、ちょっと……考え事してただけ」

憂(あ、また憂鬱そうな顔してる)

憂(気になるなあ。お姉ちゃんに話しておこうっと)



――梓の携帯


from ○○先輩
件名 明日の合同練習

少し集合時間に遅れそうです。皆さんにも言っておいてください。



to ○○先輩
件名 Re:明日の合同練習

了解しました。




――8月13日

――貸しスタジオ

唯「おーまい、ばっとざっと、りとるかんとりー」

澪「駄目だ駄目だ。もっと流れるように発音しないと。少し変えたとは言え、まだまだ早口の必要な歌詞なんだから」

唯「うー、難しいよー」

律「唯は苦戦中だな。ムギは大丈夫なのか?」

紬「こっちの曲のことなら大丈夫。むしろ次の文化祭ライブの新曲が……はぁ」

律「進まないわけか。ムギも苦戦中っと。梓は……」


ぎゅいぎゅいーん

梓「ふぅ。もう少しチョーキングを滑らかに……やっぱり1音1音がはっきりとしないと」ぶつぶつ


律「……なんつーか」

澪「鬼気迫る、って感じだな」

唯「今日のあずにゃんはなんだか怖いね」

紬「どうしたのかしら……」

律「んー、合宿の2日目から様子がおかしくなかったか?」

澪「そうだったな。なんか、心ここにあらずみたいな」

唯「ちょっと海で遊んだらすぐ家に引っ込んじゃったもんね」

紬「あの時は○○さんも砂浜にいたのに、1人だけ別荘に戻ってしまって……」

律「で、1人でずっとギターを練習してたと。あいつ、なんか焦ってるなー」


じゃららじゃん♪

梓「もっと上手く……絶対に成功させなきゃ」ぶつぶつ

澪「梓……」



ガチャ

○○「すみません、遅れました」

律「おっ、来たか」

○○「さっそく今から加わるので」

澪「○○さん、歌詞の相談が」

○○「あ、はいはい」

梓「……」

律(梓? どうしたんだ、いつもなら真っ先に○○に話しかけるのに)

唯「ねえねえ、○○くん、あずにゃんが演奏で悩んでるみたいだから、教えてあげてよー」

○○「え?」

律(ちょ、唯!? 無駄に気を回すなよ!)

○○「えーと、今は澪さんの相談に乗ってるところだし、梓ちゃんはまた後で、ということで」

唯「ええー、そんなー」

梓「……いえ、それで構いません」

○○「うん、ごめんね。で、澪さん、歌詞の相談って」

澪「……」ぼーぜん

○○「澪さん?」

澪「あっ、うん、この部分を変えると韻が踏めなくなるから、代わりの良い単語がないかなって」

澪(梓の奴、どうしたんだろう。○○さんを避けてるような……)

澪(それに○○さんも何かおかしい。丁寧に断ってはいたけど、なんだか言葉の端々に距離感が見え隠れしていた)

澪(……仲の良かった2人の間に、今は壁が見える)

澪(何があったんだ?)



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