6章


――7月後半 体育館 終業式

校長「高校生としての節度を持って――」クドクド

梓(眠い……)

梓(校長先生のお話ってどうしてこんなに長いんだろう)

梓(「羽目を外しすぎないように遊びなさい!」の一言で済むのに)

梓(はぁ……昨日は夜遅くまで練習してたから余計に眠い)

梓「ふわぁ……」


「ねえねえ、聞いた? 噂の中野さんなんだけど」ヒソヒソ

「えー、ほんとー? あの音楽フェスに彼氏さんも?」ヒソヒソ

「そうそう、出るらしいよ。あー、私1度見てみたいなあ」ヒソヒソ

「恋人同士が同じステージに立つなんて、なんか素敵~」ヒソヒソ


梓(なんだか今日はヒソヒソ話をしてる人が多いなあ)

梓(まあ、校長先生のお話はつまらないし、仕方ないか)

梓(……また見られてるような気がするけど、気のせいだよね)




――昼 部室

律「あー、1学期も終わったなあ」

澪「夏休みの宿題、そんなに出なかったな」

紬「もう受験の年だから、先生方も配慮してくださったのかしら」

唯「これなら一杯遊べるね!」

澪「いや、勉強……」

律「勉強もだけど、フェスと学園祭のライブに向けての練習も、たくさんしなきゃだな」

紬「それに関してなんだけど、学園祭の曲はだいたいできてきたの。ただ、フェスはまだ手をつけてなくって……」

澪「ギター3つは変則的だし、曲も複雑になるよね。新しく作るより、既存の曲を編曲した方がかもだな」


律「そういえば梓はまだ来てないのか」

紬「1年はまだホームルーム中みたいね」

澪「終わったらすぐ来るだろ。終業式後も練習するって言ったのは梓だし、来ないはずがない」

律「梓も真面目だねえ。練習魔だな、もう」

澪「それだけ2つのライブに集中してるんだよ」

唯「夏休みもこの部室って使えるのかなー」

律「確かさわちゃんの許可が取れたら使えたはずだ」

紬「○○さんもここに呼べたら、練習もはかどりそうなのだけど」

澪「んー、夏休み中とは言え他の生徒もいるし、難しいんじゃないかな」

唯「……女装してもらうとか!」

律「いや、ばれるだろ」


律「しっかし、梓と○○はいったいどうなってんだろうな」

唯「どうなってるって? 2人はとっても仲が良いよ?」

律「そんなこたあ分かってるよ。私が知りたいのはもっと深いところでな、例えば愛の告白をしたー、とか」

澪「こ、告白!?」

唯「なるほどー、そっちかあ」

紬「素敵ねえ。梓ちゃんから告白しそうだわ~」

澪「確かに……○○さんはあんまりそういうこと言うイメージがない」

律「いつの間にか○○は梓のこと下の名前で呼ぶようになってるしさ、いったいどうなってるのやら」

唯「気になるんだったら、直接あずにゃんに聞いてみたらいいのに」

律「……ふむ、なるほど、それもそうだ」

澪「お、おい。無理やり聞き出すような真似はしちゃ駄目だぞ」

律「それは相手次第ですなー」ニマニマ

紬「いざとなったらこれで……!」すっ

唯「あー! ケーキだ! しかも高そう!」

律「ふふふ、買収とは、ムギ、お主も悪よのお」

紬「りっちゃん将軍にはおよびませんともー……これで合ってるかしら?」

澪「時代劇でも見たのか、律とムギは……」



――10分後

ガチャ

梓「すみません、遅れましたー」

律「来た! 皆の者! 机を所定の位置に!」

唯「いいですとも!」

紬「よいさー」

澪「はぁ……」

ガタガタガタ


梓「あ、あの、机を動かしていったい何を……」

律「えー、中野梓! 前へ!」

梓「は、はい!」

梓「って、ノリで答えちゃいましたけど、これなんですか?」

唯「しょうにんかんもんだよ!」

梓「証人喚問? って、国会とかでやってるやつですか?」

律「私が議長で!」

唯「私が副議長!」

紬「私が質問役の議員なのー」

梓「……澪先輩、これはいったい」

澪「ごめんな。こいつらの気が済むまで付き合ってやってくれ。ちなみに私は記録係だ」

律「ではこれより、中野梓への尋問を始める!」

梓「……こんなことしてないで練習しましょうよ」

律「証人は静粛に!」

唯「ばんばん! だよ!」バンバン!

澪「唯、机を叩くなって。裁判じゃないんだからさ」


律「ではムギ君、尋問をどうぞ!」

紬「はい!」

紬「えー、中野梓ちゃん、あなたは今年の4月下旬、○○さんと出会い、現在まで非常に懇意にしていますね?」

梓「はあ……そうですね」

紬「一緒にギターを弾くだけでなく、家にも呼び、食事も共にし」

紬「今では彼に下の名前で呼ばれるほど仲が良くなり、毎日メール交換もしている、というのは間違いないですか?」

梓「……」カァ

律「証人は答えること!」

梓「うぅ、はい、しています……」

紬「うふふ」

澪「……いいなあ、恋って」

紬「梓ちゃんは、今まで恋人を作った経験もなく、男の子とそんなに仲良くなったのも初めてですね?」

梓「は、はい」

紬「ではお聞きします。私が見る限り間違いなくそうだと思っていますが」

紬「梓ちゃんは今、初恋の真っ最中ですね?」

梓「……」

梓「……」

梓「……」

律「しょうにんは、」

澪「律、待ってやれ」

律「ん」


梓「……答えなきゃ駄目ですか?」

澪「梓が嫌じゃないなら、でいいよ」

梓「……」

梓「……」カァ

梓「……」コクン

律「おーっ」

唯「あずにゃん、顔真っ赤ー、かわいいー」

澪「初恋かー、甘酸っぱいなー」

紬「ふふ、恋する女の子は素敵だわ~」

梓「うぅ……」


唯「ねえねえ、どういう所が好きになったの?」

梓「え、ええ? そんなことまで言わなくちゃいけないんですか?」

律「もう観念しろしろー」

澪「私もちょっと聞いてみたい……」

梓「澪先輩まで!?」

唯「教えてよう」

梓「うー……えーと、や、優しくて思いやりがあって、周囲に気を配れるところとか……」

梓「私の話なんかも楽しそうに聞いてくれて、ギターの知識もいっぱい持ってて教え方も上手で」

梓「けど、時々無茶することもあるから、ほっとけなくって……」

紬「ふむふむ、しっかり者だけど甘えん坊な梓ちゃんにはぴったりな相手だったのね」

律(半分のろけだろ、これ)

澪(聞いてて逆に恥ずかしくなってきた)


梓「あと、意外に私と同じで甘いものが」

律「あ、あー、もういいぞー、梓ー」

澪「お腹いっぱいだ」

唯「ええー、もっと聞きたいよー」

律「後で2人っきりで話しとけ。えーとだな……そんだけ好きだったら、もちろん告白したよな?」

梓「こ、告白ですか……?」

紬「まだしていないの?」

梓「そんなことできません!」

律「すればいいじゃん。多分あっちも即OKしてくれるって」

紬「梓ちゃんはかわいいんだもの~」

梓「かわいくなんかないですよ……」

澪「けれど、○○さんもけっこう梓のこと気に入ってると思う」

唯「へー、そうなんだー。わかんなかったなあ」

律「唯は鈍感すぎる」

梓「け、けど今はライブ前ですし、練習の方が大事です!」

紬「いーえ、恋も部活も、どちらも大事なのよ」

律「だって女子高校生ですもの!」

澪「無駄にかわいく言うな」ペシ

律「あうち!」



律「そうだ。次の合宿の時にでも告白したらどうだ?」

梓「え、ええ!?」

紬「それはいいわね~」

梓「無理! 絶対に無理です!」

律「まあそう言うなよ。想像してみな? 夜の海岸、月明かりに照らされて、梓と○○が浜辺に立つ」

紬「まぁ、素敵な場面ね」

澪「ロマンチックだなー」

唯「『待った? 梓ちゃん?』」

律「『いえ、今来たところです、先輩』」

唯「『それで、話って何かな?』」

律「『先輩……私、先輩のことが好きです!』」

唯「『梓ちゃん、俺もだよ。俺も大好きだ!』」

律「『先輩!』」

唯「『梓ちゃん!』」

律「てな感じで」

唯「どうかな?」

紬「素敵ー」

澪「即興でそこまで合わせられるお前たちに感動するよ」


梓「そ、そんなこと……」

律「無理か?」

唯「いやできる! あずにゃんなら!」

律「そうだ!」

唯「というわけで」

律「合宿で告白に決まりだ! 私たちもフォローしてやるぞー!」

唯「おー!」

紬「おー」

梓「み、澪先輩~」

澪「まあ、ちょっとは考えてみたらどうだ? 告白」

梓「そんなあ」


梓(そりゃあ、先輩とそういう関係になれたらな、とは思うけど)

梓(合宿でなんて……)

梓(それに断られたら……ううん、きっと私なんかじゃ)

梓(や、やっぱり無理)

梓(そんなことして、○○先輩の練習の邪魔しちゃ駄目だもんね)

梓(先輩たちには適当に誤魔化して、この話はうやむやにしてしまおう)

梓(うん、そうしよう)

梓(そんなことより夏休みの練習が大事)

梓(練習が大事……そう、そのはず)

梓(……明日から夏休み、か)




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