――唯の家
唯「ただいまー。ういー、帰ったよー」
憂「おかえりー、お姉ちゃん、待ってたよー」
澪「どうも、憂ちゃん。お邪魔するね」
律「お邪魔しまーす」
憂「どうぞどうぞー……あれ? そちらの方は?」
○○「どうも。えーと他校の者でして、けいおん部の皆さんと一緒に練習させていただいてます、○○と言います」ペコリ
憂「ど、どうも。平沢唯の妹の憂です」ペコリ
憂「お、お姉ちゃん、いつの間に男の人が?」
唯「あれ? 話さなかったっけー?」
憂「聞いてないよー」
唯「そうだっけ? まあ、とにかくみんな上がってー」
○○「お邪魔します」
梓「お邪魔するね、憂」
憂「うん。あ、荷物はそちらにどうぞー」
――リビング
唯「おー、料理がいっぱいだ」
梓「憂、気合入ってるね」
憂「うん、久しぶりに皆さんが来たので、張り切っちゃいました!」
律「おーし、じゃんじゃん食べるぞー」
澪「お前は少しは遠慮しろ」
紬「私、ケーキ持ってきたから後で食べましょうね」
律「私は飲み物だ! ジュースいっぱいあるぞー」
澪「私はクッキーを……これもケーキと一緒に食べような」
梓(急に決まったお食事会なのに、皆、用意がいいなあ)
唯「あ、○○君とあずにゃんはこっちね!」
○○「あ、はあ」
梓「席決まってるんですか?」
唯「私はあずにゃんの横ー」
憂「じゃあ私はお姉ちゃんの横!」
律「私は澪の横だ! ○○も隣だけど」
○○「すみません」
澪「謝ることないよ、○○さん」
紬「私は澪ちゃんと憂ちゃんの間ー」
梓「円卓ですね」
全員「いただきまーす」
――10分後
憂「え? 前にお姉ちゃんが言ってたサプライズの相手って、○○さんだったんだ」
唯「そだよー」
梓「あー、私も隠しちゃってた、ごめんね、憂」
憂「ううん、それはいいんだけど……」
憂(う、うーん……なんだろう。気になる)
梓「○○先輩、これも食べます?」
○○「ありがとう、貰うよ」
憂「うーん?」
憂「ねえねえ、お姉ちゃん。○○さんと梓ちゃんって……もしかするの?」ヒソヒソ
唯「もしかする?」ヒソヒソ
憂「その……今校内で噂になってる、あれ」ヒソヒソ
唯「あー、あずにゃんの……」
紬「そうよー」ヒソヒソ
憂「わっ」
紬「多分、憂ちゃんの思ってることは当たってるわよー」ニコニコ
憂「そ、そうなんですか……」
憂(あれが噂の彼氏さん……けど、秘密の関係じゃなかったのかな? どうしてお姉ちゃんたちと……?)
澪「律! 食べすぎ!」
律「いいだろー。私は腹が減ってるんだー」
唯「私も負けないよー」
梓「唯先輩、もっと綺麗に食べてください!」
憂「お姉ちゃん、口にソースついてるよ。拭いてあげるね」フキフキ
紬「あらあらー」
○○「……」
○○「はは」
○○「楽しい人たちだなあ」
――食事後
憂「へー。あの合同フェス、お姉ちゃんたちも出るんだ」
唯「そだよー。○○君も一緒にねー」
憂「え? ろ、6人で出るんですか?」
憂(ひ、秘密の関係なのに、ライブに出てもいいのかな? わけがわかんなくなってきた)
澪「曲、何にしようか」
律「またおいおい決めたらいいだろ」
紬「曲を決めたら練習たくさんしないと」
唯「じゃあ合宿だね!」
澪「いや、さすがに夏季講習もあるし、無理だろ……」
唯「えー、2日ぐらいなら大丈夫だよー。息抜き息抜きー」
律「んー、確かに合宿で一気にレベルアップもいいな」
澪「けど、フェスは6人で出るわけで、つまり練習するなら○○さんも来るわけで……」ビクビク
梓「……私も合宿したいです」ボソッ
唯「ほらー、あずにゃんもこう言ってるしー」
律「よっしゃ! 各自空いてる日を提出するように!」
○○「え? 俺も?」
律「当たり前!」
――10分後
ぺちゃくちゃ エームギチャンユメオチナンダー
○○「……っと、ごめん、唯さん、トイレ借りていいかな?」
唯「どぞー。廊下出て左だよー」
○○「どうも」ガサ
梓(あれ? 先輩、ビニール袋なんか持ってトイレ?)
梓(いや、あの袋は確か……そうだ、薬の袋!)
梓(けど、水ないのにどうやって飲むんだろ……まさか、トイレの水を使うとか?)
梓(そ、それは駄目なような……よし!)
梓「あ、あー、私、電話かかってきたー、ちょっと席外しますねー」
ガシ
タタタタ
律「……梓の奴、水なんて持ってどこ行くんだ?」
澪「すごい棒読みだったな、今の」
唯「携帯も鳴ってなかったのにねー」
紬「うふふ」
――平沢家 廊下
○○「ふう、どうしたものか。トイレの水はさすがに……」
梓「先輩!」
○○「あれ? 中野さん」
梓「これ、お水です! どうぞ!」
○○「あー……もしかして、分かっちゃった?」
梓「はい! 付き合いも長くなったんですし、これぐらいは察します!」
○○「ははは、ありがと。助かったよ」
○○「やっぱり中野さんがいないと、俺駄目だね」
梓「そ、そうですか? 最近は私がいなくても皆さんと練習できてますし……」
○○「そんなことないって」
○○「けいおん部のみんなも、俺が中野さんと仲が良いからこそ、こうやって気兼ねなく付き合ってくれてるんだよ」
○○「でなくちゃ、こんな女の子ばっかりな所に入れてくれないはず」
○○「中野さん、ありがとう」
梓「ど、どうも、です」カァ
梓「じゃあ、私、先に戻ってますから!」
○○「ん、ほんとにありがと」
タタタタ
○○「……優しい子だな、ほんと」
――2時間後
澪「あ、もうこんな時間じゃないか」
律「おお! けど、明日は土曜日!」
唯「何時だろうと、かんけーない!」
紬「じゃあ、お泊りかしら?」
○○「あー、ごめん。俺、今日は家に帰らないといけないんだ。明日は用事があって」
梓「私も……すみません」
唯「ええー。もっと遊ぼうよー」
律「むっ!」キラン
律「いや! 用事があるんだったら、仕方ない! な、澪!」
澪「え? そうだな。ここは帰ってもらって」
紬「夜も遅いし、○○君と梓ちゃん2人で帰らないとね」
憂「梓ちゃん、大丈夫? 自転車で送ろうか?」
梓「ううん、大丈夫。歩いて帰れるよ」
唯「○○くーん、もっとギターのことおせーてー」
○○「また今度の練習日にね」
――平沢家 玄関
○○「では、また次の練習日に」
梓「お邪魔しました。先輩たちも、また来週に」
唯「じゃーねー」
律「またなー」
澪「○○さん、またライブのことで相談するから」
紬「梓ちゃん、気をつけてねー」
憂「2人共、さようなら」
がちゃん
律「さーて、どうなるかなー」
唯「尾行? 尾行する?」
澪「なんだ、だから2人だけで帰らせたのか。やめとけ。ばれるのがオチだ」
紬「私たちは私たちで楽しみましょう~」
憂(○○さんか……結局、梓ちゃんとどういう関係なのか、詳しく聞けなかったなあ)
――外
テクテク
テクテク
○○「……」
梓「……」
○○「あ、月が出てるね」
梓「ほんとだ。綺麗ですね」
○○「月を見ると少し涼しく感じない?」
梓「少しは、ですけどね。最近は夏のじめじめが近づいてきてる感じがします」
○○「確かに、夏の足音って奴かな」
○○「あのさ、中野さん。さっきの続きなんだけど」
梓「はい? さっき、ですか?」
○○「トイレの前で話してた時の」
梓「あ、はい」
○○「……中野さんには本当に、感謝してるんだ」
○○「中野さんは俺の世界を変えてくれた」
梓「そんな、大げさです!」
○○「いや、本当にそうなんだ」
○○「ずっと1人でギターを弾くことしかできなかった俺を、あんな楽しい仲間の輪に入れてくれた」
○○「おかげで色々と変われたよ」
○○「感謝してもしきれない」
梓「そんな、私はただ一緒に弾きたいと思っただけで……」
○○「それに、中野さんと仲良くなれたことも、嬉しいしね」
梓「あ……」
梓(先輩……)
梓(先輩、先輩!)ドキドキ
梓(……)ドキドキ
○○「また来週もみんなと一緒に音楽ができると思ったら、楽しみで」
○○「夏の間も、夏が過ぎても、ギターが弾ける」
○○「こんなに満ち満ちた人生を送れるなんて、想像すらしてなかった」
○○「中野さんには、何かお礼がしたくて仕方ないよ」
どっくん
梓「お礼……」
梓「じゃ、じゃあ」
梓「1つだけ! いいですか!?」
○○「どうぞ?」
どっくん
梓「その……」
梓「これからは」
どっくん
梓「私のこと、下の名前で呼んでください!」
どっくん
○○「下の名前……か」
どっくん
梓「は、はい」
どっくん
○○「分かった」
どっくんどっくん
○○「じゃあ」
○○「梓ちゃん」
どくんどくんどくん
○○「これからも、一緒にギターを弾いてくれますか?」
……すとん
梓(あ……)
梓(今、分かった)
梓(そうだったんだ)
梓(私、先輩と一緒にギターを弾きたかった)
梓(一緒におしゃべりしたかった)
梓(一緒に帰りたかった、ご飯も食べたかった、メールもしたかった、もっと近くにいたかった)
梓(自覚してなかったけど、それが私の気持ちで)
梓(……これからもそういう時間を過ごしたい。一緒にいたい)
梓(思い出と未来を共にしたい)
梓(あはは。なんだあ)
梓(私……)
梓(今、『落ちちゃった』)
○○「梓ちゃん?」
梓「はい」
梓「もちろん」
梓「これからも一緒に弾きましょう、先輩」
最終更新:2011年07月30日 16:20