――翌日 昼休み 教室

純「今日はメロンパン買ってみた」

憂「純ちゃん、チョコパンじゃないんだ」

純「たまにはね。あっ、梓、このジュース飲む? フルーツジュース」

梓「んー……じゃ、貰う」

純「どぞどぞ」

梓「……」ちゅー

純「ねえ、梓。今日は昨日とうってかわって元気ないじゃん。何かお悩みかい?」

梓「にゃひゃみ?」ちゅー ちゅぽん

純「人間関係で悩んでる、とかさ」

梓「人間関係……」

憂「じゅ、純ちゃん! そんな直接聞いちゃ……」ヒソヒソ

純「だって気になるじゃん! 友達の私たちにも隠す恋なんて、辛いに決まってるしさ」ヒソヒソ

梓「2人とも、どうかした?」

純「なんでもないなんでもない!」

憂「うん、気にしないで? それで、どうかな、梓ちゃん。悩みがあるの?」

梓「……えーとね、人間関係っていうより、自分のことの方がわかんないかな」

純「どゆこと?」

梓「うーん、説明が難しいんだけど……例えば、純の好きな食べ物って何?」

純「え? そうだなあ、ドーナツとか?」

梓「じゃあ、それっていつ頃から好きだったか覚えてる? どうして好きになったのかも」

純「んなの覚えてないよ」

梓「だよねえ……」

憂「いったいどういうことで悩んでるの?」

梓「何かを好きになるのって、きっかけとか理由とかがあるものなのかな、と」

憂「な、なんだか難しいこと考えてるんだね」


梓(『恋に落ちる』なんて言うけど、どうなったら『落ちた』ことになるのか、全然わかんない)

梓(○○先輩のことは嫌いじゃない……むしろ好きだけど、それはけいおん部の先輩たちに抱いている好意と変わらない気がする)

梓(けれど、○○先輩に対してだけは、昨日みたいに胸が痛くなったり、ドキドキしたりもする)

梓(……そんな風になるのが『落ちた』ってこと?)

梓(それとも、これはただの友達としての好意?)

梓(はあ……恋愛の経験なんて全然ないから分からないよ)

梓「うーん」


純「梓が悩んでる……」

憂「やっぱり辛い恋してるんだよ、うん」

純「見守るだけでいいのかなあ。手助けしてあげたいけど」

憂「機会があったら、ね!」




――放課後 校門前

律「今日はスタジオで合同練習か」

紬「1週間ぶりね。楽しみだわあ」

澪「昨日の続きできたらいいな……」

唯「よーし、今日は○○君に勝つぞー!」

澪「唯はそもそもなにで勝負してるんだ?」

律「ギターの演奏技術ならボロ負けだろ」

唯「あー、ひどーい。最近は『上手くなった』ってあずにゃんにも言われるもん! ね、あずにゃん!」

梓「……え、はぁ、そうですね」

梓「あ、私お茶買ってきますから、ちょっと待っててください」

タタタタ


律「おい、あからさまに梓の元気がないぞ」

紬「何かあったのかしら。昨日までは元気だったのに」

澪「……」そー

唯「あ、澪ちゃん、今顔を背けたー」

澪「へ? い、いや」

律「澪は何か知ってるな? 吐け吐けー」

澪「な、何もないって! 昨日は決して何もなかった! うん!」

紬「○○さんと何かあったの?」

澪「うっ!」ボン!

唯「わっ! 湯気が出た!」


律「おいおいー。まさか澪、お前まで……」

澪「ち、違う! あんなことされたのは、は、初めてだったから……その、恥ずかしくて」

紬「あんなこと……?」

律「なにー? あんのやろー! 澪に何したー!」

唯「何されたのー? キスー?」

澪「とととととんでもない! その、守衛さんから隠れるために、倉庫で……」

紬「倉庫で?」ドキドキ

澪「わ、私が不注意でこけそうになった所を抱きとめてくれて……」

律「あー」

紬「なるほどー」

唯「えー、キスじゃないんだー」

律「つーことは、梓はそれを見て嫉妬したわけか」

唯「あなたを殺して私も死ぬー!」

澪「だからそれは昼ドラ過ぎるだろ……」

紬「ふふふ、梓ちゃんかわいい」

律「んー、解決するにはどうしたもんかねえ」

澪「私のせいかもしれないんだな……だったら、私が梓に話して」

律「それで解決はするだろうけど、問題はもっと深いところにあるような」

澪「深いところ?」

律「梓はさ、自分の気持ちに素直になってない気がする」

唯「おー、りっちゃん、恋愛マスターだね!」

律「任せとけって!」

澪「……お前、彼氏いたことないだろ」


紬「梓ちゃんは自分の気持ちが恋かどうかが分からないんじゃないかしら」

律「なるほど。素直じゃないというより、理解できないわけか」

唯「ムギちゃんすごーい、恋愛マスターだね!」

紬「ふふ、任せておいて」

澪「……ムギの場合、本当にマスターしてそうだからなあ」

律「けど、どうする? こういうのって本人が自覚しないとどうしようもないだろ」

澪「少女マンガなら、デートとかしてみると気付いたりするけど……」

紬「澪ちゃん、少女マンガ読むのねー」

律「こいつはどこまでも乙女だからなー」

澪「わ、悪いか!」


唯「分かった! 一緒にご飯を食べればいいんだよ!」

律「はあ?」

唯「たとえ喧嘩しても、おいしいご飯食べれば、はい仲直り! だよ!」

澪「いや、そう単純じゃないだろ……」

紬「ううん、いいかも」

澪「へ?」

紬「心理学的にも証明されてるわ。食事は緊張が緩むから、お互いリラックスしてお話ができる、って」

律「へー」

紬「だから仲良くなるための第1歩は食事から、なの」

澪「なるほど。梓も○○さんとの距離が縮まれば自分の気持ちに気付くかも、か」


唯「じゃあ私の家で食べよう! 今日はお母さんたちいないから、みんなで鍋だ!」

澪「いやいや、もう夏だぞ? さすがに夏に鍋は……」

律「けど、みんなで食べるってのはいいかもな。あの2人も誘いやすいし」

紬「じゃあ、今日の夜は唯ちゃんの家でお食事会ね」

唯「明日は土曜だし、いっぱい騒げるよー」

律「決まりだな。食事は各自色々持ち寄る、ってことで」

澪「分かった」

紬「分かったわ」

唯「憂に連絡しとくねー。お食事、お食事」ウキウキ




――貸しスタジオ

律「ちーす」

○○「ども。皆さん、お久しぶりです。一部お久しぶりじゃないけど」

紬「私なんかは1週間ぶりね」

唯「私もだよー」

○○「はい。どうもです。中野さんも……こんにちは」

梓「……こんにちは」ぷいっ

律(うわー、あからさまに目を背けてるよ)


律「じゃあ今日もまず、パートごとに別れて練習した後、最後にセッションってことで」

唯「はーい」

紬「よーし、今日も頑張るぞー」

澪「あの、○○さん、昨日の続きなんだけど……」

○○「はいはい?」

梓「……むぅ」じーっ

律「ちょ、澪! ちょっと待て!」ガシ

澪「うわあ!」ズサササ

ガチャン バタバタ



――スタジオの外

律「何考えてんだよ! 梓と○○との仲をこれ以上こじらせる気か!?」

澪「え? だけど、練習中なんだから話しかけるのは当たり前だし……」

律「くはー、これだから漫画でしか恋愛を知らない奴は困る」

澪「り、律だって!」

律「あー、今はそんなことどうでもいい。とにかく、今日は○○と梓の距離を縮めるために、2人で練習させるんだよ!」

澪「分かったよ……じゃあ、話すのはちょっとだけにする」

律「そうしてくれ。じゃ、戻るぞ」


がちゃ

律「ありゃ?」


唯「○○君! ここをどれだけ上手く弾けるか勝負だよ!」

○○「は、はあ。まあ、いいけど」

梓「唯先輩、普通に練習しましょうよ……」


律「……はぁ、唯の奴」

澪「あいつは何も考えてないから……」

律「まあ、梓も一緒になって練習してるし、いいか」




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