――放課後 校門前

律「よっしゃ、じゃあスタジオに行くかー」

澪「外で練習なんて久しぶりだな」

唯「ギー太~、お出かけだよ~」

紬「私のキーボードもお出かけ~」

律「……なんか私だけ仲間外れだ!」

梓「ドラムは重いですし、仕方ないですよ。スタジオで借りないと」


スタスタスタ

律「○○ってのは何時ごろ来るんだ?」

梓「5時には着くって言ってました」

澪「じゃあ私たちは先にスタジオに入っておくか」

唯「で、その人が入ってきたら、『わー、びっくり!』だね!」

律「『かわいい子ばっかりで驚いたー』とかな!」

紬「男の人ってよく食べるみたいだけど、お菓子これだけで足りるかしら?」

梓「あ、着きましたよ」



――貸しスタジオ

店員「では、こちらの部屋になります。3時間経つと天井のランプが光るので、その時はまたカウンターで退出手続きをお願いします」

律「はいはーい」

唯「わー……狭いね」

澪「安い部屋だしな、こんなもんだよ」

紬「あ、コンセント見つけた。今からお茶を淹れるわね」

唯「お構いなくー」

梓「あ、けどスタジオって飲食禁止……」


ガチャリ

店員「あのー、スタジオ内での飲食はちょっと……」

紬「あ、ご、ごめんなさい」

梓「やっぱり……」

唯「じゃあ、外でお茶だけ飲もうよ!」

澪「けど、もうすぐ5時だぞ。○○さんも来るんじゃないか?」

律「ん? なんで澪は同級生相手にさん付けなんだ?」

澪「え、だって知らない人だし、男の人相手に呼び捨てなんてできないし……」

唯「私は何て読んだらいいかな? ○○ちゃん? ○○っぺ?」

梓「普通に君付けでいいのでは……」


ぴろぴろりん

梓「あ、メール……」


from ○○先輩
件名 迷った

どうにも貸しスタジオが見つからない……
多分近くに来てると思うんだけど、何か目印とかないかな?


梓「○○先輩、近くまで来てるけど道に迷ってるみたいです」

澪「ちょっと小さい店だから、地元の人じゃないと見つけづらいかもな」

梓「私、迎えに行ってきます!」

律「おー、頑張れよー」

ガチャ、タタタタタ


律「……さて、練習するか」

唯「サプライズイベントはー?」

澪「部屋に入ったら、知らないバンドが演奏してるっていうだけでサプライズじゃないか?」

紬「なんだか楽しくなってきちゃった」

律「よっしゃー! やるぞ!」




――店の外

タタタタ

梓「あ、いた! ○○先輩!」

○○「あ、中野さん、こんにちは」ペコリ

梓「こんにちは」ペコリ

梓「けっこう近くにいたんですね。よかった」

○○「まあ、道には迷わなかったから」

梓「え?」

○○「それより」

○○「どうかな、俺、オシャレできてる?」

梓「え? えーと……はい、シンプルな格好でいいかと」

○○「そっか。オシャレなんて言われて、昨日は慌てたよ」

梓(白の長袖YシャツにGパン……オシャレ?)

梓「あ」

梓「せ、先輩、ギターはどうしたんですか?」

梓「今日は練習するはずですが……」

○○「ああ」

○○「んー……今日は必要ないかと思ってね」

梓「必要ないって……」

○○「あれ? そうじゃなかった?」

梓「え、あの……」

○○「だってさ」

○○「貸しスタジオってなかなか狭いし」

○○「ギターが多すぎると演奏のバランスが崩れるだろうし」

○○「そもそも、新参者がいきなり演奏に加われるはずもない」

梓「あ……せ、先輩、もしかして全部分かって」

○○「っと、やっぱりそっちなんだ」

梓「そっち?」

○○「あの『オシャレした方がいい』っていうメールを読んでさ、中野さんが暗に言いたいことを予想して2つにまで絞ってみたんだよ」

○○「1つは『誰か中野さんの知り合い、多分けいおん部の先輩たちを紹介してもらえる』」

○○「もう1つは『中野さんがデートに誘ってくれてる』だったんだけど」

○○「うん、2つ目じゃなかったか。ちょっと残念」

梓「で、デートだなんて……」ワタワタ

○○「まあ、中野さんは真面目だから多分練習の方だと思ってたけど」

梓(デート……○○先輩とでーと……)

律『梓は何も意識してないのか?』

梓(わっ! 私、どうしてこんな時に律先輩の言葉を思い出すの!?)ドキドキ


○○「中野さん?」

梓「ひゃい!」

○○「どうかした?」

梓「なななななんでもありません!」

梓(意識しちゃだめ意識しちゃだめ!)

○○「そう。スタジオってあれだよね? じゃ、行こうか」

梓「は、はい!」

梓(あれ? スタジオが見つけられなくて迷ってたんじゃ)

梓(……あ)

梓(そうか。迷ってなかったんだ)

梓(私とだけ先に会っておいて、今日スタジオに呼び出された理由を確かめるつもりだったんだ)

梓(……なんだか先輩、すごいなあ)




――貸しスタジオ

梓「ここが借りたお部屋です」

○○「ではお邪魔します、っと」

ジャララ♪ ジャンジャン♪

梓(わ、練習中だったんだ)

梓(これは……『ふわふわ時間』だ。それも中盤)

ちらっ

梓(あ、先輩たちが気付いた。みんな、こっちを見てる)

梓(けど演奏は止めない……)

梓(これが先輩たちなりのサプライズ?)


ジャララ♪ ジャラ♪

唯「ふわふわたーいむ♪ ふわふわたーいむ♪」


梓(すごく良い演奏……私も混ざりたいぐらい)

梓(○○先輩は……)ちらり

○○「……」ぽー

梓(驚いてる、のかな。それとも聞き入ってる?)

梓(悪い印象はないみたいだけど……)

じゃん、じゃん、じゃーん!

梓(演奏が終わった……)


パチパチパチパチ

○○「良い曲ですね、本当に。こんなに楽しそうに弾いてるのを聴くのは初めてです」

律「あれ? 思ったより驚いてねーぞ」

唯「もっと『どひゃー!』っていうリアクションを期待してたのにー」

○○「いや、驚きましたよ? 部屋に入ったらいきなり爆音がしたんですから」

梓(先輩、笑ってる……良かった)ほっ

律「それでもなあ、なんか落ち着き払ってるし……あずさー? もしかして先になんか言ったのか?」

梓「い、言ってません!」

唯「ほんとー?」

梓「ほんとです!」

澪「……」プルプル

紬「ふふふ」

律「やっぱり、クラッカーまみれの方が良かったかね」

唯「だって、あずにゃんがクラッカーは駄目って言ったんだもん」

澪「……」プルプル

紬「澪ちゃん、そんな隅っこにいないで、こっちに来ましょう?」

澪「け、けどなんだか身体が勝手に震えて……」プルプル

唯「大丈夫だよ澪ちゃん! 男の人はいきなり噛んだりしないって!」

澪「か、噛むぅ!?」

律「じゃあ私が噛むぞー!」

澪「うわあ!」

梓(……)

梓(初めて会う人の前なんだから、もう少し落ち着いてほしいよ……はぁ)


○○「あのー、すみません」

澪「!」びくっ ばたばた

律「おっと澪、逃げるなって」がし

律「はいはい、なんですかいな?」

○○「もう皆さんは俺のことを知っておられるようですが、一応自己紹介だけしておこうかと思いまして」

律「お、聞かせろ聞かせろー」

唯「ひゅーひゅー」

澪「……うう」びくびく

紬「ごめんなさい、私たち、こんな慌しくしてしまって」ペコリ

○○「いえいえ」ペコリ

○○「それでは俺の名前ですが、○○と言います。えー、おそらくもうすでに事情は知っておられると思うのですが」

唯「夜のけいおん部の部室で練習してたんだよねー」

○○「はい。勝手にすみませんでした」

律「幽霊の正体なんだろ?」

○○「みたいですね。足はちゃんとあるんですが」

紬「あと、練習する場所に困ってるって聞いてます」

○○「ですね。だからさわ子先生にはすごく感謝しています」

澪「……うぅ」びくびく

○○「あの……どうかしました?」

澪「ひぅ!」びくぅ!

梓(澪先輩はいったい何をそんなに怖がってるんだろう。○○先輩優しいのに……)

○○「じゃあ、だいたいは知ってるみたいですね。あと、大事なことは……」ちらり

梓(!)

梓(先輩がこっちを見た)

梓(『大事なこと』……きっと、身体のことを話したか確かめてるんだ)

梓(……)

梓「……」フルフル

○○「……よし、大事なことを話さなくちゃいけません」

律「何だー?」

唯「実は女だったとか!」

律「ないない」

○○「俺の身体は少々特殊でして……体質的に体力がほとんどありません」

梓「!!」

律「体質的?」

紬「それは、お身体がどこか悪いということでしょうか?」

澪「……」ぽかーん

○○「そうですね。心臓を少し……けれども命がどうのこうのというものではありません」

○○「ただ、人より体力が極端に少ないだけです。息切れもしやすい」

唯「ギターは大丈夫なのー?」

○○「はい。ギターを弾くのも大丈夫です。ただし、すぐに疲れてしまいますが……」


梓(先輩が……)

梓(先輩が自分から身体のことを話してる!)


○○「おそらく、今日俺をここに呼んでいただいたのは、俺も一緒に練習させて下さるつもりだったと思われますが」

唯「そだよー。あずにゃんから頼まれて!」

梓「あっ」

○○「中野さんに? そうだったんですか」

梓(うぅ……先輩、幻滅しちゃったかな。勝手にこんなことしちゃって……)

○○「えーと……こんな身体で迷惑をかけるのも悪いですし」

○○「それに初めて会ったばかりで戸惑っている方もいらっしゃいますし」

澪「あっ」ぴく

○○「今日は見学だけさせてもらって、もっとお互いのことを知った後に、練習に参加させていただこうと思います」

○○「なので今日は皆さんの演奏をたっぷり聴かせてもらいますね」ぺこり


律・澪・紬「……」ぽかーん

唯「おー。そだ! 私も自己紹介するよ!」

ジャン♪

唯「ギター担当の平沢唯です! よろしく!」

○○「平沢さんですね、よろしくお願いします」

唯「よろしくしくー!」

律「はっ。呆けてる場合じゃないな。私たちも自己紹介すっぞ、澪、ムギ」

澪「あ、ああ」

紬「そ、そうね」

ダカダン

律「ドラム担当、そしてけいおん部部長の田井中律! よろしくぅ!」

○○「田井中さん、ですね。元気なドラムで、聞いてて心が弾みました」

律「ははー、それほどでもー」

チャララン♪

紬「キーボード担当の琴吹紬です。どうぞよろしくお願いします」

○○「琴吹さんはとても綺麗に鍵盤を弾いてますね。軽音にはなかなかない指使いです」

紬「ありがとうございます。クラシックを少々やっていたものですから」

ベーン

澪「え、えと……」

律「ほら、澪も自己紹介しろYO!」

澪「分かってるよ……ベース担当、秋山澪です。よ、よろしく……します」

○○「秋山さん、ですか。控えめですけど、みんなの音を支えるベースでした」

澪「あ、う……」

澪「あ、ありがとう……ます」



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