――数十分後

律「なるほど、な」

澪「……」

唯「すごい人だねー。努力家なんだねー」

紬「ええ、素直に驚いてしまうわ」

梓「……はい。あの人はいつも音楽を楽しむために頑張ってます」

澪「……」ポロポロ

律「うわっ! 澪、何泣いてんだよ!」

澪「だ、だって……練習がしたいのにできないなんて、自分がそうだったら、って考えたらすごく悲しくて」ポロポロ

律「ったく、よしよし、泣くな泣くな」ナデナデ

澪「うぅー」

紬「だけど、どうして家でも学校でも練習できないのかしらね」

梓「さ、さあ、その理由は……聞いていません」


梓(やっぱり話せなかった……先輩の身体のこと)

梓(話していいかどうかなんて、私の独断じゃ決められない)

梓(○○先輩は身体のことを知られるのを嫌がるかもだし)

梓(知り合った後からでも話せるよね)

梓(……また先輩と相談して決めよう)


律「で、私たちの練習にその男も参加させて欲しい、ってわけか」

梓「はい。メンバーに入れるとまでは言いません。ただ、一緒に練習するだけで……」

梓「それだけで、○○先輩に掴めるものが出てくるはずですから」

律「そっか……よーし、みんなー、どうするー?」

唯「私はいいよー?」

律「んな簡単に決めるなよ」

唯「だって面白そうだもん」

律「ったく、唯は賛成、と。澪は?」

澪「私は……実際にどんな人か会ってみないと、なんとも」

律「ふーん、澪は男が怖いだけじゃないのかー?」

澪「ばっ、違う! そりゃあ、ちょっと怖いけど……自分の目でどういう人か見ないと、分からないから」

律「ま、少しは男と接触しようって思うだけ、まだマシか。ムギは?」

紬「私も澪ちゃんと同意見」

紬「嫌ではないのだけど、バンドってやっぱりフィーリングが合わないことにはやっていけないから」

紬「少しの間の練習でも、それは同じだと思う」

唯「音楽の方向性の違い、って奴だね!」

紬「ふふふ、そんな感じよ」

律「なるほどな。ちなみに私は、そいつが良い奴っぽいならやってもいいぜ」

梓「先輩は良い人です!」

律「はいはい、惚気いただきましたー」

梓「へう」カァ


律「というわけで決まりだな」

律「今夜、ここでその○○ってのと会ってみようー!」

唯「おー!」

紬「おー」

澪「お、おー」


ガチャリ

さわ子「ま、いつかはこうなると思ってたわ」

梓「さわ子先生!」

さわ子「梓ちゃん、そんな気軽に話しちゃ駄目でしょ。ようやく噂も消えてくれたのに」

梓「あう……すみません」

さわ子「まあ、悪い方向にはいってないから、いいわ」

律「さわちゃんも1枚噛んでたとはなー」

唯「騙したのね! ずるい! こうなったら、あなたを殺して私も死ぬ!」

澪「唯は何やってんだ」

紬「きっと昼ドラごっこね~」

さわ子「下手したら私のクビが飛ぶかもしれないのだから、そりゃ秘密にするわよ」

さわ子「けどこうなった以上、仕方ないわ」

さわ子「私も、○○君は1度バンドで練習した方がいいと思ってたし」

さわ子「ただ、今日は無理よ。他の先生方が残るらしいから」

さわ子「だから……そうね、明日にでもどこかのスタジオを借りて、放課後に集まってみたら?」

律「それでいくか」

澪「ど、どきどきしてきた」

唯「澪ちゃんは緊張しすぎだよー。リラックスリラックス」

紬「何かお茶菓子も必要かしら」

さわ子「私は行けないから、適当に楽しんでらっしゃい」

梓「……」

梓「みなさん」

律「ん?」

澪「どうした、梓」

梓「ありがとうございます」ペコリ

梓「私の変なお願いを聞いてくださって」

梓「すごく……すごく嬉しいです」

唯「あずにゃんは後輩! 先輩は後輩のお願いを聞くものなんだよ!」

紬「そうよー、だから気にしないで。私たちも結構楽しみなんだから」

梓「……はい!」


さわ子「あ、他の子にここでの練習のことを話しちゃ駄目よ。けいおん部だけの秘密ね」

全員「はーい」

唯「憂にもー?」

さわ子「だーめ。できれば○○君のことも話さないように」

唯「……秘密めいた私かっこいい!」

澪「何言ってんだ……」


律「そういえば、結局梓と○○ってのはどういう関係なんだ?」

梓「で、ですからただのギター友達で……!」

律「本当かあ? 実際そうだとして、梓は何も意識してないのか?」

梓「わ、私が……?」

梓(意識? ○○先輩を?)

梓(……)

梓(そ、そんなこと……!)

梓「はふー」ボフン!

律「ありゃ? 爆発した」

澪「律、からかいすぎだぞ」

澪「梓の話聞いてただろ。健全な友達関係じゃないか。どうしてそんな色恋沙汰に持っていきたがるんだ」

律「いやー、うん、分かってる。だからかなり冗談だったんだけど……こりゃ意外や意外、って所かな」

唯「あずにゃんをそこまで夢中にさせるとは……やるな、○○君!」

紬「あらあら~」

梓「ち、違いますー!!」

唯「けど、これじゃあ噂と、ふぐっ!」

律「ま、待て唯! こっちにお菓子あるぞ!」グイッグイッ

梓「噂?」

律「なんでもないなんでもない!」

律(やべー。今広まってる噂が梓の耳に入ったら……)

澪「お前が広めたってばれたら、先輩としての信頼を完全になくすな」ボソッ

律「!」ビクッ

律(な、なんとか誤魔化していかないと!)




――夜 梓の部屋

梓(……)ゴロゴロ

梓(ベッド柔らかい……)ゴロゴロ

梓(……)ゴロゴロ ピタ

梓(……大丈夫、だよね)

梓(うん)

梓(大丈夫)

梓(先輩にメールを送ろう)


to ○○先輩
件名 明日の放課後ですが

こんばんは、中野です。
明日の放課後、良ければスタジオで練習しませんか?
学校近くに『PAC』っていうスタジオがあります。
私は部活もないので、5時にそこでどうでしょうか?


梓(……先輩たちもいるって書きたいのに)

梓(律先輩はどうしてあんなことを)




――数時間前 部室

律『あ、その○○っていう男には私たちがいることを内緒にしとけよ!』

梓『はあ、どうしてですか?』

律『びっくりさせたいじゃないか!』

唯『おー、いいねー、サプライズだねー』

梓『そんな理由で……』

律『それにさ、そいつってあんまりバンドで練習したがらない奴なんだろ? 本当のこと言ったら来ないかもしれないぞ?』

梓『……けど』

律『決まりだ決まり! 明日はサプライズだー!」

唯『だー!』

澪『律の悪ノリがまた始まった』

紬『ふふふ、けど楽しそう』


梓(はあ、○○先輩に嘘なんてつきたくないのに)

梓(こんな、騙しちゃうだなんて……)

梓(けど、確かに本当のことを言うと○○先輩、来ないかも)

梓(……)

梓(騙した、って怒られたら、どうしよう)

梓(先輩が怒ってるところなんて見たことないけど……それでも)


ぴろぴろりん

梓「あ、返信……」


from ○○先輩
件名 分かった

部活がないだなんて珍しいね。何かあった?
明日の5時なら大丈夫なので、行かせてもらいます。
一緒に弾けるのは久しぶりなので、とても楽しみだよ。


梓「……」

梓(……ちょっとだけ。ちょっとだけヒントみたいなのを出しても、いいよね)


to ○○先輩
件名 明日は

少しオシャレをしてきた方がいいかもしれません。


梓「……伝わる、かな」




――翌日 学校 昼休み

純「でさー、私の布団に入って寝ちゃったんだよねー」

梓「かわいいなー、いいなー、猫ー」

憂「……はぁ」

純「ん? 憂、どうしたの?」

梓「なんか今日は元気ないね」

憂「うん……ちょっとね」

純「なんだなんだー? 梓に続いて憂もかー?」

梓「私に続いて?」

純「いんや、なんでもないよー」

憂「それがね、昨日、お姉ちゃんが……」



――憂の回想

唯『ふんふーん』

憂『お姉ちゃん、ご機嫌だね』

唯『ふっふー、明日はサプライズイベントがあるからね! 楽しみなんだよ!』

憂『サプライズ? 誰を驚かすの?』

唯『それはねー、あずにゃ――あっと、これは秘密だった!』

憂『え? 私にも話しちゃ駄目なの?』

唯『秘密秘密!』

憂『けど、今梓ちゃんの名前……』

唯『憂には絶対話さない!』

憂『そ、そんな……お姉ちゃんが私に隠し事だなんて……』ガーン



憂「こういうことがあって……」ガクリ

純「へー」

梓「……」

憂「お姉ちゃんがあそこまで頑なに口にチャックするなんて、初めてで……」

憂「秘密だって言うなら、私は絶対に人に話したりしないのに」

憂「……私、お姉ちゃんに信用されてないのかなあ」ショボン

梓「そ、そんな深刻に考えなくても、ただ単に口止めされてるだけかもだし」

梓(というか唯先輩、そこまで口を固くしなくても……学校で練習してたことだけを秘密にすればいいのに)

憂「そう? お姉ちゃん、私を嫌ってないかな?」

純「憂を嫌うなんて、相当難しいんじゃない? とってもいい子だもん」

梓「きっとサプライズっていうのが終わったら、話してくれるよ」

憂「うん……」


ぴろぴろりん

梓「あ、メール……」

純「誰から? まさかまさかのー?」ニヤニヤ

梓「何でそんなににんまりしてるの……あ、唯先輩からだ」

憂「お姉ちゃん? なんて?」


from 唯センパイ
件名 無題

クラッカーとか持っていた方がいいかな?


梓「……どうでもいいことだったよ」

憂「そう?」

梓(『そういうことはやめましょう』って後で送っておかないと)



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