――梓達から少し離れた音楽ショップ

律「おーい、澪ー。そろそろ帰ろうぜー」

澪「もうちょっとー!」

律「ったく、レフティフェアやってる店にわざわざ来るとか、澪も物好きなやつ……」

律「……ふぅ、先に出とこ」

ウィーン

律「うお、もうこんなに暗いのか」

律「早く帰りてー……つーか腹減った。何か買うか」キョロキョロ

律「うん?」

律「あれって、梓じゃないか?」



――駅改札前

○○「じゃあ、ここで」

梓「はい、お疲れ様でした」

○○「今度会う時はチョコレートケーキ持ってくるから」

梓「それはとても楽しみです!」パァア

○○「ははは、中野さんはほんとに甘いもの好きなんだ」

梓「い、いいじゃないですか……好きなものは好きなんです」

○○「女の子らしくていいと思うよ」

梓「!」

梓「ど、どうも……」カァ



――少し離れた場所

律「……梓で間違いないよな。ポニテだけど、ありゃ梓だ」

律「一緒にいるのは……うん、やっぱり男だ。誰だありゃ」

律「梓の奴、えらく楽しそうだな。ものすんごい良い笑顔じゃないか」

律「おっ、赤くなった」

律「ははは、かわいい奴」

律「うん? 待てよ」

律「梓にあんな顔させられるなんて……あの男は、ま、まさか」

律「梓の彼氏!?」


澪「律ー、お待たせー」

律「お、おおお! 澪か!」

澪「ごめん、レフティフェアなんてなかなかなくて……どうした? なんか挙動不審だけど」

律「な、なんでもない! うん、なんでもない!」

澪「何かあるって顔だろ、それは」

律「ほんとになんでもないってば!」

律(梓たちは……あ、いつの間にかいなくなってる)

律(ど、どこに行ったんだ? 帰ったのか?)キョロキョロ

律(まさかこれから2人して夜の街に繰り出すとか……?)ハラハラ

律(そんな! 梓、まだお前には早い! 早いぞ!)ドンッ

澪「律が百面相してる……」




――夜 梓の自室

梓(今日は色々あったなあ)

梓(私の家で一緒に練習して、一緒にケーキ食べて、一緒にご飯も食べて)

梓(……お話もいっぱいできた)

梓(楽しかったなあ。またできないかなあ)

梓(……平日に誘ってみようかな)

梓(ううん、部活もあるし、さすがに無理だよね)

梓(よし! この1週間はけいおん部の練習に打ち込もう!)

梓(そうして上手くなった私のギターを○○先輩に見てもらおう!)

梓「えいえいおー」




――月曜 昼休み 教室

純「梓ってさ、最近イキイキしてるよねー」

梓「え?」

純「なんか生活にハリがあるっていうかさ。充実してるっていうか」

憂「あ、それは私も思った」

梓「そ、そうかな」

憂「うん。梓ちゃん、最近すごくかわいいもん」

梓「か、かわっ」びくっ

純「何かあったのかな? 梓ちゃーん?」

憂「部活で良いことあったとか?」

梓「けいおん部はいつも通りだけど……」

純「けいおん部『では』何もない。だったら他に何かあると見た!」

梓「ええー、何もないってば」

純「ほら吐けー。新しいケーキ屋でも見つけたかー、澪先輩に頭でも撫でてもらったかー」

梓「純はそれでウキウキするんだ……」

憂「私はお姉ちゃんに撫でてもらったら1カ月はウキウキだよ?」

梓「……あはは」

梓(唯先輩に1日1回は撫でられてることは、黙っておこう)




――放課後 部室

紬「今日はチーズケーキなのー」

唯「おー、チーズの香りがすごいよ!」

澪「これはいいな」

梓「……おいしい」もぐもぐ

律「……」じーっ

梓「……」もぐもぐ

律「……」じーっ

紬「りっちゃん、食べないの?」

律「え?」

澪「律が食べないなんて珍しいな」

律「い、いや、食べる食べる。うん」ばくばく

梓「……」もぐもぐ

律「……」ばく……じーっ

梓「……」もぐもぐ

律「……」じーっ


澪「……律」

律「んあ?」

澪「どうして梓を睨んでるんだ?」

梓「え?」

澪「親の仇みたいに睨んでるぞ」

律「そ、そうか?」

梓「え? え?」

唯「りっちゃんがあずにゃんを嫌いになっちゃった?」

紬「それは大変ねー」

律「そういうわけじゃなくてだな……あーもう! 練習しようぜ!」

澪(誤魔化した)

唯(誤魔化したんだね)

紬(あらあら~)

梓(私、律先輩に何かしたのかな……)



――練習後

唯「良い感じだったねー」

律「だなー」

澪「梓、ギター上手くなった?」

紬「あ、それ私も思った。前よりずっと良い音が出てるわ」

梓「そ、そうですか?」

澪「ああ。家ですごく練習してるんだな」

紬「最近やる気いっぱいだったものね。何かやる気になる素があるのかしら」

律「!」

律「……うーん」


梓(上手くなった……素直に嬉しい)

梓(多分、○○先輩と練習したから、かな)

梓(……ううん、それだけじゃない。やっぱりこのバンドで演奏することが楽しいから)

梓(その楽しさが原動力になってくれているから)

梓(もっと上手になろうと思える)

梓(○○先輩もこういう楽しさを知ってくれたら……)

梓(……)

梓(……あ)

梓(いや、けど)

梓(うーん)

梓(○○先輩とけいおん部の先輩たちが一緒に練習だなんて……そんな)

梓(できるのかなあ……そもそもどうやって先輩たちと会わせればいいか……うーん)


梓「うーんうーん」

律「……」じーっ

澪「律」

律「んあ?」

澪「どうしたんだよ。やっぱり梓を睨んでるぞ」

律「……なぁー、澪ー」

澪「うん?」

律「なんていうかさ……後輩に先を越されるのって、悔しいよな」

澪「はぁ?」

律「そんな感じなのだよ」


律(まさか5人の中で梓が最初に彼氏を作るだなんて)

律(いまだに信じられん)

律(男っ気なんて全然なかったのになあ)

律(……梓に聞いてみたいな、彼氏のこと)

律(いや、私たちにも話さないってことは、隠さなきゃいけない関係だったりして)

律(おー、すごく乙女っぽいじゃないか、梓)

律(しかし、私は誰かに話したい……黙っていられないぞ、こんな面白い話)うずうず


澪「おい律、いったいどうしたんだってば」

律「澪! ちょっちこっち来い!」グイッ

澪「お、おい、引っ張るなよ!」


律「あのな――」ヒソヒソ

澪「え? 梓に――」ヒソヒソ



梓「はぁ……」


3章 おわり



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