――帰り道
律「じゃ、また来週なー」
澪「気をつけて帰るんだぞ」
唯「あずにゃんばいばーい」
紬「またね~」
梓「さようならです!」
トコトコトコ
梓(今日は唯先輩、ちゃんと練習してくれたな……珍しい)
梓(いつもこれぐらいやってくれたらいいのに)
梓(……熱血なけいおん部も、それはそれでなにか違和感があるけど)
梓(はあ、私もけいおん部に毒されてるのかなあ)
梓(そりゃあ、1年間ここにいたらそうなるよね)
トコトコ
梓(けど、ああいう場所も嫌いじゃない)
梓(練習はもちろんしてほしいけど……なんだろ、皆で集まって楽しむことも大切なんだと思う)
梓(演奏技術だけが大事なんじゃない。皆で弾くことも大事)
梓(楽しく弾くことが大事)
梓(……それが、唯先輩たちと一緒に演奏することの魅力の1つなんだろうなあ)
梓(1人で弾いてるだけじゃ、絶対に分からない感覚)
トコトコトコ
梓(……)
梓(○○先輩は、バンドで演奏したことあるのかな)
――梓の自室
梓「えーと、メールメール」
to ○○先輩
件名 明日のことですが
こんばんは、中野です。
明日は何時ぐらいに来られますか? 両親に話したところ、丸1日使ってもOKとのことです。
朝から晩までみっちり練習しても大丈夫ですよ。
梓「送信、っと」
ぴろりん
梓「あ、けど先輩の身体じゃそんなに長く練習できないか」
梓「しまったなあ……」
ぴろぴろりん
梓「あ、返信きた」
from ○○先輩
件名 Re:明日のことですが
では、昼の13時頃にお邪魔しようと思います。
晩までみっちり、というのはちょっと難しいですが、きちんと休憩を取れば、多分4,5時間ぐらい練習できます。
そんなに長く練習するのは久しぶりなので、とても楽しみです。
お土産のケーキもちゃんと持っていきますね。
梓「そっか、休憩を取れば大丈夫なんだ。よかった」
梓(ケーキか……楽しみだなあ)
梓(チョコケーキかな。今日も食べちゃったけど……うん、好きなものなんだから、食べられるはず)
梓(よし! 今日は早く寝て、明日の朝は迎える準備しなくちゃ!)
――土曜 朝 梓の家のリビング
ガチャ
梓「ふぅ……おはよー」ムニャムニャ
梓「あれ? お母さんがいない……お父さんも?」
梓「どこに行ったんだろ」
梓「あ、書置きがある」
『実家のおばあちゃんがぎっくり腰になったので、お見舞いとお手伝いに行ってきます。
お友達が来たら、冷蔵庫の中にあるジュースとお菓子を出すこと。夜には帰ります。母より』
梓「……う、嘘。どうしてそんな、いきなりぎっくり腰に?」
梓「あ! じゃあ、今日は私、先輩と2人きり?」
梓「……だ、大丈夫だよね」
梓「そうだ! 部屋の掃除! 埃取っとかないと!」
――掃除後
梓「これぐらいでいいかな」
梓「今日はちょっと暑いみたいだからエアコンつけないと」ピッ
梓「……私の部屋で練習かあ」
梓「ま、まあいっか。練習するだけだもんね、うん」
梓(……男の人を部屋に入れるのって、お父さん以外じゃ初めてだ)
梓(そりゃあ、練習するだけだけど……ん、んー、ちょっと恥ずかしいなあ)
梓(リビングで練習した方が……いや、今から掃除してたら間に合わない)
梓「もう12時半……」
梓「あ、私お昼ご飯食べてないや」
梓「パンだけでいっか。先輩がケーキ持ってきてくれるし」もぐもぐ
ぴろぴろりん
梓「あ、メール」
from ○○先輩
件名 もうすぐ着きます
今、駅に到着しました。多分あと10分ほどで着くと思います。
約束の1時には少し早いですが、大丈夫ですか?
梓「もうすぐ着くんだ……」
梓「……あっ」
梓(しまった! 私、掃除するためのラフな格好なままだ!)
梓「ど、どうしよう! 髪もセットしない!」ワタワタ
梓「どうしようどうしよう!」
梓(先輩には少し待ってもらって……駄目! 外で立ちっぱなしにさせるなんて!)
梓(と、とりあえず服だけでも……髪はポニテでまとめればなんとか!)
――10分後
ぴんぽーん
梓「は、はーい! 少々お待ちを!」
梓(ギターの練習なんだし、このぐらいの軽い感じの服でいいよね)
梓(うん、大丈夫。髪も鏡でチェック……OK!)
ドタドタドタ
ガチャ
梓「お待たせしました!」
○○「こんにちは、中野さん」
梓「はい、こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」ペコリ
○○「お願いします」ペコリ
○○「ご両親はいらっしゃるのかな。一応挨拶しておきたいんだけど」
梓「いえ、実は今日の朝になって突然、2人共実家に帰ってしまって」
○○「え?」
梓「許可は取ってるから大丈夫です。だから先輩が気後れすることありません」
○○「けど、いいのかな。中野さんと2人だと、色々問題が……」
梓「問題なんかありません! ギターの練習ですから!」
○○「わ、分かった。じゃあ、お邪魔します」
梓「どうぞ!」
梓(うわーうわー、先輩が私の家にいる!)
トコトコ
○○「あれ? 今日は髪型違うね」
梓「あ、これは……こっちの方が気楽でして」
梓(セットする時間がなかっただなんて言えない……)
○○「ツインテールよりポニテの方が楽なんだ」
梓「まあ、ひとまとめにできますから。あ、ここが私の部屋です、どうぞ」
○○「お邪魔します」
ガチャリ
梓「ギターケースはその辺りに置いてください」
○○「どうも。あ、これお土産のケーキ」
梓「ありがとうございます……ちょっと開けてみていいですか?」
○○「どうぞ」
パカッ
梓「あ、フルーツケーキだ」
○○「今日はちょっと暑いから、こういう爽やかな奴がいいかと思って」
梓「ありがとうございます。じゃあ、お皿とジュース用意しますので、ちょっと待っててください」
○○「ありがとう」
ガチャ
トタタタタ
梓(うわー、先輩が私の部屋にいるよ、うわー)
梓(な、なんだか緊張してきちゃった)ドキドキ
梓(こういう時は深呼吸して……)
梓「すーはー」
梓「よし!」
ガチャ
梓「お待たせしました……先輩、何見てるんですか?」
○○「あっと、ごめん。棚のレコードをちょっとね」
梓「ジャズ系のレコードがほとんどですから、先輩が知らないのも多いと思いますけど」
○○「だね。けど、この『ウェザー・リポート』とか『ウディ・ハーマン』とかは知ってるかな」
梓「あれ? 先輩ってジャズも聴くんですか?」
○○「色々聴くよ。邦楽洋楽、ロック、クラシック、パンク、ジャズ、ポップス……最近はアニメとかゲーム音楽も」
梓「はぁ、雑食なんですね」
○○「家にいると音楽聴くか本を読むかしか、やることないから」
梓「あ、ジュースどうぞ」
○○「ありがとう」
梓「アニメとかゲームも良い曲あるんですか?」
○○「結構あなどれないよ。テレビ番組で時々BGMとして使用されるぐらいだし。
先入観なしで聴いてみると、案外気に入ったりするかもね」
梓「じゃあ、先輩のおススメを今度聴かせてくださいね」
○○「そう言われるとなんだかプレッシャーかかるなあ。
自信ある曲なのに中野さんから『えーこんなの無理ー』なんて評されたら、泣いちゃうかも」
梓「そんな意地悪っぽい話し方はしませんよー!」
梓「あ、ケーキとフォークもどうぞ」
○○「ありがとう。けど、最初の一口は中野さんからどうぞ」
梓「はい、いただきます」
パクリ
梓「おいしいです!」
○○「それは良かった」
梓「結構高かったんじゃないですか? 金欠なのに、すみません」
○○「いやいや、これでも安い方だよ。それに、そんな嬉しそうな顔で食べるのを見てると、持ってきて良かったと思う」
梓「あぅ、そんな顔してました?」
○○「うん。中野さん、甘いもの好き?」
梓「わ、わりと」カァ
○○「じゃあ、今度学校で練習する時も持ってきてみようかな」
梓「それはなんだか駄目な感じです」
○○「どして?」
梓「普段の部活と変わらなくなるかもなので……」
○○「そう言えば、けいおん部ではどんな練習してる?」
梓「練習……練習は……はぁ」
○○「あれ? なんか落ち込むようなこと言ったかな」
梓「いえ、そういうわけではないのですが……んー、けいおん部ももちろん練習します。セッションも、バンドでの音合わせも」
梓「けど、それ以上にお茶会とかお喋りとかが多くって……」
○○「へー。ちょっとサボり気味ってことかな」
梓「い、いえ、皆さん、自分の家で練習もしてますよ。唯先輩――あ、ギター担当の先輩なんですけど、唯先輩は家で暇があったら練習してるらしいですし」
○○「ほうほう」
梓「部活の時間のティータイムは、サボりじゃなく」
梓「技術を高めるといだけでもなく」
梓「えーとえーと……楽しく演奏して親睦を深める時間ってことです!」
○○「なるほど」
梓「……先輩はバンドに所属していたこと、あるんですか?」
○○「んー、ないよ」
○○「前の学校で、友達の紹介で練習に参加させてもらったことはあるよ」
○○「けど、本格的にバンドを組んだことは1度もない。今はそもそもギターのことを周囲の皆に隠してるし……」
○○「まあ、体力つけてちゃんと演奏できるようになってからでないと、メンバーに迷惑かけるからね」
梓「……そうですか」
梓(こればっかりは……どうしようもないのかな)
○○「そろそろ練習しようか」
梓「はい。ギターの用意しますね」
ゴソゴソ
○○「じゃあ、まずはいつもの練習曲を」
梓「この曲、何度も弾いてるとほんと指が動くようになりますね」
○○「うん。友達の渾身の一作だからね。これ以上の練習曲はないと思う」
梓「この曲を作った方は、以前の学校の友達ですか?」
○○「そだよ。ほら、俺をライブに連れてってくれた人のこと」
梓「じゃあ、その人も何か楽器を?」
○○「キーボードを。作曲もやってて、俺がギターを始めたって言ったら、この曲をくれたんだ」
梓「へえ……こんな曲作れるなんてすごい人なんですね」
○○「あいつは変な奴だけど、真剣になると良い曲書くんだ」
ジャンジャカジャン♪
○○「よし、準備運動は完了」
梓「少し休憩します?」
○○「いやいや、準備運動だからまだ大丈夫だって。じゃあ、今日は何の曲を練習したい?」
梓「んー……そうだ、先輩が一番好きな曲とか、ありますか?」
○○「好きな曲? あー……そうだなあ。好きな曲っていうより、思い出の曲がある」
梓「じゃあそれを1度お願いします」
○○「うん。それならスコアもあるから、ちょっと待って」
ガサゴソ
○○「ふー……よし」
チャララ、チャラララララ、ラララ!
梓(! かっこいいイントロ!)
梓(曲調は典型的なロックだけど、なんだろ……このイントロ、聴いたことある。すごく有名な曲だったはず)
梓(えーと、えーと)
ジャンジャカ♪
――曲の半分が終わって
○○「ふ、ふぅ。ちょっと休憩」
梓「大丈夫ですか?」
○○「うん。まだ1曲丸々は弾けないか……」
梓「そりゃあ、こんなに激しい曲は疲れますよ……これってロックですし」
○○「あ、もしかして中野さん、この曲知ってる?」
梓「はい。思い出しました」
梓「チャック・ベリーの『Johnny B.Goode』ですよね!」
○○「おー、さすが」
最終更新:2011年07月30日 16:09