2章



――月曜日 放課後 学校

律「いやー、今日のケーキもおいしかったな」

唯「なんて名前だっけ、あのケーキ」

紬「ミルクレープね。フランス語で『1000枚のクレープ』って意味なのよ」

唯「おお! あの中にはクレープが1000枚も……!」

澪「本当に1000枚重ねてたらすごい高さになるだろ」

梓「1枚5ミリとして……5メートルですか」

律「いいねえ。5メートルのケーキとか1度でもいいから食べてみたいな」

澪「お前は3口食べたら飽きたって言うだろ」

梓「はっ、こんなことしてる場合じゃありません、練習しましょう、練習!」

唯「おー、あずにゃんがいつになくやる気だ」

律「どした? ティータイム中に練習って言い出すなんて珍しいじゃないか」

梓「……世の中には練習したくてもできない人がいるんです!」

唯「おー、それは悲しいねえ」

律「なんだか食べ残しして叱られてるみたいだな」

澪「ま、確かにそろそろ練習しようか」


ガチャ

さわ子「みんないるー?」

唯「さわちゃん、どうしたのー?」

さわ子「ちょっと紅茶を飲みたくなっちゃって。淹れてくれる?」

紬「あ、はーい」

コポコポ

紬「はい、どうぞー」

さわ子「ありがと。あー、やっぱりこの紅茶が一番だわあ」

澪「仕事は終わったんですか?」

さわ子「休憩よ休憩。今日も夜遅くまで残らなきゃいけないのよねえ」

梓(!)

梓(もしかして……)



――回想 金曜日

梓『○○さんは毎日ここに来るんですか?』

○○『いや、平日の放課後限定で、さわ子先生から『来ていい』っていうメールが着た時だけだよ』

さわ子『他の先生がいない時じゃないと、呼べないから』

梓『そうなんですか……』

――回想終わり



梓(今日も呼ぶつもりなのかな……)チラチラ

さわ子「……ふふ」

律「さわちゃん、何笑ってんだー?」

さわ子「あら? 笑ってたかしら」

律「ああ。梓の顔見ながら笑ってたぞ」

さわ子「んー、梓ちゃん可愛いから」

唯「うんうん、あずにゃんはかわいいよねえ」




――下校時刻

澪「じゃ、そろそろ帰るか」

唯「今日はそんなに練習できなかったねー」

律「さわちゃんの愚痴ばっかり聞いてたからな」

紬「私は大人の愚痴も面白いと思うけれど」

梓「……」

さわ子「ふぅ、じゃあ私は職員室に戻ろうかしら」

梓「……」チラチラ

さわ子「あ、そうだわ。梓ちゃん、ちょっといいかしら。お話があるの」

梓「は、はい!」

トテトテ



唯「あずにゃんが連れてかれた~」

律「おやー? 梓が叱られるなんて珍しいな」

澪「梓はお前と違って叱られることなんてないだろ」

律「うわ、ひっでー。私がいつも叱られてるみたいじゃんか」

澪「部長としての仕事を滅多にしなくて、いつも怒られてるだろうが」



――部室の外

梓「あの、お話って何でしょうか」

さわ子「あら? 梓ちゃんの方が私に聞きたいことがあると思って呼んだんだけど?」

梓「あっ……」

さわ子「ないの? あるの?」ニヤニヤ

梓「……その、あります」

さわ子「うむ、言ってごらんなさい」

梓「あの……」

梓「今日もあの人を呼ぶつもりなんですか?」

さわ子「やっぱりー。そんなに彼が気になるの?」

梓「そりゃあ気になります。この部室を使う人なんですし……」

さわ子「そっかー。梓ちゃんもお年頃かー」

梓「ど、どうしてそういう話になるんですか!」

さわ子「ふふ。そうねー、呼ぼうかどうか迷ってる、ってところね。先週ばれたばっかりだから」

梓「私は誰にも話してません!」

さわ子「それは信じてるわ。ただ、幽霊の噂話も消えてないから、先日のあなた達みたいな子が出ないとも限らないでしょう?」

梓「むー、それは確かにです」

さわ子「ばれて減給は勘弁して欲しいのよね~。最近服を買ったせいでカードの支払いがきつくて……」

梓「け、けど、ここが使えないとあの人は練習できないんですよね」

さわ子「そうね。最近金欠だって言ってたから、スタジオもそうそう借りられないでしょうし」

梓(練習ができない辛さはよく分かる……)

梓(私はティータイムも楽しいから、練習が少なくても耐えられるけど)

梓(もしそういうのもなくて、学校でも家でも練習できないなんてことになったら)

梓(私、耐えられないかも)

梓「……」

梓「あの、先生」

さわ子「なあに?」

梓「私も、協力しましょうか?」

さわ子「協力?」

梓「はい、協力です。○○さんをここに呼ぶための、協力」

梓「学校の中に生徒が残ってないかどうかの見回りとか、見張りとか……やれることはたくさんあります」

さわ子「けど、あなた自身が守衛さんに見つかったりすると、面倒よ?」

梓「その時は部活で遅くなったとか、適当に言い訳をします」

梓「あっ、そうだ、もしさわ子先生や○○さんが他の生徒に見つかっても、私がいれば『部活の一環』っていう言い訳のしようもあると思いますよ」

さわ子「うーん」

梓「大丈夫ですよ。うまくやりますから」

さわ子「あらあら、いつもは真面目な梓ちゃんが、いつからこんな悪い子になったのかしら」

梓「多分、ここの先輩たちのせいですよ。特に律先輩や唯先輩」



――部室の中

律「べーっくしゅん!」

唯「へっくしゅん!」

澪「汚いぞ、律、唯」



――部室の外

さわ子「んー、本当は生徒を巻き込みたくはないんだけど……」

梓「……」ジーッ

さわ子「負けたわ。梓ちゃんのその熱心な視線にね」

梓「それじゃあ!」パァ!

さわ子「ええ。手伝ってもらいましょう。あとで職員室にでも来てちょうだい」

梓「はい!」

さわ子「じゃあ、彼にもメールを送っておくわ。また後でね」

梓「よろしくお願いします!」



――部室の中

ガチャ

梓「すみません、お待たせしました」

唯「あれ? あずにゃーん、なんか嬉しそうだね」

梓「え? そうですか?」ニコニコ

唯「うん、ニコニコしてるよ」

律「なんかいいことでもあったのか?」

梓「いえ、特にはないですよ、はい!」

澪「な、なんか本当に嬉しそうだな」

紬「きらきらしてるわね」

梓「そ、そんなことは」カァ

唯「あずにゃーん、かわいいー」

律(うっわ、赤い顔した梓ってかわいいなあ)

澪(な、撫でたくなる)

紬(うふふふふ)


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