――校門前

澪「まったく、もう絶対にこんなことしないからな」

律「つーかもうできないだろ。さわちゃんに見つかったのにまたやったら、反省文どころじゃ済まないぞ」

紬「けど楽しかった。いい思い出になったわ」

唯「探検ごっこは楽しいね!」

梓「……」

梓(さわ子先生、昨日も学校にいたって言ってたけど、職員室には誰もいなかったはず)

梓(だったら見回りをしてた? ううん、それは守衛さんがやる仕事のはずだし……)

梓(そもそも今日だって、どうしてさわ子先生、部室に来たんだろ)

梓(3階には他に部屋がない。だったら部室に用があった? どうして?)


律「どうした、梓? さっきから考え事か?」

梓「あ、いえ……」


梓(どこか……どこかおかしい気がする)

梓(そうだ。今日は職員室の灯りすら点いてなかった。なのに『仕事』?)

梓(……さわ子先生、嘘ついている?)

梓(やっぱり気になる!)


梓「あ、あの!」

唯「んー? あずにゃん、どしたのー?」

梓「ぶ、部室に忘れ物をしました? 取りに行ってきます!」

律「おいおい、またか?」

紬「今度は何を忘れたの?」

唯「皆で取りにいこうかー?」

澪「うっ」ビクッ

梓「いえ、ちょっとしたものですので、私1人で行きます! 先輩たちは先に帰っててもらって結構です! では!」

ダダダダ!



律「お、おい! って、行っちまった」

紬「さわ子先生もいらっしゃるんだし、大丈夫よ~」

唯「いいなあ、あずにゃん。また学校探検できるんだー」

澪「うぅ、また私は後輩だけを危険な場所に行かせてしまった……ごめん、梓! けど怖いんだ!」

律「ここに罪の意識と闘っている少女がいたのだった、か」




――夜 学校の中

梓(職員室の電気は点いてない)

梓(さわ子先生もどこにもない)

梓(……やっぱり部室なのかな)

タタタタ


梓(部室……)


ジャン♪


梓(! またギターの音がする!)

梓(部室の中からは人の気配がするし)

梓(誰かいるんだ!)

キィ……

梓(扉を少しだけ開けてっと)


ジャン♪ ジャカ♪


梓(あっ)

梓(昨日と同じ曲……それに、同じ感じの人が立ってる)


ジャン♪ ジャカ♪


梓(……やっぱり上手いなあ)


ジャン♪ ジャカ♪


梓(けっこう好きかも、この演奏)


ジャン♪

……ゴホッゴホッ!


「大丈夫?」


梓(この声はさわ子先生?)


さわ子「少し休憩したら?」

??「そうですね。キリもいいですし」

さわ子「はい、お茶よ。ペットボトルで悪いけど」

??「いえ、ありがとうございます」


梓(さわ子先生としゃべってるって事は、やっぱり幽霊なんかじゃないんだ)

梓(男の人の声……どうしてさわ子先生もここに?)


さわ子「そういえば、あなたの事、校内で噂になってるのよ」

??「え? どんな噂ですか?」

さわ子「夜7時に現れる幽霊ですって。何度か生徒に目撃されてるみたいね」

??「うーん、下校時間の後に入ってきてるんですが……」

さわ子「部活で遅くなる子もいるのよ。もう少し用心なさい。今日だって危なかったんだから」

??「すみません。今日はほんとに助かりました。先生の声がなければ隠れきれませんでしたから」


梓(さわ子先生とこの男の人、知り合いなのかな)

梓(肌が白い……昨日見た人に間違いないよね)


さわ子「昨日も、けいおん部の子に姿を見られてたみたいね」

??「あー、じゃあやっぱりあれは見間違いじゃなかったんだ」

さわ子「どういうこと?」

??「昨日、扉から物音がしたんで誰かいるのかと思って声をかけたんです。
けど、扉を開けると誰もいなくて……窓から外を見ると、校門付近に女の子がいました。黒髪のツインテールでしたね」

さわ子「けいおん部の子ね。その子に見られたのよ」


梓(私のことだ……)


さわ子「そんなことがあったなら報告してくれないと」

??「見られたっていう確証がなかったので……すみません」

さわ子「今日はひやひやしたわ。危ない橋を渡らせないでちょうだい」

??「すみません」

さわ子「そもそも、私が校内を見回るまで練習しちゃ駄目って言ったでしょうに」

??「どうしても待ちきれなかったので……すみません」


梓(……どういうことだろう。さわ子先生が不審者を手引きしてたのかな)

梓(声が遠くてよく分かんないなあ。もう少し扉を開ければ……)


ギィ

さわ子「なに!?」

梓(あ、まずい! 逃げなきゃ、って、あっ!)

ガタン、バタ!

梓「いたたた……こんな所で転んじゃうなんて……」

さわ子「梓ちゃん!?」

梓「あ……」

??「あー」




――けいおん部部室

さわ子「どうしてまた戻ってきたの……」

梓「さわ子先生は嘘をついてると思って、その、気になってしまって……」

??「ははは、さわ子先生、生徒からの信頼がないんですね」

さわ子「うるさいわよ」ギロ

??「あう、すみません」

梓(人間……で間違いないよね。幽霊なんかじゃない)

梓(ちょっと細めで、色白な男の人)

梓(部室に男の人がいるって、なんだか変な感じだなあ……)

さわ子「はあ、どうしたものか……」ガクリ

梓「あの、先生」

さわ子「なに?」

梓「その方はいったい……」

??「あ、自己紹介が遅れちゃいましたね」

??「俺の名前は○○と言います。この近くの××高校の3年生です」

梓「3年生? だったら年上なんですね……」

○○「あ、そうなんですか」

梓(あんまり年上って感じはしないなあ……線が細いからかな)

○○「あなたはここのけいおん部の方ですよね?」

梓「はい。中野梓と言います。2年生です」

○○「はじめまして、中野さん。そしてすみません。けいおん部の部室を皆さんに無断で使ってしまって……」

梓「あ、いえ……そうだ、先生。どうしてこの方――○○さんは、ここでギターを弾いてるんですか? しかもこんな夜に」

さわ子「あー、うん、これには色々と深い事情があるのよ」

○○「俺から説明しましょうか?」

さわ子「いえ、私が説明するわ。生徒からの信頼を回復させたいし」

梓(けっこう気にしてるんだ)


さわ子「この○○君はね、私の友達の後輩で、ギターを弾いてるんだけど」

さわ子「普段の練習場所に困ってるのよ」

梓「練習場所に困る?」

さわ子「家庭の事情、学校の事情があってね。家や学校ではギターが弾けないの」

さわ子「けど、彼はギターを弾きたがってる。練習する場所が欲しい」

さわ子「今年の新学期に入った頃になって、友達のツテで私にそんな相談が持ちかけられて」

さわ子「このけいおん部の部室を貸してあげてたってわけよ」

梓「はあ……そうなんですか」

さわ子「もちろん、この学校に部外者は原則立ち入り禁止」

さわ子「だから、放課後、生徒がみんな帰って他の先生方も早上がりした時、私が裏の入り口を密かに開けて入れてあげてる」

さわ子「それから私が帰る夜7時半か8時ぐらいまで練習する、ってわけ」

梓「それって……いいんですか? ばれたら大変なことになるんじゃ」

さわ子「もちろん。まあ軽くて減給よ、ほんと」

さわ子「幸い、守衛さんはこの部室まで見回りに来ないから、ばれなかったんだけど……」

さわ子「今日、ついにばれちゃったわ。はぁ……」

○○「すみません、先生」

さわ子「いいのよ。私も迂闊だったわ。彼女たちが帰ったのをちゃんと確認すればよかった」

○○「もう、ここは使えませんね」

さわ子「ばれちゃった以上はね。あなたには気の毒だけど……」

○○「いえ、そもそも許されないことですし」

○○「それに女子高に潜入するのって、気が引けてたんですよ。ははっ」

梓「……」

梓「その……ちょっと、質問いいですか?」

○○「どうぞ」

さわ子「なに?」

梓「練習って、ここじゃなきゃ駄目なんですか?」

○○「というと?」

梓「家や学校でできないなら、友達の家でやるとか、スタジオを借りてやるとか……」

○○「あー、うん、そうなんですけどね」

さわ子「色々事情があるのよ、彼にも」

梓「はぁ」

○○「ここが使えない日は、スタジオを借りてやってますよ。けど、お金がかかって仕方ないじゃないですか」

梓「確かに。そうですね」

○○「友達は……んー、まあ、俺には友達はいないと思ってもらって結構です」

梓(友達がいないって……そんなこと言うのは悲しくて辛いことなのに)

○○「あはは、俺、友達作るの苦手なんですよ」

梓(すごく明るい笑顔を浮かべてる)

さわ子「また新しい場所見つけないといけないわね」

○○「さわ子先生には迷惑かけられませんから、自分でなんとかしてみます」

梓(けど、その笑顔、なんだか嘘くさい)

さわ子「何言ってるの。そう簡単には見つからないでしょうに」

○○「大丈夫ですよ。大丈夫……」ギュッ

梓(この人……心の中ではすごく悲しんでる)

梓(きっと、ギターを練習する場所がなくなっちゃったから……)


梓「あの!」

○○「はい?」

梓「私、黙ってます! 今日のこと!」

○○「え、けど」

梓「○○さんは、ギターの練習がしたいんですよね? 他に何も悪いことするつもりはないんですよね?」

○○「う、うん」

梓「私もギターを弾いてるんです。練習したいっていう気持ちはすごく分かります」

梓「今日のことは誰にも言いません! けいおん部の先輩たちにもです!」

梓「だから、ここで練習してもらっても、いい、ですよ」

さわ子「梓ちゃん……」

○○「……」

○○「駄目だよ、中野さん」

梓「え?」

○○「こんな初対面の男をいきなり信用しちゃ駄目だ」

○○「人間、何考えてるか分からないもんなんだ。男は特に下心がたくさんある」

○○「中野さんみたいなかわいい人は、なおさら男に気をつけなくちゃいけない」

梓「か、かわっ!」

さわ子(さらりと言うわねえ、彼)

○○「あっと、ごめん。いきなりタメ口きいちゃって、先輩風ふかしちゃまずいですね」

○○「ごめんなさい、中野さん」

○○「というわけで、先生」

さわ子「ん?」

○○「今までありがとうございました。練習場所はなんとか見つけてみます。だから、」

梓「好きなんです!」バンッ!

○○「え?」

さわ子「あら?」

○○「す、好きって、何が?」

梓「演奏です!」

梓「扉の前で○○さんの演奏を聞いてて、惚れ惚れしたんです」

梓「うまく言えないけど……けいおん部の先輩達の演奏に近いものを感じました」

梓「上手だし、それに、なんだか優しい感じがして」

梓「あんな演奏をする人に悪い人はいません!」



梓「だから」



梓「またここでギターを弾いてください! 先輩!」



○○「……」

さわ子「あらあら。答えてあげなさいよ、『先輩』」

○○「あ、その……」

梓「……」ジーッ

○○「……うん」

○○「ありがとう」

○○「許してくれるのなら、喜んで」

○○「ここで練習させてもらいます」ペコリ

梓「はい!」パァ



1章 おわり





さわ子「許すって言っても、学校の許可は取ってないことには変わりないけどね」ヤレヤレ

梓「私の決死の言葉に水を差さないでください」

○○「ははは」



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