――翌日 放課後 けいおん部部室

律「幽霊を見た~?」

梓「はい! いえ、正確には幽霊じゃありません! 不審人物です!」

紬「それって、昨日忘れ物を取りに行った時に?」

梓「はい。あ、それを見たせいで結局スコアは取りに行けませんでしたが……」

唯「あはは、あずにゃんおっちょこちょいだねー」

律「いやいや、今はそういう話じゃないだろ」

澪「何も聞こえない何も聞こえない」ガクブル

紬「それで、どんな幽霊さんだったの?」

梓「いえ、幽霊ではなく不審人物です。だって、足はちゃんとありましたから」

律「幽霊だからって足がないって決め付けるのはどうかと思うぜ」

唯「だよねー。Qちゃんも足あるもんねー」

紬「外見は?」

梓「白いYシャツと紺色のGパンで、肌はすごく白くて髪は黒くて……ギターを弾いてました!」

律「はあ?」

唯「すごいね! 幽霊さんってギター弾けるんだ!」

梓「あとは……咳もしてました!」

律「よくわかんないなあ」

唯「ねえねえ、幽霊さん、ギター上手だった?」

澪「何も聞こえない何も聞こえない」ガクブル

梓「聞いてる限りでは、なかなか上手でしたよ」

唯「すごいなあ。身体が透けるのにどうやってギター弾いてるんだろ」


律「で、その不審人物さんはどこで見たんだ?」

梓「この部室です」


ピタ


律「……」

紬「……」

唯「おー」


澪「きゃあああああ!」



律「澪が狂った!」

澪「わ、私、幽霊がいるところに座ってたのか!? そうなのか!?」

梓「み、澪先輩落ち着いて」

澪「ふと触ったところが水で濡れてたり、指に髪の毛がべったりくっついてたり、そんなことが起きるのか!?」

唯「そういえば、最近お風呂場の排水溝が詰まっちゃって、フタを開けてみたら髪の毛がびっしりで驚いたよー」

澪「私は呪われたんだー!」

律「落ち着け、澪! 梓によると正体は人間らしいぞ!」

ピタ

澪「……そうなのか?」


梓「まだそうだと確定したわけではありませんが……その可能性が高いと思います」

紬「けど、夜の校舎って生徒は原則入れないはずよ」

律「だなー。教師ってわけじゃなさそうだし」

梓「大人にしては身体の線が細かったです。声はちょっと男っぽかったかも」

澪「うぅ……梓は幽霊と話をしたのか?」

律「幽霊だったら話なんかできないだろ、普通」

唯「あずにゃん、霊感あったんだー」

梓「唯先輩、話ずれてますって……このまま放っておくのはまずいかもしれません。もしかしたら、不法侵入者かもしれませんし」

律「けどなー。わざわざ夜の学校に忍び込んで、やることがここでギターを弾くことなのか?」

澪「どこか腑に落ちない……やっぱり幽霊で、音楽に未練を残してるとか……」ビクビク

梓「けど、あれは人間でした。間違いありません」

紬「うーん、だとしたら守衛さんが先に見つけてるはずだけど……」

唯「もしかして、私たちの情報を盗むために忍び込んできたスパイ!?」

梓「それはないです」

澪「私たちの何の情報を盗むんだ」

律「澪の3サイズとか」

澪「ばか」ポカ


律「よし! こうなったら私たちで正体を突き止めようではないか!」

紬「というと?」

律「夜の校舎に忍び込んで、不審人物を待ち伏せだー!」

澪「な、何を言ってるんだ律は。そんなことできるわけないだろ」

紬「そうね。忍び込むのは難しいと思うわ」

澪「そうそう。ムギも反対だよな」

紬「むしろ、夜になるまで校舎のどこかで隠れていればいいのよ」

律「なるほど! ムギは頭いいなー」

澪「……うぅ、仲間がいない」ビクビク

唯「じゃあ、今日は学校にお泊りだね!」

梓「え? 本当にやるんですか?」

律「私たちの部室を勝手に使われてるとあっちゃあ、見逃すわけにいかないからな!」

紬「私、夜の学校を探検するのが夢だったのー」

澪「いやだ、絶対にいやだ!」

律「観念しろ、澪。これはけいおん部の活動なんだ」

澪「いやだー!」




――夜 学校

キィ

律「音楽室の倉庫に隠れてるだけで見つからないもんなんだな」

紬「守衛さんも、鍵のかかった部屋の中までは確認しないものよ」

唯「すごいねー。夜の学校ってこんなに静かなんだねー」

澪「……」ガクブル

梓「あの、澪先輩が今にも気絶しそうになってるんですが」

律「いつものことだ。ほっとけ」

紬「これからどうする?」

唯「探検しよう、探検!」

律「そうだな。こんな機会はなかなかないし、ちょっと探検してみるかー」

梓(……律先輩たちは怖くないのかなあ)



澪「何も見えない何も見えない」

梓「澪先輩、目を瞑って歩いてたら危ないですよ」

澪「目を開けたら目の前に幽霊がいるんだきっとそうだ」

律「仕方ない奴だなー。私が手を引いてってやるよ」キュッ

澪「うぅ……」

唯「非常灯の光ってなんだかほんわかするね」

紬「ドキドキワクワク」

梓「ムギ先輩は楽しそうですね……」

紬「怖いけど楽しいの。そこの教室からいきなりゾンビが出てきたらどうしようかとか考えてると、なんだかもう身体が震えてきちゃって」

澪「ゾンビ怖いゾンビ怖い」

唯「ばいおはざぁどだね!」




――数十分後

唯「何もなかったね」

律「拍子抜けだな。1度部室に戻るか」

澪「ふぅふぅ」

紬「澪ちゃん、深呼吸深呼吸」

タタタタ

梓「あれ? 部室の扉って閉めましたよね」

紬「うん。私が最後にちゃんと閉めたはずだけど……」

律「おいおい、開いてるじゃないか」

澪「うぅ……ま、まさか」

唯「幽霊さん?」

律「よし、ぬきあしさしあし忍び足で扉に近づくぞ」

紬「ドキドキ、ワクワク」

澪「わ、私は嫌だぞ、絶対に近づかないからな」

律「私の手を離せるって言うんなら、ここで待機しててもいいぞ」

澪「い、嫌だ。手は離さないでよぉ」

唯「女は度胸だよ、澪ちゃん!」

梓(……昨日みたいにギターの音は聞こえない)




「そこにいるのは誰!」




澪「きゃああああ!」

律「うわっ!」

唯「わわっ!」

紬「きゃっ!」

梓「……!!」



さわ子「ちょ、ちょっと、いきなり大きな声出さないでよ」

律「さ、さわちゃん?」

さわ子「りっちゃん? それにみんなも……あなたたち、こんな時間に何してるの」

律「あ、あはは、な、なんだ。幽霊かと思った」

唯「びっくりしたー」

澪「……きゅー」

紬「あ、大変、澪ちゃんが」

梓「気を確かに、澪先輩!」

さわ子「本当に何してるの、あなたたちは……」ハァ



さわ子「幽霊を見に来た?」

律「そうでーす! 梓が昨日、部室で見たっていうから」

梓「はい、見ました!」

澪「私は反対したんですが……」

唯「でね、閉まっていたはずの部室の扉が開いてたから、もしかしたら今いるかもしれないんだよ!」

さわ子「……」

さわ子「そんなわけないでしょ。風で開いただけよ」

紬「けど、窓も開いてませんし……」

さわ子「気になるのなら、実際に見てみればいいわ」

キィ

さわ子「ほら、誰もいないでしょう?」

唯「ほんとだー。ひとっこひとりいないよー」

律「あれー? おっかしいなー」

梓「……」



さわ子「ほら、早く帰りなさい。今日は見逃してあげるから」

梓「さわ子先生は帰らないんですか?」

さわ子「私はまだ仕事が残ってるのよ。もう少しして戸締りの確認をした後、帰るわ」

唯「一緒に帰ろうよー」

さわ子「だーめ。ほら、帰った帰った。早くしないと明日反省文書かせるわよー」

律「反省文は嫌だ」

澪「は、ははは早く帰ろう」

唯「お腹空いたー」

律「しゃーない。帰るか」


紬「先生、さようならー」

唯「さよならー」

さわ子「はい、さようなら。あら? 梓ちゃんは行かないの?」

梓「……」

梓「あの、さわ子先生は昨日も学校に残っていらしたんですか?」

さわ子「そうよ? それがどうかした?」

梓「……いえ、さようなら!」

さわ子「さようなら」


ツカレターオナカスイタヨー
ミオーアルクノハヤイー
ガヤガヤ


さわ子「……」

さわ子「……ふぅ。まったく、世話が焼けるわね」



3