律のアパートに向かい、部屋へと入って律の着替を用意する。
そうこうしていると、ドアが開く音がした。
ドアの方を見ると律の旦那がいた。
私は旦那をキッと睨みつけると黙って律の着替えの準備をする。

旦那「あれ?馬鹿律は?」

澪「律なら病院に連れて行きました」

旦那「ははっ、やり過ぎたか?」

澪「女性に暴行するなんて最低ですね…」

旦那「何言ってるの?あいつが悪いんだよ?昼間っからパチンコ行って、他の男とラブホテルに行って」

澪「何言ってるんですか!あなたが生活費入れないからでしょ!律は仕方なくやってたんですよ!!」

旦那「流石、律の親友だけあるね、あいつの肩持つんだ…ははっ」

澪「早く!律と別れてください!この最低男が!」

旦那「ああ?最低だ?最低っていうのはな、こういう事を言うんだよ!」

律の旦那は私に襲いかかってきた…私は一瞬何が起こったのか分からなかった…
旦那は私を押し倒すとTシャツをめくり上げると胸を揉み始めた…

澪「いや!!やめろ!!」

旦那「うるせい!」

頬に激痛が走る…旦那は私にビンタをした。

澪「離せ…離せ…」

旦那「前から良い体してると思ってたんだ!!」

そう言うと旦那は私の体を貪り始めた…
最初こそ抵抗していたが、所詮女の力だ…叶うはずがない…
私は抵抗するのをやめた…目を瞑り歯を食いしばり…悍ましい行為が終わるのを待った…
体の中に異物が侵入し、そしてその異物から熱いものが放たれた…
私がぼーっとしていると旦那は服を着て、またどこかへ行ってしまった…


私は身なりを直し、律の待つ病院へと向かった。
途中、何度も泣きそうになったが…泣くのを堪えて車を走らせる。
律の病室の前に着き、ドアを開ける前に深呼吸をした。
そして、ドアを開けて中へと入った。

律「遅かったな、澪。何かあったのか?」

澪「ううん…家から電話があって話してたりしてな…遅れてたんだ…」

律「あれ?ほっぺた赤いぞ?やっぱり、なんかあったんじゃないのか?」

澪「ないない!何にもないから!」

律「本当か?も、もしかして…あの馬鹿が…」

澪「あ…う…何にも無いから!!着替!ここに置いておくからな!明日迎に来てやるから大人しくしてるんだぞ!
私はもう帰るから…」

律「ああ…」

私は逃げるように病院を後にした。正直あれ以上、病室にいたら律にバレてしまいそうだったからだ。
この事は私の中に閉まっておく。これ以上、律を不幸にしたくない…



翌日、7時ぐらいだろうか携帯が鳴った。
電話に出るとそれは律がいる病院からだった。
律がいなくなった…
何やってるんだよ…律…大人しくしてろって言ったじゃないか…
私は着の身着のまま飛び出すと車に乗り込むと走りだした。
律が行きそうな所…どこだ?私達が卒業した学校?パチンコ屋?
冷静になれ澪!でも…全然冷静になれない…
嫌な予感だけがよぎる…


闇雲に車を走らせた…でも、律は見つからない…
そうこうしているうちに太陽は傾き、黄金色の夕日へと変わっていた。
私は車を路肩に止めて、次に捜すべき場所を考えていた。
携帯のバイブが震える。
携帯の画面に眼をやると律からの着信だ。
急いて電話に出る。

律「澪…仇は取ったからな…」

澪「何言ってるんだ!それよりお前、今どこにいるんだよ?」

律「国道近くの工事現場分かるか?あいつそこの仮設の事務所で寝泊りしててさ…
今、そこにいるんだよ」

澪「分かった!すぐに行くから!そこにいてくれ!」

律「ああ」


電話を切ると、急発進で車を走らせた。
工事現場に着き適当なところに車を停めると、仮設の事務所へと向かう。
事務所の窓を見ると赤いものが付いてるのが分かる…嫌な予感がする…
事務所のドアを開ける。

澪「律!大丈夫か!律!」

律「へへっ…やっときた…」

澪「馬鹿!馬鹿律!」

律「馬鹿、馬鹿言うなよ…自分が馬鹿なのは知ってる…」

澪「それより、仇ってなんだよ?」

私は狭い部屋の中を見渡した。
部屋の隅にひかれている布団の上に血塗れの律の旦那が横たわっている。

律「あいつ、澪に酷い事したからな殺してやったんだよ!」

澪「馬鹿!私の事なんかほっておけばいいのに!」

律「そうはいかない!澪は私の親友だからな…あいつ…死に際になって謝ってきたんだよ…今までのこと…遅いつーの…」

澪「律…それより、お前は大丈夫なのか?」

律「大丈夫じゃないな…」

律の体をよく見ると、律の脇腹に果物ナイフが刺さっている。

澪「お前…」

律「最後の抵抗だな…刺されてちゃったよ…ハハハッ」

澪「馬鹿!すぐに救急車呼んでやるから!」

救急車が到着する前に律は気を失っていた。
私は泣きながら律に声を掛ける…律は反応してくれない…
そうこうしてると救急車が来た。
救急隊員に律の事を伝える。別の隊員が奥で倒れてる律の旦那に駆け寄る。
旦那の死亡を確認して無線で警察に連絡をしている。
私は救急車に乗り込み病院へと向かった。



どうにか律は一命を取り留めた。
今は順調に回復している。
でも…律は近いうちに警察病院へと転院させられてしまう。
律には旦那への殺人と子供への幼児虐待の疑いがかけられている。
警察病院への転院前、私は律に会いに行った。

澪「律…元気か?」

律「どうにかな…ホント、迷惑ばっかり掛けてるな澪には…昔からそうだ…」

澪「何言ってるんだ…お互い様だろ…」

律「でも、もう澪に合うことはないな…」

澪「そ、そんな事言うなよ…」

律「もうすぐ警察病院に転院だってさ…そうしたらもう合うこともないよ…私の事は忘れてくれ…」

澪「忘れない!絶対、忘れない!誰がなんて言おうと私は律のことは忘れない!」

律「澪ちゃんたら…いつからそんな我儘言うようになったのかな?」

澪「うるさい!馬鹿律!」

律「でも…もう合うことはないから…」

澪「…」



その数日後、律は警察病院へと転院した。
そして、あの事件から3ヶ月が過ぎた頃だった…私の体に異変が起こった…
あの時のあの行為で私は妊娠した。
私は律に面会に行った。
律はびっくりした表情で私を見ている。

律「なんでだよ…なんで来たんだよ…」

澪「律に話したいことがあったから来たんだよ!それに、来るのは私の自由だろ!」

律「だけど…忘れろって言ったじゃないか!」

澪「…」

律「話ってなんだよ…?」

澪「あのな、律……私、妊娠したみたいんだ…」

律「もしかして…あの馬鹿のか…?」

澪「うん…」

律「チッ…不幸になるのは私だけでいいのに…澪まで不幸にしやがって…」

澪「でな…」

律「澪…お前…もしかして産むとか言わないよな…それだけは辞めてくれ…」

澪「私…産みたいんだ…あんな事で出来ちゃった子供だけど…この子には罪はないから…」

律「あんなロクでナシの子供なんて!下ろせ!澪!お前が不幸になる!」

澪「もう、産むって決めたんだ…律が刑期を終えて出てきた時に、これが私の親友だって紹介するのが今の私の夢なんだ…
だから、律分かってくれ…」

律「ば、バカ野郎!馬鹿…馬鹿…」

そう言うと律は下を向いて泣き始めた…
私もそんな律を見て涙が溢れてきた。
それから私は極力体のラインが出ない服を着る様にした。
とにかく誰にもバレないように、6ヶ月を過ぎるのを待った。
そして、子供が下ろせない時期になって親に話した。
そこからは親との喧嘩の毎日だった。
そして、しぶしぶ産むことを許してくれた。
大学は中退し子供を無事出産した。

いつか私の親友に合う時まで一生懸命この子を育てようと思う。

ーおわりー






ーエピローグー

あの事件から2年が過ぎた…あの日の夏の様に今日も天気がいい。
今頃、律は何をしてるだろう…私は無事、元気な男の子を出産したぞ…早く律に合わせたい…
でも、2年ってあっという間だな…毎日子育てに追われていると時間が過ぎるのが早い。
たまに唯や梓が遊びに来てくれる。どうやら、唯の事がお気に入りのようだ。
唯が来ると元気一杯になる。このまま、いい子に育って欲しいと思う。
そんな事を思いながら私は目の前の銀色の玉を目で追っている…
考え事しながらのパチンコは集中していないから全然出ない。

「はぁ…今日も出ないな…」

独り言をつぶやく…
律の言っていた通りだった…現実は厳しい…
大学を中退した私に、自分で選べるような仕事なんてない…
大学を中退した、子持ちのシングルマザー
これだけで、かなりのマイナスの様だ…
面接ではセクハラ紛いの質問も受けた。
そうして見つかったのは、弁当工場でのパートだった。
パートは午前中に終わる。
パートが終わると私はパチンコ屋でパチンコに興じている。
子供は親が見てくれているから、律のようにはならないと思う。
パチンコ台の横に置いてある携帯のバイブが震える。
私はメールの内容を確認するとパチンコ屋をあとにする。
今日も太陽が眩しい。私はポケットからタバコを取り出すと火を着けて
タバコの煙を太陽に向けて吐いた。

「さて、今日ももう一仕事してから帰るかな」

私は待ち合わせ場所へと急いで向かった。

ーおしまいー