私が大学3年になった暑い夏の日、久しぶりに律から電話があった。

澪「はい」

律「あっ、出た。いきなりでごめん、あのさ、パチンコしてたら子供が死んでたんだ…ハハハッ」

澪「はっ?なんの冗談だ?久しぶりに電話してきたと思ったら、悪い冗談はやめろよ!」

律「冗談じゃないって!パチンコして出てきたら、車の中でぐったりしててさ…息してないんだよ」

澪「お、おい…救急車は呼んだのか?」

律「いいや、呼んでないよ!」

澪「だったら、私に電話する前に救急車呼べよ!!」

律「怒るなよ、澪!」

澪「私も行くから、場所教えろ!!で、電話切ったらさっさと救急車呼べ!!」

律「分かったよ、もう…」


親の車を借りて、駅前のパチンコ屋へ向かう。
考えるのは律の子供の事だ…
律は高校卒業後に付き合い始めた彼氏と出来ちゃった結婚した。
あいつは、音楽系の専門学校へ行き、将来はミュージシャンを目指していた。
その専門学校で旦那さんと出会い、妊娠…
あいつの人生は変更を余儀なくされた。
私も律の出産に立ち会った。生まれてきた子供を初めて見た律の顔はすっかり母親の顔だったのに…


駅前のパチンコ屋に着くと、律の姿は無かった…
車の中からパチンコ屋の駐車場を覗くが律の姿はない…
辺りを見回していると、救急車のサイレンの音が近づいてくる。
その音は、パチンコ屋には近づかず、近くのスーパーの駐車場へと吸い込まれていった。
私もスーパーの駐車場へと車を走らせる。
スーパーの駐車場は救急車を中心に既に野次馬でいっぱいになっている。
私は空いてるスペースに車を停めて、その野次馬の中に入っていく。


澪「律!!」

律「あっ!澪!来てくれたんだ!子供なんだけど心停止して長い時間たってて駄目かもだって…ハハハッ」

澪「笑い事じゃないだろ!!」

律「ああ、一応、これから病院に搬送だって!」

澪「だったら、もっと真剣な顔しろ!ヘラヘラして!」

律「怒るなよ!」

救急隊員「それじゃあ、搬送しますので付き添いの方は乗ってください」

澪「あの?どこの病院に搬送するんですか?」

救急隊員「〇〇総合病院です」

澪「ありがとうございます。律!私も向かうから」

律「ああ」


そうして救急車は律と律の子供を乗せ行ってしまった。
それにしてもパチンコ屋にいるって言ってたのに、どうしてスーパーの駐車場なんだ…
そんな事を考えるが、今は病院に向かうのが優先だ。
助かって欲しい…そう思い、私は急いで車に戻り病院へと向かった。


病院へ着くと私は急いで車を停めて病院内へと向かった。
受付で聞くと救急センターに運ばれたことが分かった。
受付の人に救急センターの場所を聞き急ぎ足で向かう。
救急センターに着くと、廊下の椅子の所で律が座っていた。
私は律の隣に黙って腰をかけた。


律「あっ…澪か…」

澪「で、助かりそうなのか?」

律「駄目なんじゃないか?救急車の中で覚悟してくださいって言われたし…ハハハッ」

澪「だから!どうしてそうヘラヘラ出来るんだよ!!」

律「静かにしろよ、病院なんだぞ」

澪「ごめん…お前は助かって欲しくないのかよ?」

律「流石に、助からないって…車の中に3時間いたんだぞ…」

澪「そういえば、なんで車移動してたんだ?」

律「ほら、パチンコ屋だとイメージ悪いだろ…世間体って奴だ…」

澪「お前な…」


そうこうしていると、救急センターの扉が開いた。
中から医師らしき人が出てきて、律の前へと進んできた…深刻な顔をしている。
そして、律へ子供が死亡したことを伝えた。
私の視界は暗くなる…あんなに笑顔が可愛い元気な子だったのに…
律の方を見るとあっけらかんとしている。

律「それで、どうしましょうかね?」

律から信じられない言葉が出てくる。おい…自分の子供が死んだんだぞ?
お前は悲しくないのか?
律の言葉に医師も困惑の表情を見せる。


律「取り敢えず、この場合は葬儀屋に連絡ですかね?ハハハッ、初めてなもんで…」

呆れる…こいつは自分の子供が死んだのに悲しくないのか…

医師「…、この場合は警察に連絡して司法解剖を行わないと駄目なんですよ…」

律「へっ?困ります、さっさと葬式挙げないと…」

医師「法律で決まっているので、申し訳ございません…お子さんに会われますか?」

律「え、いや…旦那とか実家とかに連絡入れたいので、ちょっと待ってもらえますか?」


医師は律の返答に半ば呆れ顔で中へと戻っていった。
私は医師に声をかけて中へ入ることにした。
律の方をチラッと見ると携帯を出してどこかへ電話を始めた。
律の子供を見て私は驚愕した…顔が真っ赤に腫れ上がって紫色に変わっている部分もある…

医師「お母さんの話だと、ほんの10分ほど車を離れていたそうですが、10分ほどでこんな事にはなりません…」

澪「はあ…」

そう答えるのがやっとだった…可哀想に…熱くて苦しくて…涙が溢れてくる…


数日後、律から電話があり明日葬式を挙げると告げられた。
電話越しの律はなんだがヘラヘラとした軽い声だ。
そんな律の声に私は早々に電話を切り、布団へと潜り込んだ。


連絡のあった葬儀場に着くと、放課後ティータイムの面々やさわ子先生、憂ちゃん、和が先にいた。
こんな形で再会はしたくなかった…
葬儀は滞りなく進み、葬儀後、私達はロビーで今回の事を話していた。

唯「びっくり、したよーもう、りっちゃんから久しぶりに電話あったと思ったら、子供が死んだって…」

紬「私もびっくりしたわ…」

梓は下を向いて今にも泣きそうだ…私もそうだ…
自分たちに近い人の死なんて体験したことがない…

紬「急だったね…澪ちゃん何か知ってる?」

澪「まあな…律から電話あったんだよ…『子供が死んでる』って…」

紬「そうなんだ…普通だと、どうして死んだのか話してる人いるのに、誰も話してくれないよね」

澪「それは…車の中で死んでたんだ…この前、凄く暑い日あったろ…あの日なんだ…」

梓「あ、あの…」

下を向いていた梓が小さな声を出す。

澪「ん?どうした?梓」

梓「私…聞いちゃったんです…多分、律先輩の親族の方だと思うんですが、律先輩の子供、虐待の跡があったらしいんです…」

律が虐待??あの子が生まれたときはあんなに幸せそうだったのに…律に限って虐待なんて…

澪「ほ、本当なのか…梓…」

梓「近くではっきり聞いたので間違えないです。それに変じゃないですか?こんなにお葬式が遅れるなんて…」

そんな話をしていると、喪服姿の律がやってきた。

律「おー!みんな、ゴメンな!葬式に来てもらって」

そんな律の軽い態度に、真っ先に反応したのは梓だった。
私は梓に目で合図を送る。私の合図に気がついた梓はどうにか我慢してくれている。

唯「りっちゃん、大丈夫?泣かないでね…」

律「泣かない、泣かない!大丈夫、ピンピンしてるよ!」

紬梓「…」

律「ごめん、もう行かなきゃ、他にもいろいろ挨拶して回らないといけないから…あーっ、面倒臭い…」

そう言い残すと律は行ってしまった。
律が行った後、我慢しきれなくなった梓が怒りを表にする。


梓「信じられません!なんですか!あの律先輩の態度!自分の子供が死んだんですよ!面倒臭いって!」

紬「ねぇ…りっちゃん変わったね…」

唯「どうしたんだろうね、りっちゃん…」

そして私達は後味が悪いまま葬儀場を後にした。



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