何気ない朝。

憂「お姉ちゃん起きて、ご飯できてるよ」

唯「うん。ありがとねういー」

憂「ううん、それより早くしないと遅刻しちゃうよ」

こうやって毎日が始まって、学校いって、部活して。
それで一日が終わる。
私はただそれだけの毎日が楽しかったし、ずっとこんな日が続くんだと思ってた。

憂「お姉ちゃん、学校いくよ」

唯「うん、今行くー」

そしてその日も憂と一緒に登校した。




がっこう!

唯「おっはよーみんな!」

律「お、今日は珍しく遅刻しなかったなー唯ぃ」

笑いながらそう言ってきたのは田井中律ちゃん。
私のクラスメイトで、そして軽音部の部長さん。

唯「失礼なりっちゃん!私めったに遅刻しないよ!?」

律「そっか、わりーわりー」

明るくて元気なのが取り得の律ちゃんには、幼馴染が居ます。

澪「唯おはよう」

唯「おはよう澪ちゃん」

この人は秋山澪ちゃん。
りっちゃんの幼馴染で軽音部のベース担当。
軽音部で一番しっかりしてる頼れるお姉さん・・・のはずなんだけど。

律「澪ー昨日幽霊がでてきてな・・・」

澪「ミエナイキコエナイ・・・」フルフル

澪ちゃんは大の怖がりさんです。

紬「あら唯ちゃんおはよう」ニコッ

唯「おはようムギちゃん!」

笑顔で挨拶してくれたのは琴吹紬ちゃん。
おっとりぽわぽわかわいい人です。

紬「そういえば今日はアメリカ大統領もお気に入りのマドレーヌを持ってきたから、放課後は楽しみにしておいてね♪」

ムギちゃんはすごいお嬢様です。
そんなムギちゃんが持ってくるお茶やお菓子をいただきながら談話するのが私達の部活です。
あれ、なんか違うような?

澪「ムギのマドレーヌも食べたいけど、練習もしないとな?」

そうだ、私達は軽音部だった。




そんなこんなでほうかご!

律「部活だー!」

唯「マドレーヌだー!」

澪「練習だろっ!」

紬「あらあら」ウフフ

ちなみに私達軽音部にはもう一人部員がいる。

ガチャリ

梓「遅れてすみません」

唯「あーずにゃん!」

だきっ

梓「ふえっ!?」

このかわいい子は中野梓ちゃん。
私達軽音部大事な大事な後輩。
私が付けたあだ名はあずにゃんで、いつもこうやって抱きついてスキンシップを取っている。

梓「ゆ、唯先輩苦しいです!」

唯「あっごめん!」パッ


律「でさー澪の奴がさー」


澪「わー!それは言わない約束だろ!」

唯「あはは、澪ちゃんおもしろーい」

澪「わ、笑うな!」

こんな毎日が私は大好きだ。
みんなでお話したりお茶のんだり練習したり、それだけできれば私は満足だった。

紬「はい、お茶よ」

唯「わーいありがとう!」


気のせいだろうか、カップに注がれた紅茶が微妙に振動している・・・
いや、気のせいじゃない。まさか!?

ゴゴゴゴゴゴゴ

すさまじい地鳴りと共に床が揺れ始める。
おそらく校舎全体が揺れてるのであろう、あちこちから悲鳴や怒号が聞こえる。


窓ガラスやティーカップが割れる音が響く。

途中で私は後頭部に激痛を感じて気を失ってしまった。

・・・




『生存者は聞こえたら返事してください!生存者は聞こえたら・・・』

あれからどれぐらいの時間が経ったのだろう。
目を覚ました時には体中が痛かった。
そして何より気になったのはこの状況だ。
私は今ガレキの山にうもれている。
コンクリートだろうか、特有の冷たさが不安を加速させる。

ガタン

顔の上のコンクリートが動いた。
ああ、これが落ちてきて私死ぬのかな。
そんなことを考えていた。

『おい、人がいるぞ!』

動いたコンクリートがどかされ、そこから光が見えた。
薄暗い中に差し込む細い光が顔に当たり、少し目を細める。

『生存者だ!生存者がいるぞ!』

生存者・・・か、言い方からしてどうやら死人も出てるらしい。

『大丈夫か!今助けるから、意識をしっかり持つんだぞ!』

若い男の人のものであろうその声は、私に希望を与えてくれた。

コンクリートがどかされ、助け出された私は何が起こったのかようやく理解した。
目の前に広がっているのはガレキの山。
ところどころ人の手や足が転がっている。
ああ、私死ぬところだったのか。
生き残ったにも関わらず、私は妙な寂しさを感じた。



『・・・唯・・・』

誰かが私を呼んでいる。

律「おい、唯?」

気が付くとそこはいつもの音楽室で、みんなが私の事を心配そうな顔で見ている。

唯「あ、あれ。りっちゃん!?」

さっきまでの激しい痛みは消え、傷もすっかり癒えている。
夢・・・?いやそんなはずはない、あの痛みを私は覚えているし、ちゃんと思考も働いた。
あれは夢ではない、間違いなく現実だった。
だとしたら今この状況はなんだ?

律「大丈夫か?唯」

澪「具合でも悪いのか?」

唯「いや・・・大丈夫、夢を見てた・・・怖い怖い夢・・・」

律「そうか・・・それは怖かったな・・・」

りっちゃんは何も聞かずに抱きしめてくれた。
澪ちゃんは「大丈夫か?」と慰めてくれた。
ムギちゃんは優しくハンカチを貸してくれた。

・・・あれ?あずにゃんは?


ガチャ

梓「遅れてすみません」

唯「あーずにゃん!」

だきっ

梓「ふえっ!?」

あずにゃんは急に抱きつかれて驚いている。
あれ、なんか前にもこんなことがあったような。これってデジャヴって言うんだっけ?

梓「ゆ、唯先輩苦しいです!」

唯「あっごめん!」パッ

やっぱりだ、この流れはさっきと同じ。
そして私の予想が正しければさっきの体験はおそらく予知能力の一種だろう。

唯「みんなわたし!私放送室に行かなきゃ、詳しい事は後で話すからとにかく校庭に逃げて!」

律「お、おい唯」

それだけ言うと私は1階の放送室へ走った。

澪「行っちゃった・・・」




唯「ハァ・・・ハァ・・・」

息を切らしながら階段を駆け下り、放送室に飛び込んだ。

放送部員「あら、平沢さんじゃない。」

唯「ちょっとマイクかして!」

私はそういうと、放送部員の「ちょっと・・・」という発言を無視してマイクを奪い取りスイッチを入れる。

唯『全校生徒のみなさん、今から数分後に大地震が来ます、今すぐ逃げてください!!』

私は力いっぱいに叫んだ。

放送部員「ちょっと平沢さん!」

唯「いいから!」

唯『早く逃げてください!これは本当です!お願い信じて!』

部活動中の生徒達が一気に騒がしくなる。

放送部員「ちょっと平沢さんあなた・・・」

唯「逃げるよ!」

放送部員の言う事を無視し、その子の手をつかんで玄関へと走る。
そして校舎の外に出た時、私は重大な事に気付いた。

軽音部のみんなが見当たらない。まだ中にいるんだ。

私はもう一度校舎の中に入って、階段を駆け上がった軽音部の部室である音楽室は3階。
ただでさえ日頃運動不足の私にはちょっとキツかった。
でもそんなの気にならないぐらい、みんなの事が大事だった。

教師A「あ、平沢さんちょっと待ちなさい!」

唯「ごめん先生、すぐ逃げて!」

そういうと教師Aを無視して真っ直ぐ音楽室へと向かう。
間に合え!間に合え!




ガチャ

律「お、おい唯。さっきの放送・・・」

唯「もう!逃げてっていったじゃん!」

その日私は珍しく怒った。
そして近かったあずにゃんとムギちゃんの手を取り、引っ張って走り出す。

梓「あ、ちょっと唯先輩!」

あずにゃんはコケそうになりながらなんとか体勢を立て直す。

紬「私、友達に手を引っ張られて走るのが夢だったのー♪」

ムギちゃんは相変わらずぽわぽわだ。
そして2人の手を取ったまま階段を駆け下りる。
もちろん体勢を崩したり転んだりしたがそんなの今は関係ない。とにかく走った。
後ろからりっちゃんと澪ちゃんの声がする、どうやら追っかけてきてくれてるようだ。

そして2人の手を握ったまま玄関から思いっきり外にでた。

梓「唯先輩!」

律「おい唯、一体どうしたって言うんだよ!」

りっちゃんと澪ちゃんも外にでてきた。



直後に激しい揺れが来て、校舎は倒壊した。
怒号に近い叫び声が聞こえる。
りっちゃんたちは何が起こったのかわからないみたいだ。

梓「え・・・え・・・?」

梓は驚いた様子でポケットから携帯を取り出し、誰かに電話を掛けている。
一度慌ててケータイを落としたが、すぐに拾って掛けなおす。

梓「純!純!無事?ねえ純!」

純『あ、梓。今地震すごかったねー、それでどしたの?そんな声出して』

梓「よかった・・・よかった・・・」グスン

あずにゃんは純ちゃんに電話してるみたい。そりゃ友達だから心配だよね。

梓「うん、じゃあね。」

あずにゃんの電話が終わる。


和「唯!無事?怪我はない?」

唯「のどかちゃん!私は無事だよ!のどかちゃんこそ大丈夫?」

和「ええ、私は大丈夫よ、それにしても酷いわね、この状況・・・」

唯「のどかちゃん・・・今生徒会の時間だよね?信じてくれたの!?」

和「あたりまえじゃない、唯が嘘言うわけないもの。それに唯があんなに必死に何かを訴える事なんて滅多にないもの」

唯「よかった・・・よかったぁ・・・」グスッ

澪「ごめんな。私、最初は唯の言う事信じてなかった。」

律「私もだ、部長でありながら部員を信じられないなんて本当に情けない・・・」

紬「本当にごめんなさい・・・」

梓「唯先輩・・・すみませんでした!」

唯「いや、いいんだよ。結局こうやってみんな無事だったしね」

澪「唯のおかげだよ、本当にありがとう。」

唯「いやーそれほどでもー」テヘヘ

数分後に救急車や消防車が到着し、救助活動が行われた。
死者5名負傷者17名。
私の放送が無かったらもっと死傷者が出ていただろうと言われた。
全員は救えなかったけど、これでよかったのかな・・・



2