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『昨日の特番、放課後ティータイムの演奏を聴きましたでしょうか!

聴いた人はもちろん見たでしょう、聴いてない人はようつべで見てみてほしい。澪、ベース、モロ見えでぐぐってほしい!

そこにはマジモノのパンチラ画像が、動画があるはずです!そこに映ってる少女はなんと、なんと、この町内に住んでます!

しかもその子は、在日です!!そしてその子は、在日であることに劣等感を抱いて今は自宅に引き篭もっています!

こんなに可愛い少女が!日本人形みたいな少女が!引き篭もっているのです!

勿体無いでは在りませんか!街で男を二桁は引っ掛けられそうなルックスを持ちながら!

ヒッキーに、社会の底辺になりかけているのです!それは総て、彼女の劣等感から!

在日で何が悪い!同じ人間ではないか!そう彼女に言っても、彼女は聞く耳を持ちません、だから―――』

律の演説は続く。梓には、姿を見なくても判る。きっと今頃、選挙カーの上からスピーカー片手に叫んでいるのだろう。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/17(土) 21:02:59.85 ID:GQxie54r0
『彼女は放課後ティータイムのベースを担当しています!

しかし、ベースが今、いないため、今夏にある大会の出場権を得ることが出来ません!

高校最後の大会に出ることが出来ません!

出るためには、彼女が必要なのです!

皆さん、お願いします!彼女をヒッキーの呪縛から開放してください!

澪を、放課後ティ-タイムを、助けてください!』

お願いです!皆さんで助けてあげてほしいのです!今、彼女は頬を真っ赤に染めて布団の中にうずくまっているでしょう。

だから私達、4人の声は届きませんが、町内みんなの声ならどうでしょう?!

届くはずです!!届かないなら、前科覚悟で家に乗り込みましょう!

そして、助けてあげてほしい!

澪、絶対ベースやってもらうからなああああああああああ!観念しろよおおお!

さあ、皆さん、今から言う住所を暗記してください!

〇〇町字☆☆、△■の※#!〇〇町字☆☆、△■の※#!〇〇町字☆☆、△■の※#!

これが彼女の住所です!さあ、彼女を救いましょう!

くだらないことに劣等感を抱いてる少女に、救済の手を差し伸べましょう!』



演説が終わって、一瞬の静寂。

けれどそれは、ほんとうに一瞬。

次いで、律の怒号のような咆哮が聞こえた。

律「澪おおおおおおおおおおおおお、昔世話した恩を忘れたとは言わせねえぞおおおおお!」

スピーカー無しでも十分なほど、その声は轟いた。

その声に続くように、秋山澪ファンクラブの皆さんがが吼えたける。

会長「ブラクでも黒人でも在日でもいい!むしろその方がそそる!」

副会長「澪様は私が助けます!エロいことも考えてるの!」

書記「早く出てきてー、親が泣いてるわよー」

親衛隊第一幹部「M.I.O.澪!M.I.O.澪!M.I.O.澪!M.I.O.澪!M.I.O.澪!」

親衛隊第一副次官「I LOVE MIO! WE LOVE MIO!AII WE NEED IS MIO!」

澪の家を優に三桁を超える人数が、包囲した。

近所の人たち(主に男性)が、澪の家の周りを更に囲う。

律「来ましたか!さあ、近所の皆さん、叫びましょう!」

律「早く出てこい!さもないと、澪のパンチラ画像を今度はネットにうpするぞ!」

近所の人々「「「「早く出てこい!さもないと、澪のパンチラ画像を今度はネットにうpするぞ!」」」」

律「お前のファンクラブは、昨日のTVで全国化したんだぞ!」

近所の人々「「「「お前のファンクラブは、昨日のTVで全国化したんだぞ!」」」」

律「全国の澪ファンが、今日中にお前の家に乗り込んでくるぞ!」

近所の人々「「「「全国の澪ファンが、今日中にお前の家に乗り込んでくるぞ!」」」」



澪は自室で、その怒涛のような声を聞いた。

羞恥に頬を染めながら、彼女は布団にうずくまる。

澪(なんなのよ、これ……やめてよね、もう)

澪(昨日のTVといい、プライバシーも何も無いじゃない)

心の中で澪は思うも、口には喜びの象徴である笑みが浮かんでいる。

みんなが、私を助けてくれている。

みんなが、私を励ましてくれている。

私のために、みんなが―――。


喜んでいるのか、恥ずかしいのか、辛いのか、澪には判らなくなってきた。

いろいろな感情がごちゃまぜになって、喜が怒が哀が楽が混濁して、飽和して、

澪は思う。

いつまで、自分はこんなところで、うじうじうじうじしてなきゃいけないのだろうか。

皆も言ってるじゃないか。

許してくれる、と。

居場所がある、と。

誰ももう、怒ってない、と。

澪は、立ち上がる。

だって、私の居場所はここじゃないから。こんな暗い、部屋の中じゃないから。

私の居場所は――――。



律「澪おおおおお、開けろおおおおおおお、このドアを開けろおおおおっ!」

だんだんだだん。律やファンクラブの光速ドアノックによって、玄関がみしみしと悲鳴を上げている。

律「ベースのお前がいないと、大会に参加できないんだよ!頼むから、開けてくれ!」

会長「澪さん、こんな小さな家に引き篭もってないで、私と一緒に引き篭もりましょう!私の家のほうが広いわよ!」

みしみしみし。

律「頼むから、開けろ!住居不法侵入するぞこらあああああ!」

玄関が人の波により破壊されそうになる寸前、声がした。

その声に、玄関を押しつぶそうとしていた律たちは、動きを止める。

律「澪―――?」

その声があまりにも、懐かしく聞こえたから――。

澪「ごめんな、律」

澪は小さく、釈明の言葉を述べた。

澪「ちょっと、今回は我を通しすぎた」

律「いや、いいよ。澪が戻ってくるなら、それで」

澪「でも――」

律「でもも何もないよ。だって私達は……」

言うのはとても、気恥ずかしかった。

律「お前が無事なら、それでいいってやつらの集まりだからな。なあ、会長?」

会長「ええ。私達ファンクラブは澪さんのために存在し、澪さんのために朽ちるとをいとわない団体ですから」

澪「何か、そういわれるのも悪い気がしないな」

澪は小さく、笑った。律たちにその姿は見えないが。

澪「ここまで来て言うのもなんだが、本当に、許してくれるのか?」

律「ああ」

澪「でも、私は――」

律「なんだよ」

澪「キムチ食べるぞ?」

律「私にも分けてくれよ」

澪「言葉遣いが、変になるときがある」

律「奇遇だな、私もだよ。英語のときなんか、特にそうだ」

澪「大会にむけての練習も、私のせいでできなかったんだぞ?」

律「いいって。どうせ、練習しなかっただろうし」

澪「また、迷惑をかけるかもしれない」

律「私もかけるだろうから、そのときはよろしく」

澪「………」

律「いいぞ、誰も怒ってない」

澪「……在日だぞ?」

律「それがどうした?」

律「それ以前に私達は、親友だろ」

澪「親友か?」

律「親友だ」

澪「本当にか?」

律「本当に、本当だ」

澪「じゃあ……」

律「何だよ」

澪「ずっと、どんなことがあっても、親友でいてくれるか?」

律「――ああ、もちろんだ」

澪の目から、静かに涙が落ちた。

澪「約束だぞ」

澪の声は震えている。

律「ああ、約束しよう」

会長が、拍手した。ドア越しの向こうにいる澪にも、聞こえるほど大きな音を立てて。

それにつられるように、副会長が拍手した。

書記が、親衛隊第一部隊第十三小隊隊長が、近所の人々が、おそらく、町内全体の人々が、拍手した。

二人を祝福するような拍手が、大きな音となって、世界中に響いた、ような気がした。

どこまでも響き渡る拍手は、律と澪に嬉し泣きをさせた。

律「なあ、澪。戻らないか?」

どこに、と聴くまでも無く判る。

そして、もちろん答えも決まっている。

澪「――うん」

だって自分の居場所は、そこにあるのだから。

夏の大会まで、もう余り時間は無い。

その後には学祭のライブがある。

やることは山と残っている。

律(まあ、まだ、夏の大会までは二週間もあるんだし、練習すれば何とかなるだろ)

澪「ありがとな、律」

その澪の言葉は、拍手の音がかき消してしまった。

紬「私、ここに来ていらないこ扱いですか~」

紬の呟きも、いまだ続く拍手の五月雨に、かき消された。



7月2日。

唯「むぎちゃん、もっとケーキ!」

梓「先輩、がっつきすぎですよ」

唯「いいんだよ、あずにゃん。今日は特別な日だからねっ」

律「そうだぞ、梓。こういう日にはっちゃけないで、いつはっちゃる?」

梓「昨日さんざんはっちゃけたじゃないですか」

律「痛いところつかれた!」

今日は、パーティだった。誰の?もちろん、決まっている。

紬「ほら、澪ちゃん。黙ってないで」

澪「あ、ああ。じゃあ皆」

澪がそういうと、皆が一様に手を止め、澪を見つめた。

頬が赤くなるのを感じながら、澪は大きく口を開く。

澪はすうっと息を吸い込んで、思いっきり、コーラの入ったワイングラスを天に突き出した。

澪「乾杯っ!」

その声の合わせるようにして、けいおん部の皆が言った。

労せずに、声は揃う。

律、紬、梓、唯「乾杯!!!!!」

澪のために開かれた、ささやかなパーティは、始まったばかりだった。
                                                〈了〉