6月28日。
律は生徒会に直談判に行っていた。
律「頼む!和!放送部の権力を私にわけてくれ!」
和「は、何?」
律「私は、澪のやつを助けたいんだ!」
和「話が飛躍しすぎてて、分けがわからないわ」
律「今、澪は学校に来てないだろ?」
和「そうね、でもそんなこと、生徒会の関与するとこじゃないわ」
律「澪がいないと、大会に出れないんだよ!」
和「……わかるけど、顧問の先生に言ったら?」
律「だめだ、あいつは今頃、職員室で涼んでやがる」
和「それで、私に何をしてほしいの?」
律「さっきも言っただろ」
和「1日放送部部長にさせろって?」
律「ああ!」
和「これは、両者の合意の上だからなんとも……」
律「じゃあ、放送部の部長に、直訴すりゃいいんだな」
和「え、ちょっと待っ」
和が制止すると同時、律は駆け出していた。
ぶしつ!
律「やったぞ、みんな!」
唯「なにをやったのー?」
律「放送部と手を組めたんだ!」
律「一日だけ放送器具を使う権利を受諾させ……もとい、認めてもらったぞ!」
紬(律ちゃん、昨日部活に来ないと思ったら、そんなことを……私に言えば、一日じゃなく永遠に私達のものに出来るのに……)
梓「それで、どうするんですか?」
律「え、どうするって」
梓「いや、何か目的があって、それを行動に移したんでしょう?」
律「いや、皆で励ましに行こうって放送かけたら、みんな来てくれるかなーって」
唯「おおーりっちゃん、私と発想が同じ!」
律「だろ?普通そうだよな」
梓は絶句した。
この二人の先輩の、発想に。無計画さに。大胆さに。
梓(そんなんで来る人いませんよ!)
と叫びたかったが、いかんせん唯先輩も律先輩もやる気だったため、言いづらかった。
最後の希望とばかりに、梓は紬に声をかけようと――。
紬「私、その発想に賛成だわ~」
紬はそれと同時に、口を開いていた。
紬「でもね、大げさにやったほうがいいと思うわ」
律「じゃあ、他に何かあr」
律が語を継ぐよりも早く、紬は席を立って携帯電話で電話し始めた。
prrrrrr、prrrrrrr
紬「お父様?いや、あの件では御座いませ………はい、承知しています」
紬「は?ケビン氏が?そんなことよりもこっちの方が重大……」
紬「お言葉ですがお父様、私にとって………は家族も同然。それを足蹴にするなど、言語道断です」
紬「今はケビン氏よりも、こちらが優先事項です。お父様、どうか……」
紬「え、ほ、本当ですか?あ、有難う御座います」
紬「お力添え、感謝いたします」
紬「みんな、もう大丈夫よ」
律「……何が?」
紬「澪ちゃん、必ず帰って来させ………もとい、帰って来られるわ」
紬「それじゃあ、いきましょ」
梓「行くって、どこに行くんですか?」
紬「TV局よ、収録しに行くの」
その翌日、6月30日の夜、6時から9時まで。
全国ネットで、『放課後ティータイム』の演奏が、放送された。
*
6月30日。全国に放課後ティータイムの演奏が流れる二時間前、軽音楽部部室。
紬「今日は、昨日の収録分プラス私達が一年のときの学祭の演奏テープが全国で放送されるからね~」
梓「先輩達が一年……ああ、あのパンチラの年ですか」
紬「そうよ~」
律「へえ、よくやるなあ」
紬「澪ちゃんのためだもの。それに」
紬「まだ一緒に、けいおん、やりたいじゃない」
紬のその言葉に、反対の意を示すものはいなかった。
誰一人として。
*
そして、今日。7月1日。
唯「成功するといいね……」
梓「そうですね……」
部室の窓の外からは、一週間の命を認められたセミ達が、みーんみーんと合唱会を開いている。
澪が来なくなって、もう半月。
夏の大会は7月の中旬にある。
しかし、ベースがいないため、出場を認められていなかった。
代理を、と言うことで探していたが、誰一人見つけられなかった。
梓(純ちゃんもやってくれないし、憂も無理、か)
梓(もう、澪先輩しかいないのだから)
梓(お願い、帰ってきて――)
澪をどうにかしてでも、けいおん部に復帰させなければいけない。
そのためには今日の作戦を、成功させなければいけない。
梓と唯は、セミの鳴き声に耳を澄ませながら、部室で律と紬が来るのを待っていた。
律と紬。二人が帰ってきたときは、きっと一緒に、澪も帰ってくるから。
梓「暇ですねえ」
唯「んー。どうせなら、一緒について行けばよかった」
梓「同感です」
セミの鳴き声に紛れて、ふと、声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
軽音楽部、部長―――田井中律の声だった。
最終更新:2011年07月16日 19:50