ふぅ……なんとか抜けてきました。
 さて憂はいま、二階の階段を降りたところにいます。
 みなさんにも見えるでしょうか。

 やっぱり一人になるとちょっと落ち込んだ様子が見えます。
 うーん、制服汚れちゃったのはショックだったのかなあ?
 まあ、憂だって女の子ですもんね。

 ……よい、しょっと。

憂「ひゃあっ――?!」

 ばっしゃーん!
 憂の頭上めがけてバケツの水をひっかけてやりました。
 平沢どっきりカメラ、2度目の作戦も成功です!


唯「う……うい、だいじょうぶ?!」

憂「あ……お、おねえちゃん……」

 水びたしの憂はまだなにが起こったのかよくわかっていないようです。
 とりあえず風邪をひいちゃうといけないので、タオルでからだをふいてあげましょう。

唯「な、なにがあったの……?」

憂「……うぅ……おねえちゃぁん……」

 ちょっぴり涙目の憂が私に泣きついてきました。
 もう……私の制服もぬれちゃうよ。ってそんなのいっか。

唯「よしよし……あ、そうだ! 音楽室で着替えよっか!」

 憂は涙ながらにこくりとうなづきました。
 どうやら返事を返す余裕もないみたいです。



 ところかわって音楽室です。
 憂はいま、私の教室から持ってきたジャージいちまいに着替えてストーブに当たっています。
 制服も下着もぜんぶびしょぬれなので、いつかのわたしのように譜面台に乗せて乾かすことにしました。

憂「……おねえちゃん」

唯「だいじょうぶだよ、憂は心配しないで! あっそうそう」

 そこでわたしはさっきりっちゃんとつくったお弁当を出します。

唯「これね、りっちゃんと作ったんだ!」

憂「えっ、あ……」

唯「みんなで食べようって思ってたんだけど……憂にあげるね」

憂「おねえちゃん……」

 きょうの憂は泣き虫さんなので、また頭をなでてあげました。
 えへへ、いっぱいたべて元気におなり。



 ふと、わたしに抱きついてた憂がぶるっとからだをふるわせました。

唯「……さむいの?」

憂「んーん、なんでもない…」

 見ると憂はなにやら両足をもぞもぞさせてがまんしているようです。
 はっはーん、憂はトイレにいきたいようですねえ。

 と、いいタイミングでりっちゃんからメールがきました。
 え? いつまでこれやるのって? んー……じゃあそろそろ切り上げよっかな。
 長くやってても見る人おもしろくないもんね。

唯「ごめん、ちょっと憂待っててくれる?」

 私は憂の言葉も聞かずに部室を出ました。



 さてこちらは3年生の教室です。
 ムギちゃんに借りたのーとぱそこんで、部室の憂の様子を見てみましょう。


憂『…………』もぞもぞ

憂『…………』もぞもぞ

憂『おねえちゃん、まだかなあ…』


 うーん、がんばってわたしを待ってくれてるみたいです。
 憂はむかしからけなげないい子だったもんねー。

 ちょっとためしにメールしてみます。


ヴヴヴ


憂『ひゃ?! ………あ、お姉ちゃんだ…』


 憂は思わずあそこを押さえました。
 あはは、やっぱりメールのバイヴに刺激されちゃったようです。

 おもしろいのでもう一回やってみましょう。えいっ。


憂『ひゃっ……も、もう……今晩のおかずは、まだ決めてないよお……』


 わあ、わたしの携帯にもターゲットの平沢さんからメールが届きました!
 今晩、平沢家のおかずは鳥の唐揚げだそうです! あはははっ。
 ……って。りっちゃん、いま笑うとこだよお!

 こほん。しつれいしました。
 そうそう、そろそろ憂がガマンできなくなる頃ですね。
 ぶいてぃーあーる、きゅー!


憂『……あれ、このドアあかない…』ガチャガチャ


 ふっふっふー。
 実はあのドアはさっき、外側からしか開かないように細工をしておいたのです!
 え? そんな工作、簡単にできるのかって?
 もー。これはフィクションなんですから、まじめに考えないでくださいよぉ。
 こういう企画にヤラセはつきものじゃないですかあ。
 ……って、口がすべっちゃったよもう。


憂『お、おねえちゃん出して! あけてよお!!』


 左手であそこを押さえて、右手でドアをがちゃがちゃたたく憂さん。
 助けてあげた方がいいのでしょうか?
 うーん……でも、そこでおもらししちゃった方が視聴率あがるよね、ぜったい……。


憂『おねえちゃん、おねえちゃん……うぅ……ぐすっ……』


 あちゃー。憂ちゃんとうとう泣き出しちゃいました。
 これはそろそろ限界のようですね。
 りっちゃん、助けにいくよっ!

 わたしたち撮影チームはのーとぱそこんを持って音楽室へと向かいます。
 え、りっちゃん忘れ物? ピンマイクおいてきちゃった?
 もーしょうがないなあ。じゃあ戻ろっか。

 ……しつれいしました。
 私たちはのーとぱそこんを持って……ってりっちゃん、今度はなにー?
 あはは、この床すべっておもしろいね! つるつるだね!
 なんだかりっちゃんとの会話が楽しくて、当初の目的を忘れちゃいそうです……。

 おっといけない、そろそろ憂も我慢が限界でしたっけ。


憂『……うぅ…ぐすっ……』


 憂はなにやらドアの前でへたりこんでいます。
 お、これはもしかして……!


憂『……ぐすっ、くふぅ……うぅ…』


 そのとき、われわれ撮影スタッフはみたのです!
 憂のジャージが黒くぬれはじめ、足下に黄色い水たまりができるのを!


憂『……くふぅ……ひっく……』


 本格的に泣き出しちゃいました。
 仕掛けといてなんですが、これにはちょっとどんびきです……。
 憂、やりすぎだよお……。


憂『あ……おねえちゃん……たべなきゃ……』


 するとここで憂はとっぴょうしもない行動にでました。
 なんと、わたしのつくったお弁当を食べようとし始めたのです!
 これはいったいどうしたことなんでしょうか?


憂『……おねえちゃん、がんばってつくってくれたから・・・たべなきゃ・・・』


 おおっ、これは姉妹のきずなってきずなってやつでしょうか!
 すごいですねー、かんどうてきですなー。
 え? りっちゃん、「ゲンジツトーヒ」ってなに?
 まあいっか。

 とにかく憂はお弁当箱を開けて、中のおにぎりを食べ始めました。
 するとそこには……。


憂『――ぷへっ、くはっ?!』


 憂はせっかく作ったわたしのおにぎりを吐き出してしまいます。
 ひどいなーまったく。……まあ、中身があれならしかたないか。


憂『これって……クリスマスの……』


 ここで視聴者のみなさんに問題です!
 このとき憂がたべちゃったおにぎりの具は、次のうちなんでしょーか!

 いち、憂がクリスマスにくれた手袋。
 に、

 ……うーん、りっちゃんなににするー?
 あたっ! もう、りっちゃんいきなりたたかないでよお!
 うん……たしかに選択肢は先にかんがえるべきだったね……。

 というわけで、答えは――


憂『なんで、おねえちゃん…こんなこと……』


 てぶくろでしたー!
 ってちょっと予想外すぎたかな? えへへっ。



 ともかく、ようやく音楽室にたどりつきました。
 りっちゃん鍵あけて。私、手が離せないから。
 うん、ありがと。

 じゃあ音楽室に潜入してみましょう……ひゃあっ、おしっこくさっ!

憂「あ……うぅ……ぐすっ……」

 音楽室のまんなかで見つけたのは、顔をごはんつぶまみれにして私の手袋にむしゃぶりつく憂でした。

唯「……だめだよういー、そんなの食べちゃ」

憂「あっ…やあっ、食べるのぉ……おねえちゃんが、わたしのこと、きらいにっ、ならないように…」

 なーんかどっかで聞いたような台詞ですねえ。
 人間、追い詰められると意外とベタなことを言うものなんでしょうか。
 まあ私はシスコンじゃないので、とくに感じ入ったりもしませんけど。



唯「ほら、落ち着いて……憂。ぺっしなさい、よしよし」

 ごはんつぶが付いて気持ち悪いですけど、正気を失った妹をなだめるのもお姉ちゃんの役割です。

憂「おねえちゃん……どうして……?」

唯「へ?」

 まだまだしゃくりあげてますが、さっきよりは落ち着いてきた憂がたずねます。
 そっかあ……じゃあ、りっちゃん看板持ってきて!



唯「じゃじゃーん! どっきりカメラでしたー!」

憂「……あ……ひっく…ぐすっ……」

 涙と鼻水とごはんつぶでぐちゃぐちゃな顔の憂は、お手製の看板をみて目をまん丸にしています。
 そうです……企画者としてはこのあっけに取られた顔がみたかったんです!
 これを見てるみなさんだってそうでしょう? こういう企画なんですから。
 ……いまさらチャンネル変えて、いい子ぶったりしないでくださいね。

憂「なんで……どうしてえ……?」

 おもらししっぱなしの汚い憂はまだ状況が飲み込めてないようです。
 床の黄色い水溜りには、わたしたちの努力の結晶たる特大おにぎりのかけらが白くうかんでます。
 うーん、せっかく企画のために手袋を小さくちぎって詰め込んだ特大おにぎりなのに……もったいないなあ。

 さて、最後に感想を聞かなきゃいけません。
 これもどっきりテレビのお約束。


 ――憂、どうだった?

憂「……やだよう……おねえちゃん……やだぁ……」

 ――あのさ、憂。いま撮ってるんだけど。

憂「……え?」

 ――話の都合ってあるじゃん。こういう話でもネタばらしして、あははーって。

憂「……あ……うぅ……ぐすっ…」


 ――いい加減、空気読んでよ。子供じゃないんだからさあ。


憂『……………あはは、だまされちゃったぁ……』



 これには憂も苦笑いのようです。


憂「……おねえちゃんが…ひっく……いろいろするから……びっくりしちゃった……ぐすっ」

唯「えへへ、ちょっとやりすぎちゃったかなあ?」

律「やりすぎってレベルじゃないだろゆいー!」ぽかっ

唯「あっりっちゃんひどーい! ていうかりっちゃんだってノリノリだったじゃーん」

律「そうだけどー! ごめんなー憂ちゃん、こんどなんかおごるから!」

憂「……ぐすっ……ひっく…」


 そんなわけでお食事中のかたはごめんなさい。
 でもでも、平沢どっきりテレビは大成功でしたー!
 えへへ、こんなにうまくいくと思わなかったね、りっちゃん。

 それではまた来週、つぎは……だれにしよっかな。
 もしかしたらあなたの街に行っちゃうかもしれませんよー?

 とにかく、またみてくださいねー! ばいばーい!


めでたしめでたし。





終わりです
次の方いらっしゃいましたらどうぞ





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