─第32話─


やぁ、梓。

しばらく会っていないが元気だったか?

絶対に許さないからな

私達は今日、N女子大の入学式だったんだ


昨日は純ちゃんや憂ちゃん、さわ子先生も寮に呼んで

「前夜祭だから」とドンチャン騒ぎ

楽しくて片腹痛かったよ

そうだ

お前は呼ばれてなかったな

なんでだと思う?


入学式と言えば律のヤツ

スーツにカチューシャが似合わないとかって

オランウータンみたいに部屋中を飛びまわりながら わめき散らしてさ

いっそカチューシャを外したらどうだ?と私が提案すると

律「なぁ澪しゃん。入学式は普通、スーツで出るもんだろうが

  アタシはイチかバチか全裸で出たいんだよ」

澪「お前、いい加減にしておけよ」

 「もう大人なんだから二度と裸になるな!!」


その日の夕方、律はスーツを着たまま風呂に入っていた



これだからな


夕食のあと、私はムギの部屋に向かった


高校時代、部活中にあったティータイムは

寮に入ってから夕食後に移動したんだ


まだ、大学の軽音部には入部していないし

大学の軽音部でも あんなふざけたティータイムが許されるとは限らないしな


夕食でお腹いっぱいなのでケーキを食べたりはしないが

紅茶を飲むと、とてもいい気分になってくる


ガチャ

澪「やぁムギ。今日も お茶を飲ませてくれるかな」

紬「ハッ、ホッ」

部屋に入るとムギは足を首の後ろに組んで手を合わせていた


何をしているのか尋ねると

悪魔将軍はキン肉マンに傷めつけられたヒザをそうやって癒やしていたそうだ


そうか。と、私は適当に相槌を打ってみた


紬「澪ちゃん」

 「私、テレポーテーションを会得したかも知れないの」

足を首の後ろで組んだまま紅茶を淹れるムギが、何か分からない事を言いだした

澪「テレポーテーションって、どこかに瞬間移動

紬「見ててね」

 「よがっ」

私が話し終えるのも待たずにムギは何か奇声を発した


当然、ムギが消えたり移動したりするハズもない


紬「おかしいわ」

 「よがっ、よがっ」

 「よがッ!?」

顔を真っ赤にして奇声を発し続けるうちに

ムギは 変なポーズのまま

ぐるんと白目を向いて気絶した



気絶したいのは こっちの方だ


頭痛がしてきたので、失神したムギの財布から1000円失敬して

私は夜のコンビニに繰り出した

頭痛には なんといっても、コカ・コーラだからな


寮の自販機にはカロリーゼロの腰ヌケ コーラしか無い

コーラと言えば、糖分たっぷり体に悪い黒い毒液コカ・コーラ


律のヤツはコカインとコカコーラの違いがよく分からずに

コーラを注射していた


アイツの血液の10パーセントくらいはコカ・コーラなんだが

まだ この事は誰にも打ち明けたことはない


唯「あれっ、澪ちゃん」

澪「やぁ、唯」

 「調子はどうだい」

唯「私はいつでもお腹いっぱいだよ」

澪「そりゃあ いい事だ」

夜のコンビニで唯と出会った


唯は夜、外をふらふらと出歩いていることが多い


寮の中ではアイスを求めてゴロゴロと転げ回っているが

外で会う唯は意外とゴロゴロ転がっている


私は唯を蹴っ飛ばしてトイレの壁とエロ本コーナーのスキマにハメ込んだ


唯「わぁあ、わぁああ」

澪「なぁ唯、この服かわいいだろ」

唯「うん、かわいいよ絶対」

今日は神様の服なんだね、と唯は寂しそうに微笑んだ

澪「ふふ、コイツめ」

私は杖で唯の頭をコツンと つついた


普段は悩みなんてなさそうに振舞っている唯だが

あの寂しそうな笑顔の裏には

どんな想いがしまい込まれているのだろう


興味がなかったので、私はアイスを買ってコンビニをあとにした


コンビニからの帰り道、早速コカ・コーラを飲もうとアイスのフタをあける


なぜ私はアイスを買ったんだ


アイスを民家の壁に叩きつけ、再びコンビニへ戻った


店に戻ると雑誌コーナーで唯が立ち読みしていた


さきほどエロ本コーナーとトイレの壁の隙間にハメこんでおいたハズだが

スクロールすると復活する仕様らしい



と、思っているとエロ本コーナーとトイレの壁の隙間に、もう一人の唯が はさまっていた

唯「わぁああ、わぁあああ」

また頭痛がひどくなっていた


憂「澪さん。こんばんわ」

雑誌コーナーで立ち読みをしていた唯らしき人物は

憂ちゃんの変装だった

澪「なんだ、憂ちゃんだったのか」

 「てっきり唯が増殖したのかと思ったよ」

 「だけど大学寮の近くで何をしているんだい?」

憂ちゃんの話によるとウナギが食べたくなったらしい


だからなんなのか分からないがウナギは私も食べたくなってきたので

「そうだね」と相槌を打っておいた

憂「澪さん」

 「私、テレポーテーションを会得したかも知れないんです」

立ち読みしていたファッション雑誌を真っ二つに引き裂きながら

唯の妹は どこかで聞いたような言葉を口にする

澪「どうして雑誌を引き裂いたんだ」

憂「よく見ててくださいね」

 「よがっ」

私の話も聞かずに憂ちゃんは奇声を発した

ムギとは違って一発で

憂ちゃんは ぐるんと白目を向いて気絶した


私はアイスを買ってコンビニをあとにした


律「澪、こんな夜遅くに どこに行ってたんだよ」

澪「あぁ、ちょっとコカ・コーラを買いにな」

 「お前こそ、そんなズブ濡れのスーツを着て どこに行ってんだ」

 「あぁ、イってたのか」

 「アタマが」

律「イッてきまーす!!」


律は ぐるんと白目を向いて気絶した


私は頭痛がいよいよ限界を迎えてきたので

コーラを飲もうとアイスをフタをあけ

ぐるんと白目を向いて気絶した


紬「澪ちゃん、気がついた?」

澪「ここは……?」

律「病院だよ」

 「アタシたち、全員運ばれたんだ」

ぺきっ

ぺきっ

私の隣のベッドでは憂ちゃんが

一心不乱に誰かのメガネを叩き割り続けている

澪「憂ちゃん。そのメガネは……」

憂「ぷちぷちみたいなものですよ」

 「これを割るとストレス解消になるんです」

ぺきっ

ぺきっ

憂ちゃんにとってはストレス解消かも知れないが

私にはひどく不快な音に聞こえた

紬「ほらね?病院でしょ」

澪「そうだな」

 「なにが?」

紬「さっきまで寮にいたのに

  いつのまにかテレポーテーションできたでしょ?」

私はそんなスキルを身につけた覚えはないし

身につけたいとも思わなかったし

頭痛は相変わらずガンガンがんがんガンガンガン♪


私はぐるんと白目を向いて窓から落ちた


─第32話─

 おわり



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