─第12話─


唯「ギー太が どっか いった!!」

澪「ん?」

律「ギー太がどうしたって?」

唯「ギー太が どこかに いっちゃったんだよ~」

澪「えっ、それって失くしたって事か? ギ、ギターを?」

唯「うん……」

梓「あんなデカいもの、どうやったら失くせるんですか」

唯「分かんない……」

 「そういえば しばらくギー太を見てないなぁと思ったら

  いきなり失くなっちゃったんだよぉ!!」

梓「しばらく見てなかったのなら、いきなり失くなったワケでは

  ないんじゃないですか?」

唯「あずにゃんはすぐ そういう事いう」

澪「どこで失くしたか、心当たりはないのか?」

唯「全然……」グスッ

 「もはや昨日、ウチにあったのかどうかすら定かではないよ……」グスッ

律「それすら分かんないのか!」

紬「まぁ、唯ちゃんだから……」

梓「そうですね」

澪「ふむ……とりあえず、昨日の部活の時点ではあったよな、ギター」

律「あぁ。練習してたんだから、それは間違いない」

唯「ねぇねぇ。私 帰る時、ちゃんとギー太 持ってたかなぁ~?」

紬「唯ちゃん自身は覚えてないの?」

唯「だって私は昨日が今日なのか明日なのかも あやふやなんだもん……」

梓「唯先輩は夢の中を彷徨っているんですか」

唯「ねぇ、りっちゃん どうだった?」

律「え、アタシに聞くのかよ……ん~、どうだったろう」

律「ダミだ~!!ハッキリしない」

 「アタシも記憶力が いい方じゃないもんでね!」

梓「いい方じゃないというか、ハッキリ言ってバおっとっとコレ以上はまずい」

律「そういえば、『おっとっと』って、まだ あるのか?」

唯「なに? おっとっとって」

澪「スナック菓子だよ。クジラのカタチした」

紬「クジラ? 大きい お菓子なのね~」

澪「いや、似てるのはカタチだけさ。大きさはコレくらいで」

  「子供のころ、たまに食べたっけなぁ」

梓「おっとっとなら まだ ありますよ。私がよく行くスーパーで見た覚えがあります」

唯「あ~、わたし食べてみたいなぁ~」

 「あずにゃん、今度 買ってきて! お金渡すから」ハイ

梓「あ、すいません。じゃあ、明日あたり……」

律「で、今 なんの話してたっけ」

梓「おっとっとの話をしてたんですよ」

律「なんだ それは」

紬「ほら、クジラのカタチで大きくなくて……」

律「あぁ~」

澪「まったく、しょうがないヤツだなぁ」

 「今、話してたことを忘れるなんて」

唯「うっかりりっちゃんだね!」

 「うっかりっちゃんだね!」

律「イヤな一体感だぜ!!」

梓「それより、そろそろ練習しましょうよぉ」

澪「うん、そうだな。ほら、律 立った立った!」

律「へ~い」

唯「……?」キョロキョロ

紬「?」

 「どうしたの、唯ちゃん?」

唯「ギー太が どっか いった」 

澪「あっ」

紬「あぁっ」

律「アォオオッ!?ア、アタシ 唯がギー太を失くしたって言い出すのを何故か知ってたぞ!!」

 「これがデジャブか!?予知能力か!?」

梓「ただのバカですよ」

 「おっと、言ってしまった」

紬「ギー太のこと、すっかり忘れちゃってたわ」

唯「私も」

梓「私とした事が……」

澪「アレだ、全部 律が悪いんだ」

律「アタシが何をしたっていうんだよ」

澪「お前が おっとっとの話なんてするから脱線したんだろ!!」

律「おっとっとの話をして何が悪いんだよ!? アタシはなぁっ……」

澪「ふん、言いワケはやめろよ」

 「どうせポストが赤いのもマスター・ヨーダが意外と役に立たないのも お前の仕業に決まってるさ!!」

律「ッ……!!」

 「このヤロオオオオォォオオオオッ」ダダッ

ガッシャアアアアン

律「今度の日曜日、水族館に行かない?」

澪「うん!!行く!!」

梓「どういうことなんですか」

紬「分からないわ」

澪「どこまで話したっけ」

紬「昨日、部活の時まではギー太があったとか」

唯「ねぇねぇ澪ちゃん。私、帰り道 ちゃんとギー太 持ってた?」

澪「う~ん、昨日は月曜日だったからなぁ」

 「もう、早く帰ってジャンプ読みたい!!って事で頭がいっぱいで

  唯の事なんて気にも とめてなかった」

澪「そもそも唯と一緒に帰ったかどうかすら覚えていないんだ」

 「私と何か話してたかも知れないけど事務的に処理してただけだからな」

澪「月曜日の私の関心ごとはワンピースとトリコだけで

  部活だってムギのお菓子を食べたら すぐ帰りたかったくらいなのさ」

律「ひでぇ」

梓「澪先輩の中で唯先輩はジャンプ以下なんですね」

唯「うっ……うぅっ……」

澪「ごめんな? 一応、表面上は謝っておくよ」

唯「うん……」

梓「ムギ先輩は覚えてないんですか?」

 「よく、爬虫類のような目つきで唯先輩を視姦してるじゃないですか」

紬「!?」

 「ち、違う!!私、そんなこと やってない!!」

梓「でもホラ、携帯で隠し撮りした この写真を見てください」

紬「あっ」

律「見てるな」

澪「うん。もう、ものすごい唯のことを見てるな」

梓「ほら、この目つき、すごいでしょ」

唯「わぁ……」

律「まぁこの際、ムギの表情は不問としよう」  唯「え~」

律「これだけ見てたのなら昨日の帰り道、唯がギターを持ってたかどうか覚えているだろ?」

紬「ち、違うの!!この写真をよく見て!!」

澪「見てと言われても、ショッキングな表情をしているムギが

  唯を凝視してる瞬間をとらえた見事な一枚だよ」

梓「てへへ」

紬「だから違うの!!視線の先をよく見て!!」

律「ん?」

紬「私は唯ちゃんを見ていたんじゃないの」

 「私は唯ちゃんの黒タイツ越しのふくらはぎからアキレス腱にかけての艶やかなラインだけを見ていたの!!」

律「なにぃ~? 唯じゃなくて

  唯の黒タイツ越しのふくらはぎからアキレス腱にかけての艶やかなラインだけを見てただとぉ~?」

澪「おいおい、なんだってムギは唯じゃなくて

  唯の黒タイツ越しのふくらはぎからアキレス腱にかけての艶やかなラインだけを見てたっていうんだ?」

紬「脚フェチだから」

梓「そうでしたか」

澪「確かに写真には唯の黒タイツしか写っていないな」

紬「昨日、というか いつもだけど、私はもう黒タイツのことで常に頭がいっぱいだったから

  唯ちゃんの太ももより上はまったく見ていなかったの」

紬「だから唯ちゃんがギターケースを背負っていたかどうかなんて記憶にないし興味もないし

  正直、あの脚が唯ちゃんの脚だったのかどうかすら知ったことではないわ」

紬「私はおいしそうな脚なら誰だっていいし、

  言ってしまえば上半身なんて飾りでエライ人にはそれがわからなくて

  ジオングの存在する意味が全く理解できないくらいの

  フェティシズムが生み出した申し子になるのが夢だったの~♪」

律「そうか」

梓「ムギ先輩の中で唯先輩は、唯先輩の

  黒タイツ越しのふくらはぎからアキレス腱にかけての艶やかなライン以下の存在だったんですね」

唯「うっ……うぅ……」グス

 「私の全身をもってしても、自分の下半身には叶わないんだね……」

紬「ごめんね? 私は心から謝っておくわ」チロッ

梓「あっ、などと言いながらも また爬虫類のような目つきで唯先輩の脚を見ている」

唯「ひぃぃっ」

澪「梓は なかなかの観察眼を持っているようだが

  その調子で唯のギターのことは覚えていないのか?」

梓「あぁ……えぇっと」

 「昨日 唯先輩が自宅に戻るまでは持ってました」

律「確かなのか?」

梓「もちろんですとも、ほら」ピラッ

澪「あ、ホントだ。唯がギターケースを背負って家に入る瞬間の写真だ」

紬「脚が写ってないわ」

律「なんだ、こんな分かりやすい写真があるなら最初から言えよな~」

梓「すいません」

澪「これで少なくとも昨日、家に帰るまではギターがあった事が証明されたワケだな」

唯「うん、そうだね。でも……」

律「どうした?」

唯「……昨日 あずにゃんとは帰り道の途中でバイバイしなかったっけ」

澪「ん?」

唯「別れた場所は、私の家から相当 離れていたよね?」

梓「軽く見積もっても2キロ以上はあったでしょうね」

唯「それなのに なんでこんな写真 持ってるの?」

梓「たまたまですよ」

唯「なんだ、たまたまか」

梓「これが唯先輩が寝ているときの写真です」

唯「えっ」

澪「この時点でも、唯はギー太をしっかり抱いているな」

律「……」

紬「りっちゃん、どうしたの?」

律「アタシさ……唯が『ギー太好き~』とか言っているのは

  半分、冗談だと思ってたから 笑って見てたけど……」

律「ギターと本気で添い寝するなんて、本気で本物の変態だったんだなぁ」

澪「た、確かに……」

紬「あっ、よく見たら唯ちゃん、左手がパンツの中に……」

唯「!?」

澪「あーーーッ、ホントだ!!」

 「えっ、ゆ、唯、お前、その手の知識はサッパリな顔して、オ、オナ、こ、こんな事してたのか!?」

律「いや、そりゃ唯だって普通の女の子だってことだろ……」

 「ギター抱いてヤるのは異常だけどな」

唯「そ、そ、その前に、この写真は色々と おかしいよっ!!」

梓「なにがですか」

唯「あずにゃん、なんでこんな写真を持ってるのッ!?」

梓「たまたまですよ」

澪「というか、あえて言わなかったけど この写真

  完全に梓が写ってるけどな」

律「もう見事に監視カメラに写ってるコンビニ強盗みたいな顔して部屋の中を物色してるよな」

 「超怖ぇえ」

梓「違いますよ、人違いですよ」

紬「でも個性的な髪型よね」

律「お前、唯の家に盗撮カメラしかけてんの?」

梓「答える義務はありません」

澪「自分で設置したカメラに なんで写っちゃったの?」

梓「唯先輩の愛くるしい寝顔を見たことで

  この賊も全てを忘れたのかも知れませんね」

澪「賊なのか」

梓「賊です」

紬「ところで唯ちゃんは寝ている時は黒タイツを履かないの?」チロッ

唯「うっ……うぅっ……」グスッ

澪「まぁいいよ。これが誰だとは これ以上、追及しないけど

  ようするに、この性犯罪者がギー太を盗んだんだろ」

澪「性的な理由で」

梓「そうかも知れませんね」

律「じゃあ誰とは言わないけど、明日、返しといてやれよ?」

 「誰とは言わないけど」

梓「はい!」

紬「唯ちゃんも それでいい?」チロッ

唯「うん……」

 「もう、なんでもいいよ……」

梓「罪を憎んで人を憎まず」

 「これにて一件落着ですねっ!!」

澪「それにしても どうやったら、こんなに堂々と生きられるんだろうなぁ」


─第12話─

 おわり



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