私が澪ちゃんをこんな風にした?

唯「ち、違う!私こんなことしてないよ!」

必死に声をあげて訴える
私は友達にこんなことしない!
大事な、大事な友達なのに!

律「嘘吐くなよ!私の目の前で刺したくせに!…唯なんか…」

一瞬、律ちゃんの顔が伏せられ、すぐに上げられた

律「…コロシテヤル…」

そう言われた直後、私の左手が押されたように感じた
そして、そのすぐ後に熱いような感じが肘の少し下に広がってきた
撃たれたんだ
それを理解した瞬間

私は律ちゃんから背中を向けて逃げ出した

澪ちゃんから背中を向けて逃げ出した

思い出で一杯の、優しい部屋から、

逃げ出した



部屋から走って逃げ出したが、それでも律ちゃんは追いかけてきた
律ちゃんの足は速い
私と律ちゃんの距離が、少しずつ縮まっていく
私は手近な扉を開けると、中に飛び込んだ
教室だったのだろう部屋は、奇妙な光景になっていた
机や椅子があった所に、大きな柱が乱立している
この部屋なら、律ちゃんを混乱させて逃げられるかも知れない
私は柱と柱の間を走って奥に隠れた
そして、律ちゃんの息遣いが教室に入ってくるのを感じた


律「ハァ…ハァ…ッ…ハァ…」

足音がゆっくり進んでくる
私は足を忍ばせながらゆっくり柱の影を移動する

今の律ちゃんは危険だ
私を殺すことに躊躇いなんてないだろう
だったら、戦えなくするか、逃げ切るかしか私には出来ないのだ

ゆっくり、律ちゃんの息遣いから離れる
だが、息遣いは本当に離れているんだろうか?
落ち着いてきて、息が整ったせいで聞き取りにくくなっているだけじゃあないか?
私はそんな不安を抑えながらやっと教室から抜け出た
そして、私の視界は回転した

転んだのだ
足が何かを踏んだ感触を思い、踏んだものを探す
それはすぐに見つかった
弾だった
周りに弾がばらまかれていた
これは…

律「唯…逃げるな…」

後ろから聞こえてきた声が答えだった
逃げればすぐに分かるように、罠が仕掛けられていたんだ…


私は踏んづけてしまった弾を掴み、立ち上がった
逃げなきゃ…
律ちゃんを殺すことなんて出来ない
でも、弾をばらまけるくらい持っている律ちゃんから逃げたり弾切れを起こさせるなんて無理だ…

唯「どうしよう…」



私はまた別の教室に入った

息が止まるかと思った
前の教室は机が柱になっていたが、この教室は、マネキンが首を吊られていた
しかも、不気味なことに、その背中にナイフが突き立てられていた
一瞬吐き気を催したが、ここでまた隠れる事にした
だが、もう、これ以上逃げられはしないだろう
息切れより、疲れより、体が重い…
左手を見る
もう血で真っ赤に染まりきってしまっていた
もう、私にはこれしかないのだろう
そう思い、私はリュックを肩から降ろし、中を漁った



準備を終えた時、教室には律ちゃんの呼吸が入ってきていた
マネキンは吊られているので足元が見える
私は律ちゃんの位置が分かるし、律ちゃんも当然、私の位置を分かっているだろう
体が震えてきている

律ちゃんが怖い
血の抜けた体が寒い
それと、もう一つ、緊張で震えていた

律「唯…覚悟はできたか?」

マネキンの向こうから律ちゃんの声が聞こえてきた
どうやら、マネキンとマネキンの間を通り、教室の一番奥の私のところまで一直線に向かってきているようだ
良かった…これならお互いが見えるときにはすぐ近くだ…
お互いの顔がよく見えるくらい…
そう思い、笑いを浮かべた


律「最後にもう一回だけ訊いてやる…なんで澪を殺したんだ…?」

律ちゃんがまた、そう訊いてきた

唯「私は、澪ちゃ、んを殺し、てなんか、ないよ…」

そう答えるしかない
私は、本当に殺してなんかいないのだから

律「まだそんな…もういいよ、唯…もう、終わりにしような…」

そう言いながら律ちゃんが近づいてきた
私達を遮るマネキンは残り一つ
律ちゃんがそれを押しのけてこちらに銃口を








向ける前に、私が引き金を引いた




けど…

律「っと…」

律ちゃんはそれを簡単に避けた
いや、避けたというより、予測していたんだろう
マネキンを押しのけた後、自分もマネキンと同じ方向に動いていた
だから、本来律ちゃんがいた場所を撃っても当たらないんだ

律「そうだよな…唯はこう、まっすぐな奴だからな…そうすると思」

唯「ウアアアァァァァァァァァァァァッ!」

私は、右手に持った鉄砲を捨てると、左手にかろうじて持たせていたバットを掴み、マネキン越しに律ちゃんを殴った
律ちゃんが倒れるのが見えた
私はそのまま律ちゃんにのしかかり、バットの柄で頭を殴り続けた

そして、どのくらい律ちゃんを殴ったか分からなくなった時、私の視界は暗転した




――――――――――

夢を見ていた

憂と一緒に過ごしていた頃の夢だ
憂はいつも誉められていた

料理が出来た
掃除が上手だった
頭だって良かったし
お姉ちゃんから見たって可愛かった

いや、お姉ちゃんでなかったとしても、かな?

とにかく、私の自慢の、可愛い妹だった

全てが、私より出来た、妹だった


場面が変わった

澪ちゃんが刺されていたあの光景だった

…澪ちゃん?

違う

刺されているのは澪ちゃんじゃなかった

…憂…

口から血を吐き出しながら眉を寄せて苦しそうにしている

こんな光景、私は…知らないよ?

――――――――――




ゆっくりと、視界が戻ってくるような気がする
遠くから、自分の視界が近づいている、の方が感覚としては近いかもしれない
私は、生きているのかな?
天国だったらいいんだけど…律ちゃんをあんなに殴っちゃったし、地獄なのかな…
視界の先は赤黒い壁…いや、天井だった
どこかに寝かされているみたい

「目が覚めた?」

声が聞こえた
声の聞こえた方に頭を向ける
紬ちゃんがいた
優しい笑顔を向けていてくれる
律ちゃんの形相と殺意を思い出して、体が震えたが、紬ちゃんが手を握ってくれたからすぐに収まった
紬ちゃんは私を殺そうとしないだろうか?
一瞬不安に思ったが、次の言葉で安心させられた

紬「辛かったわね、唯ちゃん」


紬「助けてあげられなくて、ごめんなさい」

そう言って頭を下げた紬ちゃんに、私は慌てて言葉を返した

唯「ううん、大丈夫だよ、紬ちゃん。私こそ、心配かけてごめんね?」

私はそう言い体を起こした
左手に鋭い痛みが走り、思わず右手で押さえるが、腕の痛みは引かなかった

紬「大丈夫?一応消毒と包帯を巻く事はしたんだけど…」

紬ちゃんに頷いて大丈夫という事を知らせる
声を出すと、痛みか悲しみで声が震えてしまいそうだったから

紬「…大丈夫ならいいけど…」

しばらく、静かな時間が続いた
周りを見てみると、どうやらここは保健室だったところらしい
ベッドやカーテンも赤黒く変色してしまっているけど、教室と比べるとまともに見えた


紬「ねぇ、唯ちゃん…」

唯「なぁに?紬ちゃん」

急に紬ちゃんが話しかけて来たので驚きながら応える
その時に見た紬ちゃんの顔は、不安になるほど青ざめて見えた

紬ちゃん「…律ちゃんと、なにかあったの?」

私は迷ってしまった
本当のことを包み隠さず言うべきか
それとも、嘘を吐くべきか
だけど…

紬「大丈夫…本当のことを、話して?」

私は、紬ちゃんの目を一度見た
紬ちゃんも私の目をしっかり見てくれた

私は、軽音部室であった事から、律ちゃんから逃げた事、そして…

唯「そうだ…紬ちゃん、律ちゃんはどうしたの?」

紬「…その…」

唯「あ…」

私はその反応で分かってしまった
最後に見た律ちゃんの頭が変に歪んで見えていたのは私の視界がおかしかったんじゃなく、ただ、本当に歪んでいたんだと、分かった

唯「あ、ううん…あとは、私は気絶しちゃって…ムギちゃんが助けてくれたんだよね?」

ムギちゃんはゆっくり頷いた
また、静かになってしまった
私達は、どうしてこうなってしまったんだろう…

ゆっくりベッドから立ち上がり、保健室の中をゆっくり歩いてみた
普通に歩ける
これなら、また憂を探しにいけるだろう
そう思った時、後ろから、何かが割れたような、でもどこか鈍い音がした

私は嫌な予感を抱きながら、ゆっくり振り返って、それを、見た



ムギちゃんが、眠っていた


右手には、私が今まで使っていた鉄砲があった


私は、ゆっくりムギちゃんに近づくと、起こさないように、気を付けて、鉄砲を返してもらった


そして、多分律ちゃんが持っていたと思う銀色に光る弾が机の上に置かれているのを見て、それを拾うと、そっと、保健室を後にした




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