部屋を出て、二つ目の扉に向かう
すると、二つ目の扉のすぐ近くの床に大きな穴が開いていた
大体4mくらいだろうか…これじゃあ三つ目より向こうの扉が開けられない
少し落胆し、同時に安心もしながら横を向く
二つ目の扉のノブを掴む
回らない
鍵が掛かっているようだ

憂の鍵を試してみる
開かない
さっき拾った鍵を使ってみる
カチリ、と、小気味よい感触と音が返ってきた

唯「開いちゃった…開かなければよかったのに…」

弱音を吐きながら扉を開く
馴れてきたんだろうか?おそるおそる開くんじゃなく、普通に開いてしまった自分に自分自身で驚いてしまう



今回の部屋は落胆ばかりだった
散乱する怖い栄養ドリンク、右手側の壁に開かれた大穴、そしてそれ以外家具の影すら見当たらない殺風景な景色…

唯「…お化けがいないだけよかったよね!よ~し!このまま頑張って探検しちゃうぞ!」

そう意気込んだ時だった

「…誰かいるのか?」

壁の穴の方から女の子の声が聞こえた
正確には、穴の向こう…隣の部屋からだ
そして、この声には聞き覚えがある!

唯「その声!律ちゃん!」

思わず頬が緩んでしまう
懐かしい声に涙も浮かびそうだ

律「お、唯か!無事だったのか、心配したんだぞ!」

律ちゃんの心配しながらも元気づけてくれる声に安心して穴に近づく


穴からお互いに顔を合わせる
何故だろう、まだ1日も経ってないのに妙に懐かしく思える

律「唯!お前、変なもの見なかったか!?」

律ちゃんは開口一番そう尋ねてきた
私はただ頷いて答える
律ちゃんの言っている変なのは、多分…私も見たアレだろうから

律「やっぱりか…見間違いや幻じゃなかったんだな…壁に書いてあった通りだ…」

唯「壁?」

壁というと…あの白い壁だろうか?

律「ああ、英語で『この街を探検するなら武器を用意しておけ、でないと化け物に襲われるぞ』って書いてあっただろ?見なかったのか?」

唯「…律ちゃんが頭がいいのが信じられないよ…」

落胆して言うと、律ちゃんは、なんだとー!と怒ったフリをする
懐かしい日常を思い出す…

律「お前、アレからどうやって逃げたんだ?」

私は右手のバットをライトで照らした

律「バットか…じゃあ、私こんなの見つけたからやるよ!」

そう言って手渡されたのは鉄砲だった
片手で撃てる小さなやつで、弾を込めるところが厚切りのレンコンさんのようなやつだ

律「私はもう一つ持ってるからさ!」

そう言って見せてもらった鉄砲は映画でよく見る小さな箱を入れ替えて弾を込める銃だった

唯「ありがとう!でも…使い方が分からないんだけど…」

律ちゃんは「だと思った」と笑いながら弾の込め方を教えてくれた

律「あとは引き金を引くと弾が出るからな。間違えても人に向けたり自分に向けちゃだめだぞ!」

唯「分かってるよ!」

そう、笑顔で返した


律「この後はどうする?化け物がいるんなら私達だけじゃ危ないし、一旦戻るか?」

その言葉に私は首を横に振った
そう、ここにはお化けが出るんだ…だったら…

唯「憂を残しては戻れないよ…私、見つけるまでこの街を探してみる」

次第に小さくなる声でそう答えた

律「そうか…そうだよな!お姉ちゃんなんだ!あんなによくできた妹をほって帰るなんて出来ないよな!」

その言葉にチクリとした痛みを胸に感じながら頷いた

律「じゃあせめて一緒に探さないか?二人だったら一人で探すより確実だし、安心だろ?」

しかし、その言葉にも、首を振って返した

唯「律ちゃんも別々に探して…早く憂を見つけて上げないと…」

そう言いながら、俯いていく

律「そうか…そうだな!早く探して早く帰った方がいいな!じゃあ善は急げだ!このマンションの探索は任せたぜ!私は街なかを探してみる!」

そう言うと律ちゃんは向こうの部屋の扉に手を掛ける
そして出て行く寸前に「頑張ろうな、お互い」と言って出て行った



静かになってしまった部屋を出る

さっきの壁の穴を使って隣の部屋に移れば地面の穴の向こうに行けそうだけど、律ちゃんは「出て行く」と言って向こうに行ってしまった
なら、向こうが出口なんだから、階段の右側を調べてからじゃないといけない
もらった鉄砲が、早速汗で滑りそうになっているのに気づいて、手の汗をパンツで拭いた
よし、と声を上げて階段に戻ってきた瞬間、心臓が止まりそうになった

リュックの中から砂嵐の音が聞こえてきたのだ


嫌な予感がする…


私は、鉄砲を構えて辺りを照らしてみた


正面からマネキンが一つ、ゆっくり近付いてきていた

よく狙って…引き金を引く!


当たらない!

慌ててもう一度撃ってみた


外れた!

そうしている間にも、頭の壊れてしまっているマネキンが、色のない目でこちらを見ながら迫ってきていた

唯「当たってよぉー!」

叫びながら、目を瞑り、引き金を引いた
炸裂音と一緒に、何かが砕ける音を聞いた気がした

おそるおそる、目を開いてみる

マネキンは、止まっていた


マネキンのお腹が少しだけ割れていた
当たったんだ!

もう一度、今度は落ち着いて撃った
すると今度は胸に当たった
マネキンが胸から砕けて倒れたのを見て、ホッと溜め息が漏れた

唯「…あ…当たった…」

思わず床にへたれ込む
心臓がさっきから暴れっぱなしだ
心なしか胸が痛い気がするくらい

座りこんでいても仕方ない
憂も怖い思いをしているに違いないんだ
そう思い、壁に手をつき、立ち上がる


そして、落としていたハンドライトを掴んだ瞬間、私の手を何かが掴んだ


唯「ヒィッ…あ…ハ…」

視線を掴んだ手の先に向ける

さっき撃ったマネキンが上半身だけで近付いてきていた

気絶しそうになりながら武器になりそうなものを探す

鉄砲…今のでビックリして落としちゃった…バット…どこに置いたっけ…

慌てているうちにマネキンの手が私の首に掛かってきた
苦しい、というより痛い、という感覚が全身を疾る
マネキンの潰れてしまっている顔が目の前にある
割れてしまっているところから中の空洞が見える
空っぽだ…と遠くなった思考で考えている
いつの間にか倒れてしまったのだろう、マネキンの後ろに天井の闇が見えた
その闇が少しずつ、近付いてくるように感じる

唯(憂…)

体から力が抜け始めた


そのとき、ゆびさきにきんぞくしつなかんしょくをかんじた
ゆびさきにいしきをしゅうちゅうしてそのきんぞくをにぎりしめる
てにもったそれをめのまえのあたまにおしあてた
めのまえで、あたまがバラバラになった


唯「…え…ホッ…ガァ…ゴフッゴッホ…」

吐き気と苦しさが頭に戻ってきた
思わず胃から何かを戻しそうだったけど、なんとか押さえ込んだ
ギリギリで鉄砲を掴めてよかった
お化けに殺されるのがこんなに苦しいなんて思いもしなかった
銃は強いけど慣れないとこうなっちゃうんだね…
涙で揺れた視界でゆっくり立ち上がった


荒れた息を整えて、歩き出す
一階の部屋は残り4つ
メモを見てそれを確認すると、扉を一つずつあらためていった


結局、あとの扉は一つも開かなかった
あの壁の穴を超えて、マンションを出るときに、私は思った

唯「結局、手掛かりなかったなぁ…」




マンションを出た私はとりあえず腕時計で時間を確認した
まだ集合時間には余裕があった
もう少しどこかを探索してもいいかもしれない

そう思って顔を上げた瞬間だった


「ぇ…ゃ…ん」


誰かの声が聞こえた気がした
思わず回りを見回す
ハンドライトを片付けたので空いている片手を癖のように視界の方向に向けてしまうことに気付いて苦笑するが、その笑いはすぐに消えてしまった



「お姉ちゃーん…!」



今度ははっきり聞こえたその言葉、声…
私は頭が真っ白になりながら走り出す

唯「憂ー!」

声の聞こえた方に叫び、駆けていく
途中、マネキンのようなものが見えた気もするが、気にしている暇はなかった
そして、その光景を目にした



憂「お姉ちゃん!」

唯「憂!」

憂は見つかった
だが、回りをマネキンが四体囲んでいた
これでは憂を助けられない
憂をマネキンの一体が抱え上げると、どこかに歩いていく
その他のマネキンは一体が憂を抱えたマネキンについて行き、二体はこちらに向き直った

唯「憂…!」

憂のことが頭でいっぱいな私でも、このマネキン達を放って先に行くことが出来ないことは理解できた

鉄砲を構える
今度はライトがないから両手で構えられる
明るいし、距離だってあるから近付かれるより前に撃てる
落ち着いて、マネキンを見据えた

「…」

今度はマネキンの顔が壊れていなかった
代わりなのかは分からないけれど、体に赤い飛沫の後があって、不気味さは衰えていない
そんなマネキンの顔が、笑っているように見えて、私の心臓が強く胸を打った


マネキンが動き出す
落ち着いて一発
しっかり当たってくれた
肩が砕けたマネキンがのけぞって後退る
急いでもう一体に狙いを変えた
息を吸い込み、撃つ
命中

唯「当たる…これならお化けなんて…」

そう喜んだ瞬間だった
マネキンの手に光る何かを見つけた
ナイフだ
折り畳み式のナイフがマネキンの手に握られている


一瞬、何かが頭の中を走った気がした


だが、気にしないでマネキン達を撃っていく

一体が倒れる
もう一体も

だが、私は分かっている
倒れたとしても、生きているかも知れないのだ

唯(お化けが生きている、っていうのも、変かな?)

そう思いながら、リュックから飛び出たバットの柄を掴み、取り出す

唯「えいっ!」

倒れているマネキンにバットを叩きつける
やはり、生きていたようだ
一瞬仰け反るように動いたが、今度こそ完全に動きを止めたようだ

唯「憂…!」

だが、そんな事より今は憂の事が心配だ
憂が連れ去られた方へ走り出す
そして、それを見つけた

やはり、ここなのだろう
マンションと同じように開かれた扉を確認すると、その上に書かれた英語を読む

唯「ほ…すぴた…る…」

走りつづけてもつれそうになる足をゆっくり病院へと向けた



4