目を覚ました時、真っ暗な視界に混乱したが、手に掴んでいたハンドライトを点けると少し落ち着いた
そして気絶する寸前の光景を思い出し、辺りを慌てて照らし出す


誰もいない


何もいない

後ろ

なんの気配もない

何もいない事を確認すると、口から溜め息が漏れた
アレは…なんだったんだろう…?
思い出すのは怖かったが、思い出さずにいられるほど衝撃は小さくはなかった
ふと、白い壁に書き込まれた英語を思い出す

唯「モンスターって…あれの事なのかな…だよね…?」

リュックから憂のポーチを取り出して、抱きしめる

唯「憂…どこにいるの…?」

目尻から、雫がこぼれた

すると、手の中のポーチに固い何かが入っているのに気付いた
慌てて中を見るが、何も入っていない

そして気付いた
ポーチに、サイドポケットがある事に
そこに

唯「鍵…とメモ…?手紙…?」

涙に揺れる視界の中で震える手を必死に使い、折られたメモを広げた


『コレを見ている誰かへ

お願いがあります。この手紙を私の大切なお姉ちゃんに届けてください

お姉ちゃんへ


  私は、たとえ      お姉ちゃんの事が大好きです
それだけはどうしても伝えたかったんです
だから、どうか私のこ』


読んでいる最中だった
手紙が下の方から少しずつ燃えて灰になっていく
火の確かな熱さを感じて思わず憂からの手紙を落としてしまった


唯「あ…ああぁ…!」

気付いて火を消そうと踏みつけ始めた時には遅かった
もう手紙は読めないほどに燃え尽きてしまっていた


呆然としてしまう

唯「憂…まるで…死ぬみたいな…」

頭を振り、最悪の想像を振り払う
慌てて立ち上がり、改めて周囲を見渡す

唯「さっきみたいなお化けがいたら…戦わなくちゃ…!」

そして見渡して気付いた

唯「あれ…ここ…どこ?」

気絶する前にいた受付ではない
どこかの別の部屋のようだ
倒れたタンス、ガラスの割れたサイドボードや食器棚、端に寄せられたテーブル…

唯「誰かの部屋?」

だが、使われなくなって長いのだろう
周囲は散乱し、とても生活感は感じられない
割れたガラスを踏みつけながら部屋を探し回っていると、奥に別の部屋に繋がっているのだろう扉があった
おそるおそる開き、ライトを隙間から差し込み、中を覗いてみる

どうやらなにもいないようだ
そして、その部屋で木製のバットを見つけた
以前はいたであろう住人のものだろうか?
手にして床を思い切り叩いてみる
鈍い音と固い衝撃を感じる
どうやら武器として使えそうだ


唯「…あれ?」

ベッドの上に不思議な…蒼光りする石が落ちていた
綺麗なのでなんとなく持って行ってみよう

唯「綺麗な石だから憂も見たら喜んでくれるかな?」

久しぶりに感じる口元の笑みを手で抑え、目覚めた部屋から出て行った










廊下に出た私は、注意深く周囲を照らした
さすがに霧は入ってきてはいないけど、ライトの灯りでは周りを完全には見渡せない

唯「どこかで電気をつけれたら、明るくなるんだろうけど…」

そう言いながら左に進んでいった
確か、壁に左手をあてながら進めば迷わない、と誰かが言っていた気がする
曖昧な記憶の助言を頼りに、探検を開始した


だが、ほとんどの部屋に鍵を掛けられていたので調べられなかった
憂のポーチから見つかった鍵には何も書いていなかったからどこで使うものなのかも分からない
閉まっていた扉に毎回差しこもうとはしてみたけど、どの扉にも合わなかった

唯「憂~!どこ~?」

大声を出して憂を呼んでみる
あんなお化けのいる場所に憂がいるなんて心配で仕方なかった
結局、精一杯探し回ってみたけど、マンションの二階は結局何もなかった
途中で見つけた階段を下りる事にした


唯「…?」

階段の踊場に着いた時だった
テレビの砂嵐のような音が聞こえるのに気付いた
どこから聞こえるんだろう?

唯「…あ、ラジオだ」

足元、階段の手すりの影にラジオが置いてあった
砂嵐のような音はこれから聞こえている

唯「なんだろ、これ…」

しゃがみ込み、ラジオの取っ手を掴み上げてみる
砂嵐の音が徐々に大きくなっている気がした

その時、階段の下に気配を感じて急いでラジオを置き、バットを持つと、ライトを気配の方に向けた

唯「…誰?誰か…いるの?憂?」

声と同じように震える足をそっと階段に踏み出させる
階段の下にはバケツが落ちていた
朽ちてはいるけど、錆びてはいない金属製のバケツ
それを、誰かが蹴った

唯「…ッ…!」

今度は腰は抜けなかった
でも、恐怖に竦んではいた
今すぐ後ろを向いて走って逃げたかった

だけど

唯「憂を…探すんだから…私が憂のお姉ちゃんなんだから…」

ゆっくり、足元を確かめるように階段を下りていく
今度はただの頭のないマネキンのようだった
まるで糸で操られているマネキンの映像を、早送りしているみたいな違和感のある動き方で近づいてくる

唯「き…気持ち悪い…!」

そう口に出し、目を瞑りながら嫌悪感を力に変えるようにバットを振り下ろした
固いものを叩いた確かな感触が手に伝わる

ゆっくりと、目を開いてみる
マネキンは、腕を上げてバットから体を守っていた
壊れてしまった右手をだらりと下ろし、左手でこちらの二の腕を掴んできた

「」

マネキンは左手でこちらを掴みながら頭のあったであろう場所を近付けてくる

唯「い…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

気持ち悪い、怖い、いろんな気持ちが混ざり合って私を襲う
体を必死に捩らせてマネキンの手を振りほどく
そして手に持ったバットを力一杯振り下ろす


振り下ろす


振り下ろす





どのくらい経ったのだろうか
気が付けば目の前には砕けたマネキン『だったモノ』が落ちている
肩で息をしている私と、動かなくなったマネキンだけが、この廊下にいる

静かだった

落ち着いてくると自分の呼吸の音も聞こえるようになった
だが、なにかがおかしい気がする

唯「ハァ…ハァ…ッ…ハァ…?」

階段に振り返る
砂嵐の音が聞こえなくなっている
私は胸の動悸に手をあてつつ、階段を上ってみた

…あった
ラジオだ
だが、さっきとは打って変わって、全くの無音だった
電池が切れたのだろうか?
そう思い、ラジオのバッテリーの蓋を開けてみた

空っぽだった

私は、不思議なラジオを持って行く事にした



階段を改めて下りて回りを見回す
窓からは道路がとマンションを挟む柵が見える
先ほどと同じように左に曲がる

一つ目の扉
開いた
ライトをゆっくり差し入れ、中を覗く
ハイジのお爺さんが座っていそうな椅子が倒れている
中に入ってみる
中は最初にいた部屋と同じような間取りだった
部屋の奥に進むといろいろな物が落ちていた

小さな瓶詰めのドリンク…栄養ドリンクだろうか?
赤錆た鍵も見つけた
なにより驚いたのは赤と白の小さな紙箱だった

唯「わ!弾だ!鉄砲の弾!」

金属でできた座薬みたいな形の塊がたくさん入っていた
お化けがいる場所だから何かに使えるかもしれない

鍵と弾を持って行く事にした


ドリンク?賞味期間が怖いから置いていった




3