唯「サイレントヒル…ここに憂がいるんだね…」

丘にある公園で私たちは話していた
ここはサイレントヒル
アメリカにある小さな街…の廃墟だ
紬ちゃんの誘いでアメリカに旅行に来た私たちだが、旅行3日目の朝、一緒に来た憂が手紙を残して姿を消しているのに気付いた
手紙には『サイレントヒルに行ってきます』
とだけ書かれていた

梓「憂…なんでわざわざこんな気味の悪いところに来たんだろ…?」

手紙を見つけた私は紬ちゃんにサイレントヒルについて訊いてみた
昔、大きな火事があって放置されているゴーストタウン…廃墟らしい
しかもゴーストタウンの意味は二重みたいで、本当にお化けがでるとかなんとか…
そんなところに憂が一人で行くなんて信じられなかった私は、みんなにお願いして探しに来させてもらった

唯「分からないけど…でも手紙にはここが書いてあったんだし、ここに来たかったんじゃないかな?」

丘の上の公園からはサイレントヒルを見渡せる
大きな湖の隣に作られた、寂れたアメリカの街、それが私にとっての第一印象だった

紬「でもここ、結構広いみたいですよ?闇雲に探しても見つからないんじゃ…」

紬ちゃんの言うとおり、この街はかなり広いみたいだ
見えるだけでも広いし、霧があるから遠くまで見えない
探すのは大変そうだ

律「じゃあ手分けして探すか?集合場所と時間決めておけば私達の入れ違いはないだろ?」

律ちゃんが提案してくれた方法を使って探す事にした
澪ちゃんは怖がって紬ちゃんの別荘に戻って憂からの連絡や…戻って来た時の連絡をする係に決まった
そして、みんなバラバラにこの街を探索し始めた…



律「じゃあ唯はここら辺を探すんだな?」

唯「うん」

車から降りた私は窓から顔を出す律ちゃんにそう応えた

律「唯、顔色なんかおかしいけど大丈夫か…?」

顔色がおかしい?
それは多分…

唯「憂が心配で…」

律ちゃんの顔色が曇る
律ちゃんは明るいだけじゃなくてこういう優しいところもあるから好きだな
きっとこの後は…

律「…元気出せよ!憂はすぐに見つかるって!私達も探すんだから!」

やっぱり、励ましてくれた
車の中のみんなも頷いてくれる
みんな、ありがとう



車が去って行くのを見つめ、霧にその姿が隠された頃、私は周りを見渡した
霧で道路越しの景色すら怪しいけれど、周りの様子は一応わかる
ここは交差点
渡された地図を見ると、ちょうど東西南北に大きな道が伸びているようだ

唯「うーん…どっちから探そうかな?」

私はとりあえず、西側に向かうことにした
霧で遠くが見えないから車道の真ん中を歩いて、両側の歩道に注意を向けて歩いていった


しばらく歩くと、突然白い壁が道路を塞いでいた

唯「外国の道路ってこんな風になってたりもするんだー」

私は興味を抱き、壁に近づいた
すると、壁に何か書いてある事に気が付いた

唯「…?なんて書いてあるんだろ?英語読めないや」

苦笑しながら私はその文章を読んでみた

唯「いふ…ゆー、うぃる…せあち?さーち?かな?しれんとひっる…?うーん…うぇぽん?…と…もんすたー?わかんないや…」

分かったのは、武器とお化けがどうした、って書いてあることだけだった


後ろで音がした
何かが軋むような音
私は、憂かと期待を込めて振り向いた

唯「憂!?」

しかし、そこには誰もいなかった




そう、誰もいなかった
だが、そこに、マネキンなんて、落ちて、いた…?


マネキンに近付く
こんなマネキンは、通った時に落ちていだだろうか?
見落としていたのだろうか?
足元にある関節の砕けたマネキン
その手に、見覚えのあるものが引っかかっていた

唯「これ…」

それの紐を掴み、持ち上げてみた

唯「憂の…」

見覚えがあった
そこから財布や、携帯電話を取り出す姿を見ていた

唯「ポーチ」

ポーチの中身を見てみる
だが、何も入っていない

唯「空っぽ…憂…!」

よくない想像が頭を過ぎる
日本にいたときによく聞いた話だった


強盗


唯「…ううん!憂なら大丈夫だよ!賢いし、頭もいいし、かわいいし!」

私は動揺しながらも憂は大丈夫と安心したくて、とりあえず憂を誉めた
こんなによくできた妹が強盗なんかに捕まるわけが…

瞬間、血を吐いて倒れる憂の姿が脳裏に浮かぶ

唯「…憂ーーーーーッ!」

叫びは、街に吸い込まれて消えてしまった


唯「…あ、焦っても…し、しょうが…ないよね…」

そう言いながらリュックからペットボトルを取り出して、水を飲む
少し、落ち着く

唯「ようし、憂の手掛かりはっけーん!この近くにいるのかな?」

そう元気を出すように声を搾り出しながら辺りを見渡す
その時に気付いた
左手―地図を頭に浮かべて確認すると、北だった―にある建物の扉が開いていた

唯「…扉の開いた建物の前にポーチが落ちている…怪しいな、ワトソン君?」

私はそんな冗談を言いながら建物に近づいた

唯「まん…しおん?マンション!」

私はかろうじてそう読めた建物の表札(なのかな?)を確認して、暗い建物の中に入っていった



入り口に掛けられた見取り図をメモ帳に書き写していざ、探検!
という時に気付いた
建物の中が真っ暗で、遠くどころか近くでさえ見えない

唯「ありゃ…どうしよう…ライトなんてないよね…」

そう言いながらリュックの中を見てみる
携帯電話の充電器、カロリーメイトが2つ、ピックが3つ、水の入ったペットボトル、そして、憂の手紙とポーチ…

唯「うーん…なんにもないや…そうだ!携帯のライト機能があるじゃん!」

私の頭の機転を誉めながらポケットから携帯電話を取り出す
でも…

唯「あ、そっか…充電出来なくて電池が切れちゃったんだっけ…」

アメリカのコンセントと日本のコンセントは形が違って使えない、という事を知らなかった私達は、携帯電話の充電が出来なくてみんな切れてしまっていたのだった…

唯「どうしよう…」


そう言ってふと横を見ると、受付の窓の内側に大きなハンドライトがあるのを見つけた
受付の扉は幸い、入り口に近かったから外の光で中までしっかり見える
内開きの扉のノブを回してみると、よかった、開いていた
後はハンドライトの灯りが点いてくれれば…
そう思い、後ろ手に扉を閉めた瞬間の事だった


唯「…ッ!?…あ…つぅ…」

酷い、頭の内側を殴りつけられているような頭痛と、強烈なサイレンのような音が響いた…


あまりの激痛と騒音に頭を抱え、しゃがみ込む
目を瞑り、早く収まってと祈りながら、しばらくの時間固まっていた


どれほどの時間を耐えていたのだろうか?
気が付いてみると、頭痛も騒音も鎮まっていた
手をカウンターに置き立ち上がろうとした時に、ようやく異常に気が付いた
カウンターがザラザラとしたもので覆われている
それにひんやりとした金属のような感触…
外から見た時は木で出来ていたはずなのに

唯(…おかしいな?気のせいなのかな?)

立ち上がり、ライトを手にして、電源を入れる
すると、大きさに比べて少し頼りない灯りがマンションの狭いエントランスを小窓越しに照らした

唯「なんだ…ちゃんと…点」


何かが小窓の前をすごいスピードで通り過ぎた


唯「…」


唯「」








唯「」









唯「」







扉…ガタガタしてる…



…いや…呆然としてる場合じゃ…ない!?
どうしよう!今一瞬何か見えた気がするけど何かよくない何かだったと思う!
とにかく鍵を…

唯「そうだ、内鍵をかけよう!」

扉の前に立ち、ドアノブに付いた鍵を回そうとする
錆び付いているのか、手が震えているのか、二度、三度と失敗しながらなんとか鍵を掛け終わる



そして見てしまった


先ほどまで普通の扉だったはずが…


いつの間にか格子戸に変わっていた


そして、その向こうの


顔が潰れてしまったマネキンの上半身が2つくっ付いたナニカが、格子をつかんで、揺らしていた



思わず腰が抜け、へたり込んでいた

目の前には潰れた顔でこちらを見つめる2対の目
恐怖に竦んでしまった体は悲鳴を上げることすらできない
ただ、座り込み、喉がひくつくのを感じながら気絶した




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