下から三段目に私は腰を下ろした。

彼女は私より一段下、左側に座ろうとした。

「へぇぇどっこいしょっと」

彼女の口から自然にそんな言葉が出てきて、それがおかしくて思わず笑ってしまう。

「どっこいしょってお前おばちゃんみたいだぞ」

「う、うるさい!私がおばちゃんなら澪もおばちゃんだろ!」

そうか、確かにそうだ。

「うん、私もおばちゃんだな」

二人で一緒に歳をとっていけるならおばちゃんになるのもいいかもしれない。

足についた砂を落としてハンカチでふく。

あんまり綺麗にならないな…

「ほらよ」

そう言って差し出された彼女の手にはウェットティッシュ。

「ありがとう。用意がいいな」

「まあ私が連れてきたわけだしな!当然だろ!」

「…そうか…見直した」

「見直したってお前…澪の中の私の評価はどうなってるんだよ!」

「安心しろ。さっきのサメの嘘の分が帳消しになっただけだから」

「そうか、なら良かった。

…って良かったのか?」

「さあ?」

「なんだよ澪、怒ってる?」

「別に怒ってない」

「本当か?」

「本当だよ」

「いやさ、私もな、澪があんな簡単に引っかかるなんて思わなかったからさ~」

「…私はどうせ簡単な女だよ」

「そこまで言ってないだろ!
あれ、やっぱり怒ってる?」

「だから怒ってない」

「本当?」

「本当だよ
ってこのやりとり何回する気だ」


ぷっ

私より一つ下の段に腰掛けていた彼女が噴き出した。

そんなに今のが面白かっただろうか。

まあ彼女が面白いと思ったならそれでいいや。

足を拭きなおして靴を履く。

履き終わったところで彼女の方を伺うと既に彼女も履き終わっていた。


「なあ律」

「んー?」

私が声をかけると彼女は海の方を向いたまま返事を返した。

「卒業したらさ、どうなるんだろう?」

「さあな」

彼女が知っているわけはないか。

もう一つ質問をする。

「また海、来れるかな…?」

「当たり前だろ、今年も合宿で海行くじゃん」

「…そうじゃなくて、私と律の二人でだよ」

「それだとどうだろうなー
…わかんないや」

彼女にはまた一緒に来れるとはっきりと言ってもらいたかった。

彼女が言えば本当にそうなる気がするから…

ふと卒業後に別々の道を歩む私達の事考えてしまった。

「…私、律と離れたくない」

やばい、涙が出そう。

「…澪、私だってそうだよ。
澪だけじゃない、みんな離れるのは嫌に決まってる」

彼女も私と離れたくないと思ってくれていることが嬉しかった。

ただ今何かを言うと本当に泣いてしまいそうで頷くだけしかできなかった。

彼女は相変わらず海を見ている。

「でもさ、さっき澪が言ったじゃんか。
まだ時間はあるってさ。
だからいっぱい思い出作ろうよ」

そういえば今日ここに来た理由は思い出作りだったか。

「それに卒業しても死ぬわけじゃないだろ。会いたい時は会えるし、メールだって電話だってあるじゃん」

「…そう、だよな」

彼女の言う通り私たちは永遠に会えなくなるわけじゃないんだ。

出そうになった涙はいつのまにか帰っていた。

やっぱり私には彼女が必要かも。でも…


「…思い出作りなんて言い方はやめよう?
なんていうか…後ろ向きだから」

何だろう、上手く言えないけど。

「思い出を作る為に何かするなんて寂しい気がする…
それこそ律、お前死ぬみたいだぞ?」

「なんだとー!?りっちゃんは不死身だぞー!」

彼女は振りかえってそう言った。久々に彼女の顔を見たかもしれない。

「そうか、じゃあ私の分もしっかり生きてくれよな」

「…え、澪死ぬの?」

「ああ、実は不治の病を抱えていて…余命あと2ヶ月なんだ」

もちろん嘘だ。しかし彼女は割と本気で受け止めてしまったらしい。俯いている。

「…嘘に決まってるだろ?私だって不死身だよ。だからそんな顔するな」

騙している方が少々辛くなったのではやめに嘘だと教えてやる。

「な、なんだよ!本気にしちゃったじゃんか!」

あんな見え見えの嘘に引っかかるとは、可愛い奴め。

「まさかこんな簡単に引っかかるなんて思わなくてな
私、演技の才能あるかも」

「…よく考えたら顔がにやけてたもんな、お前。ああどうせ私は簡単な女だよ…」

「そこまで言ってない」

どこかで聞いたやりとりだった。

どちらからともなく笑い出す私達。
いつまでもこんな時間が続くといいな。

ひとしきり笑ってふと海の方を見やると太陽の光はオレンジになり沈みかけていた。

思わず見たままの事を私は口にしてしまう

「…夕日だ」

「みればわかる」

またどこかで聞いたことのある台詞だった。

でも今度は私が言われることになるとは。


水平線にゆっくりと沈む夕日。

「夕日は見ても叫びたくならないのか?」

「夕日は走り出したくなるんだよ」

「ああそうだったか。で、走らないの?」

「いいや、疲れたし。それに…」

彼女は携帯を取り出した。

「…眺めてる方がいいな」

カシャ。
どうやら携帯のカメラで撮ったようだ。

「うん、そうだな」

私も彼女の言葉に同意する。

指で四角を作って夕日をその中に入れる。

…カメラを持ってくるべきだったな。

いい絵だ。
やっぱり夕日には人の感性を刺激する何かがある。

うん、なんだかいい詞が、

「書けそうだろ?」

私の心が読まれた。

携帯をパタンと閉じた彼女に続きを言われてしまった。

そして振りかえって彼女は私の顔を見るとニッコリと笑った。

「いい詞がさ!」

「…私も今そう思ってたよ」

私がそういうと彼女は嬉しそうに言う。

「お!?やっぱり私と澪は以心伝心か!」

そうこうしているうちに太陽は水平線の下に行ってしまった。

「ああ、そうかもな」

そう言って私は立ち上がる。

「そろそろ帰ろう、律」

隣にいる彼女を見下ろす。意外と彼女は小さい。

「じゃあそろそろ帰るか…っておい!」

立ち上がろうとする彼女の頭にひょいと手を伸ばしてカチューシャを外す。

「か、返せよ澪!」

「たまには良いだろ?帰るまでだよ」

そう言って彼女を待たず私は駅に向かって歩き出した。

「まあ別にいいけどさ…」

後ろからついてきた彼女はそう言うもののやはり不満そうだ。

私は奪い取ったカチューシャを指で弄びながら歩く。


「そういえば明日から学校だな」

「うわー!思い出させるなよ澪!」

「悪い悪い。ところで数学のあの課題明日までだよな。終わったか?」

「…え?数学…?……やっべえ澪!私それ終わってない!頼む見してくれ!」

「…しょうがないな。家についたらノート貸してやるから」

「ホント助かる!」

「はぁ…そんな調子で今度の中間テスト大丈夫か?」

「ハハ……大丈夫じゃないかも…」

「ったく…わからないところは私が教えてやるから。そうだ、またみんなで勉強会開くか」

「うんそうだな、四人でまた一緒にやろうぜ!」

「ああ、そうしよう!」

私は頷いた。

まだ時間はある。

彼女の笑顔を見ていると今はとにかく前だけを見ていればそれでいい気がしてきた。


ふぃん





こんな時間にこんな駄文を読んでくれた人がいたとしたらありがとう。

地の文って難しい…
澪しゃんもりっちゃんも思ってる以上に口調が難しい…

本当は日付変わるまえに書き上げたかったのだけど、