今年は、今までとは違って唯と違うクラスになった。

   今や唯は、軽音楽部の友達が居て…少し距離が開いてしまったと思っていた矢先の事。
   …嫌な予感はしていたけど。

   でもそれは間違いなく当たっていて…。
   生徒会でも仕事を任せられる様になって自然と忙しくなったこともあり…
   唯は私の傍から知らぬ間に居なくなっていた。


   澪と同じクラスになってわかった事があった。

   澪は、律が好き。

   それから二人は上手く行っている事。

   …正直、少しだけ羨ましく感じはしていた。
   私は、どう頑張っても唯の一番にはなれなかったのに…。

   同じ幼なじみ同士の澪と律ばかり…こんなに上手くいっているなんて…

   羨ましさだけではなく、同時に妬ましさを感じたりする自分に多少イラついてしまったりする。



   唯「のーどっかちゃん!もしかして今帰りっ?」

   和「…あ…、ゆ、唯。そうだけど……一緒に帰る?」

   唯「うん!」

   帰り道、唯に声をかけられて少し驚いてしまう。

   嬉しい気持ちは山々なんだけど、話していると私が知っていた唯じゃないみたいで…
   言い逃れの出来ない不安と、寂しさが込み上げてくる。
   でも気付かれない様にそれは全部、片隅に押し込んで…私はいつもの私になる。


   唯「…でねー、新しい部員が増えたんだよっ!あずにゃんっていうんだけど、あずにゃんもギターなんだよ!あずにゃん、すっごいギター上手いんだぁ。あ!しかも可愛いよぉっ!」

   和「へぇ、良かったじゃない。ライバルが出来たなら唯もうかうかして居られないわね」

   唯「はうっ!和ちゃんの意地悪ー!」


   新入部員…か。
   嬉しそうな唯を見てまだ会った事すらない子に嫉妬する。


   自己嫌悪の嵐…



   ---

   次の日、廊下で小さな子とぶつかった。
   その子は長い髪をツインテールにしてギターを背負っていた。

   和「ごめんね?立てる?それに…ギターは大丈夫?」

   走って来たその子にぶつかってプリントをばらまいてしまったものの、転ばせてしまったのは私のせいだ。

   手を差し出すとその子はおずおずと取った。

   「はい…大丈夫、です。は…走ってぶつかっちゃってごめんなさいっ」

   和「別にいいわよ。これからは気をつけてね?」

   深くお辞儀した勢いでその子の髪が耳の様に跳ねた。


   顔を上げると本当に申し訳無さそうに私を見ていたけど、中々手を離して貰えなかった。

   和「…あの、手…」

   「あっ!ごめんなさいっ」

   かぁっと頬を赤く染めたその子の表情が頭に強く残った…気がした。
   プリントを拾おうとしゃがむと、その子もしゃがんだ事に気付く。

   和「いいよ?急いでたんじゃないの?」

   「い、いえっ…そう言う訳じゃ…」


   「あれ?和さんに梓ちゃん。大丈夫ですか?」

   聞き慣れてはいるけど、最近はあまり聞きたいと思えない声が耳に飛び込む。

   「憂。私がぶつかっちゃって…」

   憂「そっか…私も手伝うね」

   和「あー、二人ともいいのに。ごめんね?」

   三人も揃えば幾ら散らばったとはいえ、割とすぐに集まる。


   和「ありがとう、二人とも」

   「あっ…いえ!」

   憂「いえ、気にしないでください」

   和「………それじゃあ私、行くから」

   「…あっ、あのっ」

   足を一歩進めると声をかけられる。
   何かと思って振り返るとじっと見つめられて…少し戸惑ってしまう。

   和「どうかした?」

   「あ…えっと…なんでもない…です」

   和「そう?それじゃ、次は誰かにぶつからない様に気をつけてね」

   もう一度、踵を返して歩き始める。今度は呼び止められる事はなかった。



   帰り、昇降口を出た所で唯たちと鉢合わせた。
   その中に、ぶつかった子の姿もあった。

   …じゃあ、あの子が唯が言っていた「あずにゃん」とか言う子なのね。


   唯「和ちゃん!」

   和「唯。みんなも帰り?」

   律「そうだよー。せっかくだし、和もアイス食って帰ろーぜ」

   和「いや…私は…」

   「い、行きませんかっ?」

   澪「おっ?梓が積極的だな」

   紬「ふふふっ」

   ぐいっと裾を引っ張られて少し驚いてしまうけど、そこまで言われたら行くしかない。



   軽音部のメンバーに連なって歩く。
   …とはいえ、数歩後ろを歩く形だけど。

   唯、楽しそうだな…

   他の部員と楽しそうに笑い合う唯を見ている自分に苦笑する。
   …でも、理由はわからないけど今までの嫉妬を感じなかった。

   「あ、あの…和、先輩って呼んでいいですか?」

   和「え?あ、うん。あなたは…梓だっけ?」

   梓「はい!中野梓です。よろしくお願いします」

   笑った顔に少しだけ心臓が跳ねた気がした。



   唯とよく来ていたアイスクリーム屋の店先で買ったばかりのアイスを食べてしまうと解散になった。

   元々、帰りに参考書を買いに行こうと思っていた私は、一緒に帰ろうという唯の誘いを…断って本屋に来ていた。

   和「あ」

   梓「あ」

   先に帰ったと思っていたはずの彼女と入り口でばったり出くわす。
   暫くの間二人で同じ様に足を止めて視線が混じる。

   和「…偶然ね。梓も用事なの?」

   梓「は、はいっ。ギターの雑誌が発売する日なので…先輩は?」

   和「私は参考書を買いに。…中、入ろうか」

   梓「はい!」

   二人で並んで足を踏み出せば歓迎する様に自動ドアが開いた。
   並んで入りはしたものの、目的は一緒ではないので私は自分の目的である参考書を眺める。

   どれがいいかしら…。

   参考書を眺めているのは嫌いじゃない。
   勉強が苦ではない方だし、寧ろ好きかもしれない。

   一冊手に取ってぱらぱらと捲っていると、不意に隣に人が並んだ気配。
   ちらり、と横を見やるとツインテールの女の子。

   梓「あのっ…私、私も参考書欲しいんですけど…どれがいいのかわかんなくて…」

   和「…どの教科?私の使ってたのでいいならあげるけど…」

   梓「ほんとですか?じゃあ…今度先輩の家に伺ってもいいですか…?」

   少しだけ驚いた。

   なんとなく、私の心が乱れてきている様に感じていた。
   …乱れている、より…乱されている、が正しいかしら…
   私の心は、今日1日で…まだ会って間もないこの子に掻き回されていた。

   和「いい…けど。明日…土曜日だし、来るなら来ていいわよ」

   梓「はいっ!じゃあ…待ち合わせは…」

   和「…家、この辺ならここの入り口にする?」

   梓「はい!わかりました!」

   その日は、会計を済ませると店先で別れた。
   少しだけ、彼女の後ろ姿を眺めてから私は反対方向へと歩き始めた。



   一人部屋の机に向かって買った参考書を開くと、ふと彼女の顔が浮かんだ。

   …理由はまだわからない。

   でも、彼女の事を考えているのは嫌な気持ちはしなくて。
   私は、唯のことを諦める事が出来たと言う意味なのかもしれない。

   つい昨日まで感じていた律達に対する妬ましさも、すっかり綺麗に忘れさるほど…私の頭の中には彼女の姿があった。

   和「中野…梓、か…」

   そうだ。去年の参考書を出しておかないと。
   私の書き込みも沢山あって、正直他の参考書よりわかりやすいくらいじゃないかと思う。
   …梓は喜ぶの…かな。


   まるで私は、唯じゃなく…今日会ったばかりのその子に…恋をしているみたいだった。



   次の日、時間通りに約束の場所に着くとそこには既に梓の姿があった。

   梓「こんにちは!」

   和「ごめん、もしかして待った?」

   梓「い、いやっ!今来た所ですから!」

   和「そう?それじゃあ行こうか」

   梓「はいっ」

   全てにおいてなんとなく必死さが見え隠れする姿に、少し目を奪われる。

   つい、梓を目で追いたいと思ってしまう。
   思えば、唯の時も最初はそうだったのかもしれない。その感情が恋に変わったのはいつの事だったか。

   部屋に招き入れると焼いておいたクッキーと紅茶を運ぶ。

   梓「お…おいしそう…。和先輩が作ったんですか?」

   和「うん。クッキーなんて簡単だからね。遠慮なくどうぞ?」

   梓「はい!頂きます!…でも、作れるなんて凄いです」

   私の焼いたクッキーを嬉しそうに食べる姿に、笑みが零れた。
   紅茶を一口飲んでから昨日用意した勉強机の上にある参考書の山を指差す。

   梓「わ、あんなにあるんですか?」

   和「うん。全部私の書き込みがあるけど…いい?いいなら好きなだけどうぞ」

   梓「もちろんです!寧ろ嬉しいですからっ…じゃあ…えっと…」

   参考書の山に向かって私に背を向けた梓はとても小さかった。

   年下ってこんな感じだっけ?
   もう少し大きいのかと思っていたけど。
   …手も小さいな。この子、ほんとにギターなんて出来るのかしら。

   梓「先輩、とりあえず…この三冊を頂いてもいいですか?」

   和「うん、いいわよ。役に立つといいけど」

   梓「…頑張って勉強しますね!ありがとうございます!」

   …私は現金なんだろうか。
   その笑顔を見て…胸が締めつけられる様に…そうか…

   まるで、じゃない。

   私は恋をした。

   …会って間もないこの子に。



   和「…そう言えば…どうして参考書の相談、澪じゃなくて私にしたの?」

   別に意地悪とかじゃなくて…ただ単に気になっただけ。
   …それなのに。

   梓「!」

   かぁっと耳まで一気に頬を染めた梓に、こっちが驚く。

   梓「あの…それは…っ」

   和「…」

   梓「ひ……ぼ…れ…」

   声が小さくて聞きとれない。

   でも何となく唇の動きでわかった。
   そう、この子も私と同じ。

   一目見た、それだけで

   恋に落ちた仲間。

   眼鏡を外すとゆっくりと唇を近付ける。
   梓は一緒肩を強張らせたけど、嫌がらなかった。
   互いににそっと目を閉じて唇が触れ合うと静かに離れる。

   梓「…のど、か…先輩…」

   和「…互いに一目惚れ…かな」


   これは小さな奇跡かもしれない。
   唯との恋が実らなかった私に、神様がくれた…小さな幸せ。

   和「これからよろしくね?」

   まだまだお互いに何もしらない。…だからこれから一緒に歩いていく。
   二人の関係は始まったばかりなんだから、これからゆっくり知ればいい。
   新しい関係を、楽しもう。
   …梓と一緒に。

   end+




   強制終了な感じが否めないんですが…ごめんなさいぃorz
   これで和梓はおしまいです(・ω・`)微妙な終わり方になっちゃったかもですorz
   次からは律澪で律視点、のやつをいきます><



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