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   お姉ちゃんが部活に入ってから初めての夏休みになった。
   …とはいえ、夏休み中は毎日の様に部活がある…なんて事はないから、夏の暑さが苦手なお姉ちゃんは殆ど出掛けずにリビングにぐったり横になっていた。


   唯「うーいぃー…あ゛ーつーいぃー…」

   憂「ふふ、お姉ちゃんってば。そんなに暑いならかき氷でも作ろっか?」

   唯「うんー…」

   扇ぐのすら怠くなったのか団扇を持つ手をパタリと下ろしたお姉ちゃんを見て、つい笑ってしまいながらも立ち上がりキッチンへと向かう。

   夏休みに入るからな、と思い、予め出していたかき氷器に氷をセットしてハンドルを回す。

   じゃりじゃりと言う氷をかく音が、なんとも夏らしいな。なんて思ったり。


   …お姉ちゃんは暑さにはあんまり強くない。
   冷房もあんまり好きでは無いからあまりつける事もなく、これはほぼ毎年の光景だった。

   こうしてかき氷を作ってあげると、お姉ちゃんは嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
   …それだけでも私は幸せになってしまうから安いものだなぁ…。
   でもでもっ、お姉ちゃんの笑顔は私の幸せだからしょうがないよね!


   唯「ういぃー…」

   憂「なぁに?もうちょっとで出来るよー」

   唯「ありがとー…」


   ありがとう。
   そんな…お姉ちゃんのたった一言で気持ちがあったかくなって、ハンドルを回す手が早くなる。
   お姉ちゃんの為。
   私はそうして過ごしてる時が凄く好きなんだなぁ。

   憂「あはは。いいよ、これくらい。あ、お姉ちゃん。いちごミルクでいいよね?」

   唯「うんー」

   2つのお皿に盛ったかき氷に、シロップと練乳をかけてお盆に乗せるとスプーンと一緒にリビングへと運ぶ。

   憂「お姉ちゃん、出来たよ~」

   唯「うー」

   のそのそと起き上がってお姉ちゃんはテーブルに向かって座った。

   それでもスプーンを握る気力が無いのか、だれて机に突っ伏しているお姉ちゃんにまた笑みが零れる。

   憂「お姉ちゃん、ほら…あーんして?」

   唯「あー…ん…」

   少し開いたお姉ちゃんの口にかき氷を運ぶ。
   お姉ちゃんはその一口だけでも体が少し冷えたのか、幸せそうな顔でぶるっと震えると漸く体を起こした。

   唯「えへへ、おいしー。やっぱりありがとー憂」

   憂「あはは、どう致しまして」



   テレビの電源を入れると夏休み特集と銘打って高校生バンドの特集をやっていた。

   唯「あっ」

   ステージの上に向けられる歓声やボーカルのパフォーマンス。
   お姉ちゃんも、こんな風に演奏するのかなぁ。
   だとすると、お姉ちゃんのファンがいっぱいついちゃうかも…だだだだって、お姉ちゃん可愛いし…っ!
   で、でも大丈夫だよね…きっと。

   お姉ちゃんはかき氷を食べながらぼーっと見入っていた。
   私はそんなお姉ちゃんの横顔を見ながらかき氷を食べる。

   …やっぱり、お姉ちゃんは可愛いなぁ。

   不意に耳に飛び込んだギターの音。
   私もテレビへと視線を向けると、男の人が凄い指の動きでソロを弾いていた。
   すごいなぁ…。こういうのって凄く技術がいるんだろうな。

   唯「すごいねー」

   憂「うん。私、この曲好きだな」

   その後は私も少しぼんやりしながらお姉ちゃんを見ていたのかも知れない。
   知らない間にかき氷も食べ終え、番組も終わっていた。



   唯「憂、憂!」

   憂「えっ?な、なーにお姉ちゃん?」

   唯「きいてきいてっ!」

   憂「う、うんっ」

   あ、危ない危ない。
   ついぼーっとしちゃってたから、ちょっと焦りながらの返事になってしまう。

   お姉ちゃんは、いきなり立ち上がったかと思うとギターを取り出した。

   なんだろう?
   じっと見つめていると、得意げな顔のお姉ちゃんは演奏を始めた。


   …あ。これ。

   それはさっき私が好きだと言った曲のギターソロだった。
   凄い、お姉ちゃん。
   なんだか、いつもと変わらない筈のお姉ちゃんがキラキラしていて…
   私はどきどきうるさい心臓を落ち着かせるのに精一杯だった。

   暫くして演奏が終わると、キラキラしたお姉ちゃんの目が向けられた。
   すっかり見惚れてしまっていた私は、ハッとして拍手を送る。


   憂「お姉ちゃんすごいっ!もうそんな事できるの?」

   唯「えへへー。出来ちゃった!」

   ピースをしながら自慢げに笑うお姉ちゃん。
   私の為だけに演奏してくれたその姿は、ホントにキラキラ輝いていて。

   憂「やっぱりお姉ちゃん、大好きっ」

   唯「私も憂のこと大好きだよー」


   二人で大好きだと言いあって笑い合う。

   …でも…

   私とお姉ちゃんの好き、は釣り合うことは…ないんだよね。
   私のそれは、きっとお姉ちゃんのそれよりも数段と深い意味合いを持っている。


   お姉ちゃんは、きっと知らない。




   二人きりで笑い合ったりしていると、インターホンが鳴った。

   憂「私が出るね」

   唯「あ、うんー」

   パタパタと玄関へと向かうと、鍵を開けて扉を開いた。

   憂「はーい…あ、律さん、それに澪さんも」

   律「ちーっす。唯の様子見に来たよ」

   澪「突然邪魔してごめん、これお土産だから貰って?」

   憂「わぁっ!ありがとうございますっ。この箱、駅前のケーキ屋さんですねっ。お姉ちゃん、ここのケーキ好きなんです」

   澪さんからケーキの箱を受け取ると、二人を招き入れる。


   憂「お姉ちゃんお客さんだよ~」

   唯「あー、りっちゃん澪ちゃん!」

   澪「な、なんかどっかの漫才コンビみたいな呼び方するなよ」

   律「あっはっは、まーいいじゃん。唯ー、練習してたのか?」

   お姉ちゃんは一度ギターを出したからか、さっきのまま練習を続けていたようだった。
   律さんの質問に、笑顔で頷くお姉ちゃんを見てから、出しっぱなしのお皿に気付いて、私はそれを持ってキッチンへ向かう。

   えっと…暑いからアイスティーがいいかな?

   アイスティーの準備をしながら、先ほどのケーキを開けてみる。
   丁度4つあるとわかると、お皿に盛り直してアイスティーと共に運ぶ。


   扉が閉まるとスリッパを片付ける。この後はご飯を作らなきゃ。
   お姉ちゃん、なんだったら喜んでくれるかなぁ…?昨日はハンバーグだったから…
   メニューを考えると喜んでくれるお姉ちゃんの笑顔が浮かんで、一層気合いが入る。

   そう言えばそろそろ野菜が切れるから買いに行かなきゃ。

   憂「おねーちゃーん?私八百屋さん行ってくるね~」

   先にリビングに戻っていたお姉ちゃんに声を掛けると、がたんっ、と少し大きな物音がしてすぐ、ばたばたと慌てた足音が近付き、お姉ちゃんが顔を出す。

   唯「待って待って、えへへ…私も行くよー」

   憂「えっ?八百屋さんとかスーパーくらいだよ?」

   唯「うんっ、憂と買い物に行きたいから」

   そのお姉ちゃんの一言で、私の心はぱあっと晴れて行くのを感じた。

   無意識のうちに頬も緩んで、多分ちょっと情けない顔になったと思う。



   憂「お姉ちゃん、髪跳ねてるよ」

   唯「あ、ほんとー?」

   髪に手を伸ばして梳いてあげる。お姉ちゃんの髪は柔らかいなぁ…
   お姉ちゃんに触れているだけで幸せな気持ちになる。


   買い物が終わると、夕焼けの帰り道を二人並んで歩き出す。
   上機嫌な私から伸びた影ですら、何だか嬉しそうに見えてくる。

   唯「ねー憂。いっつもいっつもありがとうっ」

   不意に隣のお姉ちゃんからギュッと手を握られる。最初は少し驚いてしまいながらも嬉しくなってしまう。

   唯「憂はいっつも頑張ってるから、ごほうびだよー」

   憂「ごほうび?…!」

   聞き返した瞬間にはお姉ちゃんの顔が目の前に合って。
   ちゅ、と優しく唇に触れたものはお姉ちゃんの唇だった。

   唯「えへへ、憂は大好きだから特別なんだよ!」

   憂「お姉ちゃん…っ」

   かぁっと顔が熱くなるのを感じながらも、私は無意識の内にお姉ちゃんに抱き付いていた。

   涼しい夕方。お姉ちゃんの体温が気持ち良い。

   憂「ありがとう、お姉ちゃん。大好きだよ…」


   お返しの様にそっとキスをすると、お姉ちゃんは照れた様にはにかんで見せた。

   唯「私も大好きーっ」

   ギュッと手を握り直して家へと向かう。
   伸びる並んだ影が、ゆらゆら揺れながら仲良く寄り添っていた。

   …もしかしたら、私とお姉ちゃんの「好き」の天秤は、もう少しで釣り合うのかも知れない。






   姉妹の話はここまでです~。次からは律澪の続きを書きますですよ(・ω・`)





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