軽音部部長、田井中律。

ドラムを担当する彼女だが

周辺の高校ではその激しすぎるドラミングから

「クラッシャーリッツ」「平成ドラム殺し」「嵐を呼ぶおなご」

などと呼ばれ恐れられていた。

そんな彼女はある日 校長室に呼び出しをうける。

それが律の悪夢のはじまりであった。



律「校長せんせ、今日は何の用だい?
  あたしゃ何も悪さはしてないよ、ここんとこ」

校長「……」

律「ねえ、こうちょ…」


校長「廃部だッッッッッ!!」

あまりの迫力に壁までふっ飛ぶ律。


律「グッ…ハァ!」

校長「…今月中に4人揃わねば廃部という儂のことヴァ、忘れたか?」

律「も、もう少し待ってよ。今ひとつ根性はいってるやつがこないんだ!」

校長「言い訳はきかん。あと3日、それまでに4人集めよ。以上だ!」



律「ーというわけだ。澪、ムギ、ぬぁんとしてもあと一人、勧誘するよッ!!」

澪「わかったよ」

紬「イエッサ」

とりあえずは正攻法。

通りがかる生徒に片っ端から声をかけようとひとり奮闘する律。

律「やーやーそこいくスイーツしょくん。
  あたいと一緒に青春を音楽にかけてみないかい!?」

律が声をかけた、ひとりの童顔の少女。

しかし、振り向いた彼女の表情の奥からは底知れぬ迫力がただよっていた。


「ふぅン…あなた、音楽に『イノチ』かけてンの…?」


ビキビキッ

!?

ぐにゃぁ~

律「ッ!」

とっさに5mほど後ろにとびずさり、

パンツにはさんだスティックを抜いて正眼に構える律。

律「モチのロンよ…あたいの座右の銘は『Don't say "lazy"』だからねェッ!」

しゃべりざまにスティックで斬りかかる。

しかし少女はそれを小指で受け止め、軽くひねった。

たったそれだけで律は宙に舞った。

なんとか空中で姿勢を制御し、

地面に叩き付けられるのは防いだが。

「惜しい惜しい。

 もう少しで気持ちよ~く

 ふわふわ時間を感じさせてあげられたのにね」

ニヤリと笑うと少女はこちらに歩みを進める。

律「(あたい一人じゃ手に余る…か)

  …澪ッ! 」

澪「出番ね」

校舎の窓から1つの影が飛び出す。ベーシスト…秋山澪である。

「仲間がいたの? …ま、何人いても同じことだけどサ?」

澪「それはどうかな? あなたはもう私の術中だ」

澪の指がキラキラと光り…次の瞬間少女の体の自由が奪われた。

「!?…へェ、体が動かな…い。これは…糸?」

澪「弦よ。ベースの。

  もっとも、私の指にあわせて強度は調整してあるけど」

忍法影縛り。

もとは甲賀の出である秋山家に伝わる秘技であった。


身動きがとれなくなった少女に一枚の紙 ー 入部届け ー を突き付ける律。

律「ここにサインしな! そうしたら、解放してやるよ」

「そう…サインなら、必要だね…」

澪「ふでぺん、ボールペン?」

「貴様らの血が、だッッッ!」

少女の体が一瞬膨張したように見えた。

刹那、弦は弾き飛ばされ 律と澪の目の前に鬼が飛んだ。

「屈辱は100倍にしてかえす」

律「クゥゥゥッ 仕方ない!!」

澪「ムギィッ!」

紬「アイアイ! サー」

声と同時に少女に向かって超高速の物体が飛んできた。

「!?」

すんでのところで避けたが、

少女の頬をかすめたそれはアンプであった。

信じがたいパワーの持ち主。

キーボード担当、琴吹紬その人である。

紬「まさか私まで戦るはめになるとは思いませんでしたわ」

「フゥ…何人いるの?」

律「安心しな、これで最後だよ。そしてあンたがー」

律・澪・紬「4人目だ!!」


律「澪、ムギ、わかってるねッ!」

澪「ああ、出し惜しみはなしだ」

紬「全力投球ですわ」

「…なにする気?」

3人で囲み、総攻撃をかける。

これぞ軽音部に200年伝わる必勝の型 ー

律・澪・紬『Cagayake! GIRLSッッッ!!!』

律のスティックが

澪の弦が

紬のアンプがうなりをあげる。

いまだかつてこの技からは逃げられたものはいない。

3人が勝利を確信した。



しかし…

律「バカな! 消えた!?」

澪「これは…」

紬「ッ 空ですわッ!」

3人の視線が空に集まる。しかし。

律「ばかなッ! 人があれほど飛べるのかよ!?」

澪「屋上よりも…」

紬「あれは技…ですの?」

少女は微笑む。

「『翼をください…』」

「…さっきイノチかけてるって言ったね?

 見せてもらおうか、その覚悟を」

少女は3人に向かい、急降下をはじめた。

律「チィッ!」

澪「固まってたらまずい! 散るよ!!」

「遅いヨ」

紬「! 皆さん、危ないですわーーーっ!!」

紬が、その力で二人をはじき出す。


少女の落下による轟音とともに、

ぽっかりと、ギアガの大穴が 校庭に開いた。

紬の姿はない


律・澪「ム、ムギィィィィィィィイーーーーーッ!!!!!」


そのとき主を失った沢庵が、一陣の風に舞った…

私立桜が丘高校 軽音楽部 キーボード担当 琴吹紬…死す!!



律「くそぉお!!!」

澪「律、あつくならないで、負けるわ!」

律「ああ、だがよォ! どうすりゃいいんだ!

  あたいたちの技も、3人がかりの奥義も、

  奴には通用しなかったんだぞ!」

山中「3人だからよ」

律「せ、センセイ?!」

澪「なぜここに!?」

山中「あんだけ騒いでれば当然でしょ。

   それより、奥義の話よ。

   あれは4人が呼吸をあわせて初めて効果があるの。

   3人で勝てるのは、雑魚だけよ」

律「じゃあ、あと2人いれば、勝てるかもしれないのか?!」

山中「そうね…でも、私は数にいれないで。

   生徒のために死ぬのはごめんよ。」

律「クソッ、じゃあどっちにしろ駄目じゃないか!」

山中「焦らないで。いい話があるから」

澪「いい話? …! 誰ッ!?」

いつからいたのか、澪の後ろに一人の少女がたたずんでいた。

梓「…中野梓」

澪「(この子…忍びの私が気付かなかった…!)」

律「(できる!)」

山中「新入部員よ、一人めの。

   この辺の中学では有名人で、通称『暗器の梓』。

   仲良くしてあげてね。」

梓「私、学校見学にきただけなんですけどね」

山中「こまけぇことはいいのよ。お願いだから、手伝って?

   でないと、うちの高校、跡形も無く消し飛んじゃうから」

梓「はぁ、わかりました。」

律「3人目…!!」


「あれ、増えてる」

穴からゆっくりと少女が浮かび、姿をあらわした。

「これが最後、じゃなかったの?」

律「うるせェ! てめェ、よくもムギをッ!!」

「ムギ…って、これのこと?」

どさっ。

少女が無造作に放り捨てたのは ー

律・澪「ムギッッッ!?」

「この汚いボロクズ、片付けておきな」

律「く…許さんぞ…よ、よくも…!」

プッツン!!

数分まえまで生きていた戦友がもの言わぬゴミに成り果てたー

その怒りと悲しみと絶望が律の細胞を

新たなるステージへと進化させた。



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