澪「……翼をくださいって曲、前に演奏したよな」

唯「うん」

澪「あの歌詞、覚えてるか?」

唯「あの大空へー翼を広げー飛んで行きたーいーよー」

澪「あの歌詞にはさ、救いが何一つ無いんだ」

澪「悲しみのない自由な空は目の前に広がってるのに、翼がない。ただそれだけの歌なんだ」

唯「……うん」

澪「でも私はこの歌が好きなんだ。……決して飛ぶことを諦めない、この歌が」

唯「……」


唯「それでも死にたいの、私は」



唯「明日、ピクニックに行こう」

澪「唐突だな。というか学校はどうするんだよ」

唯「明日はピクニックなんだよっ」

澪「ご、ごめん」

唯「オヤツはいくらでも」

澪「ずいぶん唯に都合が良いピクニックだな」

唯「……じゃ、おやすみ」

澪「ああ、また明日」


もぞもぞ

澪「……ううん、いま何時だ……?」

澪「九時か。……学校は完璧にサボりになっちゃったな」

唯「おはよう澪ちゃん」

澪「おはよう。よく眠れたか?」

唯「うん! 夢に澪ちゃんが出てきた」

澪「へぇ。なんて言ってた?」


唯『何処にも行かないで』


澪「……そっか」

唯「さて、ピクニックだね」

澪「なぁ、唯」

唯「しぃーっ。何も言わないの」

澪「……ああ」



ガタタン

ゴトトン

澪「真っ昼間の電車って、人が少ないな」

唯「そうだね。キスしてもバレないかも」

澪「ばっ、唯!」

唯「でも、手くらい握ってよ」

澪「……ま、せっかくのピクニックだしな」

唯「えへへ」

ぎゅっ


澪「この後は?」

唯「新幹線に乗って、新富士駅まで」

澪「……ふぅん」


澪「なあ」

唯「んー?」

澪「このピクニックって、いつ終わるんだ」

唯「さあね」

澪「私達どこに向かってるんだ?」

唯「さあ……」

澪「……お前は、私と居て楽しいか?」

唯「うんっ」

澪「それなら、きっと大丈夫だよな」

唯「うん……」

唯「広見過ぎてから大分立ったね」

澪「ああ」

唯「あっ、見えてきたよ澪ちゃん。あそこがピクニックする森なんだ」

澪「海みたいな森だな」

唯「圧巻だよね」

澪「とてつもない何かに見えて、私は怖い……」

唯「大丈夫、私がついてるから」

澪「……そうだな」


唯「日が暮れてきた……」

澪「なあ、やっぱり今日は引き返そう。ピクニックなんていつでも出来るだろ?」

唯「今日なの。今日がいい」

澪「分かったよ……」


澪(何故私は暗い森を歩いているんだ?)

澪(唯を放っておけなくて、抱いて、それで……)

澪(また唯を抱きたくて、こんなところまでついてきたのか?)

澪(あの世の入り口みたいな、こんな場所まで)


唯「……澪ちゃん、あれ」

澪「な、なんだ?」

唯「テント……、テントがある」

澪「テント、だな」

唯「それにすっごく嫌な臭いがする」

澪「うっ……なんだこれっ……」

唯「あのテントからだよ」

澪「ゆ、唯っ! 待てっ!」

唯「このテントの中に、あるんだよ」

澪「開けちゃ駄目だ……、やめてくれ……」


ぱさっ


唯「あーあ、虫だらけで可哀想だ……」

澪「………ぅっ…」

澪「お前、どうかしてる……正気に戻ってくれ、唯」

唯「これが今日のピクニックの目的なんだよ、澪ちゃん」

唯「私、いまからこの人を地面に埋めるね」

唯「……私の代わりなんだ」

唯「誰かを地面に埋めて、私は……その上に立てるんだ」

唯「生きてるって、そういうことだよね」

澪(唯は……気が触れてしまったのか?)


唯「澪ちゃん、見てて」

唯「私、頑張るから」



唯「いまーわたしのー」

唯「ねがーいごとがー」

唯「かなーうーなーらばー」

ざくざく

唯「つばーさがーほしーいー」

唯「このーせなかにー」

唯「とりーのようにー」

唯「しろーいつーばさー」

ざくざく



唯「つけーてーくーださーいー……」



唯「よしっと」

唯「……えへへ、私、生きてるんだな」

唯「埋葬するって、何より生きている行為だから……」


唯「澪ちゃん、終わったよー」

唯「澪ちゃーん!」

唯「あれ……? 澪ちゃーん!?」


唯「澪ちゃぁあんっ!!」

唯「……『何処にも行かないで』!!」


唯「澪ちゃんが好きだって言ってた歌、唄うから!」

唯「この声が枯れるまで!」




終わり。