唯「まぁ私は天才なんだけどね」




では、どれほどクズか順に検証していこう。


律「おーっす、唯!」

唯「あ、りっちゃんだー! くらえ目潰し!」

律「なんの! デコ返し!」ピカッ

唯「うわぁぁぁぁ目があぁぁぁぁぁ」


……まずは見ての通りのバカ、田井中律。
見ての通りのバカに検証など必要なのかは怪しいが、かといって長所がないわけでもない。
一緒にいて楽しいのは事実であり、それなりに他の人をちゃんと気にかけている良いリーダータイプだ。
ただ、バカで無能な彼女がリーダーに相応しいと言えるかはまた別の話ではある。事実、部長としての責務を納期までに果たしたことなど一度も無い。
社会に出たら一生底辺でこき使われるタイプだろう。
悪い奴ではないのだが、無能である。性格はいいのだが、能力がクズである。


唯「今日もいいデコですね」

律「おうよ! 今日の輝度は10ヘクトパスカルだぜ!」

唯「よくわかんないけどすごいね!」

クズである。




澪「あ、唯。おはよう。今日もいい朝だな」

唯「おはよーみおちゃん。今日も朝から水子連れて重そうだね」

澪「ぅひいいいいいぃぃぃぃぃ!?」


……さて次は、このどうしようもない臆病女、秋山澪。
怖い話、痛い話などに過剰すぎるほどの反応をし、その場の空気を停止させる能力者だ。
それを隠すため、前述の田井中デコと一緒に仮面を被る練習をし、痛々しい喋り方を身につけた過去を持つ。
つまり虚飾で身を包んだ、嘘と偽りだけで出来ている女、それがチキン秋山なのだ。
本当の彼女は臆病なクズで、誰かがいないと呼吸も出来ないほど。生活に支障をきたすレベルでダメ女なのだ。
さすがの私も見かねて背を押してしまったこともある。クズの背を押すなど、この女が最初で最後の経験だ。
とはいえ、彼女も努力していないわけではない。というか真面目なタイプの人間であり、日々努力はしている。そこだけは評価する。
その性格ゆえかポテンシャルは高く、何事もソツなくこなす。重ねて言うが、そういうところだけは評価する。
だが結局のところ、嘘と偽りで塗り固めた彼女は非常に脆い。上手く嘘をつくよりも根本から強くなれなければ、彼女の将来に光は無い。
一人孤独に生き、一人孤独に死んでいく。そんな未来が誰よりも見える女だ。
田井中とは正反対に、能力こそ充分だが性格に難しかないクズである。


唯「ところで澪ちゃん、幽霊怖いって言うけど自分が幽霊になったらどうするの?」

澪「私は死にましぇーん」

唯「すごいね!」

クズである。




紬「あら唯ちゃん、昨夜はお楽しみでしたね」

唯「ムギちゃんこそ」

紬「あらあら」

唯「うふふ」


……次は強敵だ。寿――じゃない、琴吹紬。チャームポイントは眉毛。ウィークポイントも眉毛。
謎が多く、電波と波長を操り、自らにピンク色の幻覚を見せて酔うのが趣味のイッちゃってる女だ。
……友人をそんな目で見るって、私の主観抜きでもクズではなかろうか。
ともあれ、彼女もポテンシャル自体は高い。運動は多少苦手意識があるようだが、勉学については有能という他ない。
それに加え、バックに琴吹が付いている。というか娘なのだが、ともかく敵に回したくない人間だと教師も口を揃えて言っていた。
お嬢という自覚もあるようで、ティーセットを持ち込んだり執事を怒鳴りつけたり暗黒オーラで値切ったりと好き放題やっている。
ただ、それについては私も大いに助けられているので何も言えない。何か言って「じゃあ金返せ」と言われたら泣くしかない。そんなレベルでお世話になっている。
だがあえて言うなら、そういう『負い目を感じるようなこと』で恩に着せて友人面するのはやはり人間としてどうなのか、とは思う。面と向かっては言えないが。
まぁそもそも、自分のことを多く語らない人間を友人として信頼しろというのが難しい話なのだが。
性格面では…少なくとも私達といる時間を楽しんでくれているようではある。育ち故の孤独というものには少々同情する面もある。それ以上に羨むけど。
恐らく彼女が一番世渡りの上手い人種だろう。そういう面は評価する。
だが同時に、そういう人間はイザという時にもっとも信用の置けないタイプでもある。要するにクズである。


唯「将来はムギちゃんのところに就職させてほしいなぁ」

紬「私のお尻を舐めるだけの簡単な仕事よ」

唯「わーい」

クズである。




梓「ゆーいせーんぱーい!」

唯「おや遠くに見えるのはあずにゃんではないか」

梓「遠くないですよ! 目の前じゃないですか!」

唯「ごめんごめん小さくて錯視しちゃったよ」


……黒くて小さい後輩、中野梓。私と同じギターを担当しているという時点でクズだ。邪魔だ、道を開けろ。
とはいえ一応、『今の』私よりはギターが上手い。いろいろ秋山澪と被るが、実力と向上心と兼ね備えた逸材には違いない。
性格も被るが、真面目な努力家である。基本的に頑張る子を無意味に見下すような事をする私ではない。ちゃんとそこは評価する。
学年が違うので詳しくは知らないが、勉学面もちゃんとしているようだ。
ならば何が問題か。やはり秋山(黒)と同じく、中野(黒)にも性格面で問題となる点がある。
田田舎に言わせれば「生意気」。今時のゆとり臭全開で、入部翌日から先輩に平気で説教をかます。なんでも、ユルい空気が気に入らないんだとか。
そのくせ一年も経てばそれに馴染み、紬に紅茶をよこせと指示する。別に敬意を払えなんて古臭いことは言いたくないのだが、一歩間違えば機嫌を損ねて退部させられそうなことを平気でする。
自分の意見はブレまくるくせに自己主張が激しく恐れを知らない。一歩間違えばDQN。ぶっちゃけ相手したくないクズだ。
同級生ならまだ違ったのだろう。憂とは上手くやれているようだし。
だが私達には、特に私には友達のように振舞う。『歳の差』という一生埋められない壁をまるで存在しないかのように振舞うあの女は実に気に入らない。
あと余談だが秋山ブランドのゴールデンシマパンを見て鼻血を出していた。クズである。
クズ同士…というかガチ趣味同士、琴吹とよろしくやってればいいと思う。


梓「唯先輩、早くやりましょうよ!」

唯「何を? あぁ、セッション?」

梓「惜しいですね。『セッ』まで合ってます」

クズである。




さ「はぁ~あ、なんでウチの学校はセーラー服じゃないのかしら」

唯「私はブレザーでよかったけどなぁ。セーラー服ってなんか古臭いし」

さ「誰が古臭いですって?」

唯「ひぃ」


……山中さわ子。音楽教師にして顧問。
合唱部と掛け持ち顧問だったはずだが、あちらのほうはちゃんとしているのだろうか?
ともかくこの女は……欠点しかない気がする。大人として振舞っている全ては「猫かぶり」と自身で宣言してしまっている。
学生気分が抜け切れていないダメな大人の見本だ。教師でありながら反面教師。いい具合にクズだ。
彼氏とも長続きしないともっぱらの噂。にじみ出るクズっぷりは交際相手にも見抜かれるほどらしい。
あえてどこかを評価するなら、その猫かぶりっぷりが素晴らしいことだろうか。真実を知らない生徒からは非常に評価が高い。
もっとも、真実を知る我らがクズ高軽音部からも友達感覚で評価が高いように見えないこともないが、それでもやはり私としては、あまり素を見せないほうがいいと思う。
生徒は教師の背中を見て育つべきであり、露骨にさらけ出して向き合うべきではないのだ。
曲がりなりにも教職に就けたのだし、聴かせてもらったギターもかなりの腕だったし、スペック的には高いはずなのだが。それでも影が薄いのは、やはり性格面での欠点が大きすぎるということだろう。
軽音部メンバーから尊敬されていると思しき言葉を聞いたことが無いのは、少し同情する。
……いや、コスプレ絡みなら少しはあったか。教師としても顧問としてもほとんど関係ない点で評価されてる辺り、クズとしか言えないが。


唯「さわちゃんいつ結婚するの?」

さ「若くてイケメンで優しくて頼りになって大企業に勤めてて年収1000万以上で天涯孤独の男性が結婚を申し込んできたら結婚する」

クズである。




和「じゃあ私、生徒会行くね」

唯「まだ何も言ってないよ?」


……真鍋和。私の親友にして幼馴染。高校に入ってからは部活のせいもあって少々疎遠だ。
別に寂しいわけではないが、もし一緒に軽音楽部に入っていたらどうなったのかな、と考えないことも無い。それくらいの付き合いだ。
別に寂しいわけではない。
……えっと、性格はとにかく生真面目。ギャグをやると必ず滑るくらいに生真面目。同じく真面目なタイプの秋山澪と仲良くなったらしい。鼻が高い。
生真面目だからといって石頭というわけでもなく、それなりに融通も効く。生徒からも教師からも信頼されており、生徒会長を務めた。
幼馴染として世話も焼いてくれるし、出来た存在だ。
そんな彼女をクズと称する点があるならば……交友関係の狭さだ。二年時、私とクラスが離れた際には真っ先に知った顔である秋山澪のところへ駆け寄り、不安をあらわにしたという。
もっとも、クズ山のように人付き合いが苦手というわけではない。誰からも慕われる私の自慢の幼馴染は、それ故に対等に接することが出来る相手が非常に少ないのだ。
頼りになる人、というレッテル故に、頼られることこそ多かれど頼れる相手は少なくなってしまうのだ。
そのレッテルを自ら剥がせない限り、彼女もまたクズなのである。
余談だが、彼女の本体はメガネであり、肉体は「生徒会行くね」と言うためだけの道具であるとも言われている。これについては詳細が明らかになり次第、追って報告する。


唯「っていうかそんな毎日毎日生徒会室行って何してるの?」

和「生徒会室でイってナニしてるのよ」

クズである。




憂「お姉ちゃーん、そろそろ夕飯にするー?」

唯「はーい今行くー」


……(多分)最後の一人、平沢憂。言うまでもなく私の妹だ。
彼女については…何故だろう、言葉をちゃんと選ばないといけない気がする。
彼女の評価は、ほぼ誰からも等しく『何でも出来るいい子』だろう。天才と言っても差し支えないほど何でも出来る。
天才の私と同じ血が流れているのだから当然といえば当然だが。
それでも、最初から全てが完璧にこなせたわけではない。天才というのは、より短い時間で最大の効果を出す、何よりも効率のいい学習のできる人のことを言うのだ。
要するに、ほんの少しだけれど努力もしている。もちろんそれを私は評価する。
天才であるが故に能力面では何一つ欠点がない。性格面でも自らの天才っぷりを決して鼻にかけたりはせず、皆を思いやれる優しい子だ。
特に、全てにおいて劣る『今の』私さえも時には持ち上げ、評価する。理想の女の子であり、理想の妹だ。

そんな全人類の理想像のような我が妹だが、あえて欠点をあげるならば、やはりそれは『依存』だろう。
何故、憂は完璧なのか。聖者と言っても差し支えないほどのその隙のない『在り方』は、誰のためなのか。
言うまでもなく、『自分以外』のためである。誰かに求められる、誰かを助けることこそが生きがいで、その為に自らを磨いてきた。
だからもし、自分が必要とされなくなったら。その時憂は、何を想って生きるのだろうか。いや、そもそも生きれるのだろうか。

参拝客の居ない神社。崇めるものの居ない神様。信者の居なくなった宗教。それらの行き着く先は。

……憂に限って必要とされなくなることなんて無いと思うけど、私にそんな心配をさせるなんて、やっぱりクズだ。


唯「ねぇ憂、もし私が死んじゃったらどうする?」

憂「私も死ぬ」

クズである。




唯「――というわけでさわちゃん、卒業文集の作文これでいいかな?」

さ「アンタ私のこともこき下ろしといてOK出ると本気で思ってるの?」

 「あと、卒業文集でこんな愛すべき生徒の見たくない真っ黒い一面見せられても私が困るんだけど」

唯「さわちゃんしか困らないの?」

さ「いや、たぶんみんな困るんじゃないかしら…」

唯「じゃあいいじゃん、もう一人で苦しまなくていいんだよ?」

さ「余計ダメだって言ってんのよ! ちょっといい話っぽく言っても無駄よ!」

 「っていうか私がすっごくショック受けてるんだけど、既に」

唯「さわちゃんのこと酷く書きすぎたかな」

さ「唯ちゃんの本性に、よ……もうちゃん付けで呼べないレベルよ」

唯「呼び捨てで呼んじゃう? 恋人みたいに」

さ「平沢さんで」

唯「いけずー」

さ「誰かいけずごけじゃ!」

唯「知らないよぉ! いかずごけしか私知らなかったよ!」


さ「で、本当にこんなこと考えてるの?」

唯「うん」

さ「じゃあ唯ちゃんもどうしようもないクズねぇ」

唯「さわちゃんの学生時代みたいに?」

さ「私より酷いと思う」

唯「やっぱり私もクズなのかなー。直すべき?」

さ「それは難しいところね」

唯「あれ、意外」

さ「だって、なんだかんだで皆と上手くやれてるじゃない。表に出さなければ何も問題ないわ」

唯「さわちゃんの猫かぶりみたいに?」

さ「そうそう。人間誰でも少なからず汚いところがあるのよ。人を見下してきた唯ちゃんにならわかると思うけど」

唯「うん。いろんな人を見てきて、私は『こうはなるまい』って見下してきた。綺麗でありたい私は間違ってるの?」

さ「矛盾よね。綺麗でありたいが為に汚いモノを嫌悪する。嫌悪という感情そのものが汚いのに」

唯「…そっか、偽善なのかな」

さ「人間は常に偽善者で、矛盾を抱えた思想家よ」

唯「さわちゃんがかっこいいこと言ってる! 先生みたい!」

さ「おほほ、もっと褒めなさい」

唯「でも悪いけど、私はやっぱり欠点のない人になりたいよ。こうやって人を観察して分析してきたからこそ、ね。偽善者なんて、何よりも汚い存在だよ」

さ「つまり、誰も見下すことの無い聖者になりたい、と?」

唯「うん」

さ「誰も見下すことのない存在っていうのは、最底辺から皆を見上げるだけの存在よ? そして、常に皆から見下される汚らしい存在よ?」

唯「……あれ?」

さ「また矛盾しちゃったわね。そして、見下されるのが聖者ということは?」

唯「……今まで私が見下してきた人も?」

さ「いいえ、それはただの汚らしい人間のクズよ」

唯「…わけわかんないよ。じゃあもう人間辞めればいいの?」

さ「人間は人間としか仲良く出来ないし、人間と他種族の内面的な優劣を比較するのはちょっとナンセンスよ」

唯「じゃあ……どうすればいいの?」

さ「別に、今のままでいいと私は思うけど」

唯「人を見下すのは人間のクズなんじゃなかったの?」

さ「誰しもどこか汚いところのあるクズよ。人間皆等しくクズだというなら、クズでいいじゃない。ようはその中での自分の『在り方』よ」

唯「……どういうこと?」

さ「人を見下し、誰よりも汚いところを見てきたなら……それから目を逸らすな、ってことよ」

唯「……えっ、と?」

さ「唯ちゃん言ったわよね。『こうはなるまい』って思いながら生きてきたって。汚さを知るなら、それが正しく清い反応だと、私は思う」

 「誰よりも汚い面を知るならば、決してそれに染まらず、誇り高く生きればいいのよ。綺麗な面しか知らない人には出来ない生き方よ」

唯「……人を見下すのは、悪いことなんじゃなかったの?」

さ「見下すことしかしないならそう言うけど。見下すことで自らに得るものがあれば、一概に悪いこととは言えないでしょ?」

唯「どちらとも言えない、ってこと? 大人は汚いよ…」

さ「違うわ。唯ちゃん次第、ってことよ。人を見下しながら、唯ちゃんはどう生きるの?」

唯「………ちょっと、考えてみるよ。ありがと、さわちゃ――ううん、さわ子先生」


さ「っ……あははっ、そう畏まって素直に礼を言われると照れるわね」

唯「いっつもそうやって真面目にやってれば素直に尊敬できるんですけど」

さ「……ツンデレめ」

唯「さわ子先生はもうちょっと先生としての発言に責任を持つべきですよ。生徒の将来を左右するんですから」

さ「えー、そんなに大きなコト言ってないって」

唯「言いましたー」

さ「じゃあその左右された人を連れてきてよ」

唯「目の前にいるじゃないですか」

さ「……え?」



唯「……私、将来はさわちゃんみたいな人間のクズになりたいなー、ってね」




おわり
ネタもないのに続けようとするもんじゃないね
みんな寝れ