紬「ちょっと待って唯ちゃん、
  まるで私がお茶以外価値が無いみたいな言い方じゃない」

唯「えっ、そういう訳じゃないけど…」

澪「いや、唯、お前の言い方は悪意しか感じられないぞ」

律「そうだ、
  『澪ちゃんは優しいし、
   りっちゃんは面白いし、
   あずにゃんは可愛いし』
  と来て」

律「『ムギちゃんのお茶はおいしーし』…?」

     バンッ


律「ふざけるのも大概にしろよッッ!!!」

唯「ひぃぃ!」


梓「そうですよ! ムギ先輩が可哀想すぎますよ!」

唯「だって……澪ちゃんで『優しい』を使っちゃったから…」

紬「つまりそれは、
  私は『優しい』以外に取り柄がないってこと?」

唯「そ、そんなことないよっ!」

紬「じゃあ、もしムギちゃんのお茶がまずくなったら
  何て言うつもりなのかしら」

唯「えっと、えっと……」

律「ほら、やっぱり思いつかないんだろ」

梓「ムギ先輩のいい所なんて考えなくても
  いくらでも出てくるじゃないですか」

澪「確かにムギは美人で上品で気配りが出来て」

梓「勉強も出来て、
  キーボードも上手くて、作曲のセンスも抜群ですもんね」

律「ああ、それなのに
  それら全ての長所を無視して『ムギちゃんのお茶はおいしーし』?」

     バンッ


律「適当な事言ってんじゃねぇぞッッ!!!」

唯「ひぃぃぃぃっっ!!」


紬「唯ちゃんは私のことを
  ただのお茶汲みくらいにしか見ていなかったという事ね…」

唯「そ、そんなことないよムギちゃん!」

梓「じゃあどうして『ムギちゃんのお茶はおいしーし』
  なんて馬鹿げた事言ったんですか?」

唯「それは……」

澪「ムギの事をそういう対象としか見ていなかったって事だよな」

唯「違うよ…違うんだよ…」グスッ

律「はぁ? 何が違うって言うんだよ?」

唯「私はただ、
  みんなと一緒に飲むムギちゃんのお茶がおいしいと思っただけで……」

律「なるほど、皆で飲むムギのお茶がおいしいと」

     バンッ


律「結局一緒の事じゃねえかッッ!!!」

唯「ひぃぃぃぃぃぃぃっっ!」


律「唯はムギの凄さが
  イマイチよく分かってないみたいだな」

梓「そうじゃなきゃ
  ムギ先輩に対してあんな失礼なこと言えませんもんね」

澪「そうだ、今までのムギの役割を
  唯にやらせてみるっていうのはどうだ?」

唯「えっ…?」

律「それはいいな、
  お茶とお菓子を持ってくることから作曲まで唯に任せてみるか」

梓「あとは穏やかな笑みを振りまいて
  部内の空気を和ませる役割もですね」

唯「えっ…えっ…?」

澪「じゃあ、明日唯はそれらを全て完璧にこなすこと、いいな」

唯「そ、そんなの無理だよ!」

梓「唯先輩の淹れるお茶、楽しみですね」

律「そうだなぁ、持ってくるお菓子も楽しみだな」

澪「唯の作る曲のために歌詞のネタ考えとかないと」

紬「早く明日にならないかしらね」

唯「………」




 ………


唯「ただいま……」

憂「あっ、おかえりお姉ちゃん」

唯「ねぇ憂、紅茶って家にあったよね? 高級な奴」

憂「高級な奴…? あれなら前に二人で飲んだでしょ?」

唯「えっ…じゃあ家に紅茶はないの…!?」

憂「? 安物のティーバッグの奴ならいっぱいあるけど……」

唯「あっ、うん。じゃあそれでいいかな」

唯「お菓子はあるよね? お客さん用の高そうな奴がいっぱい」

憂「お客さん用の奴って……
  あれも前にお姉ちゃんが根こそぎ食べ尽くしちゃったじゃない」

唯「えっ……あっ、そういえばそうだっけ…」

憂「もう、お姉ちゃんったら」

唯「あはは…」

唯(どうしよう……)




 ………

 翌日の放課後。

澪「唯……」

唯「え、えっと、なんでございましょうか…?」

澪「紅茶がティーバッグっていうのはまぁ許せるよ。
  家にある奴で全然構わないからな」

律「ああ、紅茶はこれでいい」

唯「う、うん……」

律「問題はお茶菓子だよ」

     バンッ


律「なんでキャベツ太郎なんか持ってきてんだよッッ!!!」

唯「ひぃぃぃっっ」


梓「そうですよ、
  紅茶にキャベツ太郎って死ぬほど合わないじゃないですか」

紬「ティータイムを冒涜してるとしか思えないわ」

唯「そ、そんなことないよ! キャベツ太郎は紅茶と合うんだよっ!」

澪「ふーん…」

律「まぁとりあえず、お茶を淹れてくれよ唯」

唯「うん、わかったよ」


 ………

唯(紅茶ってどう作るんだっけ…)

唯(このティーポットにティーバッグ入れればいいのかな)

唯(5人分だから5個入れればいいよね)

唯(あとはお湯を注いでっと…)

唯(おお、お湯がいい感じのオレンジ色になったよ)

唯(よし、もっと紅茶エキスを抽出するために
  ティーバッグをスプーンで押そう)

唯(うんしょっうんしょっ)ヌチャァヌチャァ


 …………

唯「紅茶が入ったよ!」

律「おお、待ってたぞ。それでは早速……って、苦ッッ!」

唯「えっ?」

律「なんだよこれ紅茶っていうより漢方薬だぞ、
  こんな糞不味いお茶飲めるかよ」

梓「胆汁みたいな味がします…」

唯「うそっ、ちゃんとお砂糖とミルク入れたよ?」ズズズ

唯「………」

唯「うえ……本当にまずいよ……」

澪「……唯がこれほどまでに
  何も出来ないウスノロだったとは正直思わなかったよ」

律「ああ、紅茶もまともに作れないって
  一体どういう教育受けてきたんだろうな」

唯「うぅ…」

紬「……仕方ないわね。今回は私が紅茶淹れるわ」


 ………

梓「………ムギ先輩のおかげでお茶の用意は出来ましたが」

澪「問題はこのお茶菓子のキャベツ太郎だな」

律「全く合わねえぞ」

紬「紅茶の甘味とキャベツ太郎のソース味が混ざり合って
  最悪の味になってるわ」

唯(ど、どうしよう……
  キャベツ太郎と紅茶がこんなに合わなかっただなんて……)

律「お茶もお菓子も満足に用意できない……
  唯、お前本当に高校生なのか?」

唯「ううっ……」

澪「まぁ今日は初日なんだし許してやれよ、
  そのうち上手くなるだろ」

唯「えっ、初日? 明日もこれやるの……?」

梓「当然です、
  こんなので唯先輩がムギ先輩の凄さを理解したとは思えません」

律「そうだな、
  最低でも一か月後の学園祭まで続けてもらわないとな」

唯「そ、そんなぁ……」




 ――律の宣言通り、それ以降も唯の苦悩の日々は続いた。


     バンッ

律「なんで、お茶菓子に
  よっちゃんイカなんか持ってきてるんだよッッ!!!」

唯「ごめんなさいごめんなさい……」

梓「それはそうと唯先輩、曲はもう出来たんですか?」

唯「えっと……まだだよ…」

梓「ちょっ、ライブまでもう日が無いんですよ!?
   新曲無しでライブやる気ですか!?」

澪「私なんてもう62曲分の作詞済ませてしまったのにな」プンプン

唯「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 ………

唯「もう限界だよ……お願いだから許してよ……」

梓「えっ、何言ってるんですか、本当の地獄はこれからですよ?」

律「ああ、唯には入院するまで働いてもらうぞ」

唯「そんなぁ……」

澪「大体、
  唯は今までムギがやって来たことの10分の1も出来てないじゃないか」

梓「そうですよ、この程度で音を上げてどうするんです」

唯「うぅ……」

紬「さぁ唯ちゃん、紅茶とお菓子を用意してちょうだい」

唯「わ、わかったよムギちゃん……」

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