ここに親友であり、盟友の初ソロアルバムがある。
いろいろな面で感慨深い1枚...

私は今、この一枚をもって、盟友の元へと歩みを進めている..



私たちは高校時代に出会い、大学も同じというモラトリアム期間を得ることができた。

それは音楽のおかげ...そう音楽の...

ただ、それがあまりにも苦しみをもたらした。
音楽を「音を楽しむ」という陳腐な解釈では無く、私たちは「音で楽になる」を目指した。

それは唯ちゃんの声であり、澪ちゃんの詩だったと信じていた。
そして、実際そうだった...デビューまでは...

高3のとき、こっそりと高校生バンドだけのオーディションを受け、
最優秀賞を取り、そのままデビューの話もあったけど、


澪「まだ早いよ、とにかく大学に入ってからでもいいんじゃないか?」
律「え~、今からデビューすれば受験勉強なんか要らないじゃん」
唯「そーだよ澪ちゃん。勉強で苦しむより音楽で楽しようよぉ~」
梓「待ってください!!私はまだ高2ですよ!!高校中退の覚悟はありません!!」

そんな意見の対立を納めたのが私の一言

紬「まぁまぁ、才能を認めてもらっただけで十分でしょ?
  才能はすぐになくならないんだから、せめて梓ちゃんが卒業するまで待ちましょ」

モラトリアムが施行された。


梓ちゃんも同じ大学に入り、モラトリアムも終了。
そして私たちは才能を発揮すべく腕を研き、私達が3回生、梓ちゃんが2回生のときに、
デビューの話がもちあがった。

執事の斎藤がエージェントとして八面六臂が活躍をし、私たちに有利な契約を進めてくれたものの、妥協せざるを得ないことが2つでてきた。

斎藤「この2つを飲んでくれたら、お嬢様達の要求は全て飲むとのことです。」

一同「ん?」

提示されたことはたしかに2つ...

でも、それは私たち放課後ティータイムを完全に否定することでもあった。

1. 平沢唯のボーカルは子供っぽいので一般受けしない。メインボーカルは秋山澪と琴吹紬。
2. 秋山澪の詩は個性的だが幼すぎる。


唖然とした。

紬「私たちから唯ちゃんの声と、澪ちゃんの詩を奪うの?」
紬「それだと、音でみんなを楽にさせられないじゃない!!」
紬「斎藤!!なんとかならないの?」

(わかってますともお嬢様)

という表情をしながら斎藤は

斎藤「お嬢様のご意見はもっともでございますが、これはビジネスです。妥協も時としては必要です。」

斎藤「レーベルを買収してデビューするのであれば簡単でしょうけど、お嬢様は望んではいないでしょうし」

斎藤「妥協してデビューするか、自身を貫いて次のチャンスを狙うかはお嬢様方次第です。」

澪「私の歌詞がダメなのか...」
紬「澪ちゃんがダメじゃないのよ、作詞の視点を変えたらいいんじゃない?」

澪「...」
澪「でも自信がないよ...」
律「そんなに落胆しないでいいんじゃねーの?それに澪のボーカルは認められてるんだし」

梓「そうですよ澪先輩!!作詞はみんなでやればいいじゃないですか!!」
澪「...そうだな!!そうだよな!!作詞なんかだれでもできるよな!!」
澪「私が頑張っても無駄なだけだよな...」グスッ
梓「どこまで後向きなんですか!!」

律「そーだぞぉ~、澪はボーカルと見た目の二物で十分なんだぞぉ~」
澪ちゃんは、そーかなぁ?とか言いながら顔をあげニコッと笑った。
紬(そーよ!!澪ちゃんは立っているだけで華があるのよ!!)
澪ちゃんの顔をみて私たちは安堵し1つは解決した。

だが、もう1つの問題は「唯ちゃんの声」はみんな考えあぐねていた。

唯「私はもういいよ。ここまで一緒にやってこれただけで十分だよ...」グスッ

一同「...」

紬「唯ちゃん!!なに言ってるのよ!!唯ちゃんがやらないなら私もやらないわ」
梓「そうですよ唯先輩!!逆に唯先輩の声を認めさせてやりましょう!!」
紬「斎藤。詩については妥協します。でも唯ちゃんの声に関しては妥協できません。
  たとえ契約破棄になってもこれだけは譲れません。」

斎藤「ですがお嬢様。無名の新人に対してこれだけの好条件の契約はなかなかありません。
斎藤「ここは1つ我慢をなさり、平沢様はバックボーカル兼ギターということでひとまず契約を進めてみませんか?」

斎藤「実は少しだけ策がありますので...」

律「どんな策ですか?」
澪「まさか?下着でステージにでるとか...」)))ブルガク(((

斎藤「はっはっはっRunaways じゃあるまいし、そんなことはありませんよ。」
斎藤「実は契約期間の事でお話を聞いていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

紬「それは一体どういうこと?」

斎藤「最初の契約期間をできる限り短くしノルマを低くすることです。」
斎藤「当然、宣伝費も抑えら、レーベルあげてのサポートも得られません。」
斎藤「鳴り物入りでのデビューは望めませんが、小さなホール回りを中心としたライブバンドとして活動するならばちょうど良いでしょう。」

紬「なるほど。ライブ活動主体での活動なら唯ちゃんが歌っても問題ないわね。」
律「それでCDではバッキングボーカルとしておけば、契約に違反でもないしな!!」

斎藤「さようでございます。それと契約期間が短いと次回の契約更改時に平沢様のライブでのボーカルが好評であれば相手も強くでられないでしょう。」

澪「そういうことか!!なるほど」
澪(斎藤さんがエージェントで助かった)
紬「でしょ?うふふっ」
梓「よかったですね?唯先輩!!」
唯「う?うん...」
紬「唯ちゃん。ど派手はデビューは無理だけど、実力だけで這い上がるって、いかにもロックスターじゃない?」
律「格好いいじゃね~か!!いつかこの話を美談にしようぜ!!」

かくして放課後ティータイムは、

1. 契約期間は2年。
2. 学生なので学業との両立すべく、活動は長期休みに集中して行う。
3. アルバムは2年に3枚。シングルはそこから2枚カットできること。
4. 基本給はなく完全売上げの歩合制とするが、印税に関しては50:50とする。

で契約を結び、晴れてメジャーデビューの運びとなった。

デビューといっても派手なスポットCM が流れるでもなく、
ライブといっても100人規模のライブハウスを回る程度。
それでも観客が20人とかが当たり前のような状況が続いた。

転機は1年後にやってきた。

ヒロT「今月の邦楽ヘビーローテーションで放課後ティータイムの「五月雨20ラブ」!!」

大阪のFM局で3枚目のシングル「五月雨20ラブ」がマンスリーヘビーローテーションとなった。

関西圏から火がつき、気がつけばゴールドディスクとなっていた。

ライブでの動員数も一気に延び、関西圏だけでなく全国でも Zepp クラスなら満員にできるだけの人気を得た。

唯「ほぇ~今日も満員だねぇ~」
紬「そうねぇ~」
澪「びっくりだよなぁ~」
律「やっぱチャンスって巡ってくるんだなぁ~」
梓「本当ですよ。最初はどうなるかと思ったんですがあの時の妥協は間違いではなかったんですね。」

律「よーし!!今日も一丁暴れるとしようか!!」
一同「お~!!」

ライブはいつもながら盛り上がる。

なんといっても唯ちゃんのMCが冴えている。

唯「ずーっとレコーディングで徹夜続きだったんですよぉ~」
唯「そんな時でも休みがあって『明日は休みなんだぁ』と思うと」
唯「うれしくって、その夜は寝られないんだよね~」

観客1「ナイス!!」
観客「WWWWWWwwwww」

唯「そんなわけで、次のアルバムに入れようと思う曲をやっちゃおう!!」
唯「Sunday Siesta!!」

唯ちゃんの声が輝いている。

そう。これが放課後ティータイムの魅力。
ライブに足を運んでくれるお客さんはわかっているはず。

これなら次回の契約時では「唯ちゃんのボーカルを外す」条項は無くせるはず。

時は経って、次回契約更改時。

今度は私たちの方が優位な立場になっていた。

五月雨20ラブのスマッシュヒットの後、大きなフェスティバルにも数多く出演し、
3枚目のアルバムはついにダブルプラチナを記録した。

この2年間で私たち放課後ティータイムはオリジナリティとアイデンティティを確立し、唯一無二のガールズバンドに成長した。

二回目の契約では、私たちの要求がほぼ通った。

かくして放課後ティータイムの快進撃が始まった。

といっても、私たちはなにも変わらなかった。

変わったのは CD やライブDVD/BDの売上げとツアーの観客動員数だけだった。


唯「デビューの時、『私は邪魔なの?』とか思ったけど、みんなのおかげでここまでこられたよ」
梓「なに、柄にもなく感慨にひたってるんですか?」
唯「あずにゃん、それはひどいよ。あの時の気持ちを考えると感慨にも浸るってもんだよぉ~」
澪「そうだよなぁ~、あの時は私の詩もダメだって言われたしなぁ~」
律「それがあっての今だぜ?いったじゃん『いつか美談にしよう』って」
紬「そうよねぇ~、今は美談になったんじゃないかしら?うふふっ」

順風満帆とはこのことなんだろう。

でも天候は突然崩れるもの...その原因が私と唯ちゃんにあったこと...


唯ちゃんは持ち前の明るさと天真爛漫さでバンド一の人気者になっていた。
当初は子供っぽいと言われていた声も個性として認められ、
今や子供から(孫を思い浮かばせるということで)爺ちゃん婆ちゃんにまで
知られるようになっていた。

「音で楽になってもらう」という私たちの願を最初に体現したのは唯ちゃんだった。

少なくとも私はそう思っていた。

そんなある日。

スタッフ「唯ちゃん。ソロデビューしてみない?」
唯「ぇえ~!?」
律「すげぇなぁ唯!!澪やムギを差し置いてのソロデビューじゃん!!」
澪「わっ、私はソロデビューなんか無理無理!!」
紬「私は最初が唯ちゃんで良かったわ~」
梓「そうですか?ここは澪先輩かムギ先輩じゃないんですか?」

紬「梓ちゃん?私たちのデビューの時の条件を覚えてる?」
紬「唯ちゃんをメインボーカルにしないということ」
紬「それで表向きはバッキングボーカルだけどライブでは唯ちゃんもメインにして
紬「そして、一番最初のソロデビュー話が唯ちゃんなのよ」
紬「それって、私達が大事にしてたものが正しかったってことじゃない?」
紬「だから、私はとってもうれしいの。」

梓「そういわれるとそうですね。」
律「難しい事言ってるみたいだけど、唯が大事だったってことさ」
澪「あぁ、だからこそソロデビューは唯が最初ってのが重要なんだよなぁ」
唯「みんなぁ~...ありがとう...」

唯「でもわっ私、作曲できないし、作詞も下手だし...でも他人の曲や詩は歌いたくないし...」

紬「唯ちゃん。曲だったら私がいくらでも作ってあげる。唯ちゃんにぴったりな曲を!!」澪「わっ私の詩で良かったらいくらでも作るよ!!」

律「ドラムならいくらでも叩いてやるよ!!」
梓「私でよければ客演します。」
紬「ずるーい!!私も演奏したぁい」
澪「私だけのけもの扱いはいやだ」

唯「でも、そこまでみんなに頑張ってもらうと、放課後ティータイムと変わらないじゃん」
唯「もちろん演奏や作詞、作曲は手伝ってもらうけど、今回は私一人で頑張ってみる。」
唯「私が一人前で、みんなに頼らなくたって大丈夫だというところを証明して見せるよ!!」

私は唯ちゃんがこの上なく頼もしかった。その半面最大級のお節介をしようと考えた。


レコーディングスタジオにて

唯ちゃんはレコーディングルームでマイクの前に立っている。
私、澪ちゃん、りっちゃん、梓ちゃんはコンソールルームから唯ちゃんをみている。

今録音している曲は、覆面バンドで私たち放課後ティータイムが演奏した曲である。
作詞は唯ちゃんと澪ちゃん、作曲は私がメインでブリッジ部分を全員。

全員「クレジットはどうしよう?」

どうでもいいことを真剣に論議しながら、マイク前の唯ちゃんを見守っていた。

唯ちゃんは気負うこともなく、テイク4あたりで無事ボーカルトラックを完成させ、

プロデューサと私たち5人でミックスダウンも行い、渾身の一曲が完成した。

「音を楽しむこと、音で楽になってもらうこと」

この2つを体言したまさに理想の曲の完成だった。

「今日はお疲れさまでした。
 一生懸命頑張ったんだよね?
 わかってるんだよ。私のために頑張ってくれてるの。
 そんな君のために私ができることはあんまりないけど、
 ゆっくり後ろから手を回すこと位はできるんだよ♪
 ...」

唯ちゃんの声が優しさを身に纏った天使になった曲ができあがった瞬間に立ち会えたことは幸せだった。

リリースされたアルバムのタイトルは「ゆいいつむに」という平凡なもの。
私は作曲、演奏、アレンジ、プロデュースにかかわっていたんで、唯ちゃんは

唯「ムギちゃぁん。タイトルは『ゆいいつむぎ』にしようよぉ~」
とかいってたけど、これは唯ちゃんのアルバムなんで

紬「このアルバムは唯ちゃんの今までの努力の成果なのよ!!だから唯ちゃん以外、だれもそこに並んじゃいけないのよ」ニコッ

ということで「ゆいいつむに」に決定。

リリース日が決まり、プロモーションも精力的に行って...

なんてことも無く、

せいぜいメンバーが持っている FM 番組で宣伝するとか...
公式サイトでニュースをだすとか...
梓ちゃんが Twitter でつぶやくとか...

にも関わらずヒットチャートはベスト20に入り、ゴールドディスクにもう少しで届くようなロングランセールスを継続中です。


2