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八月一日


マクドナルドのクォーターパウンダースーパーサイズセットを一気食い後に即吐いたゲロみたいな色した曇り空は

ここ一週間継続中で なんでも鑑定団で2万円くらいの査定が付きそうな鳩時計でも見ないと今の時刻もわからない

でもそんな窓の外の風景など隣の住人の祖父の叔母の曾孫の初恋の人との想ひで程にどうでもよく

私はアイルトン・セナの如く超スピードで家事を終わらせお姉ちゃんとのおやつタイムの準備を開始した

今日のおやつはハーゲンダッツグリーンティー味×24個

きっとじゅるりと平らげてしまうだろう

自爆寸前のセル第二形態みたいに膨らんだビニール袋を手提げながら

お姉ちゃんの部屋のドア(ヘヴンズドアー)をノックする

こっ こっ

「お姉ちゃん、入るよ?」

と言って 激しく情動的にドアノブを捻った


ぎぃい きゅぃ


ドアが開く


あまりにもいつも通りなお姉ちゃんの部屋

もう何回見たかもわからない

「アイス持ってきたんだけど、食べる?」

わたしが限界ギリギリまで優しい声で質問すると

後ろを向きながらお姉ちゃんは返事をした


「$B$b$&2?2sL\$J$N$+3P$($F$J$$$h」

「え」

お姉ちゃんはセミだった


「$c%@%a$@$h」

セミは何か言った




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Q あなたの好きな人の顔が 別の人間のものに変わってしまいました

あなたはその人を愛す事ができるでしょうか



A お姉ちゃん可愛い(あと最近梓ちゃんもちょっと可愛い)


渋谷の一角でさも善人かのような態度で他人の運命(笑)を占う(笑)婆さんが出しそうな

心理テストは勿論作品のテーマなどではなく

目の前のセミなのか何なのかよくわからない存在の前ではどうでもよくなるものだ


台所へ行き 水でも飲んで落ち着こうとする

水を飲めばきっと落ち着く

水を飲めば・・・


きゅぅぃっ きゅぃ

蛇口を捻ると

ばばばばばちっ ばぶびびび

虫の羽音が聞こえた

急いで蛇口を閉めようとするが

ぶびぃ ばびびびびびびっび!!

片翅の千切れたセミがシンクの上を駆けずり回る


気持ち悪い ただただ気持ち悪い

意味が理解できないが 蛇口を閉めなければ

きゅぃぃっ

と力を込めて閉めると 小さな抵抗を感じた

べきちっ ぎぃ

べとり

二枚の翅と千切れた半身が蛇口から垂れてくる


思考を持たない植物でさえも気が狂うであろう状況下でも

私は水を飲めない




―――――

頭がおかしくなりそうだ

止むを得ず冷蔵庫に保存しておいたお姉ちゃん用果実パルプ満載オレンジジュースを飲み干し

もう一度 セミちゃんの様子を見に行こうとしたところ

今度は電話が鳴った

ぷるるるるるる ぷるるるるるるる

「もしもし、田井中ですけど・・唯いるかな?」

よし 人間の言葉だ

おまけに知り合いからときた(コイツあんま好きじゃないだけど)

「あ、それが・・信じられないことなんですけど・・」

私はデコに綿密に細密に話した

「それは凄いな・・」

「ホント、頭がどうかなりそうで・・」

「はははっ」

え 何笑ってんの

「憂ちゃんはセミが大嫌いだもんな」

確かに好きではないけれど

「あんまり嫌いなものだから セミを見るたび翅をもいでたっけk」

なんで

「あれ?それが気持ち悪いから嫌いになったのか?どっちが先?」

そんなことを知って・・

ぶっ ぷーぷーぷー

電話が切れた




――――――――

不安が脳細胞の一つ一つに溶け込んできたようで とにかく落ち着かない

私は玄関のドアをブチ開けて外へ駆け出したが案の定人っ子一人いなかった

ビッグバン発動以前の宇宙みたくひたすら静かで空虚でカオスな空気

まるで悪夢だ

私はひたすら 無口でシャイで鬱な町中を走り回った

が 誰もいない 

この町には 

私と お姉ちゃんに似たセミしかいないのだ


ういー あいすー  ういー あいすー

携帯の着信音が鳴った


「もしもし、憂ちゃん?」

「律さん・・」

「あのね、

「何か知ってるんですか?私、頭おかしくなりそうなんですけど」

「やっぱりさ、ホントに頭おかしいんだよ憂ちゃんは」

は?

「別に馬鹿にしてるわけじゃないよ?でもさ、おかしいのは憂ちゃん自身なんだよ」

「なんですか?確かに言ってる事はわからないかもしれないけど、全部事実で・・」

「それだよ」

「・・・・」

「だから、憂ちゃんの目にだけ世界がおかしく見えてるんだよ」

意味がわからない

何?なんたら症候群?


「蛇口のセミだって、普通に水が出てたのに 幻覚を捉えちゃったんだよ」

「じゃあお姉ちゃんもホントは普通ってことですか?私はずっとおかしいってこと?」

「明日には戻ってるよ」

「え」

「明日には全部戻ってるよ。寝ればどうせ治るさ」

なんだ全部私の脳味噌が勝手に面白可笑しく捉えていただけの勘違いだったのか

あーぁくだらないくだらない

もう家に帰って寝よう

お姉ちゃん明日には元通りになっててね

私は自室の電気を消して目を閉じた




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八月一日

曇っていた

時計で確認しないと ロクに時刻もわからない

私はお姉ちゃんのおやつのハーゲンダッツハニーミルク味×24個を持って

ドアをノックした

こっ こっ

「お姉ちゃん、入るよ?」

と言って 普通にドアノブを捻った


ぎぃい きゅぃ


ドアが開く


あまりにもいつも通りなお姉ちゃんの部屋

もう何回見たかもわからない


「アイス持ってきたんだけど、食べる?」

わたしが質問すると

後ろを向きながらお姉ちゃんは返事をした


「アレアシア牾ソアツア邀ハアg」

お姉ちゃんではなくセミだった

「オ荵。ア螻ニアォアツア゙ア ア ア・」

セミは何か言った




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Q あなたの好きな人の顔が 別の人間のものに変わってしまいました

あなたはその人を愛す事ができるでしょうか



A お姉ちゃん可愛い(あと最近セミちゃんもちょっと可愛い)


ひょっとしたら 作品の根底に関わる重要なテーマなのかもしれないし

そんなことも無いのかもしれない


台所へ行き 水でも飲んで落ち着こうとする

水を飲めば・・・


きゅぅぃっ きゅぃ

蛇口を捻ると

ばばばばばちっ ばぶびびび

セミが出てきた

意味が理解できないけど 蛇口は閉めない方がいいかな

びびいいいぶ ばばっびび

べとん べこん

ぶびびびびび びび

元気なセミはどんどん出てくる




思考を持たない胎児でさえも気が狂うであろう状況下でも

私は水を飲めない



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