一曲聞き終わると、

唯(なんか普通に和ちゃんが恋しくなったよ)

和に対する恋しさが増して、訳の分からないもやもやは感じなくなっていたから、

唯は携帯を手に取ってメールを打ち始めた。


唯「和ちゃん~(はぁと) なんか和ちゃんにメールするの久し振りだね!(花)

和ちゃんに会いたいよ~(びっくりまーく) 、っと」


唯「あ、返信来た」

和『高校卒業してからあんまり会ってないもの、

久しぶりに感じるのも無理はないわ。

丁度私も唯のこと考えてたのよ。

明日どこかでランチでもしない?』


唯「和ちゃんのメールは相変わらず絵文字ないなーwww」

唯『だよね!(ぴか) うん、そうしよー!(目はーと) 

明日のお昼に学校の前に集合ね!(きらきら)』


唯(明日和ちゃんとランチかぁ・・・ふふっ。

そうだ、りっちゃん達に明日は集まれないよ、ってメールしとこ)


明日の予定を思い浮かべている内に、

唯はさっきまでもやもやしてたことなどすっかり忘れて、

安心感に包まれて、その日は眠った。




和はPCの画面を見つめすぎて目が疲れてきたので、

さっきの曲をiPodにダウンロードして聴きながらベッドに横になっていて、

そんな時唯からのメールを受け取った。


和(『了解』、っと)

和(唯がメールくれてなんだか安心したわ)

和(思えば、私も唯が恋しくなったらメールでも電話でもすればよかったのに)

和(なんとなく考えにかすりもしなかったのよね・・・)

和(私、悩みすぎかしら)

和(明日唯に会えるとなったら全部どうでもよくなってきたわ・・・寝よ)




次の日、唯は早めに桜高の校門に着いた。

唯(和ちゃんまだかな~。)

携帯を見ると、まだ11時50分。少し早く来すぎた気がする。

唯(そうか、早く来すぎたのか・・・!)

ここまで走って来たというのに。

唯(暇だから和ちゃんにメールしよ)

唯『和ちゃんまだ~[?] 遅刻だよ~(怒り)』

唯(くぷぷ。私が早く来て和ちゃんが遅刻なんて珍しいねwww)


その時和はまだ眠い目をこすりながら寝巻から普段着に着替えていた。

昨日はなんだかんだ中々寝付けず、

iPodに落としたあの曲を何度も聞きながらベッドでごろごろしていた。


和母「全く和ちゃんったらだらしないよ~? 

こんな時間まで寝巻だなんて、和ちゃんらしくないよ!」


和「うっさいわねー、寝付けなかったんだから仕方ないじゃない」

和母「そうなの!? 寝付けないなんてさては和ちゃん思春期ですな!」

和(本当にこの母は唯そっくりだな・・・)

和「はいはい、そうかもね。」

和(まあある意味思春期と言えなくもないか・・・)


和「あ、唯からメールだわ。なになに、和ちゃん遅刻だよ、ですって?

11時はまだ朝じゃない・・・。」

和『ごめんなさい、さっき起きたところなの。もう少ししたら向かうわね。』

和(やれやれ、唯ったら何考えてるのよ・・・)

和は特に急ぐこともなく諸々の用意を整える。

結局和が桜高に着いたのは12時半だった。

和「さすがに待たせ過ぎちゃったかしらね・・・。

さて、唯は、と・・・。あ、あそこで猫と遊んでるわ」


和(そーっと・・・)




和「わっ!」

唯「ひゃああ!?」

梓三号「にゃああ!?」ガササッ

和「唯、久しぶりね」

唯「和ちゃん~!もう酷いよ!四十分も遅れた上に驚かすなんて!

あずにゃん三号が逃げちゃったじゃない!」

和「ごめんごめん。ていうかあんたあの猫に名前付けてたの?」

唯「そうだよ!うう、これからあずにゃん三号も一緒にランチしようと思ってたのに・・・」


昨日寝付けなかったことを話す余地などないくらいに、

二人はいつも通りの楽しい二人だった。

何の意味もなさない会話を交わしながら、歩きだす。


店に着き、唯はキャラメルマキアートとオムライス、

和はトマトジュースとカルボナーラを頼んだ。

唯「トマトジュースって、中々マニアックな注文するね~。さすが和ちゃんwww」

和「あんたこそ、お昼ごはん食べるのにキャラメルマキアートって。おやつじゃないんだから」

唯「えへへ~、だってキャラメルって文字をみたらつい飲みたくなったんだもん」

和「唯ったら本当に変わってないわね・・・」

唯「だって前に会ってからほんの二週間しか経ってないんだよ~? 

そんなちょっとで人は変わらないんだよ、和ちゃん」

和「ふふっ、それもそうね」

唯「和ちゃんも変わってないね~。マイペースなとこ!」

和「さっき自分で当たり前って言ったじゃない」

唯「えーだって~、和ちゃんしばらく私がいなくて大丈夫だったかなー、

って心配してたんだもん!」フンス

ドキッっとする。

唯といる時間の楽しさは何も変わってないけれど、前言撤回、唯は何かが変わった。

以前よりも軸ができたというか、少し滑舌もはっきりしたような気がする。

どこがどうとは言えないけれど、雰囲気の輪郭や色が。

和(でもそれは言わないでおこう)

それでも唯の笑顔は何一つ変わらない。

変わらず私を楽しませてくれる唯の笑顔。

きっとそれはいつまでも変わらない。

唯と離れ、会えなくなっても、遠い未来になっても、その笑顔はきっと輝いている。

だから、私はまだ、唯の変化に気付かなくていい。唯もだ。

それでも・・・

和「前に進んでるのね・・・」

唯「え? 和ちゃん、なんて?」

和「あ、何でもないの。それよりそのキャラメルマキアート、美味しそうね」

唯「っていうか和ちゃん、眼鏡は?」

和「やだ、あんまり急いでたから忘れてたわ。さっきから前が見えにくいとは思ってたのよね。」

唯「ぷーっwww 眼鏡忘れるって有り得ないよwwww」


今はまだ。




二人は、店員の冷たい視線を浴びるまで何でもないことばかり話した。

店を出る頃にはもう夕陽が地平線の彼方に浮かんでいた。

真っ赤な夕焼けが全てを染める中を、

唯「いやー、久々に和ちゃん分を補充しましたなぁー」

和「何よそれ」

二人は、殆ど進んでいないくらいゆっくり帰り道を行く。

唯「どっかにあずにゃん三号いないかなぁー」

和「あずにゃん四号を見つければいいんじゃない?」

唯「あ、和ちゃん今あずにゃんって言ったね!

和ちゃんもこれからあずにゃんのことあずにゃんって呼んでね!」

和「ふふっ、それもいいかもね。今度呼んでみるわ。」

唯「本当だよ!忘れちゃだめだよ約束だよ!」

二人の歩みは遅く、夕暮れの帰り道はどこまでも続いていくような気がした。




その夜、和は部屋でiPodを耳に当てた。

和(そういえば、折角会ったのに唯と将来のことについて何も話さなかったわね)

iPodをカチカチやりながら、楽しかったランチを思い出す。

あれだけ悩んだのに、会ってみればなんということもなく、

ただいつも通りの会話を交わしただけだ。

その時間もあっという間に過ぎていった。

だが、今日という日は、いつまでも覚えていて、

いつでも鮮やかに思い出せるような日になるような気がした。

和(まあ、また今度聞けばいいし、別に聞かなくてもいいか)

和はふと気になって、一旦iPodを置き、床に投げ出した工学のテキストを袋から出した。

気分の赴くままにテキストの一ページ目を開き、前書きに目を通し、ノートに問題を解き始める。

和は真剣な瞳でテキストを読んでいく。

問題を解く和のシャーペンはすらすらと進む。


いくらかテキストを進めた後、ふっと息をついて、

白い天井を見上げる。

なんだ、私ちゃんとK大に進めるじゃない。

そしてiPodを手に取り、何度目になるか分からない程聞き込んだあの曲を再生する。




唯もまた部屋で、ランチを思い出していた。

唯(全く、眼鏡を忘れるなんて眼鏡っ子として有り得ないよね~www和ちゃん面白すぎ)

唯(楽しかったから明日もランチしたいな)

唯(ああでも、今日は皆が来るの断っちゃったからな。明日はまた軽音部の皆で集まろうかな)

唯(こんなに楽しい友達に囲まれて、私幸せだなー)

唯は気分が高翌揚して、ギー太を手に取ってあの曲を奏でる。

唯(この曲が完成したら、絶対和ちゃんに聴いてもらおう。

歌詞も和ちゃんに向けてつくっちゃおうかな、あずにゃんにしたみたいに)

唯(次のランチはいつにしようかなー)

唯(次のランチ、次のランチ・・・)

唯(次のランチ)

唯(ランチランチランチ・・・あはは)


唯は涙していた。水滴がギー太のボディに落ちて、弦を弾いていた指も止まっていた。

やがて水滴はギー太のボディだけじゃなく、弦にも、カーペットにも、

もうどこに落ちたか分からないほどにいくつもいくつも落ちていって、

視界が霞んで水滴の跡も見えなくなった。


唯(えへへ、和ちゃん)

唯(私、和ちゃんがいてくれてよかったよ)

唯(和ちゃんがいてくれるのが嬉しくて、こんなに泣いてるんだよ)

唯(和ちゃんが面白すぎて、笑いすぎて泣いてるんだよ)

唯(ありがとうね、和ちゃん、こんな私に・・・)

その後、唯はギー太を抱えたまま枕に突っ伏して声をあげずに泣いた。

憂にも気づかれないくらい密かに唯は泣いた。

本当はわかっていた。

和とはもう長く一緒にいれないことを。

和とランチするのも、何の意味もない会話を交わすことも、

なくなっていくのだと分かっていた。

それでも唯は嬉しくて泣いた。

和の存在の全てに感謝しながら、和と過ごした日々を思い浮かべながら、

その笑顔の一つ一つを思い返して、それでも何故か胸は引き裂かれて、

涙は止め処無く流れた。


分かっているけど、今はまだ。


どれくらい経ったか分からくなった頃、押し殺した涙も止まった。

ぼやーっとする視界を腕でこすり、

霞みがかった頭の中に浮かぶメロディを求めて、

唯は昨日のCDをラックから引き出した。


♪ 君のこと以外は何も見えない なんて嘘だけど 


和(昨日はやたら唯のことばかり考えてたけど、
  やっぱり勉強も嫌いじゃないのよね。考えるの好きだし)
唯(昨日はなんか和ちゃんのことでもやもやしたりしたけど、やっぱ音楽って楽しいよね~)


♪ 離れたくないよ


和(離れるわけないじゃない)
唯(離れないよ)


♪どこに行くのニコニコして


和(唯が軽音部にはまり始めた時もちょっと寂しかったな・・・)
唯(和ちゃんって結構天然入ってるから
  ちょっと目を離すとニコニコしながらどっかいっちゃいそう)


♪ 君の隣に座っていい


和(高校に入ってから唯の隣に座ることは少なくなったけど・・・)
唯(和ちゃんが車の免許とったら隣に座って色んなとこに連れてってもらおう)


♪何もないがニコニコして 君の笑顔が見れればいい


和(唯が笑ってると私も幸せになる)
唯(和ちゃんを笑わせられたら最高の気分になるよ)


♪ところでマジに話をするけど 僕ってただのお調子者にみえるかい


和(唯がいきなりこんな話してきたら驚くわね)
唯(私がいきなりこんな話したら驚くだろうな)


♪自分でもさっぱり分かってないんだ


和(唯が自分のことなんか分かるわけないわよね・・・クスッ)
唯(いやそこはわかっとこうよ!やっぱ変な歌詞www)


♪馬車はとても遅く だってロバが引いてるんだもの


和(私達の今日の帰り道みたいね)
唯(和ちゃんって帰り道歩くのすごく遅いんだよね)


♪何もないが ニコニコして 君の笑顔が見れればいい
 馬車は走る 星の下を 二人毛布 被りながら 
 夜は冷える 肩組もうぜ 町の明かりが遠くに見え
 僕にとってこの寒さは 神聖さをましてくれるんだ


和(唯・・・)
唯(和ちゃん・・・)




和&唯(私は大丈夫だよ)






以上です。
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