翌日の夜 梓の通夜式

律「ううっ、梓、あずさぁー」ボロボロ

律「ごめんな助けてやれなくて、私はいっつもお前を助けて、やれ、なくて……」

澪「早すぎるよ梓……」シクシク

紬「かわいそうな梓ちゃん」ポロポロ

唯「……」

梓父「軽音部のみなさんですね」

澪「……ごめんなさい、私達のせいです」

梓父「いいえ、あなた達のせいではありません、悲しい事故です…」

梓母「梓は、みなさんと一緒に学校へ行って、部活をするのを何より楽しみにしていました」

梓母「みなさん、本当にありがとうございました」

律「ううっ、そんな……」

唯「……」


唯(私は悪くない)

律「あの時、もっと早く泳いでたら……」

唯(私は悪くない)

紬「あの時目をはなさなければ……」

唯(私は悪くない)

澪「もっと気にかけてあげてたら……」

唯(私は……悪く……ない)


唯「なんなのみんな!?」

律「えっ?」


唯「私のせいであいつが死んだって言いたいんでしょ?」

澪「そんなつもりじゃっ……」

唯「私が調子に乗って溺れかけたから、いけないって思ってるんでしょ?」

紬「唯ちゃん……?」

唯「私の代わりにあいつが死んだって言いたいんでしょ?違うのっ!!!!?」

律「ちょっと唯、落ち着けよ」

唯「いいよ、私の身代わりであいつが死んだ、じゃあ、それのどこがいけないの?」

唯「あいつなんか社会のお荷物でしょ?」

唯「私が生きてた方が百万倍意味があるよ!」

唯「どうせさっきの両親だって、こんな出来損ないが死んで清々してるよ!!!」

唯「あんな奴昔の時代なら生まれて直ぐ間引かれてたよ!」

唯「この歳まで生かさせてやった事をあり難く思って欲しいくらいだねっ!!!」

唯「あんな、バカで、役に立たない、人に迷惑かけるクズなんてっ!!!」


パチーンッ!!!

唯「ううっ、りっちゃん?」プルプル

律「やめろよ唯、そんな悲しい事言うのは」

律「やめてくれよ……」

唯「……」

唯「なに?」

唯「あんただって、あいつと同じ」

唯「あいつがいなけりゃ、りっちゃんが一番格下だからね」

唯「その次が澪ちゃん、おその上がお金の差でムギちゃんだね」

律「なんだそりゃ?」

唯「何って格付けだよ、あんたが一番バカで役立たずのクズだって事!!!」

唯「人間なんてそんなもんでしょ?違うの?」

唯「だから今回クズが一人消えただけ、世界は少しよくなったんだよ!!!」

唯「みんな何泣いてるの?お祝いすべきじゃない?」

律「いい加減にしろよっ!!!」

律「違うだろっ、人間の命はそんなもんじゃ無いだろ?」

唯「何?人権?宗教?道徳?」

唯「バッカじゃないっ!!!?」

律「お前も本当は、心の何処かでわかってるはずだっ」

唯「はあ?何言ってんの?」

唯「そんなのわかるわけ無いじゃない?理屈で言い負かしてみたらどうなの?」

唯「ああゴメン、バカだからそんな事出来ないよねー」

唯「今回の事で文句があるってんなら、いいよ、軽音部なんてどうせお遊び」

唯「私辞めるから、もっと有意義に時間が使えるね、よかった!」タッ

律「おい、唯っ、ちょっと待てよっ!!!」

律(私が本当に心配してたのは、梓よりむしろ……お前なんだよ)




唯はその後一流大学に進学し
一流企業に勤め
適齢期に財閥の御曹司と結婚
子宝にも恵まれ
健康も壊さず
交友関係も広い

何不自由ない羨まれる生活を送った
そして歳を取り
体が動かなくなるまで生き延びた

介護も付きっ切り交代制で人を雇った
金をかけているだけあって
十分な仕事をする介護士

だが、それでも唯の心は暗かった


唯「何で私がこんな目にあうの!?」

唯「私は人よりどんな事でも優れてたのに」

唯「何でこんな事になるの!?」




孫「うわっ、汚い、何時までこの婆さん生きるんだろうね」

孫嫁「食事も自分で取れなくて喉から入れてるんだってよ」

孫「あー、こりゃもう死んだ方がいいな」

孫嫁「でもまだ耳が聞こえるって話しだけどー」

孫「聞こえててもどうせ頭がボケてんだろ」

孫「ボケてなくても、自分じゃ満足に声すら出せないんだから同じだよ」

孫嫁「でもほんと、こんな役に立たない、迷惑かかる存在は」

孫嫁「ちょっと……邪魔よね」

孫「まあ、屋敷は広いから、部屋はいいんだけど」

孫「家の中に、こんなのがいる部屋にがあるってのはちょっとなー」

孫嫁「なんかイヤよねー」

孫「早く死なないかなー」


唯(こんな役に立たない、迷惑をかける存在なんて)

唯(死んだ方がましだよ……)

唯(ううっ……)

唯(あの孫も、小さい頃は可愛がってあげたはずなのに)

唯(志望校に合格した事も、いいとこのお嬢さんと縁談がうまく行ったのも)

唯(全部私のお陰なのにっ!!!)

唯(きっとあの鬼嫁の教育のせいね!)

唯(親の教育が……悪いから……)

唯(私は違うわよ、完璧だった)

唯(足りないものなんて何も無かったはずよ)

唯(なのに何故、今になって空しいの?)

唯(バカバカしい、本当にバカバカしい)

唯(どんなに頑張っても、結局人間は死ぬんじゃない)

唯(最後は役立たずになるんじゃない!!!)


唯(最近思い出すのは、遠い遠い昔の事)

唯(高校生時代……)

唯(私は一年半くらい軽音部という部活に入っていた)

唯(そこにいた梓ちゃん)

唯(バカで、役に立たなくて、迷惑な子)

唯(でも、みんなは梓ちゃんを愛していた)

唯(私にはそれがよく分からなかった)

唯(でも、そういう事って本当にあるの?)

唯(役に立たなくても、迷惑でも、尊いものってあるの?)

唯(それをみんなは知ってたの?)

唯(じゃあ、なんで、なんで私には教えてくれなかったの?)

唯(私は、「私の命は無駄じゃない」そう言えるものが何一つない)

唯(ねえ、教えてよみんな)

唯(梓ちゃん……)

唯(助けて、あの時みたいにっ!)




梓「だいじょうぶですよ、唯先輩!」

唯「えっ!?」

梓「会いたかったです唯先輩っ!」ダキッ

唯「なんで……梓ちゃん!?これは夢なの?」

唯「私は死んだの!?」

唯「あっ、そうだ!梓ちゃん、あの時はごめんなさい」

唯「貴方は私を助けに来てくれたのに、そんなあなたを……」

梓「いいんですよ、一人しか生き残れなかったんですよね」

梓「私はそこまで考えられる余裕無かったんですけど」

梓「唯先輩を助けるって目的は果たせました」

唯「だけど、私は……」

梓「私は泳げませんでしたから、自分が溺れるかもしれないって分ってても助けに行きました」

唯「ありがとうっ、ごめんなさい!」

梓「いえ、違うんです、私の方がお礼を言いたいんです」

唯「えっ、どういうこと?」

梓「私は、自分の命を捨ててでも、助けたいって思えるような出会いが出来ました」

梓「これは幸せな事なんです!ありがとうございました、唯先輩に出会えたからです!」

唯「そんなっ、そんなこと!?」

梓「自分よりも大切なものに出会えることが、本当の幸せなんです!!!」

梓「私は、幸せでしたよ!」

唯「梓ちゃん……」

唯「私は長く生きたけど、自分よりも大切にした物なんてあったかな?」

梓「良い悪いで人や自分を見るのは当たり前です」

梓「でも人生には、そんな物差しでは計れない、本当に大切なものがあるんですよ」

梓「それに出会うために私達はいるんです」

唯「そんな事、考えた事もなかった……」

梓「だから、今の唯先輩の命も大切ですよ」

唯「嘘だよ、私、もうこんななのに」

梓「私は実際、唯先輩の命を大切に思って行動しました」

唯「死んだ方がマシなんて言わないで下さい」

唯「でも、私、辛いよ、寂しいよっ」

梓「だいじょうぶですよ、唯先輩」ギュッ

梓「安心していいんですよ」

唯「梓ちゃん!あずさちゃん!!!」




唯「……」

介護士「えっ?なんで?」

介護士「笑ってる?」




それから三ヵ月後
唯は絶命した
穏やかな死であった
それを本当に気にかける遺族は
誰一人いなかった

ただ豪勢で盛大な葬儀が
空しく執り行われ 終わった


それから長い時間が経ち
人類は滅亡した
地球は太陽に飲み込まれ
その太陽も死んだ


さらに長い時間が過ぎ
この宇宙も終わり
次の宇宙が現われた

さらにそれすらも終わり…繰り返した





唯「あーずーにゃんっ!」ダキッ

梓「にゃっ!?」

梓「何やってるんですかぁー、離れてください唯先輩!!!」

唯「あずにゃん!あずにゃん!!!」ギュッ

梓「もうっ、唯先輩ったらぁー///」



お わ り