律「……」

唯「どうしたのりっちゃん、
  なんだか恋する乙女のような顔してるけど」

律「ばっ……し、してねえよそんな顔!」

唯「えー、絶対してるよ」

澪(律……そこまで男に飢えて……)しくしく

律「あーもうこの話終わり!
  練習するぞ練習、せっかくスタジオ借りたんだし」

唯「おお、りっちゃんから練習しようと言い出すなんて」

紬「練習の前に……ちょっといいかしら」

澪「なんだ?」

紬「斉藤のことなんだけど」

律「っ」

唯「あ、今ムギちゃんが『斉藤』って言った瞬間ドキッとした!」

律「してねーよ!」

澪「……」

紬「話していいかしら」

澪「え、ああ、話してくれ」

紬「実は斉藤ね……女性経験がないみたいなの」

澪「はぁ?」

唯「じゃあ斉藤さんって童貞なんだ」

紬「まあ、そうでしょうね」

律「……」

澪「な、なんでそんなこと分かるんだよ……」

紬「さっき言っていたでしょう。
  幼い頃からずっと仕事一筋に生きてきた……って。
  実際、遊びも娯楽もせずにただひたすら仕事だけをして生きてきたみたい」

唯「社会人の鏡だね」

澪「脇目もふらずに仕事に打ち込んできたから
  女性との接点を持つこともなかった、ってこと?」

紬「ええ……父も祖父もいつも心配していたわ。
  『斉藤は寝ている時以外は常に働いている。
   あれでは女と遊ぶ暇もないのではないか』ってね」

唯「でもそれじゃ本当に童貞かどうか分かんないじゃん。
  ただの憶測でしかないし、
  人の目を盗んで誰かとイチャコラしてたかもしれないでしょ」

紬「私もそう思って斉藤に尋ねてみたの」

澪「尋ねてみた……って、なんて?」

紬「『斉藤、女性と付き合ったことはあるの?』……って」

澪「ストレートだな」

唯「で、回答は」

紬「否、だったわ。
  『私は仕事だけが生きがいでございます。
   そのようなことにうつつを抜かしている暇はございません』だって」

唯「ほんとに童貞だったんだ。
  25歳越えて童貞なんて都市伝説だと思ってた」

紬「私もよ。ちょっと驚いちゃった」

律「……」

澪「……で、斉藤さんに女性経験がないってのがどうしたんだ?」

紬「ああ、そんな斉藤のために何かしてあげられないかなって思って」

唯「何かって言われても……」

澪「なあ……」

紬「風俗にでも連れていってあげようかと思ったんだけど
  そういうとこで童貞喪失、ってのも人生の恥かと思って」

唯「まあ確かに、風俗で童貞捨てるなんてろくな男じゃないよ。
  ねー澪ちゃん」

澪「私に振るなよ……
  ていうか押し付けは良くないんじゃないのか?
  斉藤さんは仕事一筋の人生に満足してるんだろ、
  別に女性経験がなくても本人がよければそれで……」

紬「それが、女性に未練たらたらなのよ」

唯「そうなの?」

紬「ええ、この前斉藤の部屋に行ったの。
  チェスの相手をしてもらおうと思ってね」

唯「うん」

紬「斉藤の部屋のドアをノックしても返事がないのよ。
  不在なのかと思ってドアノブをひねってみたら鍵が開いてたから
  ドアを少し開けて中を覗いたの」

紬「そうしたら斉藤がヘッドホンをつけてDVDを見ていたのよ」

唯「おー、エロビデオ?」

紬「惜しいわね。
  制服姿の女子高生を延々と写したやつだったのよ。
  イメージビデオって言うのかしら」

澪「うわぁ」

唯「エロビデオよりキモイね」

紬「で、その時は見て見ぬふりしてドアを閉めたんだけど。
  後日斉藤がいない時を見計らって部屋を探ってみたの」

唯「ほう」

紬「そしたらその類のDVDや雑誌が山ほど見つかったのよ。
  他にもアイドルモノだけじゃなくて
  萌えアニメやらギャルゲーやらが大量に……
  極めつけは80着のセーラー服よ。どこから入手してきたのかしら」

唯「さすがの私もそれは引くわ」

澪「女に未練があるというよりただのダメオタクじゃないか」

紬「ダメオタクも女性を求めるがゆえなんだから行動原理は同じよ。
  とにかく、私はそんな斉藤を救ってあげたいの」

唯「救ってあげたいって言われてもねー」

澪「今のままじゃ可哀想なのは分かるけどさ、
  結局は斉藤さんの問題だしなあ」

唯「誰か女の子を紹介してあげたら?」

紬「それは私も考えはしたけど……
  斉藤と付き合ってくれる女の子なんていないでしょう」

澪「年齢が近い人とかは……」

紬「お婆さんってこと?
  でも斉藤は若い女の子を求めてるんだから駄目じゃないかしら」

澪「うーん、そうか」

唯「老人趣味の若い女の子なんていないよねー」

律「……」

紬「もしくは老人でも構わないくらい男に飢えてる女の子」

律「……」

唯紬「うーん難しい問題ですよこれは」

澪(二人とも分かって言ってるな……)


律「あのー……」

唯「なあに? りっちゃん」

律「良かったら……私が」

紬「え、何?」

律「私が……斉藤さんのために一肌脱いでもいいけど」

紬「そう?」

唯「えーりっちゃんはだめだよー。
  斉藤さんが求めているのは『女の子』なんだよ」

澪「……というと?」

唯「童貞をこじらせた男性が求める女の子……
  それは極度なまでに偶像化されているものなんだよ。
  男性の理想が全て凝縮されていると言っても過言じゃない」

紬「だから私としては澪ちゃんが適任だと思うの」

澪「はぁっ!? なんで私……」

紬「その長い黒髪、巨乳、清楚な外見。
  まさに童貞が求める理想の女性像そのものよ」

澪「えー……」

唯「斉藤さんは女性に飢えてるんだから
  ここは一番女性らしさを持った人が行かないとね」

紬「そう、だからりっちゃんはちょっと適任じゃないわね。
  わざわざ名乗りでてくれたけど、ごめんね」

律「なんだよさっきから、失礼だなー……
  わ、私にだって女の子らしいところあるんだぞ…!」

唯「どっかで聞いたセリフ」

澪「本人がこう言ってるんだから律にやらせりゃいいじゃん……
  大体最初からそのつもりなんだろ?」

紬「まあね」

律「え、何?」

紬「いえなんでもないわ。
  じゃありっちゃんに頼もうかしら」

律「お、おう……どんとこいだ」

紬「じゃあ早速斉藤を呼んでくるわね」

唯「りっちゃんからかうの予想以上に楽しいね」

澪「……」



数分後。

斉藤「は、何のご用でしょうか」

紬「単刀直入に言うわ。
  斉藤、りっちゃんとデートしなさい」

斉藤「は、はあ……?」

唯「さいとーさんいつも忙しそうだから、
  こういうことする機会ないかなって思って。
  ムギちゃんからのプレゼントだよっ」

斉藤「それは嬉しいのですが、私は仕事が……」

紬「もう、それがいけないのよ。
  仕事仕事の人生に何があるというの。
  たまには女の子と遊んで息を抜かなきゃいけないわ」

斉藤「いえしかし……
    私とデートなど、その相手様にも……」

紬「大丈夫よ、相手も斉藤のこと気に入ってるから」

唯「ところで当のりっちゃんはどこにいったの?」

紬「ああ、澪ちゃんにお化粧してもらってるわ」

唯「へえ、気合入ってるね」

斉藤「ですが私、女性とそのようなことをしたことがなく……
    どのようにすればよいのかまったく検討もつきません」

紬「相手が引っ張ってくれるから安心しなさい。
  あなたはただ女の子と一緒にいるという状況を
  楽しみさえすればいいの」

斉藤「はあ……」

澪「おーい、律のメイクできたぞ」

律「ど、どう……かな……」

紬「おお、すごいわ澪ちゃん……
  さっきまでボス猿みたいだったのに
  今はまさしく美少女という言葉がぴったりよ」

唯「りっちゃんすごーい、可愛いよ!
  ねっさいとーさん、さいとーさんも可愛いと思うよねっ」

斉藤「は、はい……たいへん、可愛らしいと……///」

唯「わー、さいとーさん顔真っ赤だよー」

紬「こんな斉藤は初めて見るわ」

律「い、いやあ、はは……///」

澪(老人に可愛いと褒められて頬を赤く染める女子高生って……)


紬「じゃあ早速行ってきなさい、ふたりとも」

律「あ、うん……行きましょうか、斉藤さん……」

斉藤「はい……お供させていただきます」

律「///」

斉藤「///」

律「じゃあ……行ってくるよ、みんな」

斉藤「夜には戻りますので……」

ガチャバタン



唯「……」

澪「行ったな……」

紬「ふたりとも初々しくていいわぁ~」

唯「あー私が彼氏と付き合い始めた頃を思い出すよ」

澪「えっちょっと彼氏いんのかよ」

紬「その話kwsk」

唯「いやいやそれより今は二人を尾行すべきでしょ、行くよ」

澪「え、おいちょっと待てよ」



BGM:ぴゅあぴゅあはーと

                  ______
                . : ´ : : : : : : : : : :` : . .
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         ノ : : :,.. '"´   ______!:|: : : : : : : : :`.、
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      .!: l : : : :ムヒ'´ ̄`            ': : :.|: : : l: : i: : :!
      |: :!: : : :!´                  ': :.|: : : :!: :.l: : :i
      |: l : : : |            ,. -―-  ヽ!: : : :!.: :! : ハ
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      |:.l: l: :∧     ‐- 、      ,ィニテミx、  ||i: :|: : l.: :|: : : ヽ
      |:l :l :/:::ヘ   ,ィfチミx、     ' ヒ'fv゚::i i!}  リヘノ: : :!: :!ヽi⌒`ヽ
      |:!:.!:.j::::::::ハ 巛 ヒ'rv:!      乂zソ '′  |l:|.: : : !: |  )
      !l :l: !:::::::::::::', ` 乂ソ              r‐|:l|.: : : |: !
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   从|. : : : i i i | : : : i|: : : : i i{.∧ : : : : : : : : : : |        ゝ-' 〉
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: : : | 孑≦=ミく           ⌒ヽ | : : |
: : : |: :|7´ )心 リ           l : : |
: : : |: :{{トイ/リ       xそミく  , : : : |
: : 八:.|弋しン        ん'/リ }}./|: : : :j
: : : : :.|  、、         V少  イ: | : :|/
: : : : N        、     ': :|: : : |
l : : : |             /| : |/| : リ
:l: : : :! 、   ` ー'       `): : : :|: /
八 : :| \        /フ /V: : : '|/
  \ト、  >‐r<///′ |: : /
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       \〃    /    /


         , '´: : : : : : :!'´, <´: : :\: : :\: :`ヽ
        /: : : : : : : : : :レ´: : : : : : : : :/,斗-、!: : : :}
.        /: : : : : : : : :∧: |: : : :_, -ー'´    ヽ : : |
.      ': : : : : : :: : : : ∧|‐' ̄          ,  l : :l
       l: : : : : : : : :.| : : ハ           /  |: : |
      !: : : : : : : |: |: : : バ'' ‐- 、、    ″  |: :l
      l: : : : : : : |: |: : : : : l    、`    ′  |: : :!
.       |: :/: :|: : ::!::!: : : : : :!        'ィ‐ュ |: : :l
.      レ: : : l: : :ハ:|:, : : : : :!  .- ミ    '´ ,,, |: : :|
      ノイ: : :|: :r‐∨: : : : : |ィ´'⌒´     "  ∨: |
     '´ |: : ::|: :| Tゝ: :ヽ: : :!  ""         }: : !
       /:>、!: :\-∨: ヘ: :',   ィ⌒ー‐'^l  イ: : :ト、
      "´  〃ハ:  ̄V: ::\ゝ  丶二ニ -′イ∧: :/::l
         /´::::::∨从l: : : :ド 丶、      /::|:::::∨::::|
.         /:::::::::::::::∨::∧: : !\  ` ァ‐r ´|:::::/:::::::::::::::!
       イ::::::::::::::::::∧::::::\:!  \∠  l く::::/:::::::::::::::::ヽ
     /:::::::::::::::::::::::::∧:::::::バ  /i ヽ\j::::|::|:::::::::::::::::::::ト、
.    /:::::::::::::::::::::::::::::::::::`ー‐∧ /!.lj.ドリ ! |::ト、::::::::::::::::::::::\
    l:::::::::::::::::::::::::::::\::::::::::/:::::Y `‐!| !|  |::!::ヽ.\::::::::::::::::::::: \
    ∨:::::::::::::::::::::::::::::::\::::\:::::l  l」o  .|l::::::::::`ヾ 、::::::::::::::::::::\
     \::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ:::::\!   o  |::::::::::::::::::\ヽ::::::::::::::::::::::ヽ
       !::::::::::::::::::::::::::::::::::::|::::::::::|      {::::::::::::::::::::::::い::::::/ ̄`ヽ}



物陰から様子を伺う3人。

澪「律のやつ、あんなにイキイキして……」

唯「私たちといる時より楽しそうだよー」

紬「ちょっと悔しいわね」

澪「でも斉藤さんも楽しそうだな」

紬「ええ……あんなに笑ってる斉藤は初めてよ」

唯「ほんとに異性に飢えてたんだね、お互いに」

澪「……このままマジ惚れして両想い……なんてことは」

唯「充分ありえるねっ」

澪「もしそうなったら律があまりにも不憫だ」しくしく

紬「あっ、手をつないだ」

唯「おお、恋人つなぎだ」

紬「移動しちゃうわ、ほら早く。見失っちゃうわよ」

唯「あいあいさー」

澪「私はもう見ていられないよ……」



数時間後。

唯「暗くなってきたねえ」

紬「もうそろそろ解散かしら。
  斉藤、夜までに帰るって言ってたし」

唯「えー、このまま何も無しで解散じゃつまんないよ。
  せめて路チュー(死語)くらいはぶちかましてくれないと」

澪「老人と女子高生が路チューって
  はたから見たら援助交際以外の何ものでもないぞ……」

紬「あっ、公園に入って行くわよ」

唯「公園?」

澪「ひとけのない公園だな」

唯「はっ……まさかここであんなことやこんなことを」

澪「ねーよ……」

唯「えっ私彼氏と公園でよくするけど」

澪「健全な付き合いをしろよ」

紬「あれ、なんか斉藤とりっちゃんの様子がおかしいわ」

唯「えっ、おかしいって何が」

紬「ほら……二人で向かい合ってるわよ。
  何するつもりかしら」

澪「なんか喋ってるみたいだけど、聞こえないな」

唯「うーん、気になる……
  ちょっと近づいていってみようか」

澪「えっやめろよ、バレるだろ」

紬「大丈夫よ、隠れられる場所多いから」

唯「そうそう、見つからないように近づけば大丈夫だって」

澪「えー、絶対無理だろ……あ」

唯「どうしたの?」

澪「……律、泣いてないか?」

紬「えっ、ほんとに?」

唯「確かに泣いてるような……」

紬「あ、りっちゃん走って行っちゃった」

唯「どうしたんだろう」



薄暗い無人の公園。
その真ん中に斉藤はただ一人、
呆然と立ち尽くしていた。

斉藤「…………」

紬「斉藤!」

斉藤「お、お嬢様、どうしてここに……」

紬「そんなことはどうでもいいの。
  りっちゃんと何があったの?」

澪「律、泣いてましたよね。何をしたんですか?」

斉藤「申し訳ございません、お友達を泣かせてしまい……
    このようなことになるとは……」

唯「謝罪はいいから何があったか教えてよっ」

斉藤「実は……律様から、正式にお付き合いをして欲しいと頼まれまして」

唯「なんと」

紬「Wooo......」

澪「律……いくら彼氏が欲しいからって……」

斉藤「私はそれをお断りしました。
    『あなたにはもっと若く素敵な男性が似合う、
     だからあなたと私は付き合えない』と……
    そうすると律様は泣いて走って行ってしまわれました」

紬「そうだったの」

唯「せっかくの告白を振るなんてかわいそーじゃないですかー。
  受け入れてあげればよかったのに、
  さいとーさんだってりっちゃんのこと好きでしょ?」

斉藤「好き……という気持ちは私にはよく分かりません。
    ただ律様と一緒に居させていただけた時間はとても楽しかったし、
    この時間が永遠に続けばいいと思っておりました」

唯「ならそれが好きってことだよっ」

斉藤「確かに貴方のおっしゃるとおりかもしれません。
    しかし私は老いぼれ、彼女は女子高生。
    このような釣り合いの取れない交際は、
    必ずや良い結果には終わらないでしょう」

澪「……」

斉藤「私は今日……初めて女性とデートというものをしました。
    そして仕事をするだけでは得られない充実感を得られました。
    私はそれで充分なのです」

唯「さいとーさんの気持ちもわかるけど、
  りっちゃんの気持ちも考えてあげなきゃ」

斉藤「これは彼女のためを思っての判断でもあるのです。
    彼女はまだ若い……
    これからの人生でまだまだ素敵な出会いが待っているはずです。
    私と交際してしまえば……それが全てなくなってしまう」

唯「……」

斉藤「今彼女を悲しませてしまったことは反省しております……
    しかしいつか彼女には、
    大きな喜びの伴う出会いがあることでしょう。
    私なんかでは比べものにならないほどの……」

紬「斉藤……」

斉藤「お嬢様、本日はありがとうございました。
    彼女にも感謝を伝えておいてください」

紬「……ええ、分かったわ」

斉藤「皆様もありがとうございます。
    私のためにわざわざ……」

澪「いえいえ、私は何も……」



唯「さいとーさんに生身の女性の良さを知ってもらえたなら、
  私たちもやった甲斐があるってもんです。
  実際のデートはDVDやギャルゲーより良かったでしょー?」

紬「ちょっ……」



斉藤「…………な、なぜ……
    そのことを……私の秘蔵コレクションを…………」

唯「え、ムギちゃんが言ってたから」

紬「……」

斉藤「お嬢様……まさか……」

紬「ごめんなさい…………見てしまったの」

斉藤「……」

紬「……」

斉藤「……」

紬「……」

斉藤「う……うわああああああああああああ!!!」だだだだだっ

紬「ああっ、待って、斉藤ー!
  別に気にしてない、気にしてないからぁー!!」だだっ

澪「はは……」

唯「あれ、もしかして私やっちゃった?」

澪「ああ、やっちゃったな……」

唯「私たちも帰ろうか」

澪「そうだな……ところで唯」

唯「なあに?」

澪「唯の彼氏って、どんな人なんだ?」

唯「ああ、私の彼氏は今モニターの前にいる、
  このSSを最後まで読んでくれたみんな……だよっ☆」




   お  わ  り