純「特別な日」



厳しい冬が過ぎ、春が来た。
生き物たちはこの時を待ちわびたかのように歓喜しながら野を、山を駆ける。

「ふぁ…」

思わずウトウトしてしまいそうなポカポカ陽気のお昼、私は日頃の疲れを取るべく、いつもの公園でベンチに座り、くつろいでいた。


「こっちこっち~」

「まってよ~!」

この公園はいつも子供達でいっぱいだ。
子供達のはしゃぎ声がうるさいぐらいに聞こえてくる。

「まったく…ちっちゃい子供はやっぱり元気いっぱいなんだな…」

でも、それだけこの場所が子供達の笑顔で溢れていると考えればそれも悪くはない。

この公園は私の小学生の頃からあった。
長い歴史がある公園だ。

「さてと…」

ちょっと、木々の間をぶらぶら。
小鳥たちのさえずりが聞こえてきた。

ホーホケキョ

「ウグイスかぁ…」

木漏れ日が目に差し込んでくる。
一般ピーポーの私が言うのもなんだがこれが素晴らしい昼の情景というものなのだろう。


「あ。」

ふと、広場の方に目をやると、クレープ屋のワゴン屋台があった。

「クレープか…」

今はおやつ時であるため、当然の事ながら屋台にはクレープを求める親子連れの行列ができていた。

「おかーさん、クレープたべたい!」

「ダメ。我慢しなさい。」

「たべたいの~!」

「仕方ないわね…」

色とりどり、様々な味が楽しめるクレープは子供達にとって、この上なく魅力的な物なのだろう。

できれば私も食べたかったが、夜のメインイベントを考えて気持ちを抑えた。


私も梓や憂と一緒に食べたことが何回もある。(今のクレープ屋とは違うものだったが)
協力してもらって、期間限定メニューを一回でコンプしたこともあった。
財布が空になって母さんに怒られたっけ。

ホームレスらしい女の子に分けてあげた事もある。
その時の笑顔は今も忘れられない。
そういえばあの子は元気にしてるのだろうか?
願わくばどこかで幸せになっていてもらいたいものである。

また少し公園を散歩した。
最近は忙しくて、時間があまりないから、今日ぐらいはこの場所を満喫したかった。

私が小学生の頃によく遊んだ遊具は撤去されてしまっていた。
何でも老朽化と国の安全基準を満たしていない事とで撤去が決まってしまったらしい。
非常に残念な話である。


しばらくして

「あ、もうこんな時間か~」

すっかり日も暮れて、子供達も帰り始めていた。

「帰るか。」

私も我が家に帰る事にした。


程なく愛しの我が家にたどり着く。
何の変哲もない2LDKの一軒家。
私はインターホンを押し、
「ただいま。」
と一声かける。

そして玄関のドアを開けると…

「「おかえりー!」」


元気な声とともにしがみついてきた、

「おかーさん!」

「だっこして~」

「はいはい、わかったわかった。」

私の子供達。

5才の男の子と3才の女の子。
やんちゃ盛りの甘えん坊だ。

私は二人を優しく抱きかかえた。

「わーい!」

「きゃっきゃっ!」

「二人ともおっきくなったね~だっこはもう卒業かな?」

子供達はすくすくと成長していた。

「やだ!」

「ずっとだっこがいい!」

まだまだ私に甘えたいようだ。


子供を下ろし、手を洗った後、

「そういえばおとーさんはどこにいるのかな?知ってる?」

と訊いた。

すると子供達は、にっこり笑って

「おとーさんはだいどころ。」

「りょうりつくってる。」

こう答えた。


普段は主婦である私が料理担当だが、こういう特別な日などは旦那が料理を作ってくれることがある。
旦那の料理の腕は私以上に良く、子供達にも人気だ。

「そっか。ところで今日が何の日か知ってる?」

すると

「うーん…なんのひだろ?」

「しってるよ!おかーさんのたんじょうびでしょ?」

「あっ、そうだったっけ?」

妹は知らなかったがお兄ちゃんは知っていたようだ。

「正解。今日は私の誕生日だよ。」

「やった~!」

「…ごめんなさい。」

喜ぶお兄ちゃんと落ち込む妹。

「気にしないで。」

「うん…」

「でも来年は覚えていてほしいな。」

「…わかった。」

妹の顔に笑顔が戻る。


その時

「おーい。ご飯出来たぞ~」

「あっ、今行く!」

夕食の支度ができたようだ。

「ごはんだ!」

「わたし、たのしみ!」

「じゃあ行こ?」

子供達を連れ、食卓についた。
当然、食前の手洗いは欠かせない。


「「「「いただきます!」」」」

家族4人で食事の時間だ。

「おいしい!」

「おとーさんのおりょうりすごくおいしいよ!」

旦那の料理に喜ぶ子供達。

「ふふっ。それじゃあおとーさんの料理と私の料理はどっちが美味しい?」

子供達に訊いた。
すると子供達はしばらく考え込んだ後、

「どっちも!」

「わたしもどっちもすき!」

「そっか~!」

私も旦那も笑顔になった。

そして旦那の手料理を私達は心ゆくまで堪能した。


食後

「「「「ごちそうさま!」」」」

もちろんこれで終わりではない。

「じゃあケーキ持ってくるよ。」

旦那は冷蔵庫からケーキを取り出した。
そして蝋燭を差し、火をつけた。
大きなイチゴのショートケーキでその上にチョコレートでできたプレートが乗っかっている。
「おたんじょうびおめでとう」の文字が書かれている。


「はっぴーばーすでーとぅーゆー」

「はっぴーばーすでーとぅーゆー」

「はっぴーばーすでーでぃあーおかーさん」

「はっぴーばーすでーとぅーゆー」

子供達がお決まりのバースデーソングで私を祝う。
思わず笑顔が綻ぶ。

「それじゃあ蝋燭消すよ。」

それから私はふーっと一息で蝋燭の火を消した。

「すごーい!」

子供達が驚いたみたいだ。

ケーキを切り分け、みんなで食べた。

「…」

妹が私のチョコプレートをじっと見つめている。

「ん?これ欲しいの?」

私はそれに気がつく。

「うん。でもがまんする。おかーさんのたんじょうびだからそれはおかーさんのものだから。」

「そっか。ありがとね。」

とても私の子とは思えないほどのいい子である。

イチゴのショートケーキとチョコのプレートはもちろん甘くておいしかった。


ケーキを食べ終わり、食休み。

「おかーさん、これぷれぜんと。」

「わたしたちふたりでえらんだんだ。」

子供達がくれたのは小さな小物入れ。
可愛らしいウサギの刺繍がある。

「ふふっ、ありがと。大事に使うからね。」

子供達の頭をなでてあげる。
子供達もとっても嬉しそうだ。

「それじゃあ俺からはこれ。」

旦那はおしゃれなカバンをくれた。

「ちょうど買い換えようと思っていたんだ。ありがと。」

旦那にも感謝の言葉を。

私はどこにでもいるような普通の人間だ。
旧姓の鈴木を捨て、新しい名字になっても、普通過ぎる名前だし、ベースがちょっと出来るだけで後は平均的な能力の持ち主だし。

でも、そんな私にも特別な日がある。

それは誕生日。
私がこの世に生を受けた日だ。

全ての人に訪れる一年に一度の特別な日。

高校生だった頃にはお父さんお母さんに兄貴、梓や憂に祝ってもらったっけ。

今は愛する旦那とお腹を痛めて産んだ大切な子供達が私を祝福してくれる。

私はとっても幸せ者だ。


願わくば私達家族4人、これからもずっとずっと幸せでありたい。



おしまい!