「さわちゃん…”これが桜高軽音部の日常”」



……これはある日、部室で起きた出来事である。


放課後ティータイムの5人が練習をしている。


唯と梓はギターをメタメタにかき鳴らし、澪はベースを大音量で響かせる。

律は半端ない勢いでドラムを叩き、紬もまた全身で鍵盤を叩いていた。



演奏が終わる。



「ふぅ……」

「なかなかいい感じに弾けたんじゃない。みんな」

「勢いのあるドラムが凄かったな」

「ほほぅ、わかってきたじゃんか」

「よし、この曲は終わり」

「おぅ、次の曲やったろうじゃ~ん」



―――――
――――
―――



そんな和気あいあいとしたなかへ、

全身に黒衣をまとった招かれざる客がやってきた♪






「きゃああああああああああああああああああああああああああ」



「どったの澪ちゃん?」

「でっ、ゴキブリがいるぅぅぅぅぅぅ」

「もう、そんなこと言ったらあずにゃんが可哀想じゃん」

「ちょっと、誰がゴキブリですかっ!」


「ち、違う。梓の後ろに、でっかいゴキブリがいるんだぁぁぁぁぁぁ」

「へ?」




彼女たちが振り返ると、

全長10㎝はあろうかというゴキブリが壁に張り付いていた。

「うわあああああああああああああああ」

「ぎゃあああああああああああああああ」

「ひぃっ」





丸々と太り、2本の触角と6本の脚をもつ油ぎった”ヤツ”は、

彼女たちの声に反応したのかどうかは分からないが、宙に、舞った。


周囲に油をまき散らしながら、8の字を描き飛んでいた”ヤツ”は

踵を返し、唯のもとへ向かって行った。



  ブーン



「唯、アブないっ!」

「ああああああああああああああああああああああっ」




”ヤツ”と唯との距離は5メートル、3メートルと縮まっていく。

その事態に唯は、手元にあったギターのネックを脊髄反射的に持ち、

大きく振りかぶって、”ヤツ”に殴りかかった。

「こっ、来ないでぇ」


が、空振りっ。

”ヤツ”は天井に方向転換し、張り付いた。

その反対側の床へ、ギターは勢いよく叩き付けられる。



  ドンっ

  ボキィ


あまりの勢いにギターのネックは真っ二つに折れ、

今度はネックのとれたギターが、まるでリモコンのコマ送りをしたかのように

ゆっくりゆっくりと宙を舞う。



放物線を描いたギターは、頂点で一端停止し、そして再び地面に叩き付けられた。



  ゴンッ


「……」

「……ギ、ギターが」

「……壊れた」



唯のギターは小さな木片を地面にばらまき、

完全に、死んだ……



(そしてしばしの静寂)



「あはっ」

「ゆ、唯?」


それと同時に、今までの平沢唯も、死んだっ。

「あははははははははははははははははははははははっ」

「唯も……」

「こ、壊れた……」


「あはっ♪」

「あははははははははははははははははははははははっ」


乾いた、憎しみと狂気の混じった声を部屋中に響かせた唯は

天井の”ヤツ”をギョロリと睨むと、テーブルへ向かって歩いて行った。



そしてケーキを切った、テーブルの上にあった”包丁”を鷲掴みにし、

もう一度”ヤツ”をにらみ、手に取った”包丁”を、投げつけるっ。

クルクルと回転しながら”包丁”は”ヤツ”へ飛んでいく。

しかし”ヤツ”は危険を察したのか、また、飛んだ。


”包丁”はそのまま天井にぶつかり、跳ね返り、向きを変え、以前の対象者ではなく、

一切の事態に心を奪われていた、梓の心臓を、貫いた。



  ザクッ



「……えっ?」


とだけ言い残し、梓は、逝ってしまった……


「うわあああああああああああああああああああああああっ」

「あずさっ。あずさあああああああああああああああああっ」

「……」


悲鳴が室内にこだまし、窓ガラスを揺らす。


”ヤツ”はその窓ガラスにピタと張り付くと、動きを止めた。




「おのれっ、ギー太だけでなくあずにゃんまでもっ!」


唯は片方の眼で”ヤツ”を、もう片方の眼で棚を見る。

そして棚にあった”ハサミ”を見つけ、それを取ろうと歩き出した。


その唯の横で澪は、倒れている梓に、駆け寄る。

そうして、梓の命を確かめようとしたが、すでに梓は抜け殻だった。


「梓、こんな簡単にっ、逝ってしまうなんてっ……」


涙を流す澪。

と、間髪おかず唯は叫ぶ。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「え?」



今度は”ハサミ”を投げつけた唯。しかし、またも”ヤツ”には当たらない。

窓ガラスにぶつかった”ハサミ”は2つに分解され、跳ね返る。

勢いは死なず、その別れた2つは、律の両眼に突き刺さった


  ブブスッ


「目がぁっ、目があああああああああっ!」

「なんじゃこりゃあああああああああああ」

と、数秒間のたうちまわった後、律は、ショックで死亡した。



律の死亡と同時に、”ヤツ”は生命力のある羽音をたてて、またも飛び回る。

”ヤツ”を目で追う唯。

今度は、澪の艶のある長髪に止まる。


「ひぃっ」


本能的に澪は、恐怖を感じた。


”ヤツ”は頭の裏側の、髪の毛にいるために、澪からは見えない。

なんとか”ヤツ”の姿を見ようと、振り返った澪が見たのは、

”カッター”を手に取り、切りかかろうとする唯の姿だった。


澪は、絶望を理解した。

 ざくうぅぅぅ


またも、刃は、”カッター”は”ヤツ”には届かず、

代わりに、澪の喉笛をかっ切った。


澪は口から

「ぼおぶっ」

の声と、大量の血を吐きだして、梓の上に倒れ込んだ。




「なんでっ!? どうしてこうなるのっ!??」

と、唯。


圧倒的な、理不尽!


この部屋の中で、既に3つの命が、失われた。

残りの命はあと3つ。

「……どこにいったの?」

唯は、”ヤツ”の姿を見失っていた。

が、それも数秒だけの話だ。


”ヤツ”は、床に、仰向けになってもがいていた。

6本の脚は空中をかき、羽は床を蹴るが、動けない。


「ようやく、キミを殺す事が出来るよ……」



「唯ちゃん。はい、”ナイフ”よ」

「ありがとっ」

梓と澪が倒れてる横の、”ヤツ”がもがいてるその前に

唯は片膝をたてて座る。


”ナイフ”を逆手に持ち、めいっぱいその手を掲げ、

”ヤツ”に対して振り下ろすっ。



  ぶしゅっ

「これは、ギー太のぶんっ」


唯は作業を繰り返す。

「これはあずにゃんのぶんっ」

  ぶしゅっ


唯は作業を繰り返す。

「これはりっちゃんのぶんっ」

  ぶしゅっ


唯は作業を繰り返す。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああっ」


ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!


……”ヤツ”はもう、原型をとどめていない。


「みんな、わたし、やったよ……」

唯の手から力が抜け、ナイフを落とす。

  からからからん

というナイフの音は、祝福の鐘音のように聞こえた。



恍惚の笑みを浮かべる唯。


しかし彼女の顔は、すぐに苦痛に埋め尽くされた


「え?」

唯は自分の腹部を見た。

彼女の腹部から、”ドス”の刃が飛び出している。


「ナニ、コレ……」


そう言い残すと、唯も絶命した。



「うふふふふ」

「わたし、こうするのが夢だったの~」

そう言い残すと、紬は”キリ”を手に取った。


続いて頭突きで窓をかち割って、”キリ”を喉に押し込むと、

窓から地面へダイブした……









ある日の話~♪

これが桜高軽音部の日常~♪


―――
――――
―――――

ジャーン♪







「はぁ、はぁ」

「流石に、キツイですね。この曲の演奏は」

「歌ってた私も、喉もうガラガラだよ」

「これが、デスメタルっ」

「さわちゃん世代の、桜高軽音部の先輩が残してった曲……」

「そういえば唯先輩?」

「なになに~?」

「7年前の先輩たちの歌詞を、私達用に書き換えたのは知ってるんですが、この原曲の歌詞を作ったのって…」

「うん、さわちゃんだよっ!」


(さわちゃん……)

END



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