朝――


その日は朝から太陽が活発で、ジリジリとアスファルトを焼き付ける


そのアスファルトのそばに植えてある木の上では
生き延びるためにこれでもかと鳴き続ける蝉たち


そして彼もまた生き延びるために
泣き続けながら走り続けていた。


「待ちやがれ!! 伊藤カイジ!!」


3人の借金取りが一人の男を追いかける


カイジ「うっ…ぐぅ…はぁはぁ……」


彼は目に涙を浮かべながら懸命に借金取りから振り切ろうとする


カイジ「あんな奴らに… こんな所で捕まるかっ… 死ねない… 死ねないんだっ」


「てめぇ、逃げきろうなんて考えるなよ!!」


カイジ「くそっ…… しつこい奴らだっ……!!」


ふと目をやると公園が視界に入る


カイジ「しめたっ!! 公園の茂みに隠れれば奴らを撒けるっ!!」


そそくさと公園の茂みに身を隠す――


「くそっ!! 公園に入っていくとこまでは確認したんだがアイツ何処に行きやがった!?」

「手分けして探すんだ!!」

「はっ!!」


~~~~~~~




唯「よし!! これだ!!」


ギターを背負った少女がくじ箱からくじを引く


店員「えっと、チャレンジ賞ですね」


店員は少女にティッシュを渡す


唯「ちぇっ、はずれかぁ……」


肩を落としながら店を後にする


唯「あ~あ、あのコンビニくじの特賞『デラックス1/1羊もふもふぬいぐるみ』」

唯「欲しかったな~ 次こそは当てたいよ」

そう呟きながらコンビニで買ったジュースを傾ける


唯「んぐっ、んぐっ。ぷはぁ。やっぱり今日みたいな暑い日は炭酸だよね~」

唯「炭酸が火照った体に染みる染みるっ……!!」

唯「……ありゃ? もうなくなっちゃった。」

唯「やっぱり暑いとすぐ飲んじゃうな~ えっとゴミ箱はと……」


当たりを見回す――


唯「あっ、あの公園にごみ箱があったはず!! あそこに捨てようっと」


~~~~~~


唯「あったあったゴミ箱。これでよしっと」

カイジ「……まずいっ。声が聞こえた。あいつらが来たかっ……!!」


カイジ慌てるっ――!!


ガサガサ――


唯「んっ? 何だろ? 茂みからガサゴソ音がする。もしかして野良犬かな?」


ひょいと茂みに顔だけ突っ込み覗いてみる――


唯「あっ」

カイジ「いっ!!」



目と目が合う。
見つめあう瞬間――


カイジ「うっ……!! まずいっ!!」

唯「え~と、お兄さん……何やってるの?」

カイジ「おっ、俺は……」

「お嬢さん、ちょっといいかな?」


後ろから声が聞こえ、唯は茂みから首を引っ込める


「この伊藤カイジって男を見なかったか?」

借金取りが唯に写真を見せる


カイジ「まずいっ……!!」


カイジの額にさらに汗が流れる


唯「あっ!! この人!!」

「知っているのか!?」

唯「たった今、会いました!!」

カイジ「終わった……」


「本当か? そいつは何処にいたんだ?」

唯「駅の方ですれ違いました!!」

カイジ「……!!!」

「駅か!! そんなところまで移動してやがったか……くそっ」

「教えてくれてありがとう。お嬢さん」

「急ぐぞ」

「はっ」

借金取りは早々と公園を後にする

唯「お兄さん。もう大丈夫だよ」

カイジが茂みから出てくる

カイジ「……なぜ助けた?」

唯「えっ?」

カイジ「なぜ見知らぬ俺を助けた?」

唯「だって、なんか追われている感じだったし」

唯「助けてあげた方がいいかなぁって」

カイジ「ならない……」

唯「えっ?」

カイジ「俺を助けても一文にもならないぞ」

唯「別にお礼が目当てじゃないよ~」

カイジ(お礼が目当てじゃない? そんな自分に得がないのに助けたというのか!?)

唯「?」

カイジ(いくら可愛い顔をしているからって、そんな天使みたいなことが……)

唯「伊藤カイジさんだっけ? 私平沢唯って言います!! よろしくね!!」

カイジ「あっ…その…よ…よろしく」

唯「照れてるの?」

カイジ「ばっ、馬鹿野郎…そん、そんなわけねーだろ!!!」

唯「あはは、カイジさんって面白いね!!」

カイジ「面白い? おちょくるのもいい加減に……」

唯「カイジさんって言いにくいからカーくんって呼んでいい?」

カイジ「カッ、カー…カー」わなわな

唯「そんなカラスじゃないんだから」

カイジ「お、お前なぁ」


怒りとあきらめが入り混じった何とも奇妙な感情になるカイジ


唯「なんで怖いおじさん達から追われているの?」

カイジ「そ、それは、えっと……」

唯「あ~!!!!!」

カイジ「な、何だよ!?」

唯「もうこんな時間!! 学校に遅れちゃう!!!」

カイジ「それだったら、早く、学校に……」

唯「カーくんも一緒にきなよ!!」

唯「私があのおじさん達に見つからない、とっておきの場所を教えてあげるよ!!」

カイジ「本当か!?」

唯「はら、早くっ!!」

そう言ってカイジの手を引き、共に走る

カイジ「ちょ、また走るのかよ… もう少し休みた……」

唯「遅刻~ 遅刻~!!」


~~~~~~~~~


唯「着いたよ。ここならおじさん達も来れないよ」

カイジ「……ここって」

唯「桜が丘高校だよ!!」ふんす

カイジ「女子高じゃねーか!! こんなところに俺が入れるわけねーだろっ」

唯「だいじょーぶ!! 裏から入れば誰にも気づかれないよ」

カイジ「そんなこと言っても……っておい!!」


カイジの手を引き、裏口に回る


唯「よ~し、とりあえず侵入成功だね」

唯「え~と次は」

カイジ「俺をどこに連れていくつもりだ」

唯「こっちだよ」

カイジ「ちょっ、引っ張るなって!!」

唯「ここなら安全だよ」

カイジ「ここは?」


唯「私たちの部室。さぁどうぞ!!」


中へと通されるカイジ――


唯「でもここだともしかしたら人が来る可能性も考えられるから」

唯「この奥の物置場に隠れているといいよ」

カイジ「この中にか?」

唯「ちょっと狭いかもしれないけどここなら100%安全だよ」

カイジ「わ…わかった。すまないな……」

唯「いいえ~ 困った時はお互い様だよ」

唯「そしたら私はこれから授業があるからもう行くね」

唯「放課後になったら、向かいに来るから」

カイジ「あぁ、わかった」

唯「じゃーねー カーくん!!」

手を振りながら物置場のドアを閉める


カイジ「とりあえず助かった…… 借金取りの奴らはさずがにここまで探しには来ない」

カイジ「時間をおいて夕方頃までここにいれば奴らも今日の捜索は諦めるだろう」

カイジ「危ないところだった。唯ちゃんのおかげで助かったぜ……」

カイジ「おまけに隠れる場所まで提供してくれるとは」

カイジ「天使っているんだな……」


思わぬラッキーが続くカイジだったが
これから起きる不測事態にカイジはまだ気付かないのだった――


カイジが物置場に身を隠してから3時間が経過した


カイジ「はぁ、はぁ、暑い……」

カイジ「何℃あるんだこの部屋……」


それもそのはず
今日はアスファルトを焼き付けるような真夏日――


クーラーもない、閉め切ったこの部屋では
新鮮な風も通らず気温は上昇する一方である


カイジ「40℃はあるんじゃないのか? あつい……暑い」

カイジ「おまけに喉がカラカラだ」

カイジ「朝から走り回って、まだ水分を一滴もとってねぇ」


それに関わらず汗だけは体から出続ける


カイジ「だ…脱水症状で死んじまう……」

カイジ「くそっ、もう我慢できねぇ。ここから出ちまおう」


カイジがドアノブに手をかける


だが――

カイジ「だが、このまま出て大丈夫か?」

カイジ「もし、ここの生徒や先生に見つかったらどうなる?」


『21歳無職 私立女子高に不法侵入!!』


カイジ「なんて見出しで新聞の一面を飾っちまうだろうな……」

カイジ「俺はこの学校の地形を把握していない」

カイジ「誰にも見つからず、外に出るのは難しすぎるか……」

カイジ「くそっ!! 新聞の一面だけは嫌だ」

カイジ「おとなしく、唯ちゃんが帰ってくるまで待つしかないのか……」

カイジ「俺の体力が持てばいいけど……」


それからさらに3時間が経過――


梓「純~ 早くしなよ。次体育で移動だよ」

純「行きたくないよ~ この暑い中、外で走りこみなんて御免だよ」

憂「今日、今年で一番暑い日らしいからね」

純「そうなの!? 余計行く気なくした~」

梓「もう暑いのはみんな同じだよ。我慢しなよ」

純「嫌だ~ 死んじゃう~」


梓「大丈夫、ちゃんと水分補給して自己管理すれば死にはしないよ」

梓「暑さで死ぬなんて大げさすぎ。そんなの甘えだよ」



一方物置部屋では――


カイジ「……し、死ぬっ」

カイジ「ほ、本当にはぁ…はぁ…やばっ…みっ…水」




純「むっ!! 私は甘くなんかないもん。自己管理ぐらい出来るし」

梓「ははっ、わかったわかった。そしたら二人とも行こう」


三人は教室を出ていく――


物置部屋に戻り――


カイジ「唯ちゃん…いつ…戻るんだ?…早…早く……」

カイジ「……」



それからさらに時間は進み一時間後――


ガヤガヤ――

澪「さて、今日も部活を始めようか」

律「その前にお茶の準備だ。ムギ!!」

紬「アイアイさ~」

梓「れ、練習はどうなるんです律先輩?」

律「お茶の後でってことで」

梓「もう……」

澪「それが終わったら練習するからな」

律「わかった、わかった」


三人が部室に入り、それぞれの席に着く――


カイジ「……」

意識が朦朧とする――


カイジ(誰か……誰か来たのか……?)

カイジ(まずいっ……見つかったら……)


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