喪黒「私の名は喪黒福造、人呼んで笑ゥせぇるすまん」
喪黒「ただのセールスマンじゃございません、私の取り扱う品物はココロ、人間の心でございます」
喪黒「ホーッホッホッホッホホホホ――…」

喪黒「この世は老いも若きも、男も女も心のさみしい人ばかり」
喪黒「そんなみなさんのココロのスキマをお埋め致します」
喪黒「いいえ、お金は一銭もいただきません」
喪黒「お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます」
喪黒「さて、今日のお客様は……」

――喫茶店

和「こんなんで唯、うまくやってるのかしら」
澪「1つの事覚えたら1つの事忘れて大変よ」
唯「これおいしい~!」

仲良く談笑しながらお茶をする3人の女子高生
少し離れた席からその様子を伺う、同じく3人の女子高生がいた

梓「何でこんなコソコソと…」
紬「ウフフ、何だか探偵さんみたいね」
律「チッ…なーんかいい雰囲気だよなぁ」

田井中律(17)高校生
『幼馴染』


律「よし、突撃!」
紬「あ、りっちゃん」

澪「でさ、あの先生」
律「ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」
澪「…律!?」
律「お二人さん~仲いいっすね~!」
唯「りっちゃん!」
澪「お、おい…」
律「なに?何か邪魔だった?」
澪「いや、そうじゃないけど…」

紬「りっちゃんたら…アイス溶けちゃうのに…」
喪黒「本当ですねぇ♪仕方ないのでこれは私が頂きましょう♪」


紬「!?」
梓「…?ムギ先輩お知り合いですか?」
紬「う、ううん…あの…どちら様でしょうか?」
喪黒「おや失礼しましたぁ♪わたくしこういう者です♪」


紬「喪黒…福造さんですか?」
梓(せ、先輩何なんでしょうこの方…)ヒソヒソ

喪黒「実はセールスマンでしてね♪心にスキマのある方を探しているんです♪」
紬「は、はぁ…」

喪黒「失礼、あなた方には無縁なお話でしたね♪」
喪黒「ではその名刺を彼女が戻ったら渡してあげてください♪」
紬「え?」
喪黒「田井中律さんですよ♪オーッホッホホホホ」
梓「な、何で名前を!?」
喪黒「ここの御代は私が払っておきますねぇ♪ではお願いしましたよ♪」

紬「あ、あの!」
梓「何なんでしょう一体…」


――翌日

律「…昨日変な黒ずくめ男からムギがもらったってこの名刺…」
律「何なんだ?心のスキマって…」

名刺の裏を見る律、そこにはとある店へ行くための地図が記されていた

律「どうせ質の悪い悪戯かな…」
律「ムギが言うに、名前まで知ってたってのは気になるけど…」
律「まぁいいや、それより今日こそ澪を…」


――昼休み音楽室

律「いやー澪、今年はどんなショーを見せてくれるのかなぁ!」
澪「……」ピキピキ
律「去年はパンチラだったし、今年はケツ出しとか――」
澪「練習するんだろ!!」

…ざわ

律「するよ~するする~」
澪「だったら…」
律「ほいっ、たこ焼き!ぽにて~!」
澪「……」ピキピキ
律「あ、私すっごく怖いホラー映画をさ~」
澪「練習しないなら帰るぞ」
律「ふーん帰れば」
澪「はぁ?」
律「悪かったよ、和との楽しいランチタイムを邪魔してさ~」
澪「そんな事言ってないだろ!!!!」

唯「な、なに…?」
紬「お…お茶にしよ!そうしよ!」
梓「な、仲良くしてくださいにゃ~…」

律「…わり、戻るわ…」
唯「りっちゃん…」
澪「バカ律…」

――放課後音楽室

梓「律先輩来ませんね…」
唯「うう…」
澪「あのバカ…」
さわ子「もう代わりを探しといたほうがいいかもね」
紬「りっちゃんの代わりはいません!!」


――律・帰路

律「はぁ…部活さぼっちまったよ…」
律「何やってんだろ私…澪とも気まずくなっちゃって…」
律「この後どうすっかな…まだ家帰るわけにもいかないし…」

ポケットの中に手を入れる律
1枚の紙が手に当たり、思い出したようにそれを取り出した

律「心の…隙間か…」

律「えっと次の通りを左に曲がって…」
律「お、ここか」

――魔の巣

律「ば、バーなのか…?」
律「やめといたほうがいいかな…」

店の前で躊躇していると、不意に背後から声がかかった

喪黒「田井中さん♪」
律「え?う、うわぁ!!」


――魔の巣店内

律「あ、あの…私未成年なんで…」
喪黒「わかっていますよ♪ここは暗くなるまでは喫茶店としても営業しているのです♪」

律の前にオレンジジュースが差し出される

喪黒「どうぞぉ♪私のおごりです」
律「あ、ありがとうございます…」

律はジュースを1口飲み、話を切り出した

律「あの~、先日これを友達越しに貰ってそれで…」

そう言いながら、律は名刺を喪黒に差し出して見せた

喪黒「ええ♪事情はすでに把握していますよ田井中さん♪」
律「あの…何で私の名前知ってたんですか?ムギ…これをあなたに貰った友達に聞いたんですけど…」
喪黒「まぁそんな事はいいではありませんかぁ♪私があなたの悩みを解決して差し上げますよ♪」
律「……」
喪黒「幼馴染との友達関係にお悩みのようですねぇ♪」
律「ど、どうしてそれを!?」

喪黒「幼馴染とは難しいものですねぇ♪」
喪黒「なまじ幼い頃からお互いを知っている分、違う友達と自分よりも仲良くしているのを見ると複雑な気持ちになってしまいます♪」
律「……」
喪黒「田井中さん、ちょっと着いて来ていただきますかぁ♪」
律「え?あ、はい…」

そう言うと店を出るなり、どんどん人気の少ない方へと喪黒は向かっていった

律「あ、あの…どこまで…?」
喪黒「オッホッホ、もうすぐです♪」

少し奇妙な感覚を覚え、狭い路地をを抜けるとそこは律の住んでいる地元であった

律「!?な、なんで…街に出てたはずなのに…」
喪黒「オッホッホッホ、見覚えありませんか?この辺の風景」
律「ここは…私の住んでる…あれ?」

確かに律の地元ではあったのだが、少し違和感があった

律「これは…」
喪黒「そうです♪場所は同じですが今から丁度10年ほど前のあなたの町です♪」
律「お、おじさんは一体…」
喪黒「会ってきてはどうですかぁ♪あなたの幼馴染に♪」

懐かしい風景の中に通いなれた澪の家が映った

律「……」
律「で、でもこの姿じゃ…」
喪黒「問題ありません♪正確に言うと、ここは現実ではありません♪」
律「え…?」
喪黒「早い話があなたの思い出を吸い出して、それを仮想世界として創り上げているのです♪」

意味がさっぱりわからない律
しかしこの頃の澪に会いたいという衝動に駆られ始める


律「じゃ、じゃあちょっとだけ…」
喪黒「今はすべて忘れて、思い出の世界で心を休めてきてください♪」

律は澪の家のドアを静かに開けた

律「お、お邪魔しま~す…」ガチャ

チビ澪「!!」
律「み、澪!?ほ、本当に…」
チビ澪「り…りっちゃん!来てくれたんだ…」
律「え?」
チビ澪「ほかの子とあそびにいっちゃったとおもって…ありがとうりっちゃん…えぐ…グスっ…」
律(そっか…この頃澪、友達少なくて…)

律「あ、あったりまえだろー!澪…澪ちゃんは私の親友だもん!」
チビ澪「りっちゃん~!」

泣きながら律に抱きつく澪
律はそれを優しく抱きこんだ

律「おおっと」
律「へへっ…りっちゃんか…」


――澪の部屋

律「なっつかしいなぁこの部屋」
チビ澪「ね、ねぇりっちゃん!何してあそぶ?」
律「うーんそうだなぁ、じゃあ澪ちゃん!ベースの練習しようぜ!」
チビ澪「べーす?」
律「なーんてな!」
チビ澪「??」
律「なんでもないよ~!あー澪ちゃんかわいいなぁ!」ぎゅぅぅぅぅ

そう言うと律は澪を強く抱きしめた

チビ澪「り、りっちゃんくるしい~」
律「おっと、ごめんな!」
チビ澪「う、ううん!」


喪黒「そうです、今は何もかも忘れて思い出の世界で遊びなさい♪オーッホッホホ」


――翌日

桜が丘2-2教室前

澪「……」

唯「あ、澪ちゃん」
澪「!!」
紬「あら」
澪「わ、私は別に…律のこと気にして来たわけじゃ…」
唯「澪ちゃん、りっちゃんね、学校休んでるの」
澪「え…」
紬「メールしてみたんだけど、返事も無くて…」
澪「そう…」


――通学途中の川原

律「……」
律「昨日は楽しかったなぁ…」
律「澪…あの頃はずっと私にくっついてたよな…フフフ」

律「はぁ…学校どうすっか…もう大遅刻だぜ」
律「気分も乗らないし…あっそうだ!」

律は思いついたように立ち上がり、昨日喪黒に案内された路地裏までやって来た

律「ここを辿れば、また昨日の…」

律が踏み出そうとしたその瞬間である


喪黒「田井中さん♪」
律「おわっ!も、喪黒さん」
喪黒「何をされているんです♪今は学校の時間ではないんですかぁ?♪」
律「……」
喪黒「またあそこに行くつもりだったんですかぁ♪」
律「も、もう1回!もう1回だけあの頃の澪に会って…」
喪黒「気持ちはわかりますが田井中さん♪学校さぼって実生活を疎かにしてはいけませんよぉ♪」
律「もう1回でいいんです!また澪に…」
喪黒「仕方ありませんねぇ♪あと1回だけですよ♪」
律「喪黒さん…!ありがとうございます!」
喪黒「あなたにあそこを招待したのは、現実から逃げるためではなくまた幼馴染の子と仲直りしていただくためです♪」
律「はい、わかってます!」
喪黒「では着いて来てください~♪」

またもまばゆい光に包まれ、懐かしの空間が律を包み込んだ

律「澪…!喪黒さん、ありがとうございます!」
喪黒「いいですねぇ♪これが最後ですよぉ♪」
律「はい…!じゃ!」

そう言うと律は足早に澪の家へと駆け出していった

――澪の部屋

チビ澪「りっちゃん、今日も来てくれたんだ~!」
律「今日は一緒に遊べるゲーム持ってきたんだぜー!」
チビ澪「すご~い、こんなの売ってないよ?」
律「へへへ~そうだろ?ほら澪ちゃん、やろやろ!」
チビ澪「うんっ」


――放課後
現実世界律宅前

澪「……」
澪「ごめんください…」

聡「あれ?澪姉?」
澪「聡…あの…律は?」
聡「あれ?一緒じゃないの?」
澪「え?」
聡「普通に朝学校行って、まだ帰ってないけど…」
澪「そ、そんな…」
聡「ごめん澪姉!俺ちょっと今から鈴木んちいくから、姉ちゃん待つならあがっといてよ!じゃっ!」
澪「あ、うん……」


――チビ澪宅

律「あーっまたまけたぁ!」
チビ澪「だいぶわかってきたー!」
律「澪ちゃんうまいね~えへへへへ」

律「あ…そろそろ帰らないと…か…」
チビ澪「うんっまたあそびに来てね!」
律「……」
チビ澪「りっちゃん?」
律「あ、ああ!またね澪ちゃん!」
チビ澪「うんっ!」

そう言い残し、律はチビ澪宅を後にした


――律の部屋

澪「遅い…」
唯「じ、事故とかじゃないよね…?」
紬「ま…まさかっ」
梓「ちょ、ちょっと!縁起でもないこと言わないでくださいよ唯先輩!」

澪の知らせを受け、他の3人も律の家に集まっていた

澪「り、律…」

律「たっだいまー」

玄関から律の声が響く

澪「!」
唯「あっ!」


律「ん、この靴は…」
聡「あ、姉ちゃん!学校さぼったの?澪姉とか友達の方来てるよ」
律「え…」

少し気まずそうに、自分の部屋のドアを開ける律
真っ先に唯が飛びついてきた

唯「りっちゃん~!よかったよ事故じゃなくて~!」
律「じ、事故?」

澪「……」
紬「本当、良かった…」
梓「もう…心配かけないでくださいよ!」
律「あ、ああ…ごめんごめん…」
紬「澪ちゃんが1番心配してたのよ、りっちゃん」
澪「……」
律「ほ、ほんとっ!?澪…!ご、ごめ――」
澪「バカ律!どういうつもりだよ!」
律「なっ…」

澪「なんで学校さぼるんだよ!文化祭もうすぐなんだぞ!?」
唯「み、澪ちゃん…今はその事言わなくても…」
律「……」
紬「…あっ!ほ、ほら!今日部活やってないから御菓子残ってるの!皆で食べましょう!」
梓「ふ…2人とも仲良くしてくださいにゃ~…」
律「んだよ…昔は私がいないとぼっちだったくせに!!!」
澪「はぁ!?」
律「いつも私にくっついて来てたのは澪だろ!?他に友達もいなくて!」
澪「な、何言ってるんだよ…」

律「それで他に友達が出来たら私はお払い箱か?私より文化祭のが大事なのか?」
澪「お、おい律…」
唯「なに…どうしちゃったの…?」
律「もういいよ、あの頃の澪はもういないんだ」
澪「あの頃…?」
紬「りっちゃん…?」
律「うっせえええ!!」
梓「律先輩!」

律は駆け出した
何も持たずに部屋を、家を飛び出て夜の街へと


――例の路地裏

律「はぁ…はぁ…」
律「ここを辿ればまた…あの頃の澪に…」

そう呟くと律は奥へと足を進め出した

律「澪ちゃん…澪ちゃん…」

しかし何かおかしい
いくら歩いても路地から外に出るだけで、一向にあの場所につかない

律「あ、あれ…何でだ?確かにここを…」

喪黒「田井中さん♪」

律「!!」
律「も、喪黒さん…」
喪黒「あなた、今日の朝これで最後とおっしゃりましたよねぇ♪」
律「喪黒さん…もう1度!もう1度でいいんです!」
喪黒「あなた朝も同じことをおっしゃりましたよ♪」
律「……お願いしますよ…もう、あの頃の澪はいないんです…だから!」
喪黒「しょうがない人ですねぇまったく♪どうなっても知りませんよ♪」
律「…!じゃあ…!」
喪黒「ええ♪永遠に、あの世界へと送ってさしあげます♪」
律「え…」

喪黒「ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
律「アヒャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


律「ん……ここは…」
律「この風景…来れたんだ!」
律「澪!澪!」

駆け足様に澪の家へと向かう律
その時、玄関のドアが開いた

澪母「じゃあ澪ちゃん、気をつけて行くのよ」
チビ澪「うんっ」
澪母「お友達と仲良くね」
チビ澪「うんっ」
律「み、澪!」

チビ澪「?」
澪母「…?澪ちゃんのお友達?」
チビ澪「う、ううん…こんなお姉ちゃんしらない…」
律「え…」
澪母「あの…うちの澪が何か?」
律「お、おばさん!?律ですよ!私!」
チビ律「澪ちゃんおはよー!」
律「!?」

チビ澪「あ、りっちゃん!」
チビ律「おばさんおはようございます!」
澪母「おはようりっちゃん、じゃあ2人とも気をつけてね」
チビ律・チビ澪「はーい!」
律「あ…あ…」
チビ律「ねぇ澪ちゃん、あのおねえちゃんだれ?」
チビ澪「わかんない、なんかさっき家のまえにいきなり来て」
チビ律「ふーん、でもあの頭につけてるやつかっこいいね!」
チビ澪「あれカチューシャっていうんだよ~りっちゃんも似合いそうだね!」
チビ律「へ~私もしてみよっかな~」


喪黒「オッホッホ、時には過去を振り返り、思い出に浸るのもいいですが所詮それは思い出」
喪黒「生きている以上、常に前を見て前進しなければなりません♪」
喪黒「どの時代にも、今を精一杯生きる自分がいるのですから♪」

ホーッホッホホホホホホホホホ

END