和「あなた達、お参りしたことが無いのね」

唯「えっ、あるよ?初詣だってみんなで行ったし」

律「修学旅行で絵馬だって書いたしな!」

紬「書いた書いたーっ」

澪「今年も初詣行こうなっ」

和「今年は私も連れて行きなさいよって…」

和「そうじゃなくて…」

和「それはお参りだけど、お願い事でしょ?」

唯「えっ?お参りってお願い事のことでしょ?」

和「やっぱりね…」

和「お願い事をしないお参りってしたことある?」

澪「へっ?」

紬「どういうことかしら?」

唯「お参りって、和ちゃんは無宗教だって言ってたよね?」

澪「霊魂も信じないって…?」

和「そこがポイントなのよね、私は宗教を信じないわ」

和「多分私は、あなた達より否定的に宗教を見てる」

和「宗教家なんて揃いも揃って、嘘つきの詐欺師だと思ってるわ」

唯「和ちゃんこそ宗教家に怒られるよ…」

和「でも問題は私とあなた達の宗教の見方よ」

和「私もあなた達も無宗教で無神論者」

律「和ほど手厳しくないけどな…」

澪「私は神様はどこかにいるって思ってるんだけど…」

和「違いは、お参りをしたことがあるか、それとも無いか」

唯「えーっ、わかんないよー」

唯「和ちゃんの言う、お願い事じゃないお参りって何?」


和「宗教の話を本格的にすると時間がかかっちゃうから、簡潔に話すわ」

和「私は宗教家の言っている事はわからないし、むしろ否定的だけど」

和「それだけが宗教じゃないの」

唯「どういうこと?」

和「宗教にはね、指導者と、信者が必要なのよ」

和「信者が一人もいない教祖なんて、ただの頭のおかしな人なの」

紬(なんか和ちゃんの言う事危なっかしいわぁ…)

和「私達は指導者の教理が宗教の中心だと思っちゃうけれど」

和「実際は、その信者の生活こそが宗教の体なのよ」

唯「うーん、難しいよーっ」

和「じゃあ、具体的な例えで話すわね」

律「短く頼むなっ」

澪「」ドキドキ

和「私は姉弟が多かったし、お爺ちゃんお婆ちゃんの家が近かったから、よく泊まりで行ったりしてたのよ」

唯「和ちゃんは歳の離れた弟がいるし、お母さんがお産の時なんかは、暫くお爺ちゃんの家に居たんだよね?」

和「そうなのよ、その時、お爺ちゃんお婆ちゃんが朝晩お参りしてたわ、私も一緒に座って真似事をすると誉められたりして」

紬「その時和ちゃんはお参りしてたのね」

律「それがお願い事じゃないお参りか?」

律「でも、お爺ちゃんお婆ちゃんは、お参りすることによっと、何かいい事があると思ってお参りしてたんだろ?」

和「そうだけど、それだけじゃないの、信じてた部分もあるだろうけど、完全にそういうことを信じる人の方が少ないんじゃないかしら?」

和「受験合格祈願が全員叶ってるわけないしね」

和「お願い事が叶わない事も、生活の上では何度でもあったんじゃないかしら?」

律「それでも毎朝晩お参りしてたと?」

和「ええ」

紬「それじゃあ、せめての気休めとか、習慣だからやってるって事かしら?」

和「でもね、大きくなってからも何度もお参りするうちに気付いたのよ」

和「ああ、これ意味無いんだって」

唯「やっぱり、そういうことは意味無いんだね、じゃあお葬式もそうだよっ!」

和「ええ、意味無いわ」

律「なんだよ、結局和は唯派なんだな」

澪「えーっ、期待させといて…」

和「それからはね…」

和「意味が無いって分ってからね、私は機会がある度に、必ずお参りするようになったの」

唯澪律紬「何でだよっ!!!!」


和「ココよっ、ココがお参りをする人としない人の大きな違い」

和「きっと、お参りした事のない人はどんな宗教書を読んでも、宗教家に聞いても分らないわ」

和「意味が無いからこそお参りするのよっ!」

律「ちょっと、なに?どうして…こうなった?」

澪「流石に…これは分らん」

唯「助けて憂ーっ!!!!」

紬(これ、は…どうすればフォローできるのかしら?)

和「ちょっとみんな落ち着いて、今から簡単に説明するから」

和「説明を聞いたら当たり前の事よ、でも大事なのは」

和「いまみんなが全然わからないって事」

和「お参りは、私達の普段の価値観を越えたものなのよ」

律「いいから和、早く説明をっ!」

澪「唯が危険なんだ!」

唯「」ブクブク

紬「唯ちゃーん!!!!」


和「唯は、お葬式は意味が無いから、しない方がいいって言ってるのよね?」

唯「そうだよ、お金もボッタ栗だしね」

和「得しないどころか、損をする、そうよね?」

唯「いい事なんて何も無いよ!」

和「そういうこと、つまり、私達は普段、意味があるか、意味が無いか」

和「役に立つか、役に立たないか、得をするか、損をするか」

和「それを中心にして生きてるわよね?」

律「まっ、まあ、それがなきゃ生きていけないからな」

和「じゃあ、唯はいらない子だわ」

唯「ええっ!?」

澪「ちょっと、ひどいぞ和!」

唯「うえーん」シクシク

律「何てこと言うんだ!?お前友達だろ!?」

和「だって、唯は勉強も出来ないし、スポーツも出来ない」

和「社会に出たって、まともに仕事が出来るとは思えないわ!」

和「役に立たないなら、意味が無い、居なくてもいい子よ!」

唯「びえーん」ボロボロ

律「おい和、それ以上言うと許さないぞ!」

澪「唯、お前はいらない子なんかじゃ無いぞ!」

紬「そうよ、唯ちゃんはとっても可愛くて魅力的だわ!」

律「そうだよ、お前は価値ある人間だよっ!」

唯「ううっ…ほんと?」グスッ

澪「本当だとも、何が出来なくっても、お前は可愛くて素敵だよ!」

和「へーっ、そうなんだ」

和「みんなは唯が可愛いから価値があるって言うのね」

和「それじゃあ、顔が変わるほどの事故でもしたら、もう価値は無いのね」

和「唯、みんなは唯が可愛いから、あんたのその部分が好きだって」

和「可愛くなかったら相手にもしなかったらしいよー」

唯「そっ、そんなぁー」グスグス

律「あーっ、もう頭にきたっ!いくら和だとしても許さないぞっ」ガシッ

和「殴りたいなら殴りなさいよ、でも、私の言ったこと間違ってる?」

和「私はあなた達の考え通りの事を言ったまでよ?」

律「なんだとぉ!?」

紬「でもっ、私達っ、何が出来るとか、顔が可愛いからとかじゃなくて」

紬「私達は唯ちゃんが唯ちゃんだから…」

紬「あっ!」

澪「ムギ、どうしたんだ?」

紬「和ちゃんの言ってた事、少しだけど…」

紬「ちょっとだけ、分ったかも…?」

澪「えっ?」

澪「ムギ、どういうことだ?」

紬「まだ私も上手く言えないんだけど…」

紬「私達、お葬式をする意味があるかとか、価値があるかとか」

紬「損をしちゃうとか、そんな議論をしてたわよね?」

澪「そうだけど…」

紬「でもそれって、本当は、何か大切な事を見落としていたんじゃない?」

澪「えっ?」

律「わかんねえよ、大切な事って?」

和「……」

和「唯…」

唯「ううっ…和ちゃん、ひどいよぉ…」グスグス

和「唯、ゴメンなさい、大切な事を伝える為だったけど、あなたを傷つけてしまったわ…」

唯「うえーん、和ちゃーん」ダキッ

和「ゴメンなさい唯、私はどんな唯だろうが、大好きよっ!」

澪「…なるほどな」

澪「損か得かじゃないんだな…」

和「ええ、人にとって本当に大切なものは、そんなものじゃ計れないものなの」

和「お葬式の意味が無いなんて、最近の風潮じゃ今初めて言われだしたみたいな言い方だけど」

和「そんなこと、昔から、宗教が出来る前からわかってたわ」

和「もちろん宗教家はそんなこと言わなかったでしょうね、自分の価値を否定する発言だから…」

和「だけどね、意味が無いって言う事は、お葬式やお参りの答えじゃなくて、出発点なのよ」

和「私達はそこをちゃんと理解すべきなんだと思うわ」

律「うーん、分ったような、分らないような…」

和「いえ、分らなくて当然だと思うわ、宗教的な感覚がこんなに簡単に身に付くわけ無いからね」

和「生涯をかけて、少しづつ分かっていくものなんだと思う」

澪「まあ、せっかくだから少しだけ補足してくれ」

紬「そうね、普段こんなこと話し合う機会なんて無いしね」

和「じゃあ、ちょっとだけね」

律「わかりやすく頼むぞ、マジで」


和「例えば今問題になってる、親の死亡届出を出さず、年金を騙し取る事件ね」

唯「えーっ、そんなこと本当にあるの!?」

律「知らなかったのかよー」

澪「ニュースとかでやってるだろ?そういう事件がまだ見つかってない部分も含めて沢山あるらしいんだ」

紬「自分の親が死んだ時でさえも、金銭的な損得が優先されるのね」

和「ビックリするような事件だけど、こういうことする人と、私達が全然別の人間とは考えない方がいいわね」

唯「えっ?なんで?私達は絶対にこんなことしないよ!」

和「え?だって、さっきまでお葬式代が勿体無いって言ってたじゃない?」

和「この人たちは、さらにプラスを求めただけ、それだけの違いよ」

唯「ううっ…」

和「お葬式にお金を使えとは言わないわ、なんでも安く付くほうがいいのは当たり前よ!」

和「だけど、亡くなった人を大切に出来ないということが」

和「私達の人間性を崩壊させることと、つながってるのよ」

和「亡くなった方は役に立つかしら?」

澪「えっ、急に何言い出すんだよ?」

和「まったく役に立たないでしょ?」

紬「ちょっと和ちゃん、それは流石に不謹慎じゃ…」

和「亡くなった人が出てきて、仕事を手伝ってくれるとあり難いわよ」

和「でもそんな事無いわよね、役に立たないわ」

唯「う、うん…」(なんかすごく抵抗ある言い方だけど…)

和「じゃあ、お坊さんや、神主さんは役に立つかしら?」

和「これも全く役に立たないわね」

律「わーっ、だからそんな事はっきり言うなよ!」

和「本当の事じゃない?損得で言ったら、お布施とか払うんだし、むしろ損するわね」

澪(こいつ、怖いものなしか…?)

和「でもね、私達、そんな役にたたないものを大切にお参りしてきたのよ」

律「ま、まあね…」(そんなこと言っちゃっていいのか?)

和「これってどういうことだか解る?」

唯「へっ?」

和「自分の損得よりも大切なものをお参りしているってこと」

和「つまり、自分の損得より大切なものを知っているってことよ!」

澪「自分の損得よりも大切なもの?」

和「ええ、これが分るか分らないかがポイントね」

和「神様でも、仏様でも、亡くなった方でもいいわ」

和「まあ、無宗教の人には、亡くなった方がイメージしやすいだろうけど」

和「それを自分の損得よりも大切にしてるって事よ!」

和「お参りは朝晩する事が多いけど」

和「朝なんて忙しいし、晩なんてゆっくりしたい」

和「そんな時間、自分の事をしてた方が得でしょ?」

和「だけど、そんな時にお参りするって事は」

和「自分の都合よりも大切なものを持ってるって事よ!」

律「うーん、やっぱり分ったような、分らないようなー」

律「じゃあ結局、お参りしてもいい事なんてないんだな?」

和「その通りよ!お参りしたから、その見返りでいい事があるなんてナンセンスだわ!」

和「だって、お参りできるだけで十分にいい事起きてるじゃない?」

澪「えっ?」

和「お参りしたからっていい事なんて無いわ、お参りできることが幸せなのよ?」

紬「またちょっと分んなくなって来たわ…」

唯「うーっ」プスプス

紬「唯ちゃんのCPU使用率、さっきからずっと100%ね」

和「例えば、他人からすごい方だ、立派な方だと誉められる人がいるとするわね」

律「私の事だな!」

澪「はいはい」

和「でも、その人自身が、この人に出会えて良かったとか、この人を大切にしたいとか」

和「そう思える人を一人も知らなければ、不幸なんじゃない?」

和「逆を言えば、他人からどんなに蔑まれて、かるんじられてる人でも」

和「その人自身が、この人を大切にしたいとか、出会えて良かったって人を知っていれば、その人は幸せなんじゃない?」

紬「つまり、お参りするって事は、自分の損得を投げ出してでも、大切にしたいと思える人に出会っているって事なのね?」

和「まあ、人をお参りする場合だけど、簡単に言えばね」


和「お葬式も普段のお参りも変わらないわ」

和「損得抜きでも大事にしたいと思えることは、それ自体が幸せな事だわ」

和「だけど最近の風潮じゃ、そんなことを完全に忘れて」

和「それは利益になるのかとか、役に立つのかとか、それしか見えなくなってるみたい」

唯「うーん、ここまで来たら、なんとなく分ってきたよー」

和「お参りと親孝行は似てるわ」

和「お小遣いもらえるからした肩たたきと、お母さんが大好きだからした肩たたき」

和「本当に幸せなのはどっちでしょうね?」

和「私達はお金勘定ばかりが上手くなって」

和「本当に大切なものを捨てながら生きてるんじゃないかしら?」


和「今日はこんなもんでどうかしら?」

澪「うーん、何ていうか、分っているようで分ってない事ってあるんだな」

紬「うん、聞いてみると当たり前の話しなんだけど」

紬「私達、その当たり前に気付かないのかも…」

和「この話は、別に死んだ人だけの話じゃないわ」

和「例えば、体が動かないお年寄り、又は障がい者」

和「そこから低学歴とか、ノンキャリアとか」

和「死んだ人を大切に出来ない人は、損得しか知らない人だから」

和「そういう人を無価値と判断して、切り捨てるわ」

和「そして自分が挫折したり、年老いて体が不自由になった時に絶望しちゃうの」

和「私達が本当に、生涯をかけて知らなきゃいけない事は」

和「得する方法じゃなくて」

和「損得を超えるほど大切なものなのにね…」

律「なるほどなぁ」

唯「和ちゃん、ありがとう!」



和「じゃあ私、生徒会行くね」

唯「うん、またね!」

ガラッ ぴしゃっ!


澪「たまには、こういう話もいいな」

律「まあ、年に何度かで十分だけどな…」

紬「でも、いろいろ考えさせられたわぁー」


ガラガラッ!

梓「センパーイ!」

唯「あっ、あずにゃん!」

律「おう、お葬式終わったのか?よく来たな!」

澪「まったく、梓は偉い奴だよ!」

紬「今日はケーキ二個食べてね!」

梓「えっ、何ですかこの歓迎は?」

唯「あずにゃんが来るまでの間、私達お葬式の話ししてたんだよ!」

梓「お葬式?」

唯「ちゃんと親戚のお葬式へ行くなんて、あずにゃんはいい子だね!」

律「おいおい、唯はいってる事逆になってるぞーっ」

唯「えーっ、初めからこうだったよー」

きゃっきゃっ!

紬「あらあらウフフ」

澪「とにかく偉いぞ梓!」

梓「えっとですね、親戚のお葬式って言うのは、学校をサボる為の口実なんです」

梓「実は、絶対に行きたいライブがありまして、それで今日は休んだんですよ」

梓「それで、ライブ見たら興奮しちゃって、皆さんと演奏したくなっちゃって!!!」

梓「さっ、みなさん早く練習しましょう!!!」

律「えっ、お葬式ってのは嘘だったの…?」

梓「そりゃそうですよ、今時親戚くらいじゃお葬式に出ませんよー」

梓「大体お葬式なんて、するだけお金と時間の無駄じゃないですか?」

梓「そんな暇があったら、ライブ行く方がいいですよ!」

唯「あずにゃん、ちょっとそこ、座りなさい」
                                             おわり!







人間死ねばゴミになる
というのはガン患者が残した言葉として有名ですね
でもそれをゴールにしちゃうのはどうかと思います
だって
当たり前の事でしょ?

そっから大切なものに出会えるかが人生なのではないでしょうか?