とある病院の診察室にて。

梓「多分、あれがきっかけだったと思うんです。
  昨日……月曜日ですね……
  いつもと変わらない日常でした……」

梓「いつもの時間に学校に行き、
  いつものように授業を受けました……」

梓「いつものように部活……音楽室へ」

梓「その時です! ものすごい激痛が!
  死ぬかと思いました……背中から刃物でもつっこまれたみたいな……」

梓「発作は5分も続いたでしょうか……。
  ケロっとおさまりました……」

医者「ホウ、ケロっとね、フムフム……」

梓「それからです。いつも通りじゃなくなったのは……」

医者「どんなふうに?」

梓「たとえばですね…………」

興味深げに体を乗り出してくる医者。
それを見て梓は話すのをやめた。

梓「よしましょう。
  どうせおかしいのは、私の方です……
  だいたい私はこんなとこへ来たくなかったんです。
  唯先輩がどうしてもって言うから……」

医者「まあ、そう結論を急ぎなさんな」

梓「いえ、みんなそう言うんですよ。
  それに私もそんな気がしてきましたから」

医者「まあまあ……」

梓は帰り支度を始めたが、
医者に促されて再びベッドの上に寝転んだ。
そして、自らの身に起こったことを少しずつ語り始めた。

梓「……で、まあ発作がおさまって、起きたわけです」


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ところがですね……なんだか変なんです。
どこが変だとは言えないんですけど……。
勝手知った音楽室が、まるで見知らぬ世界みたいな感じ…………。

音楽室には先輩たちが既に集まっていました。

唯「あっ、あずにゃん。
  あずにゃんも学校きてたんだね」

梓「へ? そりゃそうですよ。
  日曜じゃあるまいし」

唯「?」

私は唯先輩を軽くあしらいつつ、
テーブルにつきました。

梓(うーん……どうも、なんだか……)

私は小さな違和感を覚えました。


すぐに違和感の正体が分かりました。
いつもならお茶やらお菓子やらが並んでいるのに、
テーブルの上に何も出ていなかったんです。

梓「今日はティータイムはなしですか?」

なにげなく言っただけでしたが、
律先輩は「ぶっ」と噴き出し、澪先輩は顔を真っ赤にして俯きました。

律「なんだよいきなりー。大胆だな、梓は」

梓「へ? 何がですか? 今日は珍しくお菓子食べてないなー、って……」

澪「ば、ばかっ! そういうこと言うなっ!」

梓「はい?」

紬「うふふふ、じゃあ梓ちゃんのリクエストにお答えしてお茶を始めようかしら///」

唯「えへへ、恥ずかしながらいつ始まるのかソワソワしてたんだ」

そういうと唯先輩は立ち上がり、
カーテンを閉めてドアに鍵をかけました。

梓「お、お菓子食べるのになんでカーテン閉めて鍵かけるんですか!?」

唯「え? なんでって……」

律「普通だろ」

梓「ふ、普通って……」

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梓「……ね、おかしいと思うでしょ!」

医者「……いや……今の常識から見ればちょっぴりはずれてるともいえるが……
   決して異常ではありません。しごく正常です」

梓「そうですか?」

医者「だいたい食欲なんてものは生きていく上に不可欠の本能で、
    これをもっとオープンなものにしようという考え方は、
    北欧あたりから始まって、今や世界的風潮となっていますな。
    異常ではないどころかあなたは大変進んでいらっしゃる!」

そう語りながら、医者は棚の引き出しを開けて
中から写真やらフィルムやらを取り出した。

医者「実は、私コレクションしとるのです。
    写真、テープ、8ミリ……ほれ、乱食パーティーのカラーですぞ」

と、独りでにやにやと趣味にふける医者を尻目に
梓は帰り支度をしていた。

医者「どうして帰るんですか!」

それに気づいた医者が慌てて引き止める。

医者「あなたの行動は、理解できると言ったのですよ」

梓「もう嫌です、全然噛みあわないじゃないですか!」

医者「分かりました!
    やり直します。いっさいの常識とか固定観念なんかを捨てて……
    そうだ! われわれは火星人になりましょう!」

梓「火星人?」

医者「初めて地球にやってきたのです。
    さあ、見るもの聞くもの、すべて奇異に感じられる。
    あなたは昨日から探検に出かけ、今帰ってきた」

梓「はあ」

医者「ごくろうさま!
    さ、報告をきかせてくれ。
    君の体験のすべてを……それからふたりで考察しよう」

梓はみたびベッドに寝転んだ。



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お菓子は食べましたよ。
なんとなく罪深く気恥ずかしい雰囲気でね。

唯『今日もおいしいね……///』

紬『うふ、ありがと……///』

澪『うう……恥ずかし』

律『もぐもぐ』

梓『……?』

やがてティータイムは終わりました。
それでも先輩たちは一向に練習を始める気配がありませんでした。
まあ、いつものことなんですけど。

梓『先輩、練習しましょうよ』

唯『練習? なんの?』

梓『バンドのですよ』

澪『なんでだよ、せっかくの部活なのに』

梓『……?』

澪先輩まで練習したがらないというのは異常でした。
私は独りで練習することにしました。

梓『……』じゃんじゃかじゃんじゃんじゃかじゃん

紬『精が出るわね、梓ちゃん』

律『部活中なんだから練習なんてしなくていいのに』

唯『部活中くらいゆっくりしたいよねえ』

澪『そうそう』

梓『はあ……』

私はなんだか馬鹿らしくなってきました。

唯『あれ、もうやめちゃうの』

梓『はい』

紬『そういえば梓ちゃん、この間の話、お父さんにしていただけたかしら?』

梓『え? なんでしたっけ』

紬『梓ちゃんちの権利書を譲ってもらう話よ。
  急かすようで申し訳ないんだけど』

梓『はあ……?』

紬『私の父は、100万円まで出してもいいって言ってるわ』

梓『100万……?』

紬『早いうちに話を付けてほしいの。
  梓ちゃんのおうちの人が、さしあたり殺したい人もいないなら……』

梓『はあ、そうですね…………殺す!?
  い、い、い、今なんて言いました!?』

紬『もう、ちゃんと話を聞いててよ』

梓『む、む、ムギ先輩がいきなり意味分かんないこと言うからっ!』

イライラしてたとこに、またまたトンチンカンな話でしょ。
喧嘩になっちゃいましたよ。

唯『お、落ち着いて、二人とも……』

紬『もう……またあとで、ゆっくり相談しましょう』

梓『はい………………すみません』

律『あ、そ、そうだ。楽器のカタログ持ってきたんだ。
  一緒に見ようぜ』

澪『そ、そうだな』

私のせいで重くなってしまった空気を変えるように、
律先輩たちが必要以上に明るく振る舞ってくれました。
違和感続きでしたがこういうところは変わりませんでした。

律『私、このドラムいいなーって思ってて』

澪『どれどれ?』

私も横からページを覗き込みました。
すると、そこには全裸の女性が描かれていたのです。

梓『うわっ!!』

律『ど、どうしたんだよいきなり』

梓『なななななな、なんですかっ! この卑猥な……』

律『はぁ……? 女の人が映ってるだけだろ』

澪『これがどうかしたのか?』

梓『あっ……いや、その』


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