その夜
和「100円ショップの眼鏡拭きは信用できないわ…お休みなさい」
パチン
和「…」
バサッ、バサッ、バサッ
和「……まさか」
バサッ!バサッ!バサッ!
和「また来たのかしら…?」
スタッ、ざりっ、ざりっ、ざりっ…
和「…」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ~…かえせぇ~…」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ~…かあああえええせええええ~…」
和「やっぱり…ああもう、鬱陶しいなあ…」
ゴン、ゴン、ゴン…
「か~え~せ~…かああああええええせええええええ~…」
和「何なんですか!?私は持っていないって昨日も言いましたよね!?」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ…かえせぇ…かえせぇ…」
和「この私を無視するなんて…いい度胸しているじゃない…」
ゴン、ゴン、ゴン…
「か~え~せぇ~…か~え~せぇ~…」
シャッ!
ガラガラッ!
和「うるさい!腕が欲しけりゃ軽音部に行きなさい!」
「!?お、俺の腕」
ピシャンッ!
「腕をぉ…」
和「何なのよもう…!明日日直なのよ!?」
和「…というわけで最悪だったわ」
唯「そ、それでどうなったの!?」
和「イヤホンして寝ちゃったわ。まったく、おかげでまだ頭がぼんやりしているわ…」
律「…この際、全部和にやってもらうってのはどうだろう?」
和「あら、駄目よ。軽音部に行きなさいって昨日言っちゃったもの。多分今夜は来ないわ」
唯「じゃあ今夜は私たちの家に来るのか…とりあえず結果オーライ、なのかな?」
紬「ねえ和ちゃん、窓を…開けたのよね?」
和「ええ。やっぱり直接言わないと駄目だと思ったから」
紬「おばけはどんな姿だったの?」
和「姿?ううん…ごめんなさい、眼鏡を外していたからはっきりと見えなかったの。でも…」
唯「でも?」
和「…背広だった気がするわ」
紬「現代的なおばけなのね…」
律「まあ何にせよ、勝負は今夜からだ!みんな気合入れていくぜー!」
唯「おー!」
紬「おおー!」
澪「はぁ…な、何がおーなんだ?」
唯「あ、澪ちゃん!大丈夫なの?」
澪「うん…何とか元に戻りつつあるみたいだ…」
紬「よかった~♪」
澪「で、何がおーなんだ?」
律「今夜、誰かの家に例のおばけが来るから、気合入れてたんだよ」
澪「…その誰かって…私も入ってるのか?」
唯「もちろんだよ!」
澪「…はひん」
すとん
和「少しはオブラートに包んであげてもよかったんじゃないかしら…」
律「何かもうその辺のもろもろがめんどくさくなっちっち…」
梓「お疲れ様です!どうでした!?どなたかの家におばけは行きましたか!?」
律「あー、和んちに行ったみたいだ」
梓「…考えてみればそれが一番自然ですかね。で、和先輩はどうしたんです?」
紬「窓を開けて『腕が欲しければ軽音部に行きなさい!』って怒鳴りつけたそうよ」
梓「私、和先輩のほうが怖くなってきました…ん?ということは…」
唯「今夜こそ私たちの家におばけが来るんだよ!」
梓「そういうことですよね…でも誰の家に行くんでしょう?」
紬「やっぱり触ったことのある人の家じゃないかしら~♪」
律「なぬっ!?」
梓「まあ、より接点のある人の家に行くのが順当なところですよね」
律「じゃあ私か唯か…澪の家のうちどれかか…」
唯「下手すると今日が澪ちゃんの命日になっちゃうかもね!」
梓「それ冗談に聞こえないです」
その夜
梓「はあ…嫌だな…、純の家にでも泊めてもらえばよかったかなあ…でも、むぎ先輩が言ってたもんね、触られた人の家に行くだろうって。だから私は大丈夫!うん、だ、大丈夫…お休みなさいっ!」
パチッ
梓「…何か寝付けないなあ」
バサッ、バサッ、バサッ
梓「ひっ!?ち、違うよね!?鳥だよね!?う、うちには来ないんだもんね!?」
バサッ!バサッ!バサッ!
梓「これは鳥!た、ただの鳥!おばけじゃない、おばけじゃないっ!」
スタッ、ざりっ、ざりっ、ざりっ…
梓「鳥が歩いてるだけ、鳥が歩いてるだけだもん!」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ~…かえせぇ~…」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ~…かあああえええせええええ~…」
梓「と、鳥だもん!迷子の九官鳥だもん!」
ゴン、ゴン、ゴン…
「か~え~せ~…かああああええええせええええええ~…」
梓「ととと鳥、鳥、鳥っ!お、オウム!」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ…かえせぇ…かえせぇ…」
梓「う、うるさいっ!鳥のくせに!帰ってよぉ!」
ゴン…
「………」
梓「あ、あれ…?声がしなくなった?帰ったのかな…?」
ゴォン!!
「鳥じゃないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
梓「うあああああああああああっ!?ご、ごめんなさいっ!!」
「えっ?…わ、わかればいいいいいいいいっ!!」
梓「え…?」
ご、ゴン…ゴン…ゴン…
「かえせぇ…俺の腕…かえせぇ…」
梓「(あ、えっと…何て言うんだっけ…あ、そうだ)」
梓「こ、ここにはありません!私は持っていないんです!」
ゴン…ゴン…ゴン…
「かえせぇ…かえせぇぇ…かえしてぇ…」
梓「だ、だから私は持っていないです!ぶ、部室!軽音部の部室に置いてあります!」
「………」
梓「………?」
「………か、かえせえええええええええ!!」
ゴンゴンゴン!
梓「だーからぁー!!」
梓「……というわけで散々でした…」
唯「あずにゃん目の下にクマできてるよ」
梓「全然熟睡できなかったです…」
律「で、結局一晩中『返せ返せ~』か?」
梓「はい…無理して眠っても、ふと目が覚めると窓の外で『返せー、ゴンゴン』って言ってるんです」
紬「ずいぶん強情なおばけさんなのね~」
梓「単に馬鹿なんじゃないかと思いますよ、あのおばけ」
唯「でもあずにゃん、ちゃんと腕は軽音部にありますよーって言ったんだよね?」
梓「はい、それはちゃんと言いました。言ったのに、おばけは帰ってくれませんでしたけど」
律「んま、それならとりあえず目標クリアだな。今晩あたり、部室に来るぞきっと」
紬「いよいよ決戦ね~♪」
唯「じゃあ今夜は部室にお泊りだね!楽しみ~♪憂にお夜食作ってもらおっと」
梓「緊張感がないなあ…」
律「んじゃ、細かい打ち合わせは部活の時にだな!梓、もう教室戻っていいぞ。ご苦労!」
梓「あ、はい。じゃあまた後で。…み、澪先輩、おはようございます。大丈夫ですか?」
澪「だいじょびー」
梓「……そうですか…」
律「えー、それじゃあ確認するぞー」
唯「ほいほい」
律「和と梓の証言から、おばけが来るのは夜のだいたい12時前後だ。そうだな?」
梓「はい。昨日は日付が変わる前にはお布団に入りましたから」
律「ということで、とりあえず集合は夜の11時ってことにする。大丈夫だんだよな、さわちゃん?」
さわ子「ええ。許可は取ってあるわ。面倒だけど私も同席するわね」
梓「最初のころは面白がってたじゃないですか」
さわ子「最近夜更かしがつらいのよ…」
唯「更年期だもんねえ」
さわ子「…もういっぺん言ってごらんなさい」
律「で、おばけが来たらオカ研の教えてくれた方法で対処する!むぎ!」
紬「うん!用意は全て整っているわ♪」
律「よーし!それではこの流れでいくぞ!何か質問は?」
梓「澪先輩はどうするんです?」
律「澪は自宅待機だ。はっきり言ってこの戦いにはついていけそうもない」
澪「おばけいやーおばけー」
梓「…ですよね」
律「うーし!それじゃやるぜ野郎共!いたいけな乙女をおびやかす魔性の者を!私たちの手でやっつけるんだ!」
唯紬梓さわ子「おーっ!」
澪「おひゅー」
その夜
澪「はあ…今ごろみんなはおばけと…うああああああ!!怖いよおおおお!!」
澪「で、電話してみようかな…駄目っ!こ、怖い!怖いもん!」
澪「あうう…も、もういいや…寝ちゃおう寝ちゃおう寝ちゃおう…」
パチッ
澪「おばけのいない国に行きたい…」
澪「……お休み、みんな…」
バサッ、バサッ、バサッ
澪「くあっ!?」
すとん
バサッ!バサッ!バサッ!
澪「」
スタッ、ざりっ、ざりっ、ざりっ…
澪「」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ~…かえせぇ~…」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ~…かあああえええせええええ~…」
澪「」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせかえせかえせぇ…」
澪「」
ゴン、ゴン、ゴン…
「かえせぇ…かえせぇ…かえせぇ…」
澪「」
ゴン、ゴン、ゴン…
「か~え~せぇ~…か~え~せぇ~…」
澪「」
ゴン…
「俺の腕俺の腕俺の腕えええええええええええええええ!!かえせええええええええええええええええええええ!!」
澪「」
「………」
コンコン
「いますかー?」
澪「」
「………かえせー」
一方
唯「来ないねー、おばけ」
律「本当に部室にあるって言ったのか?」
梓「言いましたよ!絶対言いました!」
さわ子「むぎちゃん、お茶のお代わりお願~い」
紬「は~い~♪」
唯「というわけでおばけは全然来なかったんだよ~」
和「そうなんだ」
紬「梓ちゃん、部室にあるってちゃんと言ったのにね…」
唯「迷子になったのかな?」
律「…梓が言うとおり単に馬鹿なのかもしれないぞ、そのおばけ」
紬「ううん…迷子ということはないと思うけど…じゃあ昨日はどこに行ったのかしら?」
和「ちなみに私の家には来ていないわよ?」
唯「澪ちゃんちに行ったとか~」
澪「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
律「…唯、それ当たりかも」
最終更新:2011年06月08日 20:03