おかっぱ「綱はあるとき、一匹の鬼に襲われます。これは一条戻橋の場合と羅生門の場合とがありますが今回は省きます」

眉毛「鬼は綱の髻…まあちょんまげのようなものですね。それを太い腕でがっしと掴んで連れ去ろうとします」

おかっぱ「ところが綱は少しも慌てず、刀をぎらりと引き抜くや、えいと声上げ気合とともにその腕をばさりと切り落とします」

唯「おー!かっくいいー!」

律「うん…今回の件と似てるな…」

眉毛「鬼はそのまま何処かへと逃げ去り、綱は残された腕を持って主人頼光館へと向かいます」

おかっぱ「頼光はこの腕を見、後の災いを避けるため陰陽師に意見を求めます。ちなみにこの陰陽師は有名な安倍晴明ですね」

梓「何だか色々出てきますね…」

おかっぱ「晴明の言うには七日間の物忌みと読経が必要、とのこと。綱はさっそく帰宅し、言われたとおりにします」

唯「ものいみ?」

眉毛「簡単に言えば門戸を閉じて身をつつしみかつ清めることですね」

唯「……な、なるほど…」

おかっぱ「そうして物忌みをしているうちに、綱の家の戸を叩く者があります。誰かといえば、それは綱の乳母でした」

眉毛「物忌みの最中ゆえ家に上げるわけにはいかないのですが、乳母がどうしてもと訴えかけるため、綱はやむなく乳母を家に上げました」

梓「怪しいですね…」

おかっぱ「色々と語り合っているうちに、乳母は噂の鬼の腕をぜひ見せてほしい、としつこくせがみます。根負けした綱は、腕を入れた箱を乳母の前に置き…」

梓「だ、駄目!」

眉毛「箱の蓋を開けた瞬間!『これぞ私の腕!』と乳母は叫びます!その時すでに乳母の姿はあの鬼へと変わっていました!」

おかっぱ「そして鬼は腕を掴むと、風のような速さで戸を破り、一目散に逃げ失せてしまった…とまあ、こんなところです」

紬「わ~!面白かった~!」

唯「もっと!もっとお話聞かせて~!」

おかっぱ「そ、そうですか?じゃ、じゃあ天狗小僧の話でも…」

律「あーい、それは後でプライベートでお願いしまーす!」


眉毛「さて、今の話と今回の話を比較してみると…いくつかの共通点が見られると思います」

律「人に危害を加えていた妖怪の腕を切ると、その妖怪が腕を取り戻しに家までやってきた、か…」

眉毛「そういうことですね。ただ、鬼が訪れたにもかかわらず、腕はこうしてここにあるわけですが」

唯「和ちゃん…綱さんを越えたね」

梓「さすが生徒会長ですよね…」

紬「ううん…あの、腕を返した後は、その綱さんはどうなったんですか?鬼に復讐されたとか、非業の死を遂げたとか…」

おかっぱ「あ、ええと…それはですね……どうだっけ?」

眉毛「…多分たいしたこと起きなかったんじゃなかった?」

おかっぱ「…だよね?」

律「おいおい…そこ結構重要だぞ…?」

眉毛「ええと…あの鬼は茨木童子だから…あ!大丈夫だ!」

おかっぱ「え?…あ、そっか、酒呑童子の…!」

眉毛「ええと、大丈夫です!腕を奪われた後も、綱には特にこれと言って不幸は起きません!」

紬「どうして?」

おかっぱ「ええとですね、綱に腕を切られた鬼は茨木童子という鬼だとされます。この茨木童子は酒呑童子の手下なんです」

眉毛「頼光と四天王は酒呑童子を見事倒しているわけですから、結局祟りなどはなかった、と考えていいはずです!」

律「……なーんか無理があるような…」

おかっぱ「無理はありません!それが道理というものです!」

眉毛「まあそれは別にしても、綱が鬼に復讐されたという話は聞きませんし、長寿を保って亡くなっているはずですから、やはり大丈夫だったんだと思いますよ」

律「ま、それじゃあここはそういうことで納得しとくけどさ」

唯「うーん…じゃあさ、結局腕を返しちゃえば丸くおさまるってこと?」

律「…だな!」

眉毛「…まあ、おそらくは腕さえ返せばいいのだとは思いますけれど…確実ではないです」

梓「え?」

眉毛「今の話はあくまでそういった伝説がある、というだけのこと。全てが同じように円満に進むとは限りません」

紬「確かに…それもそうだわ」

おかっぱ「人に害せられた妖しの者が、人に対して復讐するという話も…それこそ枚挙に暇がないほどありますし」

律「えーっ!?じゃ駄目じゃん!?」

おかっぱ「そちらもまた確実ではありませんが。とりあえず言えることは、ただ返すだけではその後どうなるかはわからない、ということです」

梓「そんな…じゃ、じゃあどうすればいいんですか!?」

眉毛「…退治してしまうのが一番確実かと」

律「無理!」

眉毛「安全かつ後に憂いを残さない方法…何かあるでしょうか…」

おかっぱ「…昨夜起きたことを、もう少し詳しく聞かせていただけませんか?」

唯「和ちゃんのお話?だったら和ちゃんに直接聞いたほうがいいよね!ちょっと呼んでくるよ!」

梓「和先輩の話を聞けば、何か掴めるんですか?」

おかっぱ「わかりません。ただ、判断材料は出来るだけ多く、そして純粋なほうがいい」

律「要は行き当たりばったりってことか~」

おかっぱ「口が過ぎますよ、おでこの貴女」


唯「お待たせ~!和ちゃんを連れてきたよ~!」

和「一体何なの?私は生徒会ロープをしまわないといけないのだけど…」

紬「オカルト研究会の子たちと話し合っているんだけど、いい案が浮かばないの。だから和ちゃんにもお話を聞きたくて」

和「軽音部とオカルト研が合併でもするの?」

梓「この人も相当だなあ…」


和「ああ、そういうことね。理解したわ」

おかっぱ「早速ですが、その者の姿をご覧になりましたか?」

和「生憎だけど見ていないの。布団の中だったし、カーテンもしていたから」

眉毛「そうですか…では、その者がやってきたときの状況を、できるだけ詳しく教えてください」

和「そうね…時間は12時を少し過ぎたころだったわ。外から大きな羽音が聞こえたの」

眉毛「羽音…」

和「ええ。それで、その羽音がだんだん近付いてきて、それから…着地する音と、足音が聞こえたの」

梓「空を飛んで来たんですね…天狗さんでしょうか」

おかっぱ「可能性はありますね。それから?」

和「足音が近付いてきて、窓をゴン、ゴン、ゴン、と叩いてから『返せ~、返せ~』って呻くような声が…」


澪「ひいいいいいいいいいいいい!?」

すとん

唯「あ、澪ちゃん起きてたんだね」

梓「そして起きた瞬間にまた失神したんですね…」


和「それからは『ゴンゴン』と『返せ~』の繰り返しね。面倒になったからそのうち無視して寝てしまったわ。これが全てよ」

おかっぱ「なるほど…」

眉毛「ありがとうございました。少し、光明が見えた気がします」

律「マジか!?」

和「お役に立てたなら嬉しいわ。…もういいかしら?生徒会ロープが…」

唯「うん!和ちゃんありがと~!」

和「じゃあ、頑張ってね、みんな」

ガチャッ


律「光明が見えたって…本当か?」

眉毛「ええ。きっと何とかなります」

梓「ほ、本当ですか!?」

眉毛「…多分、何とかなるのではないかと」

おかっぱ「彼女には少々ビッグマウスなところがあります」

律「あー、そうかい」


おかっぱ「それで、何がわかったの?教えて」

眉毛「うん…彼女のお話から推測するに妖しの者は、おそらく強大な力を持つ者ではないということです」

紬「そ、そうなの?」

眉毛「はい。単純に膂力優れるものであれば、力任せに家に押し入ることは容易いはず。でも、そうしなかった」

律「確かにな…あ、そういえば和に腕を掴まれたのに全然振りほどけなかったよな?」

眉毛「ええ。また、彼女に対して不思議の術をかけて意のままに操る、といったこともしていません」

紬「やったけれど和ちゃんには効かなかったのかも…」

眉毛「…しかし窓を叩き、返せと呻くだけのようでしたから…やはりその可能性は低いでしょう。もともと使えないか、腕を切られて力が出せないか…」

唯「腕が切られて力が出ない~」

眉毛「…何にせよ、妖しの者は我々に大きな害を及ぼすほどのものでないという可能性は、決して低くないはずです」

梓「それなら少し安心ですけど…」

眉毛「しかしおそらく妖しの者は、また夜な夜な彼女の…あるいは皆さんの家を訪れるでしょう。無視していれば実害はあまりないのでしょうが」

梓「そ、そんなの嫌です…不気味ですよ…」

おかっぱ「それに腕をあきらめて自暴自棄になり、またトイレに出没する可能性もある」

律「うーん…で、結局どうすりゃいいんだ?」

眉毛「…駆け引きですよ」

紬「駆け引き?」

眉毛「はい。相手は妖しの者だ、恐ろしい、と思い逃げ腰になること…相手の思う壺です」

おかっぱ「…腕力よりも胆力、か」

眉毛「そう。相手が化け物だからといって、こちらが下手にまわる必要はない。むしろアドバンテージはこちらにある…」

おかっぱ「なるほどね…くふ…くふふふふ…」

眉毛「むふ…むふふふふ…」

梓「あ、悪魔的笑い…」


律「で、具体的にどうすりゃいいんだ?」

眉毛「そうですね…私たちが腕を預かってしまえばいいのですが…そういうわけにもいかないのです」

唯「え!?何で!?」

おかっぱ「丁度今夜から十日間、ゼータ・レチクル座から発せられる緑色宇宙光の光度が最大になるのです」

律「…は?」

眉毛「これは269年に一度しか訪れない非常に貴重な期間なのです。緑色宇宙光は我々の宇宙力を劇的に高めてくれる」

おかっぱ「ですから、我々は今夜から十日間、夜の間は私たちは雑事にかまけてはいられないのです」

梓「そんなオカルトな…ああ、オカルト研なんだった…」

眉毛「というわけで私たちは夜の間はお力になれません。なので、皆さんが対処してください」

紬「私たちが!?でも、何をどうすれば…」

眉毛「ご心配なく。段取りその他をこれからご教授します。なあに、そう難しいことではありませんよ…むふふ、むふむふむふ…」

おかっぱ「くふふ…くふくふくふ…」

梓「あ、悪魔的笑い…」




唯「…オカ研さん、帰っちゃったね」

律「長々と喋った挙句、結局はお前らで何とかしろーって結論かあ…」

紬「このやり方で…本当に大丈夫なのかしら?」

梓「一応筋は通っているというか、情は通っているというか…」

唯「まあ、やるしかないんじゃない?」

紬「そうね、みんなのお尻を守るためだもの!」

律「締まらない目的だなあ…」

梓「とりあえず…この腕はどうしますか?」

律「今夜おばけがどこに行くかわからないからなあ…とりあえず棚の上でいいだろ」

梓「また棚上げ…」

紬「たなあげー!」

唯「たなあげー!」


律「んじゃ、確認な。もし夜中におばけが来ても、絶対に窓は開けない、家にも入れないこと」

梓「やだなあ…怖いなあ…」

紬「大丈夫よ梓ちゃん!力は弱いってオカルト研さんも言ってたし」

梓「それはそうですけど…」

律「で、もし、腕はどこだー!って聞かれたら…部室でいいか?」

唯「いいんじゃない?」

紬「うん!」

律「じゃあ、腕はどこだーって聞かれたら、部室にあるよ!って答えることな。その後は教わった段取りだ!」

梓「…もしおばけが澪先輩の家に行ったらどうします?」

律「えーと………じゃあ今日はこれで解散!」

梓「…たなあげー」



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