その夜

和「今日も一日、何事もなく過ごせたわ。よかった。お休みなさい…」

パチン

和「…」




バサッ、バサッ、バサッ


和「鳥かしら…こんな時間に?ふくろうかな」


バサッ!バサッ!バサッ!


和「…ずいぶん近いわね」


スタッ、ざりっ、ざりっ、ざりっ…


和「…足音?泥棒かしら?いい度胸だわ」


ゴン、ゴン、ゴン…

「かえせぇ~…かえせぇ~…」

ゴン、ゴン、ゴン…

「かえせぇ~…かあああえええせええええ~…」


和「…泥棒じゃないわね。何なのかしら…?」


ゴン、ゴン、ゴン…

「か~え~せ~…かああああええええせええええええ~…」


和「どちら様ですか?あまり窓をゴンゴン叩かないでいただけますか?」


ゴン、ゴン、ゴン…

「かえせぇ…かえせぇ…かえせぇ…」


和「訪ねる家を間違えていませんか?それに、こんな時間に大きな声を出さないで下さい。近所迷惑ですよ」


ゴン、ゴン、ゴン…

「か~え~せぇ~…か~え~せぇ~…」


和「もう…一体何なのかしら…?人違いではありませんか?何を返せって言ってるんですか?」


ゴン…

「おおおおおおお俺の腕を返せええええええええ!!!!」


和「…私、持ってないですよ!」


「えっ?…か、かえせええええええ!!」


和「うるさい!警察呼びますよ!?」




和「…というわけで大変だったわ」

唯「そ、それでどうなったの!?」

和「面倒だから無視して寝ちゃったわ。まったく、訪ねる家くらいちゃんと把握しておくべきよ」

律「……多分、ちゃんと把握していたのではないかと…」

和「え?」

紬「…これってやっぱり…そうだよね?」

律「ああ、あいつだろうな…」

唯「和ちゃんがちぎったから和ちゃんの家に行ったんだね…」

和「…?………ああ、返せってあの腕のことなのね!」

律「気付くの遅すぎだろ…」

和「でも、私は腕を持っていなかったわけだから、やっぱり間違っているのは向こうよ」

律「いや、もうその辺のこだわりはいいから」

唯「どうしよう…何だかよくわからないものが腕を取り返しにくるよ…」

律「ううん…おばけが家に来るのか…それはさすがになあ…」

紬「やっぱり腕を返したほうがいいのかしら…?」

唯「でも腕を返したら、またお尻を触りに来るんじゃないかな…?」

律「だよなあ…どーしたもんか」

和「そういえば澪はどうしたの?」

唯「自分の席で失神してるよ」

紬「極端に打たれ弱くなっちゃったみたいね」


さわ子「みんなー、席に着いてー」

唯「あ、さわちゃん来たよ!」

律「とりあえずホームルーム終わったら相談してみようぜ」

紬「そうね。溺れる者は藁をも掴むというものね」

和「今のは突っ込みを入れるべき箇所かしら」

さわ子「ほらそこ!席に着いた着いた!」

唯「はーい!」


唯「さわちゃ~ん!」

さわ子「あら、あなたたち大挙してどうしたの?」

唯「実は昨日、和ちゃんの家にね…」

さわ子「…へえ、それはそれは…うん、面白いわね」

和「そうでもなかったですよ」

律「なあさわちゃん、どうしたらいいと思う?」

紬「腕を返したほうがいいでしょうか?」

さわ子「う~ん…そうねえ…」


さわ子「あ、そうだ!いい考えがあるわ!」

唯「えっ!なになに!?」

さわ子「とりあえず話をつけてみるから…そうね、放課後までお待ちなさいな」

律「話をつける?誰か助っ人でも呼ぶのか?」

さわ子「まあ、そんなところね。あ、私一時間目から授業だから。じゃ、またね~」

紬「…大丈夫かしら?」

律「うーん…」

和「ほら、授業始まるわよ?」

唯「和ちゃんはマイペースだねえ…」




梓「あ、お疲れ様です」

唯「あずにゃ~ん!」がばむぎゅぎゅ

梓「何か進展はありましたか?」

律「ううん…まあ話せば色々だよ。とりあえずお茶しながら説明するわ。今日も練習にはなりそうもないから」

梓「そうですか…残念だけど仕方ないですよね、こんな事態だし」

澪「おつかれ~…」

梓「お、お疲れ様です…大丈夫ですか!?」

澪「目にするもの手に触れるもの全てが怖い…」

梓「うわぁ」

紬「名古屋コーチン並のチキンハートになっちゃったみたいね」

梓「心のケアが必要ですね…」

唯「あずにゃんガン無視はやめてよぉ…」ほおずりずり


梓「……和先輩の家におばけが…」

紬「そうなの。だから、もしかすると今度は私たちの家に来るかもしれないと思って…」

梓「話がどんどん嫌な方向に向かってますね…」

律「で、さわちゃんが助っ人を連れてくるらしいんだけど…」

梓「助っ人?どんな助っ人が来るんです?」

律「わからん!聞いても教えてくれなかったし」

唯「きっとおんみょうじだよ!おばけを退治してくれるんだよ!」

梓「さわ子先生にそんなお知り合いがいるんですかね?」

律「むしろさわちゃんが退治される側って感じだよな~」


さわ子「退治してあげましょうか?」

律「ひいいいっ!?ごめんなさいい!!」


さわ子「まったく…人が苦労して助っ人を連れてきたのにこの悪口雑言とは…」

梓「悪口言ってたのは律先輩だけですよ」

律「中野てめえ…」

紬「それで先生、助っ人さんは来てくださったんですか?」

さわ子「ええ、勿論よ!入ってちょうだい!」


ジャーン!!

眉毛「まさかの時に桜高オカルト研究会!」

おかっぱ「我々の武器は探究心!好奇心!つまり二つ!」

眉毛「探究心!好奇心!勇気!あ、えっと二つじゃなくて三つ!あと宇宙意思への服従!」

おかっぱ「つまり我々の武器は四つ!あれ!?えーと…すいません最初からやり直していいですか?」

さわ子「いいから早く座りなさい!」

眉毛「かっこよく決めたかったのにね」

おかっぱ「ちゃんとまとまってからにすればよかったね」


律「誰かと思えば助っ人ってオカ研かよ…」


おかっぱ「助っ人に対してその言いは随分ですね、おでこの貴女」

眉毛「聞けば今回の件、妖しの者が噛んでいるとのこと。ならば…!」

唯「そっか!オカルト研の人なら、おばけをどうすればいいかがわかるよね!」

眉毛「ま、まあそういうことです」


さわ子「というわけで後はよろしくね~」

律「あれ?さわちゃん行っちゃうのか?」

さわ子「面白そうだから見たいのは山々なんだけど、今日はこれから職員会議なのよね~!じゃ~ね、グッドラック!」

梓「グッドラック…」

紬「えっと…ミルクティーでいいですか?それとも緑茶?」

おかっぱ「お構いなく。ミルクティーで」

律「お構いなくじゃないのかよ…」


眉毛「さて、伺うところによれば、貴女方は妖しの者の腕をば切り落としたとか」

唯「ううん!和ちゃんはもぎ取ったんだよ!」

おかっぱ「もぎ!?」

眉毛「なんとまあ…と、とにかくその腕を見せていただけますか?」

律「梓!職員室ボックス持ってこい!」

梓「あ、はいです!…はい、これですね。カギは…」

律「あ、私、持ってるぞ」

ガチャガチャ…

唯「開けたとたんに腕が飛びついてくるとかないよね?」

梓「えっ!?そ、そんなこと…」

眉毛「有り得ますね」

梓「ええっ!?り、律先輩ストップ!」

律「…もう遅い」

パカッ

梓「うわああああああああっ!?」




紬「…何も出てこないね」

眉毛「まあ普通そうですよね」

梓「と、飛び出てくるかもって言ったじゃないですか!?」

おかっぱ「可能性とお約束というものを考慮して言ったまでです。断言もしていませんし。それより…ほら、見てこれ」

眉毛「すごいね…これが本物の妖怪の腕なんだね…」

おかっぱ「まさかこんな機会に恵まれるとはね…」

眉毛「桜高に入ってよかったね」

おかっぱ「うん!」

律「何か知らんが喜んでるぞ」

おかっぱ「あの、これ、触ってもいいですか?」

律「え?うん…大丈夫だと思うよ。和も唯もがんがん触ってたし」

おかっぱ「やった!あ、私先でいい?」

眉毛「うん。いいよ」

おかっぱ「じゃあ…お、おおお!わ、私…妖怪の腕を持ってるよ!興行のミイラじゃない、本物の腕…!」

眉毛「どんな感じ?どんな感じ?」

おかっぱ「あのね、ひ、人の腕より弾力があって…でもちょっとガサガサしてて…」

唯「よく曲がるんだよ」

眉毛「曲がる?ねえねえ!曲げて!曲げてみせて!」

梓「…私たちの問題はどうなったんでしょうか」

紬「ギブアンドテイクよ、梓ちゃん」


眉毛「はあ…堪能しました…」

おかっぱ「オカ研冥利に尽きます…」

唯「よかったね!」

梓「記念撮影までしましたもんね…」

律「さて、とだ!」

眉毛「ええ。随分長居をしましたので、私たちはこれで…」

律「ああ、お疲れ様~っておい!」

おかっぱ「…ちょっとベタすぎたんじゃない?」

眉毛「…さ、さあそれでは本題に入りましょう!」

律「やっとか…」


おかっぱ「さて、腕を斬られたものがその腕を取り返しに来る、ということですが…」

唯「だから切ったんじゃなくてもぎ取ったんだってば~」

おかっぱ「斬ったのほうが色々都合がいいんです!えーと、どこまで言ったっけ」

眉毛「この事例から想起されるのは…渡辺綱の伝説ですね」

律「わたなべのつな?」

紬「あ、私知ってます!鬼を退治した人ですよね?」

唯「あー、桃太郎かー」

おかっぱ「違います!全然違います!」

眉毛「昔話でいうなら桃太郎よりも金太郎に縁が近い方ですね」

梓「金太郎って…鬼を退治したんでしたっけ?」

唯「金太郎さんはおすもうさんじゃないの?」

おかっぱ「ああもう何が何だか…」

眉毛「落ち着いて落ち着いて」

眉毛「ええと、渡辺綱というのは平安時代の武将、源頼光に仕える四天王のうちの一人です」

おかっぱ「彼らは平安京をおびやかす鬼に戦いを挑みこれを退けたといいます。有名なのは酒呑童子や土蜘蛛退治譚ですね」

紬「そう!その酒呑童子!」

眉毛「なお、金太郎は長じてより坂田金時と名を改め、綱と同じく四天王の一人として頼光に仕えたといわれます」

梓「金太郎さんって鬼退治をしたんですね…熊と遊ぶだけじゃなかったんだ」

唯「なんか生意気だよね、金太郎のくせに」

おかっぱ「…で、渡辺綱の話ですけれど…どうする?」

眉毛「簡単にまとめちゃっていいんじゃない?」

おかっぱ「…だね。それでは話のあらすじだけをざっと説明します」

唯「わ~い!楽しみ~!」



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